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<ケテル編> 169.突然の攻撃

169.突然の攻撃



 その日、ケテルの南東で凄まじい閃光と爆音が何度も発生した。

 一晩閃光と爆音が続いた後、その破壊の波はそのまま西へ移動して行った。

 そして西へ進むにつれて、その閃光と爆音は徐々に小さくなりやがて消え去った。



・・・・・


・・・


――数日前、人域シヴァルザ内マスター・ロッヂーー



コンコン‥‥


 「入りな」


 マスター・ヒューの執務室の扉からノック音が聞こえたため、中にいたカエーサルは外にいる者が中に入ることを許可した。

 カエーサルは相変わらずハンモックに寝そべって本を読んでいる。


 ガチャ‥‥


 「そんなに気になるか?」


 入ってきたのはグルフスだった。

 しばらくナーマにいたのだが亞人達による街の統治が完了し、ある程度の軍の配置ができたことと、アンクが1人で全体の指揮を円滑に行えるようになったことから人域シヴァルザに帰還していたのだった。


 「そりゃぁ気になるさ。いよいよ始まるんだからねぇ」


 「ケテルノマキアか。終末ドグマの予言の通りならまもなく‥‥なんだな?」


 「いや、もう始まっているのかもしれないよ。本格的な戦いはこれからだけどね。きっかけはロプスの仕込んだ罠に神域アイオリアが幼ハーピーを撃ち落としたことだからね」


 カエーサルが答えた。

 それに対してグフルスが返す。


「確かにあれは神域アイオリアが滅ぶきっかけになったが、結局亞人どもが勢力を拡大して事態は収束したように見えるが?」


 「地図を見てご覧よ」


 カエーサルは壁に貼り付けてある大きな地図を指さした。

 ケテルの勢力図が描かれており、既に神域アイオリアが消滅した状態となっており、南東から南、そして西側一帯を亞人域ロプスの支配下に置かれていた。

 グルフスはそれを見ながら顎を触って何かを考えている。


 「なるほど。亞人が我ら人間と組んでいることを知っていれば、急速に領域を拡大してきた亞人たちが次に飲み込もうとする場所はひとつ」


 「そう、ツィゴスの領域だよ」


 「しかし、原初の神ニュクスこそ強大な力を持っているが、配下のネメシスやエリスは亞人たちでもなんとかなるだろう?あそこまで拡大した亞人域ロプスに対して逃げはしないまでも、真正面から戦うほどニュクスはバカじゃないと思うがな」


 「つまり戦争にならないと?」


 「ああ。やつらが守りたいのは神の島だけだろう?本土の領域を明け渡して手打ちにする。俺がニュクスならそうする。まぁ神々の考えていることなど計り知れないし、知りたくもないがな」


 「流石はグルフスだね。だけど予言はそう言っていないね」


 「何と書いてある?」

 

 「凄まじい戦闘になるらしい」


 「なんだって?!」


 グルフスは驚きの表情を見せた。


 「無謀なんじゃないか?!‥‥しかもツィゴスは亞人に勝てたとしても、その背後にはエークエスがいるんだぞ?!下手をすれば挟み撃ちにあって消滅しかねないというのに‥‥信じられん」


 「ははは‥‥確かにそうだね。だけどあの原初の女神を舐めちゃだめだ。根源種のカオスから生まれ出でたニュクスには様々な生の闇、裏側の領域の事象を顕現させた神々を生み出しているんだ。死や眠り、夢、非難、苦悩、義憤、老い、そして戦争‥といった具合にね。それらを呼び寄せたとしたらどうなると思う?」


 「‥‥‥‥ぞっとするな」


 「だね。となればエークエスは迂闊に手を出せない。でもね、ニュクスの目が亞人に向いているとなれば、それをティアマトやアプスーは黙って見ていると思うかい?」


 「セプテントリオンか‥‥」


 「そうだ。面倒なツィゴスが留守中なら南の防衛も手薄にできる。となれば自分たちの脅威であるセプテントリオンに対してもある程度戦力を固めて攻撃することも可能なんだ。つまり、ツィゴスとエークエスが一気に動き出す。‥‥‥‥そこから急激に破滅に向かってね。それがケテルノマキアだよ」


 「解せないな。ゼウスはどうしたんだ。これまでのティタノマキアやギガンドマキアの中心には常にやつがいた。このままこのケテルを放っておくとも思えんが‥‥」


 「さぁね。どこぞのゴリゴリにタトゥーを入れたやつに聞いてみるしかないな‥‥」


 「?」



 カエーサルは独り言のように呟いた。

 グルフスはその声が聞き取れずに怪訝そうな顔をしていたが、その矢先カエーサルの執務室の扉がノックされた。


 コンコン‥‥


 「なんだ?」


 グルフスが答えた。


 「アンク様がお目通り願いたいと」


 「!」


 「おや、意外と展開は早かったようだね」


 ガチャ!


 扉が開くとアンクが息を切らしながら入ってきた。

 そしてハンモックに揺られているカエーサルの前に跪いた。


 「カエーサルさん‥‥仰っていた通りの状況になりましたよ‥‥」


 アンクの体には所々に傷があった。

 腰にさげている剣の鞘も半分破壊されそこから見えている剣の刃毀れ状況からアンクほどの実力者でもかなりの苦戦を強いられた戦いを終えてきたのが見て取れた。


 「何があったのだアンク?!」


 アンクは状況を説明し始めた。



・・・・・


・・・



――数日前――


 アンクはナーマ制圧の状況報告のため、亞人ロプスの本拠地であるカイトンに来ていた。

 龍人ロプスが住まう要塞とも城とも見えるロプス邸の謁見室でアンクは片膝をついてロプスの登場を待っていた。

 アンクの背後にはヘケセドとパーンが同様に片膝ついて頭をたれて待機していた。


 ドン!


 龍人ロプスが扉を勢いよく開いて謁見室に入ってきた。


 「アンク。随分と早い帰還だが問題でもあるのか?」


 ロプスが質問してきた。

 それにすぐさまアンクは答える。


 「いえ。単にナーマを完全に亞人域ロプスの管理下に置いたんで一度帰還しました。あそこはアステリオスひとりで十分です」


 「そうか。それで新陸戦部隊長を務めるヘケセドも一緒に帰還したというわけだな?」


 「はい」


 アンクは頷いた。そして更に話始めた。


 「実はこれからここカイトンは危険に晒される可能性があるため、その意味でも急ぎ帰還したんです」


 「どういう意味だ?」


 「ツィゴスの暗躍が気になりまして」


 「何?!」


 龍人ロプスは一瞬片眉を引き上げつつ驚きの声をあげた。


 「詳しく話せ」


 「は!」


 「ケテル中に散らばっている俺の手下達からの報告なんですが、おそらくニュクスは自分の生み出した不能感情を司る神々を集めているらしいんです」


 「そうか‥ケイロンとルバーリエ、オアンネスの3名を呼べ」


 ロプスは大幹部3名を呼ぶように指示を出した。

 数分で3名がこの場に登場した。


 「お呼びですかロプス様」


 ケンタウロスのケイロンがロプスに質問した。


 「ああ。緊急事態だ。北のニュクスがどうやら軍を招集しているようだ。軍と言っても数の軍隊ではない。一人一人が超強力な太古の神どもだ。それも負の感情を顕現させたタチの悪い者どもでな。ケイロンよ、国境付近にお前の軍を出しツィゴスの様子を見張れ。ルバーリエ、お前は空戦部隊を指揮して上空から神の島を偵察しろ。くれぐれも近寄るな。あれは自動追撃で上空から侵入するものを撃ち落とそうとする兵器を持っている。そしてオアンネス、お前は海戦部隊を指揮して神の島の周辺海域から情報を探れ。もちろん海底深くに神々が潜んでいるやもしれん」


 『は!』


 3名の大幹部たちは首を垂れながら返事をした。


 「あら、タチが悪い者どもとは随分な物言いじゃなですか。亞人ごときが神への冒涜ですよ」


 『!!』


 突如ロプスの背後から女性の声が聞こえた。

 いつのまにかロプスの背後に何者かが立っていた。


 (何?!この我が気配に気づかないだと?!)


 ズバァン!!ザゴォン!


 瞬時に龍人ロプスは裏拳を繰り出す。

 そして諮られたようにその直後にヘケセドが剣撃を背後の気配に向けて繰り出した。


 「なに?!」


 ロプスの裏拳とヘケセドの剣は何者かによって受け止められていた。


 「き、貴様はネメシス!そしてモロスか!?」


 「ご名答」


 バウゥゥン!


 ロプスの裏拳を掴んでいるネメシスは掴んだロプスの手首を思い切りに握りしめて前方に投げつけた。


 「ロプス様!」


 投げられたロプスはケイロンによって受け止められた。

 一方のヘケセドの剣撃を受けたモロスは笑っている。

 手にヘケセドの繰り出した剣が突き刺さっている。


 「ふむ。君の徳はなかなかのものですね。君の死は温かいようです。その通りの死をあなたに与えましょう」


 「!」


 ヘケセドは妙な殺気を感じたため、剣から手を離し大きく後方に飛び退いて距離をとった。


 「へぇ、君はなかなかカンの鋭い亞人のようですね。気に入りました。ここで君に温かい死を与えましょう」


 モロスと呼ばれた神は両手をヘケセドの方へ伸ばしてきたが、ヘケセドはそれを危険な攻撃と判断し、さらに大きく後退した。


 「ケイロン!ロプス様を連れて逃げろ!」


 アンクがケイロンに向かって指示を出した。


 「承知した」


 ケイロンは出口から出ようとするが、扉を開けた瞬間に驚愕する。


 「!!」


 そこには別のツィゴスの神が立っていたのだ。


 「お前に眠りを授けよう」


 そう言いながら目の前の存在は軽く開いた手をかざして横にゆっくりと動かした。


 「ケイロン!目を瞑れ!そして窓から我と共に飛び降りろ!」


 ロプスがケイロンに指示を出した。

 ケイロンは目を瞑ったまますぐさま行動に移り窓の方向へ走っていく。


 「勘の良いやつめ!」


 逃げられてしまったことで笑顔で悔しそうな声をあげた。

 その様子を見ながらアンクは今の状況を整理している。


 (ネメシス、モロス、そしておそらくあれはヒュプノスだ‥いつの間にこのカイトンに入り込んだ?!い、いやそんなことを考えている場合じゃねぇ。とにかくロプスをここから逃がさねぇと!あいつにはまだ役割がある!)


 アンクはヒュプノスに向かってケイロンが落とした槍を広いヒュプノスに向けて投げつけた。


 ビュゥゥゥゥン!‥‥ガシィ!


 槍が突如右側から現れた手によって軽々と掴まれヒュプノスまで槍が届くことはなかった。


 「貴方の投げたこの槍は現実に貴方が投げたものなのでしょうか?」


 突如横から出現し槍を掴んだ手にあるはずの槍がなくなっていた。

 アンクは目線だけを槍が落ちていた場所に目を向ける。


 「!」


 (なぜだ?!槍が元の場所に落ちている?!)


 拾ってヒュプノスに投げつけたはずの槍が投げられていない状態となっていた。


 「気をつけろアンク!そいつは夢を操るオネイロスだ!絶対に奴の術中にはまってはならんぞ!」


 ロプスはそう言い放つと、ケイロンの背中に乗ったまま窓から飛んだ。

 そしてロプスを担いでいるケイロンが上手く地面に着地して逃げようとしている姿を見たその場にいる神々は一斉にロプスに向かって攻撃した。


 「させるか!」


 アンクやヘケセド、パーン、ルバーリエ、オアンネスたちは突如現れた神々の放った攻撃を受けた。

 その後、ロプスの謁見室は戦場と化した。





いつも読んで頂きまして本当に有難う御座います!

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