<ケテル編> 190.シルバーモノリス
190.シルバーモノリス
ヴァシュゥゥゥゥゥジュアァァァァァ!!
最大出力の神の滅祇怒がクロノスを焼く。
超高熱のフォトンがクロノスの表皮を焼き溶かしていくにつれて、その骨格が露わになって来た。
「グバァァァァァァァァァ!!」
クロノスの断末魔の叫びがケテルに響いた。
凄まじい光子量からクロノスのブラックホールも吸い込みきれないどころか、神の滅祇怒の破壊力によってブラックホールは徐々に小さく削られていく。
ヴァシュゥゥゥゥゥジュアァァァァァ!!
「ミトロ!エネルギー残量が間も無く底をつくぞ!」
「了解した。だがクロノスもブラックホールも消滅寸前だ。十分だ」
天界の施設の装置を使ってスノウとメタトロンは念話のように意思疎通を図った。
ヴァシュゥゥゥゥゥジュアァァァァァ!!
クロノスはほぼ骨のみとなっている。
そしてブラックホールもほぼ見えない状態となった。
「オゴォォォォォォァァァァァァ!!」
バシュゥゥゥ‥‥
クロノスは声にならない悲痛の叫びが響いた直後、神の滅祇怒もエネルギーが切れてしまったのか、超高熱フォトンが細い線となって消えた。
カラッ‥‥‥
立った状態のまま骨と化したクロノスは息絶えていた。
神の滅祇怒。
神が地上に住まう者や冥府の者たちを一瞬で焼き尽くすための究極兵器のひとつだ。
その超高熱フォトンに撃たれた者は肉片ひとつ残らないほど焼き尽くされる。
裏を返すと、骨だけでも残ったテュポーンを取り込んだクロノスという存在はそれだけ凄まじい戦闘力、生命力を持っていたと言うことを示していた。
だが、流石の超高熱で骨組織は脆くなっているようだった。
カラッ‥‥
ガラララララバラララ‥‥
とある部分が欠けたのをきっかけにして、まるでドミノ倒しのように力なくクロノスの骨は崩れ去った。
ガララララララァァァァァァ!!
ガララ‥‥
クロノスの骨は崩れ去り、まるで瓦礫の山のようになっている。
「ま、マジか‥‥やりやがったぜあいつら!」
ジルヌークの影の隙間から覗き込んでいるヘラクレスは驚きの表情を見せながら言った。
「流石マスターね。これでこのケテルは消滅から免れることができたのよね?」
「間違いねぇな。クロノスもブラックホールもあの通り消えちまったからな」
シアとヘラクレスの会話に反応することなく、シルゼヴァは黙って崩れ去ったクロノスの骨の瓦礫を見ている。
「‥‥‥‥」
シルゼヴァの表情が徐々に険しくなっていく。
そして突如声を張り上げて言った。
「おい、禍外他人!急いでこの場から立ち去れ!」
「!?」
咄嗟の指示でジルヌークは面食らっている。
「早くしろ!」
ジルヌークは急いで影の中の空間の奥から何かを取り出してきた。
「‥‥コレ、トオクヘナゲロ」
ジルヌークは槍をシルゼヴァに手渡した。
シルゼヴァはその意味をすぐさま理解し、影の外に上半身だけだして思い切り槍を投げるフォームをとった。
ブゥゥォン!!
凄まじい勢いで槍が変風塔方向に飛んでいく。
シルゼヴァの投げた槍はジルヌークの影を引き連れて凄まじい勢いでそのまま変風塔の壁に突き刺さった。
ジャギィィィン!!
影の中には慣性が働かないのか、凄まじい速さでの移動だったにも関わらず、中にいたヘラクレスたちは平然としていた。
むしろ、突如シルゼヴァが慌てた様子となったことに若干怯えていた。
シルゼヴァはこれほどまで慌てる姿をこれまで一度たりとも見せたことがなかったからだ。
「どうしたんだシルズ?!お前らしくないぞ?!」
シルゼヴァはジルヌークの影の隙間から遠く離れた場所にあるクロノスの骨の瓦礫を見ていた。
「俺の取り越し苦労であればよいのだがな。クロノスの骨の残骸から恐ろしいビジョンが見えたのだ。そしてそのビジョンを見た瞬間、あの場所にいてはならないと直感した」
「ビジョン?!何を見たってんだよ」
ヘラクレスは驚いた表情で言った。
「俺にも上手く表現ができないビジョンだ。虚無の象徴と言ってもいい。とにかくあの場所にいたら何らかの抗えない攻撃を受けて死んでいたに違いない‥‥そういう感覚を伴ったビジョンだ」
「‥‥‥‥」
ヘラクレスはシルゼヴァのいつになく焦っているような様子に不安感を抱いた。
「だ、だが見ろよ!何も起こらないぜ?!お前にしては珍しいことだが気のせいだったんじゃねぇのか?!」
「それならそれで構わん‥‥」
シルゼヴァは目を見開いて様子を窺っている。
ガラ‥‥
ガララ‥‥
「?!」
上空から骨の残骸を見下ろしているメタトロンは何かに気づいたのか、突如距離をとった。
ズリュバシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥジャキン!!
「!!」
突如クロノスの骨の残骸から巨大な板のような物体が出現した。
「な、何だこれは?!」
メタトロンは驚きの声を発した。
銀色の金属のような高さ約50メートル、幅5メートル、厚み2メートルの巨大な板だが、宙に浮いてゆっくりと回転している。
「なんだあれは?!オベリスクか?!何で突然?!」
ジルヌークの影から覗いているヘラクレスが言った。
「いえ、モノリスと言った方が適切だと思うわ。言うなればシルバーモノリスってとこね。不思議なのはあれだけの質量の物体が浮いているという状況かしら」
シアがヘラクレスの言葉に返した。
それに対してシルゼヴァは黙ったまま巨大な銀板を見ていた。
(やはり巣食っていたか‥‥あれはガッハーレリか‥‥メタトロン一人では厄介だぞ‥‥)
シルゼヴァは爪を噛みながらその様子を険しい表情で見ていた。
ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥
突如銀板から電子音のような音が聞こえて来た。
「一体何なのだ?!」
ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥
突如電子音が止まる。
次の瞬間何かを発生し始めた。
ヴシュゥゥゥゥゥォォァァァァァ!!
銀板の上部の前あたりに突如黒い点が発生した。
黒い点は徐々に大きくなっていく。
そして半径2メートルほどに膨れ上がった時点でそれが何か皆気づいて戦慄した。
「おい、ブラックホールだろあれ‥‥」
「消滅していなかったのかよ!」
ヘラクレスに続いてワサンも絶望しているかのような表情で言った。
(なりふり構わずといったところか。何を考えているのだ‥‥)
シルゼヴァは怒りの表情で身をのりだそうする。
「おい!何考えてんだシルズ!いくらお前だからってあのブラックホール相手にどうにかできるなんて考えちゃいねぇよな?!」
ヘラクレスの本気で止めている力で掴まれている腕を振り解けずにシルゼヴァはそのまま力なく座り込んだ。
「見て」
そんな中でシアが何かを見て言った。
指で指し示した先にはメタトロンがいた。
「彼はまだ諦めていないようね」
その直後、メタトロンから無数の光の矢が放たれた。
バシュバシュバシュバシュバシュ!!
ドゴンドゴンドゴンドゴン!!ブシュゥゥゥゥ!!
全ての光の矢は銀板に衝突した瞬間に激しい爆発を起こしたが、その爆風、炎や煙り全てがブラックホールに飲み込まれた。
「だめじゃねぇか!無理だぜあのブラックホールを破壊するなんてよ!」
パシィン!
半ば諦めている発言をするヘラクレスの頬をシアは叩いた。
「!!」
「マスターが諦めていないなら大丈夫なのよ。それなのに仲間が諦めてしまうなんてね。今ここでレヴルストラを去るか、私が殺してあげるわ。さぁどちらか選びなさい」
シアの本気の表情にヘラクレスは自分の失言を恥じた。
「す、すまねぇ。クロノスとかブラックホールとかよ、明らかに俺の許容範囲を大きく超えていたから動揺しちまったようだ。いや、これも言い訳だな。俺はこのレヴルストラが気に入っている。お前らのことも仲間だって本気で思ってる。だから俺からこのレヴルストラを去るつもりはねぇ。いっそのこと殺してくれ」
バゴォン!!
シアは凄まじい力のパンチをヘラクレスに放った。
「今のは私の怒りを鎮めるための一撃。つまり腹いせね。あなたの処遇についてはマスターに決めてもらうわ。それまでは生かしておいてあげる」
「すまねぇ」
きつい言い方だったが、ヘラクレスのレヴルストラメンバーを大事に思っている思いを汲み取ったシアなりの振り上げた拳を引いた行動だった。
その様子を見ていたシルゼヴァは覚悟を決めた表情を浮かべた。
(スノウ。お前の信頼する仲間ってのはいいものだな。相手を本気で鼓舞し、心から笑い合い、真剣に怒れる。感情の生き物でも他者との関わりでは殺伐とした距離感は否めない。それだけこの仲間の信頼というものが難しく貴重なものだと言うことなのだろう。どうやら俺もそういう雰囲気に毒されてしまったようだ。お前がいたら間違いなくそうするであろう行動をお前の代わりに俺がとってやる。安心するがいい)
シルゼヴァはシア達を見ながら一瞬だけ優しい笑みを見せた。
・・・・・
「スノウ、聞こえるか?」
メタトロンが天界の神の咆哮生成器にいるスノウに念話で話しかけた。
「どうした?ここからではよく見えないんだが、クロノスは倒したようだな?だが、ブラックホールは消えていないように感じるぞ」
「その通りだスノウ。ブラックホールは再度出現した。これを止める手段は私の知る限りひとつしかない。だがこの手段はとある時まで使ってはならない秘術なのだ」
「まじか!だったら他の手段でブラックホールを消滅させる手はないのか?!」
メタトロンは白目を剥いた状態で何やら凄まじい計算を頭脳の中で回しているような様子を見せた。
そして何かの答えがでたように目に光青い眼球が現れた。
「だめだ。ひとつしかない。とある時まで使ってはならない秘術だが、このケテルが消滅して何もない ”無” となってしまってはとある時までなど言ってはいられない状態になってしまう。すぐにでも手を打たなければ取り返しがつかなくなるかもしれない」
「どうするんだ?!」
「いたしかたあるまい。秘術を使うしかない。これから映像として送る人物がどこにいるかを探してくれるかスノウ」
メタトロンは何かをスノウに頼んだ。
スノウが見ている神の咆哮生成器のモニターに何者かが映し出された。
「!!‥‥こ、こいつは?!こいつがどうかしたのかミトロ!」
「その者は半身だ。神の咆哮から発する特別コードの風と融合させる」
「‥‥い、一体何をしようとしているミトロ‥‥」
「スノウ。私はこれからエヘイエーを起動させる」
メタトロンは冷静な表情で言った。




