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<ケテル編> 181.浮遊大陸ケテル

181.浮遊大陸ケテル



 「取り戻した‥‥我の体‥‥フハハハァ‥‥ゼウスが拘ったこの地を破壊し尽くしてくれよう‥‥」


 高いとも低いとも分からない声が聞こえた。

 大岩の鎧に包まれていた状態から本来の姿を取り戻したクロノスはゆっくりと片膝をつくようにしゃがみ込んだ。


 ググググ‥‥


 クロノスの太腿から脹脛ふくらはぎにかけて筋肉が膨らむように躍動する。


 ズォォン!!


 クロノスは地面を蹴り思い切り跳躍した。


 ヒュゥゥゥゥゥ‥‥ドッゴォォォォォォォォン!!


 凄まじい轟音がケテル北部に響いた。

 大きく跳躍したクロノスが着地したのだ。

 着地したところから爆発のように地面が捲れ始めた。

 その轟音は地響きを引き起こし大地震のような揺れが波紋のように広がっていく。


 「振動の波が来るぞ!備えろ!」


 ヘラクレスはバリオスとクサントスに指示を出した。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 地面が捲れていくように衝撃の波が襲ってきた。

 バリオスとクサントスは目で合図し、前を向くと装甲馬車の向きを180度切り替えた。

 クロノスの着地によって発生した地捲れの波に向かっていくように走り出す。


 「行くぞ!」

 「おうよ!」


 ドゴゴゴゴゴゴゴ‥‥ガツァァァン!!


 地面が捲れると同時にそのまま半神馬の兄弟は大きく跳躍した。

 まるで勢いよく走ってきた車が上りスロープを使って大きく飛ぶように、半神馬と装甲馬車は大きく飛び上がった。


 「右へ回せ!」

 「おう!」


 ヒュゥゥゥゥゥ‥‥ブワァン!


 バリオスとクサントスは体を捻り手綱を惹きつける。

 すると装甲馬車は半神馬を軸に時計回りに回転する。


 ズザザン!


 半神馬は着地すると装甲馬車を思い切り引くように前に走り出した。

 それによって馬車は落下して着地する寸前で前方に引き寄せられて、着地前に浮いたまま半神馬に引っ張られる状態となっている。

 そして空中に浮きながら疾走しつつゆっくりと着地していく。


 ズッザザァァァン!


 半神馬の兄弟は地捲りの波によって飛ばされ落下して馬車が破壊されるのを防ぐために、波を利用して大きく跳躍した後、着地と同時に馬車を180度振り回し装甲馬車が落下する前に凄まじい勢いで走りだして馬車を引っ張り、ゆっくりと地面に着地させたのだった。

 バリオスとクサントスは自分たちの機転を利かせた行動で装甲馬車の破壊を防いだことで達成感に浸っていたが、馬車の中はシェイクされまくったため荷物が吹き飛んだのはもちろんのこと、レヴルストラメンバーもまるで洗濯機の中で振り回されたかのようになっていた。

 ヘラクレスとワサンは半神馬のふたりの対応に誉めているが、シアとシルゼヴァは怒りを露わにしていた。

 だが、シアとシルゼヴァが半神馬に怒りをぶつけようとする直前に鼓膜が破れそうなほどの爆音が襲ってきた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォン‥‥‥


 突如アルカ山の方から大噴火のような轟音が響いてきたのだ。

 スノウがいるはずのアルカ山が再度噴火したと思ったワサンたちは装甲馬車から出てきた。


 「マジかよ‥‥」


 再噴火ではなかった。

 東西に裂けるようにして大噴火したアルカ山が先ほどのクロノスの跳躍着地の衝撃で西側の裂けた部分が大崩落したのだ。


 「スノウ!!」


 思わずワサンが叫んだ。


 ガシ!


 「!?」


 ヘラクレスがワサンの肩を力強く掴んだ。

 その顔は目を見開いて驚きと歓喜が入り混じったような表情を浮かべて言った。


 「大丈夫だ!」

 「何がだ?」

 「これを見ろ」


 ヘラクレスは腕のバングルを外した。


 「なんだよ」

 「スノウにしか言っていなかったんだが、実はバルカンを救うためにティアマトからレムゼブルノーの燭台を借りた時、血の盟約として呪いをかけられたんだ。その呪いってのは盟約でティアマトから突きつけられた条件を達成しなければ肉を腐らせ骨を溶かし最後には全身に周り死ぬってやつだった。因みに条件ってのはゼウスかアテナの首をもってこいってやつだったんだが、そんなことは簡単にはいかねぇからな。ズルズルと時間が経っちまってついさっきまで肉が腐り始めて激痛を伴っていたんだ。‥‥だが見ろよ」


 そう言って見せたヘラクレスの腕には薄っすらと痣がついていたが、腐り始めていた皮膚は完治していた。


 「この意味が分かるか?」

 「‥‥‥まさか?!」

 「そうだ。スノウがティアマトにアテナの首を渡したってことだ」

 「つまりマスターは生きていてティアマトにアテナの首を渡した。だから今も生きているってことね。まぁ当たり前だわ。マスターが死ぬわけはないから」


 会話に入ってきたシアの言葉を聞いてワサンは安心した表情を浮かべた。


 「だが、安心はできないぞ」


 今度はシルゼヴァがやってきて言った。

 シルゼヴァは目で向こうを見ろと合図してきた。

 その方向に目を向けるとそこにはクロノスが歩いてくるのが見えた。


 「こちらに向かって来るつもりかどうかは分からないが、ここからは早く動いた方がいいだろうな」


 レヴルストラメンバーたちは急いで馬車に乗り込んでグザリア跡を目指して再度走り出した。

 装甲馬車がグザリア跡に向かって南東に向かって走っているのに対し、クロノスはまっすぐ南に向かって進んでいる。

 それをシルゼヴァは馬車の屋根の上に立って腕を組みながら見ていた。


 「あいつ‥‥まさか変風塔バベリアを破壊するつもりか?」


 トーン‥


 シルゼヴァは馬車の中に乗り込んできた。


 「おい馬ども。進路を西に変えろ。そしてクロノスと変風塔バベリアの中間点で止めろ」

 「正気ですか?シルゼヴァ殿」

 「自殺行為だぜ?俺は断る!こんなところで死にたくねぇからなぁ!」


 そのやりとりを聞いていたヘラクレスが身を乗り出してきた。


 「どうしたシルズ。あいつらの言う通りそんなところに止めたら馬車諸共木っ端微塵だぞ」

 「やつの進路を見ろ」


 ヘラクレスたちは身を乗り出して周囲を確認した。


 「あの巨神の方向‥‥変風塔バベリアに向かっているわね」

 「あの塔を破壊しようっていうのか?‥‥なんであの塔を破壊したいんだ?」


 シアとワサンの会話にシルゼヴァが入ってきた。


 「このケテルの破壊だ」

 「どういう意味だシルズ?変風塔バベリア天界デヴァリエから風を受けてこの地上に振り分けるだけの巨大な分風機能しかねぇだろう?あれを壊されたところで問題ないと思うが?まぁ周囲は多少被害を受けるかもしれないがな」

 「お前らは読んでいないのか?」

 「何をだ?」

 「アルカ山山頂の神殿内にあった図書館でこのケテルの構造を書いた本を」

 「そんなもんがあったのかよ‥‥」


 数えきれない蔵書を前に、皆バルカン復活の情報を探すので精一杯だったのに対しシルゼヴァは自分の興味のままに本を読み漁っていたようだ。

 自分の読んでいる本は当然他の者達も読んでいると思っているシルゼヴァの態度に苛つきながらワサンが話し始めた。


 「お前がバルカンを復活させる方法を調べていなかったのはもうどうでもいいが、とにかく分かるように説明してくれ」

 「このケテルは、実は元々空に浮いていた大陸なんだ」

 『はぁ?!』


 驚きを隠せない3人は思わず声をあげた。


 「書かれている言語が古代文字のルムス語だったからな。俺も正確に読みきれた訳ではないが、遥か昔にこの地で起こった最終戦争でケテルの浮遊力が失われ海に落ちたらしいのだ。変風塔バベリアは元々ケテル大陸のはるか下まで貫通していた構造になっていて天界デヴァリエから送られる風をケテル大陸の下まで届けていたのだ。そして天界デヴァリエから送られる風を操作して浮遊大陸ケテルを動かしていたらしい」

 『?!』

 「おいおい話がぶっ飛びすぎていてついていけねぇ。一体何の話をしているんだシルズ?!」

 「黙ってヘラクレス。私たちはシルゼヴァの説明を正しく理解する必要があるわ」


 シルゼヴァは自分の説明を理解しないヘラクレスにイラつきいつもの暴力モードに入りそうだったが、シアが割って入ってきたので抑えられた。


 「フランシア、お前は何事もバイアスなく聞くことができるようだな。その能力は重要だ。それがなければハークのように脳筋脊髄反射者になってしまって多くの判断を誤ってしまうからな」

 「誉めてくれるのは嬉しいけど話を続けてくれる?」


 思い切りバカにされたヘラクレスを無視してシルゼヴァは話を続けた。


 「ケテルが海に落ちた後から数百年後、その時代の支配者が変風塔バベリアを作り替えてしまったらしい。本来であれば地下を抜けて通される風を地上にばら撒く今の構造にな」

 「目的は?」

 「それは読めていない。何者かがその項目を消し去ったようだ。別の支配者に関係する場所全てが文字が燃やされたように消されていた。明らかに意図的にな」

 「それじゃぁ推定もできないな。しかしそれだけじゃ変風塔バベリアを破壊したらケテルが終わるという話にならねぇぞ?」

 「分からないか?なぜケテルほどの質量が海に浮かんでいられると思うのだ?」

 「まさか‥‥変風塔バベリアから送られた風‥‥空気によって浮いている‥‥それを破壊すればこのケテルを海に浮かせる浮力は得られない‥‥このケテルは沈没する!」

 「その通りだフランシア。変風塔バベリアは造り替えられたが、この質量を浮かせるだけの空気は地下の最下層を突き抜けて海まで届けられていたのだ。」

 『‥‥‥‥』


 一同は絶句した。


 「まぁ巨大な船でも作れば少数だが生き残ることはできるだろうがそれも一時凌ぎ。生き抜くことは不可能だ。陸地に住む者は地に足つけずに生きていくことは困難だ。肉体的限界だけではなく精神的限界も死に至る要因となるな。このケテルに住む者達は戦争と称して陣地の取り合いをやっていたのだが、いよいよそれどころではなくなってしまった。つまりクロノスはこのケテルを奪い合っていた者たち諸共海に沈める気なのだ。真の大破壊というやつをやろうとしているということだな」

 「真の大破壊‥‥」


 シルゼヴァの言葉にやっとのことで反応できたワサンから出た言葉は真の大破壊だった。

 文字通りケテルそのものが海に沈んで消失する。


 「さて。という訳でシルズの話からすると俺たちがあのデカイのを止めなきゃならないってことになるわけだ。エークエスもツィゴスもセプテントリオンほぼ壊滅しただろう。残された勢力は俺たちレヴルストラだけってことになる」

 「そうね。でも大丈夫だわ。マスターがここに戻られるから。マスターがいれば何が来ても討ち滅ぼすことが出来る」

 「はっはっは!フランシア!お前が言うと本当にそうなんだと思っちまうな。どうやったのかは分からないが、スノウは間違いなくアテナの首をティアマトに渡している。一人でそんなことが出来るやつだ。こんな窮地もきりぬけちまう気がしてきたぜ」

 「じゃぁスノウが戻るまでクロノスを止めればいいてことだな」


 シアやヘラクレスの言葉に触発されワサンが気合を入れた言葉を言った。


 「ちょっと待て」


 突如シルゼヴァが止めた。


 「おいおいお前が言い出した話だろ?アドレナリン出てる時に戦わせろよ。なんで止めるんだ」

 「ハーク。お前には感じられないのか?この馴染みのあるオーラが」


 ビギィィィィン‥‥


 深い闇の気配を纏ったオーラが微かに感じられた。


 「こいつぁ怪しい雰囲気になってきたぜ」

 「どうした?何を感じた?」


 ヘラクレスの言葉にワサンが質問した。


 「あそこを見ろ。かなり遠いがお前なら見える‥いや視えるだろう?」


 ヘラクレスの指差す方向に目を向けるとそこには微かにふたつの影が見えた。

 それを見たワサンは目を見開いて驚きの表情を見せた。


 「あれは‥‥ディアボアロス!!」


 クロノスの更に先の平原に巨大な何かとともに立っていたのはディアボロスだった。



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