<ホド編> 39.援軍
39.援軍
「ここまでかよぉ!」
アレックスは血が噴き出すほど拳を強く握りしめ眉間に皺を寄せて叫んだ。
突破口が見いだせない。
(せめてスノウだけでも自由に動けるようにできればよぉ‥‥だがもう打つ手がねぇなぁ‥‥)
そしてホウゲキ達は闘いを終わらせるべく最後の攻撃に入ろうとしている。
次の瞬間、ギョライ隊隊員たちが一斉に倒れ出した。
「!!」
何らかの攻撃があったようだ。
ギョライとキライはその何らかの攻撃を察知し飛び退いたおかげでダメージを免れたが、ギョライ隊のほとんどはその場に倒れ戦闘不能となってしまった。
「遅くなりました!」
「待たせたなぁ!」
現れたのは、ガルガンチュア元総帥のウルザンダー・レストールとパンタグリュエル現総帥のグレゴリ・ズールーのふたりだった。
そして背後から100名近くの精鋭と思われる屈強な戦士たちが突入し周囲を囲んだ。
その動きからかなり戦闘慣れしていることが窺えた。
「お父様!」
エスティが叫んだ。
その目には涙が滲んでいる。
「おお可愛い愛娘よ!遅れてきたわしを許しておくれぇ!」
筒が何本もついた巨大な大砲のようなものを背負った身長は低いが筋骨隆々で立派な髭を蓄えた50歳くらいに見える風貌の男が叫んだ。
彼はドワーフだった。
「ウルズィー殿、すまない。隠居した身にも関わらず‥」
エントワが古き友の出現に笑みを浮かべながら語りかける。
「おぉ!ロワール!なんという姿だ!おめぇさんがそんな無様な事になってるとは!やられたもんだなぁ!」
「ははは‥‥相変わらずの減らず口‥でも嬉しいですよ、ウルズィー殿」
「グレゴリぃ!なぜお前ぇまで!」
「アレックスおじさん!遅くなり申し訳ありません!残る精鋭を連れ海を全速力で渡ってきたのですが、なにぶんおじさんの船とは性能が違いすぎるので時間が掛かってしまいました」
「いや、そうじゃぁねぇ!なんで来たんだっつってんだぁ!」
「おじさん、ホウゲキたちは父の仇ですよ!しかも大事な家族がまた殺されるかもしれないピンチに陥っている!放っておけって言う方が無理ってもんです!」
「さぁ!おめぇら」
「さぁ!みんな」
『三足烏を根絶やしにしろ!』
新たな12ダイヤモンズとなったパンタグリュエルの面々がカヤク目掛けて一斉攻撃する。
カヤクはもろともせず全ての攻撃を容易く防ぎ切るが、彼らの狙いはカヤクではなかった。
弓矢を持ったダイヤモンズのひとりがエントワとニンフィーのところに駆け寄る。
そしてカヤクたちに魔法の籠った鋭い矢を放ちながら話しかける。
「オンディーヌ様、今のうちのエントワ様の傷の手当を」
これまで戦い傷ついたカヤクたちに対し、12ダイヤモンズはかつてのオリジナルの精鋭たちより劣るものの、万全の状態である。
レヴルストラと三足烏の激闘の後に万全の状態で登場した12ダイヤモンズたちは体力・魔力共に100%であるアドバンテージを活かし、カヤクたちを押し込んでいく。
戦闘力では敵わない分を状態差で埋めつつあった。
そして一人の槍使いの一撃がマイトに突き刺さる。
グジョリア!
「ぐあぁ!!」
左腕を切断されマイトは悲鳴をあげた。
「これで小賢しい炎の鞭も半分に減ったな!」
「マイト!!あんたたち‥‥許さないよ!」
怒り狂うダイナ。
しかし12ダイヤモンズは警戒しながらも攻撃の手を緩めない。
戦力差が出る前に仕留める短期決戦であるためここで手を休めるわけにはいかない。
一方、ガルガンチュアの精鋭戦士たちはギョライとキライに攻撃を放っている。
リゾーマタの様々な属性の攻撃魔法を放ち、同様に複数属性の魔法の壁を張り巡らせた上、別の戦士たちが剣で一斉にギョライとキライに切り込んでいく。
ガガガガガガガン!!
リボルバーやパチンコの攻撃はことごとく魔法の壁で威力を抑えられ、同時に魔法の攻撃を与える。
かろうじて避けても物理攻撃がくる
ギョウライとキライはいきなり防戦一方となっていた。
そして中央。
アレックス、ウルズィー、グレゴリの3人に囲まれたホウゲキ。
ウルズィーは巨大な大砲のようなガトリングガンをホウゲキに向けている。
グレゴリは異様に長い長剣を構えている。
「さぁどーするホウゲキさんよぉ!」
形成逆転とはいえ、それは数の話だ。
総戦力はウルズィーたちが加わったとは言え、ひっくり返った状態ではない。
依然三足烏の方が優位に立っていると言ってもいい。
アレックスはそう戦局を見ていた。
腕を組み動かないホウゲキ。
その表情に危機感を抱いている感はなかった。
「ヌハハハハハハ。烈の者たちよ。命を燃やせ、その血を燃やせ、全てを出し切って滅せよ。弱きものはここで死ね!!」
その声をトリガーに一斉に闘争が始まる。
ウルズィーはガトリングガンをホウゲキ目掛けて撃ちまくる。
ドガガガガガガガガガガガガガガ!!
カンカンカンカンキンキンカンカンカンカン!!
流石に肉を削る強弾はホウゲキといえども避けないわけにはいかないため、防御するがカイザーナックルで全て弾いている。
まるで10倍速くらいでシャドーボクシングの映像を流しているかのように凄まじい速さで動き、全ての弾丸をカイザーナックルで殴り弾いている。
ガトリングガン一斉放射への対応に集中しているホウゲキを後ろから長剣を凄まじい勢いで振り下ろす。
流石のホウゲキもガドリング弾は避けながら弾いているが、少しは焦っているかと思いきやその表情は楽しんでいるように笑みを浮かべていた。
そのホウゲキを鋭い眼光で見つめている少年がいた。
グレゴリだった。
彼はダンカンの実の息子ではなく、拾われた子だった。
年は15〜16歳に見えるが剣技は超一流でエントワやダンカンにみっちり鍛えられている。
そこらのダイヤモンド級戦士など足元にも及ばない。
今パンタグリュエルの総帥を務めているのもダンカンの息子だからというわけではない。
その実力を買われてのことだった。
成長中の低身長を補うため恐ろしく長いロングソードを武器としているが、普通は扱えないであろう長さと重さのスーパーロングソードを自由に振り回すのはその技量の高さゆえだ。
しかし、相手はホウゲキだ。
いかに人間離れした少年といえどもこのバケモノに通用する攻撃を与える事はほぼ不可能だろう。
グレゴリ本人もそれは十分に理解していた。
彼本来の技量の高さから相手を冷静に見ていた事と、父を軽々葬ったその実力を恐怖と共に目の当たりにしたからだ。
だが、隙さえ作り出せればいい。
アレックスが痛恨の一撃を加えられる隙さえ作れれば。
もちろん自分の命を犠牲にするつもりはない。
命を落とした父や12ダイヤモンズのためにも自分は必ず生きて帰らなければならない。
生き抜く覚悟を持った死に物狂いの攻撃。
そういう心意気だった。
ガトリングの砲弾の嵐を剣でかわし、グレゴリの斬撃の雨を蹴りで躱し、大男とは思えない素速い動きで大きなダメージを与えられない状態が続く。
しかし、ところどころ生じる隙をアレックスは見逃さなかった。
ズバン! シャバン!
アレックスのゲイアッサルがホウゲキの体に傷をつけ始めた。
いくつかの傷からは血が滴り始めている。
だがその表情は苦痛に歪むどころか、嬉しそうでさえある。
一方カヤク隊と12ダイヤモンズの戦闘はダイヤモンズ優勢の状況が続いていた。
新12ダイヤモンズはマイトに攻撃を当て、厄介だった爆裂の鞭の勢いを殺した。
相棒を傷つけられたダイナが狂ったように高熱魔法の連撃をお見舞いするが、いずれの攻撃も上手く連携する新12ダイヤモンズの防御と攻撃で次第に抑え込まれダメージを負い始めた。
「お前ぇらだらしなくねーかぁ?ダイナ、マイト」
そう言い放つとカヤクは捉えられない速さで12ダイヤモンズを一人づつ攻撃し連携を乱し始めた。
「厄介ですね、あのスピードは。さて、私もこれ以上若者たちに任せきりというのダンディズムに反します」
そういうとエントワは傷が7割方塞がった時点でニンフィーの回復を制し立ち上がる。
「ワサン。私はこれから死ぬ気でカヤクに挑みます。もし私が不甲斐ない場合は貴方にも覚悟してもらわなければなりません」
「分カッテイル。アノ力デ何トシテモスノウダケハ逃ガス」
「グッド!」
そう言い放つとエントワは苦戦している12ダイヤモンズの加勢に向かう。
(ワサン。身体能力の速さだけでは “本当の速さ” には辿り着けません。今から見せますからしっかり次に活かしなさい)
エントワは振り向かず背中でワサンに語りかけた。
そして鋭いオーラをカヤクに向けた。
カヤクは片手で12ダイヤモンズの攻撃をかわしながら、鋭いオーラを感じエントワの方に意識を向けた。
「おっさん、来たねぇ!あんたは俺のスピードについてこれブフゥ!!」
エントワがカヤクの鳩尾に剣の柄を深くぶち当てている。
「貴方、言葉遣いがなっておりませんね。でも戦闘は意外とダンディズムを追求しているようです」
エントワはそのまま押し切る。
ズゴォォォン!!
カヤクはそのまま後ろの壁に吹き飛んでいく。
「おおお!!」
12ダイヤモンズが一斉に歓声をあげる。
「さぁ皆さんここからが正念場です、行きますよ」
エントワは12人とともにカヤクに一斉攻撃を仕掛ける。
「なめるんじゃねぇ!!」
カヤクはすぐさま体勢を整えエントワたちに向かって斬りつけてくる。
カンカンカカカンキンキンカカカカン!!
凄まじいスピードでエントワとダイヤモンズの13人を相手に戦うカヤク。
しかし、次第にカヤクのスピードが勝り12ダイヤモンズは少しずつ押され始めた。
「ほう、やはり速い!」
「あぁ!さっきは油断しただけだ!だがもう油断しねぇ!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
「がふぅっ!!」
一人また一人と傷を負っていく。
「傷を負った方は一旦離脱してください、死んではいけませんよ!」
「すみません‥」
「治り次第すぐに‥」
そう言いながらダメージを負ったダイヤモンズはニンフィーの元に避難し回復を受ける。
キセキはカヤクの加勢に向かいたいが、ダイナとマイトの回復で身動きが取れなかった。
ダイナはまもなく戦えるまでに回復しそうだが、押されているカヤクを見てキセキは居ても立っても居られない。
「キセキ‥あたしたちを回復している場合じゃないでしょ‥‥あたしたちはカヤク様の駒‥。主人より駒を優先して回復なんてありえないわ‥‥というあたしの深い愛情、カヤク様にどうか届いて」
「こんな状況でお前は一体何を言っているんだ。自力で回復出来までになったらカヤク様のところへ向かう。余計なことは考えずに回復に専念しろ。お前たちが回復して連携することでカヤク様がより戦い安くなるんだ」
「わからない人ね‥‥早くカヤク様のところで行って‥と言っている側から素敵なカヤク様が見える‥‥」
キセキも2人を置いてカヤクのところに直ぐにでも向かいたいところだが、このダイナとマイトは間違いなくカヤク隊の貴重な戦力だ。
そしてエントワと12ダイヤモンズに押されている状況を考えるとこの2人が戦線離脱した状態は不味い。
キセキは、居ても立っても居られない気持ちを抑えながら回復に専念する。
12人いたダイヤモンズのうち10人は離脱してしまったため、エントワと残った2人のダイヤモンズの3人でカヤクと対峙していた。
といってもふたりのダイヤモンズは回復と防御サポート魔法の使い手だ。
直接剣を交えているのはエントワとカヤク。そのスピードには周りの誰もついていけず、ふたりのダイヤモンズは大まかな魔法しかかけられない状態だった。
キン!シャラン!ジャヴァス!!
カヤクの方が明らかに速い。
しかし、エントワは戦っている。
「爺さんやるなぁ!このドーピングした俺についてこれるとはなぁ!あんた次を読みながら闘ってるな?」
「その通りです、カヤク殿。年期の差ですよ」
「どうやって読んでるんだかなぁ!だがいつまで持つかぁ?」
「それは貴殿も同じ。しかし勿体ない。その蟲の力、まさか命を削っているのではないでしょうね」
「ご名答!俺は負けられねーからさぁ!勝ち続けて死ぬ。それができれば本望なんだよなー」
「そうですか。生き急いでますね」
カヤクとエントワの戦いは亀甲している。
やはり周りの者たちはほとんどふたりの攻防を目で追えていない。
ワサンともう一人を除いては。
カヤクが円月輪で斬りつけると同時に手裏剣を放つ。
それをエントワは予測しながらかろうじて避けそのまま一撃を放つ。
シャヴァァァァン!!
「効かねぇって!」
カヤクは体を捻り円月輪をブーメランのように放り、もう片方の円月輪をエントワに向けて斬りつける。
エントワは次の展開をほんの一瞬で必死に読み確実な攻撃をカヤクに加えようとしている。
(この攻撃を受けると動きが止まりその間に戻ってくるもう一つの円月輪にやられる。この攻撃を避け、さらに後方の円月輪を受ければダメージは避けられるが攻撃のチャンスを失う。いやカヤクはその間手裏剣とやらを放ってくる可能性が高い。そすると私が全ての攻撃を避け切るのは厳しくなる‥一旦引くか‥)
「いや、貴殿に対してこの場で引くのはダンディズムに反します!」
1秒にも満たないほんの一瞬の出来事だった。
エントワは体を捻り後方から迫り来る円月輪にエアダンディズムを放ち、さらに体を捻り剣撃を叩き込むべく力を貯める。
一方カヤクは円月輪をエントワに向けると同時に手裏剣を放ち、さらに足に仕込んでいる短剣を蹴りとともに放つ。
カヤクが一手上回った。
「見事!」
エントワは致命傷を覚悟した。
次の瞬間、蹴りから放たれた短剣が何かに弾かれる。
カァァン!!
弾いたのはエスティだった。
「この女ぁ!!」
気配を殺し絶妙なタイミングでエスティがカヤクの攻撃を防ぎ、その動きに連動するようにエントワの攻撃モーションがカヤクの目に飛び込んでくる。
エントワの一撃を喰らう光景が脳裏に浮かび冷や汗を滴らせる。
そのままエントワは力を貯めた剣撃をカヤク目掛けて放つ。
「斬ディズム‥‥」
(避けられねぇ‥‥)
カァァァァァン!!
「!!」
突如エントワの攻撃が弾かれた。
そしてあまりの衝撃から剣が折れてしまう。
しかもそのまま、エントワの剣を弾き折った何かがエントワの胸を切り裂く。
ザク!!‥‥ドッパァァァァァァ!!
エントワは切られた胸から大量の血を撒き散らしながら吹っ飛んでいった。
「おじさま!!」
「エントワ!!」
ワサンが全速力でエントワの吹っ飛ばされた方に飛び、追い越して受け止める。
ズザザザザァァァ‥‥
「ぐはぁ!!」
エントワは血を吐き悶える。
「一体何がぁぁぁ!!」
(何が起きたの‥‥おじさまは確実にこのカヤクを仕留められたはず‥‥なのに!)
エスティは狼狽えながらも状況を把握すべく周りを見回す。
振り向いた先に見た姿に驚愕した。
「う‥‥うそ‥‥何で‥‥」
膝をつくカヤクの横に立っている小柄な男。
見慣れた顔と体格、服装。
ついさっきまで行動をともにし、期間はそう長くはなかったが苦楽をともにした男。
「ラ、ライジ!!」
11/23修正




