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<ケテル編> 183.巨神と巨大怪物

183.巨神と巨大怪物



 「おい‥‥あれって‥‥」


 レヴルストラがいる辺りからも突如現れた巨大生物が見えたことでヘラクレスが驚愕の表情を見せながら言った。

 それに乗っかるようにしてニュクスが口を開いた。


 「そうじゃ。あのゼウスをも平伏させた荒ぶる嵐の顕現テュポーンだ」


 『!!』


 「馬鹿な!あいつはタルタロスの深淵に幽閉されていたはずだぞ!」

 「クロノスが出てきたのです。おかしくはない‥」

 「あれがテュポーン‥‥」

 「タルタロスは崩壊したのか?!」


 レヴルストラ、ツィゴスそれぞれから驚きの声が聞かれた。

 その声をかき消すようにニュクスが突如大声で笑いながら話始めた。


 「フハハハハハァ!これでケテルが消滅することは無くなった!テュポーンとクロノスはほぼ互角!いずれにしても怪物同士の殺し合いが見られる世紀の大余興になったのじゃ!愉快愉快!」


 ニュクスの言葉を聞いて皆希望を持ったのか歓喜の表情を浮かべながらクロノスとテュポーンを見た。

 それに対してシルゼヴァが水を差すように言った。


 「神々の関係性は複雑だ。テュポーンがクロノスと戦えばお前の言う通りになるな。だが、クロノスとテュポーンが戦うのはケテルが消滅してからかもしれん。やつらがこのケテルに何を思っているかに因るということだ」


 『!!』


 「きぃぃ!ならば貴様があのテュポーンを先導してクロノスにぶつけてまいれ!今すぐにじゃ!」


 癇癪を起こしているニュクスをマジマジと見つめるシルゼヴァは表情を変えずに言った。


 「この女殺していいか?」


・・・・・


 「よし頃合いだな」


 ディアボロスは右手の人差し指と中指を揃えた状態でこめかみに当てて何かを念じ始めた。

 するとすぐ横の空間に異次元の小さなゲートが現れた。

 そこに手を伸ばし取り出したのはアテナの手とその手が握る何か杖のようなものだった。


 「ほう‥‥こいつがゼウスに全能の力を与えている最上位の神話級武具ケラウノスか」


 ディアボロスの真横をぶれずに飛んでいる蠅が言った。

 それにディアボロスが返す。


 「そうだ。そして思い出させてやる。自分をタルタロスの深淵に貶めたやつへの憎しみをな」


 ディアボロスはアテナの手ごとケラウスノスを天高らかに掲げた。


 「出よ雷霆!」


 その言葉に呼応してクロノスの頭上の黒雲壁から稲妻を纏った黒雲の塊が降りてきた。

 ディアボアロスは黒雲をクロノスの背後に移動させてた後、天に掲げたケラウノスをテュポーンに向けて振り下ろした。


 バッ!


 それと同時に黒雲の塊から凄まじい稲妻の槍が放たれた。


 バリバリバリ‥‥バシュゥゥゥゥゥン!!

 ヒュゥゥゥン‥‥ズバザァァァァン!!


 稲妻の槍はテュポーンの触手の一つに突き刺さった。


 「グォォォォォォォォォォ!!」


 テュポーンは痛みからか低い唸り声を轟かせた。

 雷霆によって触手のひとつはちぎれそうになる。


 ブチィィィィィン!!


 テュポーンはちぎれそうな触手を自ら引きちぎった。

 それを見ているディアボロスは驚きの表情を見せながら言った。


 「自らひきちぎるとはどういう了見だ?!あの触手を武器にでもしようってのか?!」


 それを聞いた蠅が言葉を返した。


 「長く深淵に閉じ込められていたせいで気でも触れているんじゃないのか?」

 「ちぃっ!まさか雷霆の効果がねぇとでも?」


 ディアボロスは苛ついた表情を見せた。

 一方のテュポーンは鎖骨部分にある口を裂けそうなほど開いて叫んだ。


 「アガァァァァァ!!」


 そして引きちぎった自分の触手をなんと口の中に放り込んだ。


 「がじゅるぶじゅるがぶるむじゃるじゃるる」


 テュポーンは自分の触手を食べた。


 「怪物め‥‥いよいよ気が触れているようだぜ。もう一発雷霆をお見舞いするか」


 ディアボロスはケラウノスを再び天高らかに掲げた。

 それを蠅が止める。


 「おい待てディアボロス!何か変だぞ?!」


 ゴクン!!


 テュポーンは触手を飲み込んだ。

 その後、全身で力み始めた。


 「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ブグブグブグブグボゴゴゴゴゴゴジョパァァァァ!


 なんと千切れた場所から触手が生えてきた。

 触手が元通りになった瞬間に体液が飛び散った。


 ドォォォン!!


 テュポーンは元通りになった5本の触手でどっしりと立ちまるで四股しこを踏むような体勢をとって構えた。

 4本ある腕のうち2本は左右に広げている。

 そして巨大な翼も大きく広げている。まるで威嚇しているのような体勢だった。


 「オゴォォォォォォ!!」


 テュポーンは明らかにクロノスを敵対し威嚇している。

 それを見たクロノスもまた構え始めた。


 「来るか‥‥深淵の怪物よ‥‥」


 高いのか低いのか分からないクロノスの声が響く。


 ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!ドォォォォン!!


 テュポーンが突進しクロノスと激突する。

 手四つに組む形でぶつかり合った瞬間、凄まじい衝突音と共に衝撃波が広がる。

 その状況を見たディアボロスは異次元空間にケラウノスを閉まった。


 「どうするんだ?戻るのか?」


 蠅がディアボロスに言った。


 「いや少し離れた場所で見守る。ちょうど向こうに見物しているやつらがいるからな。揶揄いがてら顔を見せにいく」

 「フハハ!このケテルは我らのものだとでも言いにいく気か?悔しがる顔が目に浮かぶがな」

 「フッ‥悔しがらせるのは完全にケテルが手に入らないと諦めざるを得ない状況に陥らせてからだ。その時に存分に泥水を啜らせてやる。それまで楽しみは取っておく」

 「趣味の悪いやつだ。まぁそれが我らの本質だがな」


 そう言って蠅はディアボロスの耳の中に入っていった。

 その直後、突如凄まじい衝撃音が響いた。


 ドッゴォォォォォォン!!


 クロノスの強烈な鉄拳がテュポーンの肩の部分にヒットしたのだ。

 その衝撃によってテュポーンは背後に倒れた。

 倒れ様にテュポーンは触手をクロノスに伸ばし、クロノスの足を捕まえた。

 そして思いきり引っ張る。


 ズッドォォォォォン!!


 その勢いの強さにクロノスも背後に倒れた。

 その衝撃によってケテル北部に大地震が発生する。

 そして倒れた衝撃波が周囲に広がる。


 ブワァァァァァァァァン!!


 「おおお!また衝撃波が来るぞ!」


 レヴルストラの面々が装甲馬車を守るべくその衝撃波に備えている。


 ブワァァァァァァァァァァァァァ!


 衝撃波がレヴストラに迫ってくる。


 トン‥‥


 体重を感じさせないふわっとした動きでシルゼヴァが皆の前に立った。

 そして背中に背負っている剣を抜いた。


 「お、おい!皆んな下がれ!シルズが剣を抜いた!」


 ヘラクレスが慌てて叫んだ。

 その異様な慌てようからワサンとシアはバリオスとクサントスに跨り急いで装甲馬車を走らせた。

 ヘラクレスはシルゼヴァの後方に立ち、腰を屈めて防御の体勢を取っている。

 側にいたはずのニュクスたちツィゴスの神々は既にニュクスの作り出した闇の空間に逃げ込んでいる。


 ヴゥゥゥゥゥゥゥ!


 地面を捲りながら衝撃波が襲ってきた。


 バシュゥゥゥァァァン!!


 シルゼヴァは剣を抜いて衝撃波に向かってその剣を横振りした。

 凄まじい破壊力の斬撃が広範囲に渡って放たれた。


 スパァァァァァァァァン!!


 一瞬にして衝撃波が消し去られた。

 それどころか扇状に広がったシルゼヴァの斬撃の影響範囲の地面が大きく抉れた状態となっている。


 シャキン!


 シルゼヴァは剣を背中に背負っている鞘に収めた。


 「久々に見たが相変わらず凄ぇ剣撃だな」


 ヘラクレスがシルゼヴァに言った。


 「あれくらい出来なくてどうするハーク」

 「はぁ、言ってくれるぜ」

 「ふん‥‥ところでそんなところで何をやっている?悪魔風情が」


 シルゼヴァ目を向けた先にある大岩の影から何者かが現れた。


 「勘の鋭いやつだ。異端の半神め‥」


 現れたのはディアボロスだった。


 「お前か?!テュポーンをタルタロスの奈落の底から引っ張り上げやがったのは!」


 ヘラクレスがシルゼヴァの前に出て言った。


 「お前らがちんたらやってるからケテルが消えて無くならないように配慮してやったんだぜ?感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはねぇんだがな」


 バッ‥‥


 シルゼヴァはヘラクレスを押しのけるようにして前に出て言った。


 「一体何を企んでいるのだ?テュポーンをクロノスにけしかけたのに使ったのはゼウスの武器ケラウノスだな。あれが使えるということはこの世界を支配できる力を持っているということだ」

 「フッ‥‥お前ほどの人物でもあれを欲するか。だがあれは俺のものだ。くれてやるわけにはいかねぇ。諦めるんだな」

 「お前の頭脳は藁以下か?俺はそんな棒切れなどいらない。質問はお前、いやお前らが何を企んでいるか‥だ」


 シルゼヴァの言葉にディアボロスは言い返せずに一瞬沈黙した。


 「ふん!質問したら何でも答えると思ってんじゃねぇよ。追々自分の目で確かめろ。じゃぁな」


 そう言ってディアボロスは闇に消えた。


 ドッゴォォォォォォォォン!!


 直後凄まじい衝突音が再度広がった。

 立ち上がったクロノスとテュポーンが再度ぶつかりあったのだ。


 ドゴォォォォン!!

 ガゴォォォン!!

 ズガァン!!

 ドゴゴォォォン!


 凄まじい殴り合いが繰り広げられている。

 両者の巨体からは想像できないほどのスピードで殴り合っているため、その衝撃から双方肉が抉れて周囲にその肉や血が飛び散っている。

 だが、神の力か抉られた部分はすぐさま再生し始めているため、殴っても殴っても決着が付かないように見えた。

 しかし、殴り合いは徐々にテュポーンが圧し始めていた。

 腕が2本のクロノスに対し、4本のテュポーンの方が手数が多い上、体を支えている足もクロノスの2本足に対し、5本の触手でがっちりと大地を掴んでいるテュポーンの方が重心が低く安定しているのだ。

 クロノスはその素早さで何とかこの手数差を埋めている状態だったがそれも徐々にテュポーンに読まれ始めていた。


 バッゴォォォン!!


 何とか隙をついて放ったクロノスの強烈な鉄拳がテュポーンに炸裂する。

 あまりの凄まじい衝撃にテュポーンは倒れ込むが再度触手が伸びてクロノスの左足を捕らえた。

 一方クロノスも同じ轍は踏まないとばかりに屈み、テュポーンの触手を掴んだ。

 だが、それは罠だったようで触手を掴んだ手をテュポーンは別の触手を巻きつけて押さえ込んだ。

 それを剥がそうと手を掛けるクロノスに対しテュポーンは剥がそうとする手にも触手を巻きつける。

 そして残る右足にも触手を巻きつけた。

 両手両足を触手で捕らえられたクロノスは堪らず暴れるが、強力な締め付けの前に抜け出すことができず、バランスを崩して背後に倒れてしまう。


 ズッドォォォォォォォォォォォン!!


 再度凄まじい衝撃波が地震と共に襲ってくる。

 レヴルストラではシルゼヴァが再度剣を抜いて構えた。


 「ハーク、戦う準備をしろ。クロノスは次の攻撃でテュポーンにやられる可能性がある。俺が衝撃波を防いだら、クロノスへの攻撃に集中している隙をついてテュポーンを殺す。いや、テュポーンにクロノスを殺させてその直後にテュポーンを殺すと言った方が正確だな」

 「マジか‥‥わ、わかったぜ!」


 ヘラクレスはシアとワサンにも合図して、テュポーンへの攻撃を示唆した。

 同時にヘラクレスの体中の筋肉が戦闘体勢に入り異常なほど盛り上がっていく。

 そしてシア、ワサンも武器を持って構えた。


 「やるしかねぇ‥‥」

 「ああ」

 「大丈夫よ。マスターがいる!」


 緊張と闘志の入り混じった表情のレヴルストラメンバーに凄まじい衝撃波が迫っていた。





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