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<ホド編>38.ホウゲキという男

38.ホウゲキという男



 三足烏サンズウー・烈の中でもホウゲキの生い立ちを知る者は最早いない。

 世の中に自身を縛るものは何一つない、と思われるほどの豪傑な男という印象だ。


 寝たい時に眠り、

 食いたい時に食う。

 抱きたい時に抱き、

 呑みたい時に呑む。


 その本能のままの行動は全て派手に戦い派手に相手を滅殺する、という無敵の戦闘力の土台の上にある。

 そのような何にも縛られず我が儘を通している怪物が、なぜ元老院に従っているのかは烈の面々の中でも一番の謎だった。

 任務に失敗する際は自分の首を差し出してでも詫びようとする。

 何やら何か大切なものを元老院に握られているとか、三足烏の司令や団長はさらにバケモノのように強いとか、様々な憶測が常に隊員の中で飛び交っているがいずれも信憑性を帯びたものではない。

 カヤク、ギョライを含む分隊長達はいずれも幼少の頃からホウゲキ一団と共に暮らしてきた。

 それぞれに師がおり、その師は皆ホウゲキの配下であった。

 師一人一人がダイヤモンド級を大きく超える強者揃いだったが、その師が口を揃えて言う言葉があった。


 “鬼神を怒らせるな”


 分隊長達が幼少期だった頃は、ホウゲキと行動を共にする事はあまりなかったが、カヤクともう一人の少年がたまたま行動を一緒にした際にホウゲキが激昂したのを見た事がある。

 三足烏に加入するより前、まだホウゲキを頭とした小規模キュリアとして活動していた頃の話だ。

 ホドではない別の世界だが、その当時は悪政を敷く国王軍と反旗を翻した反乱軍とが争っており、頻繁に町や村が戦場と化しその度に何人も命を落としていた。

 ホウゲキのキュリア “ヤソタケル” は、国王にも反乱軍にも属さずにただただ強者を探し彷徨っていた。

 特に大勢の弱い兵同士の戦闘には全く興味がなく、どっちが勝とうが誰が何人死のうがホウゲキには全く関係のない事であり、彼が出撃するのは決まって強者と呼ばれる存在が出兵する時だった。

 少年二人が同行した際も、ホウゲキの心が動かされる豪傑が出てくるとあって、ホウゲキと当時の幹部だったシュンサツとその部下数人、そしてゲキシンと拾われたばかりの二人の少年が戦禍に赴いた。

 

 ホウゲキの心が動かされた豪傑とは、反乱軍で最も剛腕な矛使いでその腕前は世界最強とまで謳われた男、ウーゼルだった。

 ホウゲキの今回の狙いはその男だった。

 ウーゼルは国王が圧政を敷く街をその支配から解放する目的で侵攻したが、対する国王軍は大した強者もおらず兵の数としても圧倒的に少なく不利だったため、あっさりと反乱軍に街を明け渡し退散してしまっていた。

 そして反乱軍拠点へ帰還する直前にホウゲキ一行が目の前に立ちはだかったのだ。


 「何者だお前は!この方を誰だと思っているのだ!」


 「ウーゼルだろう?一際(ひときわ)怒破手な甲冑に身を包み、反乱軍随一の矛使いでこの世界最強と謳われる豪傑と聞いている」


 ホウゲキが答える。


 「呼び捨か!無礼なやつらだ。邪魔をしないなら見逃してやる。我らの前に立ちはだかるなら切り捨てる!」


 「貴様らに用はない。我輩はウーゼルに話をしている」


 「ぬぅ!!我らの前に立ちはだかる族め!切り捨てろ!」


 反乱軍歩兵隊長の指示にしたがって数名の歩兵が槍や剣を手にホウゲキを囲む。


 「かかれ!」


 しかしホウゲキは腕を組んだまま微動だにしていないにも関わらず、取り囲んだ兵たちは一瞬にして倒れた。

 幹部のシュンサツが一瞬にして片付けたのだった。


 「何?!どうしたんだ?! ええい、貴様ら何をぼさっと見ているか!早く目の前の下郎どもをぶち殺せ!」


 隊長の指示で100名程の歩兵が一斉にホウゲキ一行に襲いかかる。


 シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!


 バタバタバタバタバタバタバタバタ!!


 一瞬で100名の歩兵が無惨な姿で倒れていく。

 先ほど同様にシュンサツによる攻撃で一瞬にしてケリがついた。


 「な、なにものだ‥貴様ら‥‥」


 唖然とする隊長。

 何が起こったのかわからないが自分の部下のほとんどが目の前でほぼ全滅した。


 「さぁ、ウーゼル!前へ出て我輩と戦え!」


 その声に呼応するように奥から派手な鎧を着た長身の男が大きな鉾を手に悠然と歩いてくる。


 「我を呼んだのは貴様か。ほう‥その容姿、最近辺境の街を荒らし回っている盗賊まがいの一味の親玉か」


 「ほう、なかなかの腕前のようだな」


 ホウゲキは腕を組みながら品定めをするように前に出てきた長身の騎士を見回し少し笑みを浮かべる。

 反乱軍には悪政を敷く王政に耐えかねて反旗を翻した貧民が多かったが、それらを纏めたのは国を憂いて立ち上がった地方貴族だった。

 この派手な鎧を纏った長身の男も地方貴族で自領地の民が虐げられているのを見ていられず立ち上がったのだった。

 部下のほとんどは民衆上がりの戦士だが、ウーゼルは貴族の出とあって他とは違う品格が感じられた。

 しかし、ホウゲキはそのようなところには興味がない。

 彼の興味は、この目の前のウーゼルという戦士が自分と熾烈を極めた闘いが出来るだけの漢かどうかだけだった。


 「よし、その矛で思いっきり我輩を打ってこい」


 「ファファファファ!少々腕が立つからといって早死にした者を数多く見たが、貴様もその口か」


 「何を言っているのかわからんが早く打ってこい。我輩を待たせるな」


 「ぬぅ!いいだろう!貴様、あの世で悔いよぉぉ!」


 そう言いながら矛を持つ逞しい右腕を振り上げ勢いよくホウゲキに向け振り下ろした。


 ブゥゥゥン!!


 凄まじい風圧で転がっている死体と埃が舞う。


 「うおおおおおおおお!!」


 後ろに控えていた隊長や騎兵隊たちは一斉に歓声をあげる。

 しかし砂塵が収まってくるにつれて歓声は沈黙に変わる。

 ウーゼルの放った剛腕の一撃は、なんとホウゲキ親指と人差し指の2本の指で止められていたのだ。


 「う、動かぬ!!!」


 ウーゼルはホウゲキが指2本で挟んでいる矛を戻そうにも1ミリも動かす事ができない。


 「失望だ。貴様は我輩の相手として相応しくない。シュンサツよ、この者は貴様にくれてやろう」


 「御意」


 そう言いながらシュンサツは、ホウゲキ後方から気配を殺し突然ウーゼルの目の前に姿を見せた。

 そして長身のウーゼルを目の前で見上げるように頭巾を被った鋭い眼光の男が顔を近づけて語りかけた。


 「頭の指示です。あんたに恨みはないが、殺します」


 そう言い放つと素早い動きで持っていた刀で斬りつける。


 ガキィィン!!


 ウーゼルは左腕ついている盾でその刀を受けた。

 そしてすぐさま後ろに飛び距離を取る。


 「ほう、目は良いようで」


 余裕の表情を見せるシュンサツ。


 「おい、忘れもんだ」


 ホウゲキは挟んでいた矛を指を鳴らすような動作で軽々とウーゼルの方へ飛ばす。


 シャァァァァァ!!‥‥ガシン!


 ウーゼルはその矛を右手で見事に掴み、シュンサツの攻撃に備え構える。


 「ウーゼル様!我らも加勢いたしますぞ!」


 昔からウーゼルに仕えていた腹心の老人は加勢を申し出た。


 「下がっていろ。貴様らが加わっても単に我が部隊の人数が減るだけだ。貴様らは先に拠点へ戻れ。我は此奴らを仕留めた後に帰還する」


 「ですが‥」


 「我の命が聞けぬか!たわけ者どもが!さっさと去ね!」


 「は、はは!!」


 そういうと一斉に部隊は退却した。

 ホウゲキは弱い存在に一切の興味がないため、兵が剣を抜けば呼吸をするのと同じように殲滅し、逃げるとなれば気にも留めず放っておく。

 今はただ、シュンサツとウーゼルの戦いだけに注目していた。

 もしウーゼルがシュンサツに勝つような事があれば、ウーゼルを逃す。

 そうすれば彼は自分に完敗した悔しさから鍛錬を積み、強くなってまた自分に挑んでくる。

 ホウゲキはそう考えていた。

 しかし、シュンサツはホウゲキの思考など読めるはずもなく、(かしら)は自分の実力を認めこの王国最強と謳われた男をあてがってくれたと思っていた。

 その意に報い、(かしら)を楽しませなければならない。

 圧倒的な強さでこのウーゼルを打ちまかし、よくやったと褒美の言葉をもらう、それしか思考になかった。

 影で様子を伺っていた二人の少年は子供ながらにウーゼルの強さを認識していた。

 指2本で攻撃を受けられたとはいえ、ホウゲキの投げ返した矛の強烈な一撃を片腕で止め、すぐさま構えたからだ。

 普通ならあまりの衝撃につかんだまま後方へ吹き飛ぶか、つかんだ腕ごと引きちぎられるかのどちらかだろう。


 「準備はいいようですね、じゃぁ行きますよ!」


 シュンサツは刀を突き立てた。


 ジャザザン!!


 鋭い刀の伸びでシュンサツのスピード以上に刀が目の前に迫ってきているため、ウーゼルはかろうじて首を横に振る程度しか動けず兜を吹き飛ばされ、自慢の青く長い髪がバッサリと切られてしまう。


 (何が起きた?!こやつの距離、見誤ってはいないはず。いったいどのようなカラクリか!)


 攻撃を加えられたままでは終わらない。

 ウーゼルは刀を避けながら左腕の盾を前方に突き立て、シュンサツに当てるように突進する。

 シュンサツはそれを最も簡単に足で蹴りバク宙をするように後方へ飛んで躱した。


 シャザーーー!!


 しかし、盾のすぐ真下からウーゼルの矛の突きが凄まじい勢いで空中のシュンサツを捉える。


 「!!」


 空中で体を捻りムーンサルトのような形でなんとか致命傷は避けるが脇腹を深くえぐられるシュンサツ。

 着地と同時に脇腹から血が噴き出る。


 「へぇ‥あんた、なかなかやりますね」


 シュンサツの額から汗がしたたる。


 ((かしら)が見ている前でとんだ失態を‥‥。挽回しなければ!)


 シュンサツは体を捻り、刀で無数の突きをウーゼルに向けて放つ。

 刀にはリゾーマタの高圧電流魔法、ライセンが込められており触れると全身に電流が流れ、気絶するか下手をすれば焼け焦げて死ぬ攻撃だ。


 「シャハハハ!!死ねぇ!!!」


 しかし一発目の伸びる攻撃のカラクリがわからないウーゼルは距離を取り、リゾーマタの水の壁を作り出してさらに後方に避ける。


 「クソ!逃げますか!臆病な方だ!」


 シュンサツは水の壁を切り裂きさらに踏み込んでウーゼル目掛けて無数の刀の突きを食らわす。


 「ヘブンズギロチン!!」


 ウーゼルは矛を上に投げた。

 矛は異常な回転を生みながらブーメランのように戻ってきて地面に突き刺さる。


 ジャガザーーーーン!!


 轟音と共にシュンサツの刀が地面に転がり落ちる。


 「!!」


 ドッガーーーン!!


 シュンサツは自分の刀が地面に転げ落ちた事に驚いた次の瞬間、巨大なハンマーで思い切り殴られたような衝撃を受け後方に吹き飛ぶ。

 ウーゼルが左腕の盾を猛牛の如く突進しシュンサツにぶち当てたのだった。

 吹き飛んだシュンサツは顔の1/3がへこんでおり、右目が飛び出てしまっている。

 右肩も抉れて骨ごと潰れたような異様な形に変形していまっている。

 シュンサツのカラクリはシンプルだった。

 刀にバネとワイヤーを取り付けており、突きを喰らわした瞬間にバネを利用して前方に飛ばす。

 相手に突きを喰らわした後はワイヤーを引き、隙をついて斬りつける。

 これがシュンサツのカラクリだった。

 大概の相手は最初のターンで突きを喰らい、かろうじて避けても攻撃を出せずたじろぐため、シュンサツからの2撃目の切り込みを受け殺される。

 しかし、ウーゼルは水の壁を利用した。

 水の壁のサイドに水の壁をさらに鏡面状にした鏡のような壁を斜めに作り、水の壁を突き抜けてきた剣を横から見られるようにしたのだ。

 ウーゼルの咄嗟の判断で発した魔法だったが、上手くいった。

 見事に刀がシュンサツの手から離れワイヤーが見えたのだ。

 シュンサツの伸びる攻撃のカラクリを知ったウーゼルは、すぐさまそれを真上から切断するブーメランギロチンのような強烈な技を放ち、シュンサツの手元から刀を切り離し攻撃のチャンスを作ったのだった。


 「が‥‥がが」


 シュンサツはうまく喋ることもできない程の大ダメージを受けた。

 すかさず地面に突き刺さった矛を抜き去りウーゼルはとどめの一撃をシュンサツに食らわそうと矛を振り上げる。


 「シュンサツよ。最後の一滴まで血を燃やし闘いぬけ。貴様の全てを見せてみろ」


 腕を組みながら目の前で変形しとても戦える状態にない部下をみて言い放つホウゲキ。


 (ああ‥恐ろしい‥)


 シュンサツには迫り来る矛を振り上げたウーゼルが圧倒的な力で自分を殺しにくる悪魔に見えた。

 それもそのはず、悪魔のような男は目の前で100名程の部下を殺されたのだ。

 その部下を殺した相手を何がなんでも逃さないという気迫による圧がシュンサツに恐怖を与えていた。

 シュンサツは重傷にも関わらず、気づくと体が勝手に動き逃げ出していた。

 一方ウーゼルは振り上げた矛を途中で止め、後方に飛び防御の構えを取る。

 なんともいえない異様な圧を感じ本能で動いたのだ。

 逃げゆく目の前の敵にとどめを刺すチャンスを捨ててまで後方に飛びのいて今自分がしうる最高の防御の構えをとって汗を滴らせている。


 「貴様、闘いから逃げたな!」


 無意識に必死で逃げていたシュンサツは自分が何かに掴まれていると気づく。

 そしてそのまま地面に叩きつけられる。


 ドゴン!!


 ホウゲキはシュンサツの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。

 シュンサツはまるで逆立ちのように頭から地面に突き刺さった状態になっている。

 その背後に立つホウゲキはまさに鬼神だった。

 凄まじい怒りのオーラで見守っていた部下たちも気絶寸前になっている。

 同行した少年二人は失禁し気絶した。

 そこからは地獄だった。

 目は赤く染まり、体からは血管が浮き出て、体格も2倍はあろうかと思うほど盛り上がり、何度も何度も地面に突き刺さった自分の部下である男を殴りつけていた。

 血は方々に飛び散り、かなり離れて防御の構えをとっていたウーゼルのところまでその血飛沫(ちしぶき)が飛んできていたほどだった。

 その光景をまともに見ていたのはウーゼルのみでヤソタケル ーホウゲキのキュリアー の面々は恐ろしさのあまり放心状態となっていた。

 しばらくして目を覚ました少年ふたりは前方に立つ大男の体から付着した血が赤い煙のように蒸発している様を見て思った。


 “鬼神を怒らせるな”


 その後、ホウゲキは部下を連れて去っていったというが、ウーゼルはそれから3日間、その場で防御の構えを解くことができなかったという。



・・・・・


・・・



 そのホウゲキは今、アレックスと熾烈を極めた戦闘を繰り広げている。

 魔法と剣の応酬だが、明らかに違うのは、アレックスはホウゲキの攻撃を避けながら戦っているのに対し、ホウゲキはアレックスの攻撃を避けていないことだ。

 当然剣で受けることはあっても躱す事はない。

 魔法もそのまま受ける。

 受けながら攻撃してくる。

 これは逃げないポリシーなのか、アレックスの攻撃そのものが弱く避ける必要がないのか、いずれにしても大きな差があるのは事実だった。


 「バケモノだなぁ、お前ぇは!」


 (俺の武器がゲイアッサルじゃぁなけりゃぁ今頃死んでたなぁ)


 「何を言うアレクサンドロス!我輩は楽しいぞ!貴様ほど我輩を楽しませてくれる相手は久しぶりだ!」


 「はっははー!過去にお前ぇと渡り合える相手が居たってぇ事かぁ?会いたくねぇな、そんなさらにバケモノじみたやつにはよぉ!」


 「我輩を倒せばいずれ戦う事になる。会いたければ我輩を殺して見せろ、ヌハハァ」


 会話をしながらも、周りを派手に破壊しながら剣と魔法の応酬は続いている。

 しかし次第にアレックスが攻撃を受け始めている。


 (足にくらったらおしまいだぁ。しかしこいつぁ骨が折れるなぁ。)


 その時、嫌な音と声が聞こえた。


 シャワン!


 「ぐ!」


 「なかなか速いですね‥」


 (まさか、エントワがやられちまったかぁ!)


 アレックスから3時方向でカヤク隊と戦っているエントワたちに一瞬目をやる。

 エントワが血を流してダメージを受けているのが見える。


 9時方向ではスノウとロムロナがギョライ隊に囲まれて一斉攻撃を受けているのが見える。

 なんとか防いでいるが撃たれ動けなくなるのは時間の問題だろう。

 そちらの方が深刻だった。

 なぜならプランBすら失敗に終わる可能性が高くなるからだ。

 アレックスはホウゲキの重たい一撃一撃を受けながら、戦局を見ていた。


 (このままじゃぁ負けちまうなぁ‥‥スノウとロムロナもやべぇことになってる。このままホウゲキとの戦闘の場をスノウ達の方に移してあいつらを巻き込んでどさくさに紛れてスノウを蹴り飛ばしてプランB‥‥しかしあの変な飛び道具持った仮面野郎もめんどそうだなぁ)


 アレックスは思案を巡らせていた。

 プランBに移るにしても当のスノウが窮地に立たされている。


 (いや、あいつはなんとかぁするはずだぁ!俺が信じてやれねぇでどうすんだ!)


 「はっははー!ちょっと気合入れるぜぇ、ホウゲキぃ!」


 「そうだ!もっと血を燃やせ、アレクサンドロス!お前の全てを見せてみろ!」


 (この戦闘バカ、どうやっても倒せる気がしねぇなぁ!)


 「ロワール流奥義、豪流無限(ごうりゅうむげん)!」


 ファンファンファンファンファン!!


 アレックスはゲイアッサル見えない速度で様々に振り回し槍斬撃の球体を作り出した。

 あまりのスピードと読めない(やいば)の動きからいかなる攻撃をも弾き返す破壊不可能な球体(スフィア)だが、弱点は体力消耗が異常に激しいため、使用時間が非常に限られる点だ。

 つまり、アレックスの体力が尽きる前に戦局を変えホウゲキを倒すか、プランB実行に移行するチャンスを作る必要があった。

 アレックスはプランBのチャンスを作る事を選択し、最後の手札のこの技を出したのだ。


 「面白い!」


 カァァァン!!


 ホウゲキは壁のような大剣を振り下ろすがアレックスの繰り出す完全攻防一体の球体(パーフェクトスフィア)に簡単に弾かれてしまう。


 「ほう!」


 珍しくホウゲキは驚きの声をあげ笑みを浮かべる。


 「さぁ来いよ!」


 アレックスは完全攻防一体の球体(パーフェクトスフィア)・豪流無限を繰り出しながらホウゲキを攻撃して弾き、さらに攻撃を加えて弾くを繰り返し、ホウゲキをギョウライとスノウが戦っている方向に後退させている。

 そして徐々に近づきギョライとスノウたちが戦っている場まで約50メートルというところまで来ていた。


 「アレクサンドロス、貴様何か企んでいるな?」


 ホウゲキは渾身の一撃を繰り出す。


 「怒破手滅神爪(どはでめっしんそう)


 ガギャーーン!!


 「ぬぅ!!」


 ホウゲキの渾身の一撃もアレックスのゲイアッサルの攻防一体となった球体に弾かれる。

 すると、ホウゲキは舞のように大剣を振り回し始める。


 ブウン!ブウン!ブウン!


 舞はどんどん速くなり動きが見えなくなるほどの状態となった頃にはアレックスの技と同じ攻防一体となった球体となった。


 「ほう、こんな感じか!」


 「真似ぇすんじゃぁねぇ!」


 (こいつ、天才かぁ?見ただけで俺の技盗みやがった!こりゃぁまずいなぁ‥‥)


 壊せないはずの攻防一体の球体がぶつかり合う。


 ギャギャギャギャギャギャァァン!!

 バキィィィアァァァァァァ!!!


 双方の破壊不可能な球体は解かれた。

 同等の力でぶつかり合った結果、アレックスの技は止められたのだった。


 「止めやがったぁ‥‥」


 技も凄まじいが、何より武器が神話級武器ゲイアッサルを使ったパーフェクトスフィアだった。

 それにも関わらずホウゲキは見ただけで同様の技を繰り出し止めたのだった。

 この技の威力を体験したものにとってはまさにありえない状況なのだ。

 ただ、流石の衝撃だったらしくホウゲキの壁のような大剣は折れないまでも、刃が大きく欠けてしまっていた。


 「我輩の武器を破壊するとは‥‥アレクサンドロス、我輩は嬉しいぞ!最高だ!さぁ続けるぞ!」


 「お前ぇの武器壊れちまったがいいのかぁ?」


 「心配するな、我輩の武器はこれだけはない」


 そう言うと、腰に巻き付けていたキャタピラのようなものを外す。

 そこに据え付けられていたのはカイザーナックルだった。

 ホウゲキはカイザーナックルを装着すると拳法のような構えをとる。


 「バケモノがぁ!」


 スノウとロムロナはギョライ隊総攻撃の中発せられるギョライの銃弾に撃たれ、かなりのダメージを負っている。

 回復が間に合わないほどの集中砲火のためだ。

 一方深傷を負ったエントワを庇いながら戦うワサンもまたカヤクの動きを捉えられずにダメージを蓄積している。

 唯一エスティだけは奮闘しており、三足烏・烈のギョライ隊以外の隊員のほとんどを倒していたが、もはや満身創痍だった。

 人数差は大きく縮まったものの戦力差は縮まっておらず、レヴルストラが全滅するのは時間の問題だった。

 しかもプランBへ移行したくともホウゲキと各分隊長がそれを許してくれない。


 「さぁ!!!最終局面だ!」


 ホウゲキが高らかに吠えた。

 分隊長たちは右手拳を振り上げそれに応える。


 「ここまでかよぉ!」


 アレックスは血が噴き出すほど拳を強く握りしめ眉間に皺をよせ叫ぶ。

 

 (万事休すか‥‥)









11/19修正

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