<ケテル編> 191.ケテル連合部隊
191.ケテル連合部隊
「これから映像として送る人物がどこにいるかを探してくれるかスノウ」
メタトロンはスノウが見ている神の咆哮生成器のモニターに情報を送り、何者かをそのモニターに映し出した。
「!!‥‥こ、こいつは?!こいつがどうかしたのかミトロ!」
スノウはそのモニターに映った人物を見て驚いて言った。
それに念話で答えるメタトロンは意味不明な言葉を口にする。
「その者は半身だ。神の咆哮から発する特別コードの風と融合させる」
「‥‥何をしようとしているミトロ‥‥」
「スノウ。私はこれからエヘイエーを起動させる」
メタトロンは冷静な表情で言った。
ヴュゥゥゥゥゥゥン‥‥
突如クロノスの残骸から生まれたシルバーモノリスがその姿を変え始めた。
細長い形状のモノリスは徐々に縮み始めた。
ギュゥゥゥゥゥゥゥン‥‥
そして太陽の光を反射させながら球体へと変形した。
シルバーに美しく輝く球体は地上から50メートル付近で浮いており、その前に再度出現したブラックホールが徐々に周囲に重力波を放って吸い込み始めた。
シュワンシュワンシュワンシュワン‥‥
シルバースフィアはその形状を様々に変え始めた。
立法体へと変化したり、幾何学的形状へと変化したりとまるで適切な形状を探しているかのように目まぐるしく形状を変えている。
ファァァン‥‥
突如ブザーのような音を発したかと思うと、周囲に光を放った。
ファァァン‥ファァン‥‥
更に2回、ブザーのような音を発して光った。
ファァァン‥ファァン‥ファァァン‥ファァン‥‥
更に4回、ブザーと共に変形を続けるシルバーの幾何学形状体は光を放った。
それを見たメタトロンはスノウに念話を送る。
「スノウ、まずいことになった!この地に戦える者はどれほどいるか?!」
「どうしたミトロ?!何があった?!」
「説明している暇はない。今すぐこの地にいる戦える者を思念で送ってくれ!」
メタトロンの焦る様子に只事ではないと察したスノウは、この地で戦える者を思いつく限り思念でメタトロンへ送った。
「感謝する!」
その言葉を合図にするようにして、銀の幾何学形状体は再度銀の球体になった。
ジャキン!
突如シルバースフィアから長い棘のような突起が出現した。
ジャキン!ジャキン!ジャキン!ジャキジャキジャキジャキジャキン!!
無数の長い棘が続け様に発生し、銀色に輝く棘の球体へと変化した。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥
長い棘の一つの先端に光の粒が集積していく。
「おい、あのウニみてぇなの、一体何しようってんだ?」
ジルヌークの影の中から見ているヘラクレスが言った。
その言葉にシルゼヴァが反応して慌てるようにジルヌークの影の隙間から銀の棘の球体を見た。
「お前ら今すぐこの影から出ろ!」
そう言ったシルゼヴァはそのまま影の外に出た。
突如叫び出したシルゼヴァの言うままに他の者たちも外に出た。
変風塔の壁の凹みや突起に手をかけて壁面に張り付いている。
「武器を構えろ。戦闘体勢だ。波動気を使える者は防御に徹しろ」
シルゼヴァはこめかみから汗を滴らせ緊張した面持ちで言った。
「おいシルズ、一体どうしたんだ?!まさかあの銀のウニみてぇなのが攻撃でもしてくるのか?!」
「その通りだハーク。どうやらあの銀の棘の球体はブラックホールで吸い込むだけでは不満らしい。完全消滅前にこのケテルに住まう生物が根城している街や重要な建造物を破壊し尽くすつもりのようだ」
「何だって?!」
「間違いない。そしてこの変風塔もまたその対象というわけだ。みろ、あの棘の一つに光子が集積しているが、それは明らかにこちらを向いている」
シルゼヴァが指さした先に、明らかに変風塔向いている棘の一つに光の粒子が集まっているのが見えた。
「我も協力しよう。あの塔を破壊されればこのケテルは文字通り消滅するのであろう?」
「その長ぇ刀で背後からブスリ!とかやめろよな?少しでもそんな素振りを見せた瞬間、速攻お前を殺すからな」
「こんな状態で冗談が言えるとは大したやつだお前は、ヘラクレス」
龍人ロプスも長刀を手に参戦した。
その会話を遮るようにシルゼヴァが叫んだ。
「来るぞ!塔を守れ!」
シュゥゥン‥‥バシュゥゥゥゥゥゥン!!
次の瞬間、空気を裂くような音と共に光の球体が凄まじい速さで変風塔の方へ放たれた。
ヒュゥゥゥン!!
「斬って弾くぞ!」
シルゼヴァがそう言い終えるかどうかの瞬間にその放たれた光の球弾が変風塔に衝突した。
ドッゴォォォォォン!!
光の球弾が変風塔に衝突した瞬間にその球体は無数の小さな光の球体となり、光の線を描いて周囲に散っていった。
シルゼヴァ、ヘラクレス、シア、ワサン、ロプスの連携した攻撃によって光の球弾が斬り刻まれて周囲に散っていったのだった。
「やったか!」
ワサンが叫ぶ。
「一発で終わると思わない方がいいわ、ワサン!次に備えて!」
冷静に見ているシアがワサンに警戒を促した。
「その通りだフランシア。攻撃はこれで終わらない。それどころか更に攻撃は強くなるだろう。持久戦になるが必ずこの変風塔を守り切るぞ」
『おう!』
シルゼヴァの言葉にシア、ワサン、ヘラクレス、ロプスは気合を入れた。
しかし直後、5人に拭いきれない絶望感が襲った。
「野郎‥‥」
シルゼヴァのそれとは思えない怒りの表現にヘラクレスたちは気づくこともなく愕然とした。
銀の棘の球体は無数にあるほぼ全ての棘の先端に光の粒子を集め始めたのだ。
一気にケテルにおける生物の住まう場所を壊滅させようとしていることは誰もが瞬時に理解できた。
いや、建物だけではなく生物そのものを一体一体消し去っていく可能性さえあった。
到底防ぎきれない数の光の球弾がまさに放たれようとしていたのだ。
「この塔だけは守り抜く!今俺たちにできることはそれだけだ!」
ワサンが叫んだ。
それを聞いた他の4人は苦い笑みを浮かべたが、それ以外の選択肢が残されていないことから真剣な面持ちで銀の棘の球体を見て武器を構えた。
この後の銀の棘の球体の攻撃のほとんどを防ぐことができないまま、ブラックホールに飲み込まれる前に大崩壊するであろうという未来を受け入れつつ、自らの命が尽きるまで防ぎ切る覚悟を決めた。
その中でシアだけは目に希望を見せていた。
(大丈夫‥‥私たちにはまだマスターがいる)
「俺はお前たちと共に旅ができて楽しかった。礼を言う」
「シルズ‥‥まさかお前から感謝の言葉が聞けるなんてな。こりゃぁいい冥土の土産になったぜ」
「ヘラクレス、お前には言ってないと思うぜ?」
「はぁ?!おいおい!そりゃねぇだろ」
一同は絶望の中でも冗談を言って笑顔を見せた。
「来るわ!」
シアの言葉に一同は戦闘体勢に入った。
フシュウゥゥゥゥ‥‥
銀の棘の球体に集まっている光の球弾が臨界点を迎えた。
そして次の瞬間一気に光の球弾が放たれた。
バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュゥゥン!!
方々に散っていく無数の光はまるで豪華な花火にさえ見えたほどだった。
それほど美しく残酷な花火のような大破壊を生む攻撃がケテル全土に散っていこうとした次の瞬間、ありえないことが起こった。
バババババババババババババババババババババババババババババン!!
まるで銀の棘の球体に総攻撃がなされ、それがバリアによって阻まれ周囲に爆発が広がっているかのように見えたのだ。
それは破壊をもたらすほぼ全ての光球弾が飛散していくのを防いだことを意味していた。
「一体何があった?!」
「お、おい!あれは!!」
銀の棘の球体の周囲にいくつもの人影が見えた。
そこにいたのはペルセウス率いるセプテントリオン、ティアマト、アプスー率いるエークエスの神々、ネメシスたちツィゴスの神々たちの中で生き残った者たちだった。
「あのクロノスがどういうことか、こんな姿になってケテルを攻撃しているとはね」
「突然呼ばれて瞬きした次の瞬間、こんなところに飛ばしやがってあの大天使‥‥次に会ったらタダじゃおかねぇぞ」
「そんなことを言って楽しんでいるように見えますよテセウス。あんな暗い穴蔵よりこちらの方が楽しいのでしょう?それに見て?空が見えていますよ」
「そうだな。久々の太陽だ。美しいお前の姿を久しぶりに見たな」
「なっ!次そんな歯の浮くようなセリフを言ったら殺します!」
「お前に殺されるなら本望だな。それにしてもエークエスとツィゴスの神々までいやがる。この戦いが終わったら全員皆殺しだな」
「ああ。だが、まずは目の前のこいつを何とかしなければならないよみんな」
ペルセウス、テセウス、ヒッポリュテたちセプテントリオンの生き残りは宙に浮いた状態で武器を構えている。
「一体これは?!」
「どうやら何者かが神の代行者たる大天使を蘇らせたようだ。そしてその理由は明らか。目の前のあの棘の球体の攻撃を防ぎ、我らが拠点のジジギーン、そしてケテル全土を守ることだティアマト、そして子供らよ」
「そうね。私たちはこの世界の支配を望んでいる。それを消し去ろうとするこの異形の存在はケテルに住まう者皆にとっての共通の敵。まずはこれを滅っしましょう」
ティアマト、アプスー率いるエークエスの神々の生き残りもまた、宙に浮いた状態で武器を手に構えている。
「ケテル全土を消滅させようとするならこの身を賭してでも止めなければなりませんね」
「あの異形の存在に死の定業は感じません。ですが、生ある者はいずれ朽ち果てるもの。先程の攻撃も相当な生命力を消費するものと見受けました。あれを防ぎ弱ったところを総攻撃でしょう」
「忌々しい半神や古参の神どもと共闘とは吐き気がするが今は我慢してやろう。モロスの言う通り、この強大と思える力も無限ではないはずだからな」
「しゃべっている場合ではなさそうですよ」
ネメシス、モロスたちツィゴスの神々もまた参戦した。
既に消滅してしまったニュクスの作り出していた闇の空間に避難していたのだが、銀の棘の球体によってケテルを消滅させられてしまえば結局自分たちも消滅しかねない。
そんな時メタトロンの呼びかけがあり、それならばと闇の空間から出てきたのだった。
そして武器を構えて神技を発動させる。
今ここにメタトロンの呼びかけに答えて勢力、種族の枠を超えてケテル消滅を防ぐために精鋭たちが集まった。
ケテル連合部隊とも言える存在だった。
バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュゥゥン!!
直後、銀の棘の球体から第二発目の総攻撃光球弾が放たれた。
バババババババババババババババババババババババババババババン!!
再度、その攻撃をケテル連合部隊は銀の棘の球体の光球弾を防ぎ斬った。
流石の神々や半神たちでもかなりのダメージを負っているが、その表情は士気溢れるものだった。
「あいつら!」
ヘラクレスが叫んだ。
「戦争とは皮肉なものだ。いがみ合っていても共通の敵が現れた瞬間に仲間となることができる。争わず平和を求めるには別の敵と争う必要があるこということだ。神々も含めて超越する精神的成長への道のりは遠いのだろうな」
シルゼヴァは独り言のように言った。
「強き者は敵を増やす。増えた敵を倒すために強き者は更なる力を求める。それが争いの世の常だ。その連鎖の中では勝利だけが正義。正義が大義である限り、争わない精神的成長など虚構に過ぎん」
龍人ロプスがシルゼヴァの言葉に返した。
それを聞いたシルゼヴァはロプスを見ることなく言葉を返す。
「お前とは相いれないようだ」
・・・・・
一方メタトロンはとある場所に降り立っていた。
「やっとお出ましかい。絶対神の代弁者にして神の言葉を綴る書記長。大天使メタトロン」
メタトロンに向かって言ったのは人類議会の頂点に君臨し終末ドグマの書を使って未来を先読みしてケテルを人類のための世界へと変えようと導いている男、カエーサルだった。




