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<ティフェレト編>1.再会

<ティフェレト編>



1.再会



 (暑イ‥‥イヤ‥‥暑イドコロジャナイ‥‥スゴク暑‥‥イ、イヤムシロ熱イ!)


 「熱ツッ!!」


 異常な暑さというより焼けるような熱さを感じ飛び起きる男がいた。

 カタコトの言葉を喋る頭は狼で体は人の獣人、ワサンだ。


 「おや‥こんなところに人がいるとは珍しい」


 上の方から声が聞こえる。

 ワサンが声を探して見回すと、辺りは10mほどの切り立った崖のようになっており、その上に初老の男がいた。


 「むむ?狼かいな。いや人のようにも見える」


 老人は目が悪いのか、見たことがないのか、獣人というワードは出てこず狼か人かの判断で迷っている。


 「しかしお前さん。そんな溶岩のすぐ近くで “さうな” の真似事かのぉ?最近の若者はちゃれんじゃーだのぅ、へっほっっほ」


 そのコメントに驚き自分の周りを見るワサン。

 どうりで熱いはずだ。

 目の前にボコボコと溶けた岩が蠢いている。

 溶岩だった。

 まるで火山の火口付近のような光景で少し居場所がずれていれば今頃蒸発していたことだろう。


 (オカシイ‥‥コノ世界ニ火山ナンテナカッタハズダ‥‥ココハ一体?!)


 ピョォン‥‥タタ‥


 ワサンはジャンプし10mの崖を一気に飛び越えて老人のそばに着地した。


 「へっほっほ!元気だのー。おお、よく見るとお前さん、顔が狼なのに体は人のようだ。狼男というやつか?あの丸く光るものを見ると変身するっていう伝説のやつじゃが」


 「イヤ違ウ。俺ハ‥‥」


 (説明スルノモ面倒ダナ‥‥シカモ此処ガ何処カ分カラナイ以上、下手ニ自分ノ素性ヲ明カサナイ方ガイイ。ドコニ三足烏ノヤツラガイルカ分カラナイカラナ。最後ノ記憶デハ、カヤクモ地割レニ飲マレタカラモシカスルト、近クニ居ルカモシレナイ‥)


 「俺ハ‥‥」


 「へっほっほ!何じゃの、訳ありか。自分の身を隠したいようだのー。わしはそういうのを助けるのは好きじゃのー。どれどれ‥‥」


 老人は入れ歯をムニュムニュするように顎を動かしてなにかを呟いている。


 「ふんぬ!」


 突然力みだす老人。


 「おお!いかん!」


 「どうした?!じいさん!」


 「いかん!気張ったらクソが漏れてしもうた!へっほっほ」


 「‥‥‥‥」


 無言になるワサン。

 しかし次の瞬間自分に起きている違和感に気づく。


 (ん?何かがおかしい)


 ワサンは自分の顔を触ってみる。


 「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 (無い!いや!有るが無い!いやいや何を言っているか意味不明だが、長かった口が!‥‥無い!)


 「ん?おろろ、顔を替えてしまうのは嫌だったかのー。戻してやってもいいが、まぁその新しい顔を見てみてからでもいいんではないかのー?」


 そういうと老人はまた入れ歯をムニュムニュするように顎を動かし何やら呟いている。

 すると、リゾーマタの水魔法で作った鏡が目の前に現れた。

 ワサンは恐る恐る鏡を覗いてみる。


 「!!」


 目の前にいるのは見慣れた顔ではなく、少し耳が長く、銀色の長い髪をなびかせた色白の人間顔だった。


 「どうじゃ!すごいじゃろーわし!へっほっほ!」


 「元の顔に戻せないのか?一生この顔なのか?!」


 「えええぇぇ!嫌なのぉー!」


 「いや‥‥そうじゃ無いが、いきなり自分の顔が人間のような顔になって面食らったというか心の準備が整ってないというか‥」


 「へっほっほ!安心して良いぞ!それはお前さんが銀色の狼に変化しようとすれば元の狼顔にもどる “まじっく” じゃてのー」


 「!」


 ワサンは後ろに飛び退き、距離をとって剣を構える。


 「貴様‥何者だ?!」


 (なぜこいつは俺が銀狼だと知っている?!まさかこいつも三足烏サンズウーか!)


 「へっほっほ!そう威嚇せんでええの!わし、これでも大勢を従えて戦ったことのある戦士じゃったのよ。大昔のことだがのー。赤い豹‥‥なんてみんなびびっとったねー。すごいじゃろ!へっほっほー!」


 ワサンは状況を冷静に見ていた。


 (このじいさん、只者じゃ無ぇ。この年齢や動作‥演技か?‥可能性は3つ。

   ①ただのじぃさん、

   ②三足烏の一員、しかも相当な手練だ‥‥幹部かそれ以上か、そして‥

   ③全く別の勢力の一人)


 ワサンはさらに思案を巡らせる。


 (①の場合、俺には無害だ。②の場合は完全に敵であり、ここで戦闘になるだろう。今の体力、魔力で勝てるか?しかも何やら怪しげな術をかけられているようだから既にこいつの術中にはまっている事になる‥‥。③の場合は‥見極めが必要だ‥‥俺に近づいてきた目的を聞き出す必要がある)


 「なんじゃ!人の親切は素直に受け取るもんじゃぞ?とにかく、その顔を変えたやつはぁ‥‥なんちゃら魔法とかいう‥‥う‥‥思い出せん。何やら特殊な魔法じゃから珍しいんだが‥‥名前が思い出せん。まぁそんなことはどうでもよかろうて。たまたま、散歩しとったら狼男に出会った、そんでもって困っておったのをわしの “すーぱーまじっく” で助けてやった!それでどうじゃのー?」


 「‥‥‥‥」


 (こいつ!‥誤魔化そうとしているのか?急いで取り繕っているようにも見え‥‥)


 「ぐは!!」


 (く、臭い!!、このじぃさん!本当に糞漏らしてやがる!しかも気づいてねぇ‥‥い、いや糞漏らした事忘れてやがる‥‥)


 ワサンは警戒を解かずに剣をしまった。

 糞を漏らしてまで演技をするという発想がそもそもあり得ないと思ったからだ。

 こいつは三足烏ではないと確信した。


 (不意打ちするチャンスはいくらでもあった。いや、もし敵なら火口近くで倒れていた時点で攻撃すればよかったはず。俺の素性を探ってこないところを見ると、第3の勢力の線も薄い。むしろ、俺の身を隠したい心境を察して都合よく俺の顔を変える魔法を使った状況を怪しむべきだ。つまり、答えは④だ。もうろくしたじじぃで有る事は間違いないが、只者ではない。警戒は解けない)


 「どうした、若いの。腹でも痛いのか?‥‥ええぇっと腹痛を治す “まじっく”はぁぁぁぁ‥‥忘れたのー。へっほっっほ。いや最初から知らんかったかもなぁ!へっほっほ。素直に “といれ” に行ってこい!へっほっっほ」


 「あ‥い、いや大丈夫だ。それよりじいさん。俺に特別な魔法をかけてくれた事、礼を言う」


 「ん?わし何かしたかのー。そうじゃ!わしもクソして晩御飯食べないとのー。お前のような若造にかまっとる暇はないんじゃった。じゃぁ達者でのー!へっほっっほ」


 そう言って異臭を撒き散らしながらトコトコと歩いて行った。

 人間のような顔に変わり、おそらく三足烏と出くわしてもワサンと分かる者はいないだろう。

 あのカヤクでさえ、気づくはずはない。

 少しホッとするワサン。


 「そういえば、スノウはどうなった?アレックスは?というかここはどこだ?!」


 そういって改めて辺りを見回す。


 「!!」


 ワサンは騒然とする。

 巨大な火山の火口の端に一人佇んでいる。

 理解が追いつかない。


 (あの蒼市のダンジョン55階層にいたはずだ‥‥確かにスノウが放ったクラス5の天変地異魔法であの階層は崩落して滅茶滅茶になりはしたが‥‥)


 「ありえねぇ‥‥55階層の下にこんな巨大な火山があるわけねぇ‥‥」


 しかも見上げると空が見える。

 ワサンはさらにゾッとする。

 

 (先程の初老の男‥‥こんな巨大な火山の頂上までどうやって登って来たんだ?糞もらした事すら忘れてしまうようなじいさんだぞ‥‥とてもじゃないがそんな老いた人間が登れるような場所じゃ無い)


 しかも所々、溶岩が吹き出しており、息苦しくなるのガスも充満している。

 普通の人間なら数時間で気を失い、そのまま絶命するような死のエリアだ。


 「おっと。考えていても仕方ない。今のこの状況は俺にとってもあまりいい環境とは言えない。急いで下山しなければ‥」


 ワサンは遠くを見回すが、町や村のようなものは見えない。

 広大な森が見えるだけでこのまま見える範囲で下山しても樹海を彷徨うだけだった。


 (仕方ない。かなり長い道のりになるし賭けだが、回り込みながら下山しよう。何も無ぇかもしれないが‥‥)


 ワサンは右手に進みながら下山し始めた。

 下山は簡単ではなかった。

 溶岩が複雑な形で冷えて固まったため、大小様々な岩や、ゴツゴツとした足場が続き、まだ冷え切っていない場所は素早く歩かなければブーツの底が燃え出すような状態だったからだ。

 もちろんワサンほどの運動神経があれば、というより狼のような機動力があれば訳なく下山できるわけだが。



・・・・・


・・・



 最初はこの冷えた溶岩の形はロムロナに似ているとか、この岩と溶岩の形はアレックスが焦っている時のポーズだとか、自分一人で “例えゲーム” をやりながら時間を潰す事ができたが、しばらくしてネタが尽きすぐに退屈な下山となった。

 降りても降りても同じような景色。

 だからと言って休憩できそうな場所も無く昼寝なんてもっての他だった。

 そんなワサンだったが、やっと退屈を払拭してくれそうなネタに遭遇する。


 ドッゴォォォォン!!

 バッガァァァァン!!


 遠くで鳴り響く爆音に気づいたのだ。


 (何だ?戦闘か?いや、こんな死のエリアでそんな訳ないか‥‥。まぁでも何かあるって事だ。もう4〜5時間経ったが人の気配どころか生き物の気配すらなかったし、もう何でもいい、誰か‥‥いや何かあってほしい)


 同じような景色を4〜5時間も見続けると、三足烏サンズウーとのあれだけの死闘を経ているにもかかわらず、戦いでもなんでもいいから何か起こってほしいという心理になるようだ。

 いや、ワサン自身が戦闘好きの変態だってのもあった。

 

 ドッゴォォォォン!!

 バッガァァァァン!!


 相変わらず鳴り響く爆音は徐々に大きくなってきた。


 (もうすぐ音の発生源あたりに着きそうだな‥‥)


 ワサンは慎重に音の方に近づいていく。


 ヒュゥゥン!!


 「!」


 何かが飛んできたため、咄嗟に避けたが何やら小さな岩石だったようだ。


 (何だ‥‥小さな噴火か何かか‥‥)


 戦闘ではなかった為、がっかりしたようだがとりあえず音のする方に足を進める。


 ドッゴォォン!!

 ヒュゥゥン!

 ガッコォォォォン!!

 ヒュゥゥゥゥン!!


 大きな岩の向こうが音の発生源らしい。

 ワサンは岩の影から慎重に音の発生源を確認する。

 何やら人影が飛んでくる炎や岩石を打ち返しているようだ。


 ドッゴォォォォン!!

 ヒュゥゥゥゥン!


 ガッコォォォォン!!

 ヒュゥゥゥゥン!!


 (誰かが攻撃されている?!)


 人影は何らかの存在から攻撃を受けているように見えた。

 だが溶岩が冷えた時に発生する蒸気のようなものが充満しており、はっきりとは確認できない。

 奥には巨大な塊があり、そこから炎や岩石が飛んできているように見える。

 もし、人が何らかの攻撃を受けているのであれば、助けなければならない、ワサンはそう思っていた。

 風で蒸気が吹き飛ばされ、部分的晴れた。


 (女性だ!)


 あの影が人なら、相手はあの大きさから魔物の可能性が高い。

 つまり、あの女性を助けなければならない。

 ワサンはジャンプし女性の前に立ち、受けている攻撃を弾く。


 シャバン!!サヴァン!


 「ちょ!あなた!何いきなり!邪魔しないで?!」


 助けたつもりがなぜか怒られる。


 「おお!お前ぇ!いいところに来てくれた!この女なんとかしてくれぇ!」


 蒸気で霞んではっきり見えないが、目の前の大きなガタイの魔物がワサンに話しかける。


 (一体どうなってんだ?)


 「そこの女!もういい加減にしてくれよ。俺様は溶岩浴びに来ただけだって言ってんだろうが!もう立ち去るからこの鎖を外せよぉ!」


 「く、鎖?!」


 ワサンは足元見る。

 女性が持っている鎖が魔物へと繋がっている。


 (どういう事だ?)


 「いいからどいて頂戴。この竜は使い道があるから捕まえておくのよ」


 (なるほど、この女‥‥尋常じゃ無い強さという事だな。おそらく目の前の巨大な魔物は竜か‥)


 「ん?」


 目の前の竜と思しき魔物が何かに気づいたかのような反応をする。


 「んん?!」


 「?」


 「んんーーー!!!」


 いきなり大声で叫びだす魔物。


 「ふぅぅーーーーーーーー!!!!」


 竜と思しき魔物は息で目の前の蒸気を吹き飛ばした。


 「お前ぇ、ワサンだろう!魂の匂いがワサンだ!」


 「!!!‥‥あり‥‥えねぇ‥‥」


 なんと目の前に居たのは火竜ヴァルンだった。


 「おお、久しぶりだなぁ!ワサ‥‥」


 目の前のワサンの姿を見て一瞬言葉を詰まらせる。


 「お前ぇ誰だぁぁぁぁ?!ワサンの匂いなのに、人間みてぇな顔になってるぞ、おい!」


 「ああ、ヴァルン。オレだ、ワサンだ。ちょっと訳ありで今はこんな姿に変化しているが、間違いなくワサンだ」


 「嘘だぁ!お前ぇも俺をいじめようとしてるな?!この人間の女とグルだな?!嬉しくさせといて騙すとはお前ぇひどいやつだな!」


 ちょっと面白くはないが、面倒くさいから一発で信じてもらえる対応を取るワサン。


 「はぁ‥‥ドラゴニックスフィア」


 (我ながら気持ち悪い肉の塊だ‥‥)


 「ぎやぁぁぁぁあ!!!」


 ドッゴォォォォォォォォォン!!


 ヴァルンに鎖をくくりつけた女性が悲鳴と共にワサンを蹴り飛ばした。



・・・・・


・・・



 「おい女!いきなり何すんだよ!!」


 ところどころ火傷しボロボロになったワサンが戻ってきて吠えた。


 「だって!いきなり肉の塊になったのよ?気持ち悪い!蹴って当然でしょう!」


 「魔法だって思わねぇのかァ?!蹴った先がマグマだったらどうすんだよ!俺はその時点で死んでたんだぞ?!」


 「知らないわよ!あなたがそんな気色悪い魔法さえ使わなければ私は蹴る事なかったんだから全てあなたの責任でしょ!人のせいにしないでよ!」


 「ま、まぁまぁお二人さん‥俺様のために喧嘩はやめておくれよ‥‥」


 「誰がお前ぇのためダァ!!」

 「誰がお前のためだぁ!」


 息のあったツッコミにたじろぐヴァルン。



・・・・しばらくして・・・・・



 「そうだったのね。あなたはこの火竜と知り合いだったのね、早く言ってよ」


 「それを信じさせる為に、確実に俺とわかる魔法を使ったんだよ。あの気持ち悪い肉の塊になる古の魔法をな」


 「気持ち悪いって何だよワサン!歴とした根源種魔法だぜ?それはそうと、お前越界できるんだな。」


 「!!」


 (越界?!‥どういう事だ?!ここはホド‥水の世界じゃないのか?!‥‥確かにホドにこんな景色があるなんて聞いた事ない。特に火山など!!)


 ガバ!!


 「あなた!越界してきたの?!」


 目の前の女性はワサンの両肩を掴んで揺すりながら問いかけてきた。


 「わからない‥‥。オレは、ホドにあるヴォヴルカシャ国の蒼市にあるダンジョンの55階層で、仲間と共にとある集団と戦っていた。そこで俺の仲間が放った魔法でフロアが崩壊して‥」


 「ヴォヴルカシャ‥確かにホドね。それで?」


 「それで‥‥敵の親玉が、オレの仲間に攻撃を加えたからそれを助けようと飛び込んでいったら‥‥おそらく崩落した割れ目に落ちたんだと思う‥」


 「‥‥‥‥」

 

 「地割れに飲まれてもここには来れないわよ」


 「そうだ‥だってよぉ、ワサン‥‥ここは‥‥」


 「ゲブラー。火の世界だから」





11/25修正

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