<ホド編> 40.三足烏・烈 第一分隊長
40.三足烏・烈 第一分隊長
「う、うそ‥‥何で‥‥」
エスティは目の前で起こっている事態を把握できていなかった。
周りに気配はなかった。
(極限まで気配を殺し、戦いに集中しているおじさまとカヤクの虚をついて高速で接近し、カヤクの裏の裏をかいた‥‥。足から飛ばした短剣を弾き、おじさまの攻撃が当たるように戦局を変えたはず‥‥)
仮に完全に気配を殺して近づいたとしても、あの三つ巴状態で隙間をすり抜けてエントワの攻撃を阻止できる速さと体を捻った難しい体勢からの防御攻撃を出せるだけの力。
恐ろしく高い戦闘力だ。
そんな芸当ができる者などこの場の全員を見渡してもいない。
そんな高い技術と戦闘力をこの目の前の男、弱々しく逃げ回っていたライジがやってのけた。
「ラ‥ライジ!!」
エスティは呼んだ名前が間違っているのではと思い一度目を瞑り、改めて見直す。
「総帥‥‥いや、ガルガンチュア総帥エストレア」
「何なのライジ!一体何してるのよ!!あんた!」
「ここは戦場ですよ。素早く目の前の状況を把握、理解してすぐ様次の行動に移る。指示を出す。あなたが致命的にリーダーとして役不足なのはその点です。自分のことで一杯一杯になってしまう」
「な!」
「よう、手前ぇ‥何俺の邪魔してんだよ!あのままでも俺は勝てたんだよ!礼でも言うと思ったか!ジライ!」
「ジ、ジライ?! ね、ねぇどう言うことライジ?今そこの男‥あなたのことジライって、何かの間違いよね?」
「間違いじゃないですよ、エストレア」
悪態をついているカヤクを無視し、かつてのライジとは全く違う落ち着いた口調で話し始めた。
「僕はね、三足烏・烈 第一分隊長のジライ。あなた方レヴルストラをここで葬るために集まった三足烏・烈の一員です。そして今あなた方の敵としてここに立っています」
「!!」
言葉が出ないエスティ。
「さぁ、カヤク。君の殺したい相手のワサンと戦える状態にしたよ。そろそろここの戦いも終わらせよう」
「うるせぇなー。俺に指図すんじゃぁねーよ、チビ!」
そう言うとカヤクはエントワを抱えるワサンの方に駆け出す。
「エントワ、済マネェ。アイツト決着ツケテクル」
「ゆ、油断は禁物ですよ。それと、我々の目的はあくまで‥‥」
「アア、分カッテル。イイカラアンタハ休ンデナ。束ノ間ノ休息カモシレナイガ‥‥フフ‥」
ワサンは苦笑いしながらエントワに語りかけ、すぐ立ち上がり地面を蹴りカヤクを迎え撃つ。
カヤクとワサンの戦闘はやはりスピードの差でカヤクが依然有利だ。
ワサンが大きなダメージを負うのも時間の問題だった。
一方エスティは目に涙を溜めながら、ついさっきまで自分の部下だった男を睨みつけている。
みんなに弄られながらも、ライジが作ったご飯を皆が美味しそうに食べているのを見て嬉しそうにしていた顔や、キンベルク戦で協力し合ってこれまで勝てなかったはずの強敵を打ち負かした時のやりきった満足げな顔。
何より、レヴルストラでひとりぼっちだった自分を時には笑わせ、時には怒らせ、常に自分は一人じゃないって思わせてくれていた存在だった。
これまでの様々なライジの顔が脳裏に浮かぶが、目の前の状況とのあまりのギャップで裏切られた悲しみ、失望感、そして仲間を傷つけられた怒り、それら処理できない複雑な感情の激しい波で体が震えた。
「説明‥‥」
「ん?何ですか?エストレア」
「!!」
何かがプツンと弾けたかのようにエスティはジライに向かって突進する。
そしてレイピアを突き立てる。
キィィン!
ジライは微動だにせず、腰に下げている短刀を手に取り、エスティの突き刺してくるレイピアを短刀で軽々と受ける。
「説明しなさいって言ってるのよ!お前が気安くエストレアなんて呼ぶな!」
突きを受けられたエスティは怒りに任せてそのまま蹴りを放つが、それもジライはもう片方の手で簡単に受ける。
さらにエスティはレイピアの突きのラッシュを食らわすが、全て軽々と短刀で弾かれてしまう。
まるで大人と子供じゃれあいのように、力の差は歴然だった。
しかしジライはただエスティの攻撃を受けるだけで反撃はしない。
おそらく反撃すれば一瞬でエスティを殺すことができるだろう。
「説明しないさいよ!馬鹿!馬鹿!馬鹿ぁ!」
「説明する必要なんてありませんよ。僕はただのスパイです」
「ス、スパイ?!じゃぁ何?レヴルストラのみんなと過ごした期間は?!全部演技であたしたちの情報を得るためにあんなキャラ演じてたってこと?!」
「ええ、その通りです。ホウゲキさんからはスパイ行為など不要ときっぱり言われたのですが。しかし、おそらく僕たち烈のメンバーがこの地で遂行するミッションの中で最も厳しいものになると考え、自ら買って出たんです。貴方たちの戦闘力を事前に調べて必要最低限のメンバーをこの場に呼び寄せました」
「!!」
エスティは下唇を噛み締める。
唇からは血が滲んだ。
「全部知ってて‥‥」
ジライはエスティからの攻撃を受けながら説明する。
その話し方にはかつてのライジのおどおどした、でも憎めない愛嬌のあるものは感じられず、冷静で淡々としたものだった。
片手だけとはいえ、エスティの激しい攻撃を避けている動作にも関わらず、息も切らさずに平然と話を続ける。
「そうです。グレゴリのメモ。あれも僕があえて流した情報です」
「なんですって?!」
「パンタグリュエルに赴いてダンカンと12ダイヤモンズを最初に消し、あえてメモがレヴルストラに渡るようにしたんです」
「なんでそんなことを?!」
「情報操作ですよ。もちろん戦力を削ぐ目的もありました。アレクサンドロスとダンカンが組む場合、ホウゲキさんでも一苦労ですから。でもダンカン一人じゃホウゲキさんの敵ではありません。12ダイヤモンズは‥まぁ順番さえ間違えなければ簡単でした。そしてあえてメモを残した。」
「どういうことよ!」
「わかりませんか?三足烏・烈の組織についてある程度の情報を渡すことで、レヴルストラに自分たちで何とかできると判断させるためです。」
「‥‥‥‥」
「レヴルストラが国中の戦力を集めて戦いに備えるとなるとこちらもかなり不利になりますからね。結局貴方のお父上とグレゴリは来てしまいましたが、彼らが最初から居たら戦局は大きく代わり、僕たち烈は不利な立場になっていたでしょう」
「‥‥‥‥」
「そうなれば、僕たち烈は今以上の戦力をこの戦いに投入しなければならなかった」
「‥‥‥‥」
「僕たち烈はレヴルストラを倒した後も様々なミッションをこなさなければなりませんからね。隊員は貴重な戦力なので少しでも温存しておきたいのです。なので情報操作で僕たちが最小限の人数で勝てる策を講じる必要があったんです。ホウゲキさんは人を駒のように扱う方だから余計にね」
「‥‥も‥‥わ‥‥」
エスティは俯きながら何かをつぶやいている。
「ん?何か言いましたか?」
「もういいわって言ったのよ!」
エスティがロワール流剣技の連打を繰り出す。
流石のジライもこれは避ける必要があり、距離を取りながら短刀と体技で避ける。
次の瞬間ジライは右後方に鋭い空気の揺らぎを感じ大きく身をそらす。
サファァァァン!!
恐ろしく早い何かが仰け反ったジライの胸ぎりぎり上をかすめる。
「貴様が全ての元凶か!12ダイヤモンズを殺し、父をホウゲキに殺させた!僕が殺してやるよ!」
ホウゲキと戦っていたグレゴリがジライとエスティの会話を聞き、ホウゲキとの戦いを離脱して矛先をジライに変えたのだった。
「君はグレゴリだね。なかなかの剣の使い手だ。筋もいい。どうだい?僕の部下になる気はないかな?」
「ふざけるな!!」
ジライはグレゴリとエスティの連撃を全て受け躱している。
しかし、一向に攻撃は仕掛けてこない。
一方ワサンはカヤクに押され始め徐々に深傷を負いはじめた。
(モウ限界ダナ‥‥)
ワサンは獣化する覚悟を決めた。
ライジが裏切った一部始終は戦いながらも見えていたし、ただでさえこの押されている状況の中でウルズィ、グレゴリ一団の助太刀で巻き返せると思った矢先に披露された裏切りの演出。
肉体的なダメージだけじゃなく、精神的なダメージまで負わせる恐ろしい策士の前に最早自分に残された行動はとにかく飛翔石を持つスノウを逃す事、それしかなかった。
(ドウセ死ヌナラ全力ヲ出シ切ッテ死ヌ‥‥)
そんな戦況の中諦めていない男が一人。
「さて、ニンフィー。副団長の私がこんなところで寝ていては皆に顔向けできません。そろそろ私も行きます。貴方はスノウ殿のところへ行き、彼をサポートしてください。必ずここから彼を生かして逃すこと‥‥いいですね」
いかにニンフィーと言えどこの深傷の回復にはもう少し時間がかかる。
しかし、ワサンも最早これ以上持ち堪えられない。
「エントワ‥‥スノウを逃すために死ぬ気なの‥‥?」
「まさか!私は死にませんよ。そんな柔じゃない事はよく知っているでしょう?目の前の死に急いでいる若者二人に喝を入れるのですよ。それに若も頑張っている‥‥。おそらくホウゲキには勝てないでしょう。ですが負けもしない。彼はそういう男です。何といっても私が骨の髄まで鍛え抜きましたからね‥‥。エストレアは‥‥危険ですね。ワサンとカヤクが片付いたら何とかしましょう」
「エントワ‥‥」
「しかし‥‥惜しいですね、あのカヤクという若者。おそらくはワサンと似たような境遇でしょう。でも育ってきた環境でああも道を違えた。ワサンは仲間を、そして自分を生かすために戦う。でもカヤク‥‥彼は負けない為に戦う。自分の何かに執われた生き方は‥‥何とも胸が痛い」
「フフフ‥‥一体誰の味方なのやら‥‥」
ニンフィーは目に涙を浮かべながらエントワの話を聞いている。
「ハハハ‥‥いけませんね。私としたことが‥ガフっ!!感傷的になっていました。それじゃぁ頼みましたよ。いつかの約束を果たす時です、ニンフィー」
そう言うとエントワは、深傷を負っているとは思えない蹴り込みでカヤク目掛けて突進する。
「ヨウ‥ヒョロイノ。獣化シタ俺ト戦イタイッテ言ッテタナ?叶エテヤルヨ!冥土ノ土産ニナ!」
「ほーう!やっとその気になったか!」
ワサンは体を震わせながら獣化を試みる。
その状態のままカヤクに短剣を突き刺すべく突進する。
一方カヤクはそれを受けるべく円月輪を振り翳しながらワサンに向かっていく。
ガキキィィン!!
カヤクとワサンが打ち合う瞬間、エントワが間に割って入り、カヤクの円月輪を剣で受け、ワサンの攻撃をかわし鳩尾にパンチを入れ獣化を止めた。
「グハッ‥‥!エントワ?!アンタ‥‥」
「チッ!あいつの獣化の邪魔しやがってよう!」
そう言いながらカヤクは続け様にもう一方の円月輪を振りあげる。
エントワはそれを足で止める。
「がはっ!!」
エントワはその動きでまた血を吐く。
「へぇ、おっさん、元気そうじゃん!血反吐吐きながら攻撃とはねぇ!」
「おかげさまでね!年期が違うのですよ、君とは」
エントワはカヤクを抑えながら、胸ポケットからハンカチを取り出し、口周りの血を拭き取る。
「余裕ブッこいてんなぁ、おっさん!あんたからあの世に送ってやるよ!」
カヤクは後ろに飛び退き構える。
そしてすぐさま、エントワに向けて攻撃を仕掛ける。
エントワも体勢を整えカヤクに向かっていく。
エントワはカヤクのスピードに先読みで食らいつき互角にやり合っている
「おっさん‥バケモノか!」
(エントワ‥‥アンタ‥‥ソノ戦イ方ヲ俺ニ見セル為ニソンナ深傷ニモ関ワラズ出テキタッテノカ?!クソ!!アンタ何処マデ厳シインダヨ!)
ワサンもエントワとカヤクの戦闘に加わる。
「そうじゃないのですよ、ワサン!頭で予想するんじゃない!攻撃を見てその軌道を感じるんです!」
エントワはカヤクに攻撃を加えながらワサンにレクチャーする。
「ワカラネェヨ!」
「おいおい!俺様をダシに使うなよ!殺すよまじで!」
カヤクはさらにスピードをあげて攻撃を繰り出す。
カカカカン!カカカキン!!
「カヤク殿、あなたは勝つことに拘りすぎて圧倒的な力と早さに取り憑かれています。がは!‥げほっげほっ!‥‥それでは勝てる戦いも勝てませんよ」
「はぁ?!この状況で俺にまで説教か、いい度胸してるぜ!」
攻撃を繰り出しながらも、その戦いの中にワサンはエントワの託そうとしている何かを掴もうと必死になっている。
(攻撃ヲ見ルッテ、戦ッテイルンダカラ、既ニ見テルダロウ!意味ガワカラネェ‥‥)
ワサンは攻撃を加えるがカヤクには速さで通じない。
それどころか攻撃を受けてしまいさらに傷を増やしている。
(クソ!!ワカラネェ!‥‥‥ン?!)
ワサンはエントワの戦い方を見ながら何かに気づく。
(エントワノ目線‥‥武器ヲ見テネェ‥‥見テルノハ‥‥何ダ?)
カカカカン!カカカキン!!
(!!何カ‥‥ワカリカケテイル‥‥)
ワサンはカヤクから攻撃を受けながらも必死にエントワの攻撃を見ている。
「おい犬公!余所見してんじゃぁねー!!」
イラッときたカヤクは、エントワの攻撃を一旦跳ね除けた後、渾身の力を込めた素早い一撃をワサンに食らわそうと円月輪を振り下ろしてくる。
(ソウダ‥‥筋肉‥筋‥血液‥目線‥骨ノキシミ‥全テノ動作ハ相手ノ思考ニアル目的ノ為ニ行ワレテイル。ツマリ、相手ノ体ノ変化ヲ隅々マデ見レバ、目的ヲ果タスタメニ忠実ニ動クヒトツヒトツノ動作ガ次ニ何ヲスルカヲ示ス‥‥ソウカ!!!)
サファァァァン!!
これまで避けられなかった攻撃、しかもカヤクが苛立ちとともに放った痛恨の一撃をワサンは軌道を先読みし完全に避け切った。
「何?!」
驚くカヤクの隙をついてエントワが技を繰り出す。
「ロワール流奥義、真・ダンディズム」
エントワの剣がカヤクの首に向かって伸びてくる。
カヤクは渾身の一撃を放った反動で体勢を整えるのに時間がかかる。
エントワの放った一撃のスピードは凄まじく、流石のカヤクも防御が間に合わない。
間に合わないと知りつつも円月輪をエントワに向けて放っていた。
(やべぇ!避けられねぇ!)
動体視力の良さが逆にこの攻撃による結末を示唆しカヤクに覚悟を決めさせる。
(こりゃ死んだな‥クソ弱ぇ人生だったなぁ。それもこれもあのクソ師匠のせいだ‥全く‥‥もう少し違った生き方したかったぜ)
グジョリ!!
エントワの剣がカヤクの首をえぐる。
抉られた後に遅れて円月輪が振り下ろされる。
どうせ避けられてしまう攻撃だがとカヤクは思った。
ザザン!!
「ぐばぁぁぁぁ!!」
口から吐き出された血反吐は噴水のように宙に舞う。
「な‥に‥?!」
エントワは突き刺したものはカヤクの頸椎にがっしりとしがみつき、身体能力を生命力と引き換えに異常に押上げる蟲だった。
串刺しとなった蟲はさらにエントワの剣技によって細切れにされ消滅した。
では宙に舞った血は誰のものか。
カヤクが間に合わないと知りつつ放った円月輪の鋭い一撃はそのままエントワの胸を抉り心臓まで切り裂いていた。
血反吐を吐いたのはエントワだった。
「エントワァァァァ!!」
空中での剣技の応酬もエントワへの一撃で止まり、3人は地面に倒れ込む。
「エントワ!!」
倒れているエントワを抱きかかえるワサン。
「死ヌナ!死ヌンジャネェ!!アンタガ居ナクナッタラ誰ガアノデカブツ馬鹿ヲ叱ルンダヨ!!誰ガレヴルストラヲ仕切ルンダヨ!!目ェ開ケロォ!!」
焦るワサンは必死にエントワに語りかけている。
「おい‥おっさん‥‥どういう事だよ‥‥」
一方エントワの行動の意図がわからず戸惑うカヤク。
エントワは目を開ける事なく、口から血を流しながら何かを語りかける。
「カヤクど‥の‥‥君‥はまだ強く‥なれる‥‥そんな‥蟲‥に頼るな‥そして‥生きるため‥生かすために‥強‥くなれ‥」
「はぁ?!俺ぁあんたの敵だぞ?!何言ってんだよ!馬鹿か!!」
何とも言えない苦い顔をして叫ぶカヤク。
「ワサン‥‥先読み‥グッ‥ドでした‥‥若を‥スノウ‥ど‥の‥を‥た‥の‥‥」
「エントワァァァァァァァァ!!!!」
誰もが予想しなかった。
レヴルストラの中でも一際冷静で経験も豊富、判断力に優れ、何より剣技は随一。
そんな偉大な男が倒れることを誰が予想できただろうか。
三足烏がいくら強敵だからとは言え、誰かが犠牲になるかもしれない覚悟を持っていたとは言え、誰がエントワが真っ先に倒れることを想像しえただろうか。
・・・・・・
・・・
「エントワ‥‥こんな時間になにしてるの?」
ニンフィーはしゃがみ込んでゴソゴソと何かしているエントワの後ろ姿をみて話しかける。
「ああ、ニンフィーですか」
「ん?ん?!臭!!そ、それアレックスのブーツじゃない!臭っさー!!よく触れるわね!うっ‥‥吐きそう。この世のものとは思えない臭い‥‥」
「ははは、なるほど、女性にはそう感じるのですね」
「女性じゃなくても気絶するほどの臭いでしょ!‥‥まったく。それで何してるのそんな汚物を持ち出して」
「メンテナンスですよ。皆武器や盾は気遣いますが、ブーツもまた重要なものの一つなんですよ。皮が伸びているとブーツの中で足がズレて本来のスピードが出せない、踵が削れていると着地の際にバランスを崩すなどね」
「そっか‥‥私やロムロナみたいな術師はあまり激しい動きは取らないから気にしなかったけど剣闘士は激しい動きをするね。確かに足元がふらついたら本来のスピードも威力もだせないわね」
ニンフィーは奥にもブーツが並んでいるのに気づく。
「え?それみんなの‥わたしのブーツまである‥‥」
「ええ、みんな横着者だからね。エストレアは私の教えを忠実に守っているようだ。きちんと手入れしてあるからあまり手を加える必要はなかったですが他の者たちはなってませんね、まぁ若はその筆頭ですが。ニンフィー、君のブーツもくたびれていたから修理しておいたよ」
珍しく顔を赤らめるニンフィー。
「あ‥‥ありがとう」
・・・・・
・・・
戦いに厳しいだけじゃなく、戦いの中での信頼だけじゃなく、彼はいつでも紳士だった。
誰かに見られているかどうかなど関係ない。
アレックスの師であっただけじゃない。
レヴルストラ全員の師であり、父であり、心の支えだった。
そんな最も厳しく、そして最も優しい紳士は突然あっけなくも、この激しい戦闘の中で静かに逝った。
11/23修正
個人的にとても気に入っている人物エントワの死は自分で書いておきながらちょっと辛いものがありました。
が、彼の死が長い時を経て活きてくる時がきます。
いつの時代も立派な人物の意志は受け継がれるのだというところを表現したいなと思います。




