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<ホド編> 41.天変地異

41.天変地異



 「おじさまぁぁぁぁぁ!!」


 エスティはジライとの戦闘から離脱しエントワのところに駆け寄る。

 エントワの亡骸にしがみつき何度も揺すってエントワを起こそうとする。

 今にも目を覚ましそうな表情だが、胸のえぐれた傷が呼んでも反応しないと告げている。

 ニンフィーもエントワのそばに急ぎ駆け寄り傷の回復魔法をかけている。

 しかし、生き返らせる魔法など使えないしこの世界に存在しているかすら知らない。

 エントワが息を引き取った事実を認識しつつも、意味のない回復魔法をかけ続ける。

 そうしていないと自分が保てないからだ。


 グレゴリはエスティ離脱後もジライへの攻撃の手を緩めない。

 父ダンカンの師であるエントワは一時期自分をもみっちり鍛えてくれた恩師だ。

 まるで自分の祖父のような存在であり、グレゴリの冷静で落ち着いた紳士的な振る舞いはエントワ譲りだ。

 そんな男の死を目の当たりにしながら、ジライへの攻撃をやめるわけにはいかないこの状況を呪った。

 下唇を噛み締め血を滲ませながら。


 少し離れているため、スノウもロムロナも詳しい状況はわからなかったが、エントワが命を落としたことは感じ取っていた。

 さすがのロムロナも表情が何とも言えない複雑なものになっており動揺を隠せないようだった。

 精神がまだ未熟なスノウはもっと狼狽えていた。

 スノウは何か大きな心の支えを失った感覚からか、心拍が異常に大きく早くなり鳩尾が苦しいほどゾワゾワしている。

 ギョライとキライが攻撃の手を緩めないので動かざるを得ないが、今この瞬間はそうやって体を動かしていることが逆に救いになっている。


 そして中央でホウゲキと戦っているアレックス。

 直接見ることはできなかったが、幼い頃から常に行動をともにしてきた男の気配が消えたのを感じとっていた。


 「‥‥‥‥」


 無言でアレックスは渾身の力を込めてホウゲキに一撃を加える。


 「ふんぬ!!」


 ホウゲキは大剣でそれを受ける。

 腕には血管が浮き出て筋肉も盛り上がっている。


 ガガン!ドガン!ガガン!


 アレックスは表情を変えずに何度も、何度も、ホウゲキに強烈な一撃を食らわせる。

 エントワの死がアレックスにどういう影響を与えているのか、アレックスは今何を考えているのか読めないが、異常に落ち着き、冷静且つ凄まじい力で的確にホウゲキの急所を狙って攻撃している。


 「ふぬぅ!!‥‥ほう、アレクサンドロス。貴様は仲間を失うことで力を発揮する類か!怒破手でよいぞ!」


 アレックスの重たい攻撃を受けながらそう言い放つと、ホウゲキは後ろに飛び退き一旦距離を取る。

 そして左手を振り上げ叫ぶ。


 「我輩の部隊に次ぐ。貴様ら存分に楽しんだろう!さぁウルスラグナ以外を殲滅せよ。出来ぬものはここで死ね」


 その号令によって分隊長たちが動き出す。

 ギョライはキライと共にロムロナを集中攻撃し始める。

 それを必死に食い止めようと連携をとるガルガンチュア精鋭たち。

 ロムロナも魔法で応戦する。


 カカカカン!!!


 キライの放つ無数のパチンコ弾をギョライのリボルバーが打ち抜き複雑に弾の軌道を変えて四方八方からの攻撃を放つ。

 しかも、弾には魔法が込められており、ガルガンチュアの放つ魔法の壁や魔法攻撃を中和する。

 唯一土の壁の魔法だけが物理的な弾道の勢いを抑えこむ有効な防御手段となっているが、それもギョライのリボルバーには効かない。

 ロムロナに飛んでくる弾を可能な限り剣で弾き地面に落とすが、先程までの弾数と威力とは段違いに強力な攻撃になっており、徐々に防げなくなっている。

 崎黄泉(先読み)でも複雑に変化する弾道を全て予測しきれず、一歩動作が遅れるからだ。

 どうやらさっきまでは本気を出していなかったようだ。


 「くっ!!なかなかやるわね。あのボウヤたち‥‥。さっきまでの攻撃とは桁違いの弾数と複雑且つ正確な攻撃‥‥。でもガルガンチュアのボウヤたちを先に潰さないのは何か理由がありそうね」


 彼女を庇うように前に立つスノウに話かけた。


 「確かに。キライは下に落ちてるもん何でも弾にしちゃうからあいつに制限はなさそうだな。一方ギョライのリボルバーは専用の弾が必要だからおそらく弾数に制限があるはず‥‥それでホウゲキの指示通りロムロナを標的にしているとか」


 「なるほど、あの発砲するリボルバーっていうのは弾数が制限されるのね。じゃぁとにかく耐えきればいいのね」


 「無理だろ!お前もうかなり出血してるじゃないか!ここまで集中砲火受けてて回復の時間も与えてもらえないから相当ダメージ蓄積してるんじゃないか?魔法は傷を治したりや体力を回復したりは出来ても、失われた血は戻らないだろ?」


 「嫌なこと言うわねースノウボウヤ。でも想像できる?あたしが死ぬところ。」


 「ばかか!エントワが!あのエントワが‥‥」


 「わかってるわよ。別に強がってるわけじゃないの。これ以上うちのメンバーは殺させない。もちろんあたしも死なないわぁ。あの世でエントワボウヤに怒られるのはだけは勘弁だもの。彼の話真面目すぎててつまらないしね‥‥うふふ‥」


 悲しい顔で笑えない冗談を言うロムロナ。

 相当堪えているが、自分がしっかりしなきゃと気力を奮い立たせいつもの自分を演出して見せているのだろう。

 本当は泣きたいはずなのに、とスノウは思った。

 だがその間も攻撃が続く。

 やはりギョライは弾数を節約しながら撃っている。

 いや、あのキライがギョライが効率的に複雑な弾道にできるように撃って、それをギョライが正確に撃ち抜いている、そのコンビネーションから実現しているものだ。


 (そうか!キライをなんとかできればギョライは何とかなるはずだ!)


 「ロムロナ、おれたちのコンビネーションの方があいつらより上だと言うことを見せてやろう」


 「ん?なぁに?愛の告白?こんなとこで?あぁ、そういうことね。やるじゃないスノウボウヤにしては!いいわ!好きにやっておいで、いつも通りあたしが合わせてあげるから!」


 「頼りにしてるよ姉さん!」


 (あらあら、なかなかいい男になってきたわね)


 「バリアオブアースウォール!、バリアオブウォーターウォール!」


 ロムロナが壁をつくり、相手からの視界を遮ったあと、スノウは迅移でキライの後ろに周り混んで剣を振り上げる。


 「ウルスラグナ!奇襲か!だが効きませんよ!」


 そう言うとキライはパチンコをスノウに向けて集中方弾する。

 自身で撃った弾を自身で撃ち抜き一人で複雑な弾道の集中砲弾攻撃を行う。


 バババババババ!


 強い。

 このキライという男ひとりでも相当な強さだ。

 だが、この大勢が乱れながらの攻撃の中では力や技の強さだけでは勝てない。

 どんなに乱戦になろうとも冷静に戦局を見て、勝利の軌道を見出す力が必要なのだ。

 その点でキライは一歩及ばずだった。

 無数の弾道はスノウを貫いた。

 いや正確にはスノウの残像を貫いた。


 「なに?!」


 キライは焦ったようにキョロキョロと辺りを見回しスノウを探す。


 「!!」


 ロムロナへの発泡に集中しているギョライの後ろに突如現れるスノウ。


 「ギョライ様!」


 キライの額に汗が滴る。

 今まさにギョライに剣を突き刺そうとしているスノウの姿を目の当たりにし体勢を崩し、捻りながら急いでギョライを攻撃しようとしているスノウを撃ち抜く動作に入る。


 「キライ!後ろだ!」


 ギョライの叫び声と同時にキライは背中に寒気を感じながら振り向く。

 そこにいたのはまもなく首に差し掛かるであろう部分まで剣を突きつけていたスノウだった。

 ひとつ目の残像はスノウが作り出したもの、ふたつ目のギョライの背後はロムロナの放った水魔法、そしてその隙をねらって忍び寄ったスノウはキライの背後の射程距離に詰め寄り剣の突きを放ったのだ。


 グジャリ!!


 キライは一つ目の残像から二つ目の残像を撃ち抜くために崩した体勢を整えることができずに、スノウの本命の攻撃を避けることができなかった。

 そしてまともにスノウの剣を受ける。

 かろうじて皮一枚で繋がっている状態だが、首はほぼ切断されてしまった。


 「キライ!!」


 一瞬にして起こった言葉もない部下の絶命に冷静さを失い、スノウに向かってリボルバーを乱発してくるギョライ。

 だが、弾筋を複雑に変化させるコンビネーションはもうない。

 銃口を見ながら崎黄泉(先読み)が可能なため、全ての弾を地面に弾く。

 スノウは弾きながらギョライに向かっていく。

 距離が詰まっていく。


 カチ!カチ!カチ!


 リボルバーは弾切れとなり攻撃の手段がなくなった。


 (もらった!)


 エントワのエアダンディズムと同効果の風螺斬を放つ。

 フラガラッハを真横に切り、真空のヤイバがギョライ目掛けて飛んでいく。

 そして体勢を整え、それを避けるであろうギョライの次の動作で確実に仕留めるべく、剣を振り上げる。


 シャシャァ!!


 ギョライはブリッジするように真空の飛ぶ斬撃をギリギリで躱す。

 そしてその体勢を真上からフラガラッハを振り下ろし切りにかかる。


 ガキキィィィィン!!


 「なに?!」


 なぜか剣が防がれる。

 目の前でスノウの一撃を受けているのはジライだった。


 ドッゴーン!!


 その隙にギョライは体を捻って蹴りを放ちスノウを蹴り飛ばした。

 ロムロナの方に飛んでいき転びながら体勢を整える。

 そして剣を構える。


 「なぜライジがこっちに来てる?!い、いや、今は奴の名はジライか!」


 状況はわからないがグレゴリと戦っていたジライがこっちに来ているということはグレゴリはやられたということかとスノウは推察した。

 確認したいが目を離すと一瞬でやられる緊張感があったのだ。 

 エントワの死をきっかけにレヴルストラ側が更に劣勢になっている。

 流石にひとりで二人を相手にするのは厳しい。

 ギョライも完全な弾切れかどうかはわからない。

 ロムロナに目をやる。

 この二人を相手にするのは最低でもロムロナとの連携が必要だ。


 「!!」


 ロムロナが倒れていた。


 「ロムロナ!」


 ふたりを警戒しながら急いで彼女のところに駆け寄る。


 「ロムロナ!どうした?!」


 「‥‥ウフフ‥‥ちょっとギョライボウヤの弾をもらいすぎちゃったわね‥‥。ごめんね‥スノウボウヤ」


 「いいから!喋らずに回復に専念しろよ!お前はもう戦うな!」


 「そういうわけにはいかないでしょぉ?スノウボウヤ‥‥誰があなたのオシメ替えられるっていうのよ‥‥うふふ‥‥」


 「喋るなって言ってんだろ!とにかく回復だ!」


 ロムロナを抱き抱え、奥に飛び退き回復に専念させる。

 

 (顔面蒼白で相当やばい‥‥)


 輸血が必要な状況に見えた。

 とにかく早くこの戦いに勝ってヴィマナに運び込む必要があった。

 エントワ、ロムロナ、おそらくグレゴリも戦線離脱だった。

 一方こっちは烈の隊員はほぼ殲滅できたものの、ギョライ隊の副隊長キライと、カヤク隊副隊長の二人だけでホウゲキと分隊長3人はまだ戦闘可能な状態だった。


 (ワサンとカヤクは互角か‥‥エスティとニンフィーは一時的に戦線離脱中‥‥ウルズィーの援護あってもアレックスはホウゲキに押されている‥‥)


 一瞬で戦況を整理するも、スノウは今ジライとギョライの二人を相手にしており余裕がない状態だった。

 ギョライだけならなんとかなったに違いない。

 だが、戦闘力未知数のジライが来たことでスノウは相当な劣勢に立たされている。

 虚をついた攻撃だったにせよ、ジライはエントワを倒した男だ。

 相当な実力に違いない。

 スノウは一瞬で戦局を読み、冷静にこの状況を覆す策を模索している。


 「スノウさん、安心してください。あなたは殺しません。ギョライは部下を殺されたのであなたを殺したがっているようですが、それは阻止します。もちろんあなたにギョライを殺させるようなことも阻止しますがね」


 「!!」


 (こ、この野郎‥‥。一緒に過ごしたあのライジは本当に演技だったんだな。とことん下衆すぎてマジで気持ち悪い。一言いってやりたい!)


 「お前、一体どんな気持ちでここにいるんだよ。自分は関係ないみたいな素振りしやがって‥‥お前みたいなのが一番クソだ!クソすぎて気持ち悪いんだよ!」


 「褒め言葉と受け取っておきます。僕の作戦が完璧に上手くいったってことですからね」


 ジライはニヤっと不敵な笑みを浮かべ切り返す。


 「お前はおれが殺すからな!エントワを殺し、エスティを裏切り、おれ達を罠にはめた罪は!ただの死じゃねぇ!普通に死ねると思うなよ!」


 そう言いながら一撃を喰らわそうとジライの方に突進する。


 ガキキィィン!!


 「お前の相手は俺だ」


 切り込むフラガラッハをリボルバーで受けるギョライ。

 ジライは微動だにせず、当たり前の結果のように変わらず不敵な笑みを浮かべている。

 ギョライから繰り出される蹴りを避け後方へ飛び退く。

 ギョライは指を菩薩の手の形のように人差し指と親指を輪っかにし指先を地面に向けた格好で構える。

 何かの拳法の構えのようだ。


 「お前は俺の本気で殺す」


 部下を殺された怒りかおれを殺そうと息巻いている。


 (でも本気って‥何だかカンフーみたいな構えとってるけどお前の本気は銃じゃないのか?まぁどうでもいい、とにかくこいつをさっさと倒してジライ‥この腐れ野郎をぶっ殺さないと気が済まない!)


 スノウは雪斗時代に人を簡単に裏切ったり、陥れたりする人を見てきた。

 もちろん死ぬような攻撃をされることはなかったが、自殺寸前まで追い込まれる同僚も見ている。

 その頃はそんな負の感情が渦巻いた世界から逃げ続けていた。

 だが、スノウ・ウルスラグナとなってからは違う。

 この負の感情は、言い表しようのない吐き気を催すものとなっていた。

 そしてこの嫌悪感は自分で払拭するしかない、いや払拭せずにはいられない。

 スノウはそう思っていた。

 心の中は、怒りやムカつきといった狂いそうなほどの抑えきれない感情が渦巻いていたが、自分のすべきことが明確に見えていることで異常なまでに冷静になっていた。

 素早くフラガラッハをギョライ向けて振り下ろす。

 エントワに習った技を連続で繰り出す。

 しかしギョライは体をくねくねさせながら避けさらに突きや蹴りを繰り出してくる。

 なかなかのリーチの長さだが、剣で間合いを取れている分避けるのは簡単だ。

 しかし、早くこのギョライを何とかしなければならなかった。


 一方、アレックスは無言でゲイアッサルを力一杯振り回し強烈な攻撃を何度もホウゲキに与えている。

 エントワが倒れ、グレゴリも倒れている。

 そしてロムロナは瀕死の状態。

 この状況で一番苦しいのはアレックスだろう。

 その怒りは冷静な鬼となってホウゲキに向けられている。


 ガガン!!ガガン!!


 そして魔法の追撃。


 「ジオライゴウ」


 ホウゲキに強烈な雷の柱が直撃する。


 「ジオライゴウ‥ジオライゴウ‥ジオライゴウ」


 アレックスは静かに雷魔法の連撃をホウゲキに向かって放つ。


 「真・ダンディズム」


 そしてさらにエントワの技である強烈な一撃をホウゲキに向けて放つ。

 ホウゲキは大剣を斜に持ちひたすら耐える。

 あまりの強力な一撃にホウゲキの足は地面にめり込み、思わず膝をつく。

 そして、それに追い討ちをかけるように、後方からはウルズィーがガトリングをホウゲキめがけて撃ち続けている。

 しかし、ガトリングはホウゲキに当たってはいるが、致命傷にはならないようだ。

 体から血が滴っている程度でホウゲキは気にも止めていない。

 ホウゲキの意識は完全にアレックスから放たれる強烈な連撃に向いている。

 ホウゲキが怯んだその隙をついて、アレックはすぐさまゲイアッサルを構え、9時の方向に投げた。

 恐ろしいスピードで竜巻を巻き起こしながら放たれる神の槍はそのままスノウの方向に飛んでくる。

 いや、スノウではなくジライの方だった。


 ドゴォォォォォォン!!


 「!!」


 突然のアレックスによるジライへの攻撃に一瞬驚くスノウ。

 だが直ぐに戦闘に意識を集中する。


 (流石のクソ野郎も不意に飛んできた恐ろしいスピードとパワーの神の槍にはギリギリ避けるのが精一杯だったか?)


 ゲイアッサルはギリギリ急所を外れてしまったが、ジライの帷子(かたびら)を貫通し肩に突き刺さりそのまま壁面に釘付けにした。


 「くっ!!」


 ジライは槍を引き抜こうにも触ることができない。


 「やってくれましたね、アレクサンドロス!」


 そしてジライの方に突進してくる。

 表情は異常なまでに落ち着いている。

 だが、そこから放たれるオーラによって周囲にいる者は雷にでも撃たれたかのような激痛の痺れを覚える。

 その姿はまさに ”豪雷の鬼神”。

 しかし、その後ろにもうひとつの影がいた。

 禍々しい赤黒いオーラを放つ存在、ホウゲキがだった。

 アレックスとは対照的に灼熱の業火に焼かれるような痛みを覚える。

 ホウゲキの怒れる ”爆熱の鬼神” が目覚める。


 「アレクサンドロス‥‥貴様、我輩との闘いを放棄する気か!」


 ホウゲキは大剣を筋肉が恐ろしく盛り上がり血管が浮き出ている腕で振り上げている。

 アレックスは腰に下げていたバトルアックスを手に持ち受ける。


 ドガァァァァァン!!


 ホウゲキの一撃があまりの威力で、受けたアレックスの足が地面にめり込む。

 ホウゲキはまさに怒れる鬼神のように大剣をまた振り上げ、アレックス目掛けて振り下ろす。


 ドガァァァァァン!!

 ドガァァァァァン!!

 ドガァァァァァン!!


 ホウゲキは、何度も、何度も大剣をアレックスめがけて振り下ろす。

 アレックスの腕や足もまた、筋肉が異様に盛り上がり、凄まじい力を発しているが、ホウゲキの一撃一撃があまりの衝撃のため、血管が破裂し血が吹き出している。


 「貴様の相手は我輩だ!我輩の心臓がとまるまで闘いを止めることは断じて許さん!」


 ドガァァァァァァァァン!!

 ドガァァァァァァァァン!!

 ドガァァァァァァァァン!!


 ”鬼神を怒らせるな”


 三足烏サンズウーの者たちの脳裏にその言葉がよぎった。

 ウルズィーはおそらくホウゲキの一撃を食らったのだろう、遠くでひしゃげたガトリング銃の下敷きになって倒れていた。


 ドガァァァァァァァァン!!

 ドガァァァァァァァァン!!


 「アレックス‥‥」


 ニンフィーは涙を流しながら口を押さえながら見ていることしかできない。

 ワサンもカヤクを相手に手が離せない。


 (このままではアレックスまで殺されてしまう。あいつがやられたら、レヴルストラは終わりだ。プランB‥‥そんなものはみんなが生きていて、それぞれが自分を犠牲にして役割を果たして初めて実現したバックアッププランだ。エントワがやられ、ニンフィーが倒れ、アレックスが滅多打ちの状態でなし得るものじゃない‥‥)


 スノウは直ぐに次の一手を考え決断しなければならなかった。


 (おれが何とかするしかない!おれは死を覚悟する。少なくとも、生きているやつは逃げられるように、おれがこの場の戦局を変える)


 ギョライに向かって風螺斬連撃(ふうらざんれんげき)を放ち距離を取る。

 そしてニンフィーに向かって水鉄砲のような弱いブラストレーザーを打ち、目で合図する。


 (みんなを頼む)


 (スノウ!だめよ!それは!)


 ニンフィーは目で訴える。

 だが、これしかなかった。


 「ほう‥童‥自分を犠牲にして皆を助けるかい。仕方ないねぇ‥‥こいつらにあたしの存在を知られたくないから黙っていたけど、お前が死んでは元も子もない。気を失ってもあたしが少しお前の体を操って逃げるくらいのことはやってやるから、思う存分やりな」


 オボロは薄目を開けてこの闘いで初めてスノウに語りかけた。


 「すまねぇバァさん‥でももし、その力、使ってくれるんなら、みんなを生かしてくれ‥‥そしてこの飛翔石をなんとかヴィマナに持ち帰ってくれ」


 「ふん!そこまであたしはお人好しじゃないんだよ。そこは自分でなんとかしな!」


 「全くムカつくババァだな!」


 笑みを浮かべ、そう言いながらスノウはアレックスに攻撃を加えているホウゲキの方に向かう。



 そして両手を上げる。

 今なら自分の魔力を感じ、そしてそれを全て一つの魔法に注ぎ込める。


 ドガァァァァァァァァン!!


 相変わらずアレックに強烈な攻撃を加え続けているホウゲキ。


 「赤毛とぐろやろう!もうお前の好きにはさせない!」


 スノウ如きの言葉は気にもとめないとばかりに一瞬たりともこちらを見ることなく、アレックスに攻撃を加えるホウゲキに対して攻撃を受けながら、冷静な表情でスノウの方を見るアレックス。


 「スノウ!」


 「任せたぜアレックス!なんとか上手くやれよ!」


 スノウは両手を上げる。

 目が白目に変化し、両手から光が発せられる。

 身体中の魔力が手のひら1点に集中し、凄まじい熱と共に大放出されるのを今かと待ち構える。


 「ウィリウォー‥‥」


 天井に恐ろしい何かの渦が急激に出現する。

 怒号が鳴り響き、雷や暴風が吹き荒れる。

 初めて繰り出した時のこの魔法は、まだスノウが脆弱な頃に出したものだった。

 魔力量もすくなく、それでも最強クラスの台風程度という感じだった。

 だが成長し魔力量が大幅に増え、魔法の使い方、魔力の集中の仕方を覚えた今、ウィリウォーは以前とは全く別のレベルの魔法となって出現する。

 

 神・天使や悪魔が使いこなすクラスの超強力な魔法。


 いや、スノウの魔力だけではない。スノウに寄生するオボロの魔力も吸ってしまっているようだ。

 そうして生まれた天変地異的豪雷暴風雨がこの狭い空間に巻き起こった。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 この部屋だけではなかった。

 恐ろしいほどの振動は、三足烏がこのフロア数カ所に仕掛けた爆発する罠をも誘発させ、フロア全体が大地震のように揺らぐ。

 ニンフィーは自分に強化魔法をかけて素早さを極限まで上げ、魔法のバリアをドーム上に幾重にも重ね掛け、ロムロナやエスティ、エントワ、グレゴリ、ウルズィーをひとりずつバリアドーム内に運ぶ。


 (スノウ!こ、これは‥‥クラス5のレベルじゃない!)



 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!


 地面が割れる。

 ホウゲキはこの事態の中でもお構いなしにアレックスに打撃を与え続けている。

 アレックスはジライを串刺しているゲイアッサルに手を伸ばす。

 ゲイアッサルはまるで生きているかのように一人でに動き出し、主人の元へ飛んでくる。

 それをキャッチしたアレックスはホウゲキに一撃を食らわす。


 ガキャァァァン!!


 ホウゲキの大剣は弾かれホウゲキ自身もたじろぐが、すぐさま体勢を整える。

 その間にも壁は崩れ、地面は割れ、恐ろしい程の暴風が吹き荒れ、至る所に雷が降り注いでいる。


 「何なんだぁこりゃぁ?!地面が崩落するぞ!」


 カヤクが思わず叫ぶ。


 「ワサン!貴様との勝負はいったんお預けだぁ!今度は蟲なんか使わねぇで俺の全てでお前ぇを殺すからな!」


 そういいながら地割れの中に落ちていくカヤク。


 (じゃねぇとあのイラつくじぃさんに怒られそうだからヨォ)


 スノウは白目になり、気を失う寸前になっている。

 魔力は全て使い果たした。

 オボロの力を借りてかろうじて意識を保っている。

 そしてこの場から去るだけの力をオボロから受けている。

 地割れはフロア全体に広がっている。

 アレックスは地割れに足を救われ体勢を崩してしまう。

 次の瞬間、大きく飛び上がりアレックス目掛けて大剣を振り下ろしている爆熱の鬼神・ホウゲキの姿が見えた。


 ほんの一瞬の出来事だった。

 オボロが残したわずかな体力を一つの行動に使う。

 ホウゲキの一撃がアレックスに突き刺さろうとしている瞬間、真横から回転しながらフラガラッハで大剣を叩く。


 カキャァァァァァァァァァン!!


 ホウゲキの一撃はそれアレックスをかすめる。

 しかし、純粋な一騎打ちに水を差されたことに怒る鬼神はそのまま渾身の剛拳をスノウの胸に打ち込む。


 ボグォォォン!!!!


 「ぐぼぉぉぉ!!」


 「スノオォォォ!!」


 吹き飛ぶスノウ。

 胸が大きく抉れている。

 おそらく胴体の骨は粉々に砕け、内臓は破裂しているだろう。

 痛みは感じていなかった。

 ただ意識が少しずつ薄れているのを感じていた。

 その時、二つの影がスノウに向かって飛んでくる。


 ひとつはワサンだった。


 「スノウ‥俺ハアンタヲ殺サセナイ‥。アンタハ俺ノ主人(あるじ)タル男。ココデ死ヌ人ジャァナイ」



 ボゴオォォォォォォォン!!


 スノウに止めを刺そうとするホウゲキの2撃目をワサンが防ぎ、吹き飛ぶ。


 そしてもうひとつの影はエスティだった。

 吹き飛ばされるスノウを受け止め、自分がクッションになろうとスノウを抱え込む。


 「あんたは殺させないよ!この命に変えても絶対に!」


 そして、容赦のないホウゲキの3撃目は体勢を崩したアレックスに襲いかかる。

 突如背後に異様な気配を感じる。


 「ゲ、ゲートォ?!」


 スノウをこの世界に連れてきたカルパに繋がるゲートが突如背後に開かれたのだ。


 「スノォォォー!!!」


 スノウに手を伸ばし叫ぶアレックス。

 そのアレックスに今まさに大剣を突き刺そうと迫っているホウゲキの姿がスノウの目に映っていた。

 そして、一瞬その奥で見覚えのある黒服の女の姿が見えた。


 

 次の瞬間!視界が一変し、宇宙を流れる光の川に飛び込む。



 そしてスノウは意識を失った。







11/23修正


ーーーーー

ここで一旦<ホド編>は終了です。

また巡り巡って戻ってくることになるかもしれません。

エントワの死、ホウゲキに襲われ窮地に立たされているアレックス、そして瀕死のレヴルストラの仲間たち・・・。

彼らがどうなるのか、飛翔石を使ってヴィマナを飛ばすことができるのか、その結末は別の世界の物語の後に・・。


次は <ティフェレト編> です。

音が支配する世界。真理は音にあり、音が全てを決める世界です。

そんな中、この9つの世界の秘密の一端を知ることになります。

その中でスノウは誰と出会い、どう行動するのか。


そして、自分を現代の日本から別世界へ連れ出した富良野 紫亜という女性も再登場します。

一体彼女は何もなのか?なぜスノウを別世界に連れ出したのか?

その謎も少しずつ明らかになっていきます。


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