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<ケテル編> 168.予測不可能な情報

168.予測不可能な情報


 「それでは気をつけて」


 アルカ山山頂を去ろうとしているスノウ達にペルセウスが言った。

 無言でその場から去ろうとするスノウにペルセウスが釘をさす。


 「まもなくこの勢力争いが本格化するから、それまでせいぜい居住区づくりを頑張るといいよ。本格化したら君たちは間違いなくその戦渦に巻き込まれる。もちろん我らと共闘する立場でね」

 

 「・・・・・・・・」


 スノウ達はその言葉にも無言で返し下山した。


 「あのまま返してよかったのか?」


 オリオンが質問した。


 「構わない」


 「目的は果たされたのか?あいつら」


 「さぁね。我らにとってはどうでもいい事だよ。肝心なのは我らが通る道筋を均してくれる人柱が得られたという事だからね」


 「信用できるのか?あんなやつらを」


 ミノスが言った。


 「大丈夫だ。禁断区域に人間を住まわせる事が俺たちにとっては人質を差し出してくれてるのと変わらないからな」


 ペルセウスの代わりにテセウスが答えた。


 「その通りだね。だが彼らもバカじゃない。その状態になる事は気づいているはずだよ。つまり選択肢がないって事だね」


 「禁断区域に人間を住まわせなければ大勢が餓死する。だけど住まわせると人質となってしまう。私たちとの共闘を断れば大勢の人間は餓死する。故に共闘を断れない・・・・という事ですね」


 ペルセウスに続いてヒッポリュテが言った。


 「それに彼らはバルカンの体を入手する方法を得る必要があったからね。さらに選択の余地は無くなっていたってわけだよ」


 「なるほどねぇ。でもペルセウス、あんたまさかこうなる事を読んでここを拠点にしたわけじゃないわよねぇ?」


 セメレーが質問した。


 「まさか!私はそこまで賢くはないよ。さて、おしゃべりはここまでだ。準備に取り掛かってくれみんな。これからいよいよ本番だ」


 ペルセウスのその言葉に他の半神達は軽く頷いて暗黒の空を見上げていた。



・・・・・


・・・



ーー1週間後ーー


 グザリア跡にいた平民兵達が禁断区域に到着した。

 森の中へ進むと地下水が湧き出ている場所を発見した。

 少し離れた場所からは温泉の源泉も見つかっており、最も重要な水が確保できた事と、この極寒の世界で体を温める手段を見つけたとあって皆歓喜に沸いた。

 また、土は森が育っているだけあって肥沃な状態である事がわかったため、光さえ確保できれば植物はしっかり育つことも予想できた。

 光はグザリア跡の瓦礫に埋まっている電灯や照明器具などをかき集めているため確保できていた。

 あとはエレキ魔法を生成する風力発電設備があれば良いのだが、さすがに暴風帯に残っている風力発電設備を移設するだけの手段は持っていないため、伐採した木材で風車を作る事にした。

 水場と源泉の中間地点を切り開いて集落を作る事になり、平民兵達は家建築班、風車づくり班、水路班、温泉班、狩猟班の5つに分かれて作業に取り掛かった。

 何よりの安心感は破壊の風が吹いてこない事だった。

 ナーマにいた時はアイオロス、ゼピュロスをはじめ半神達が破壊の風の進路変更を身を挺して行っていたため、何とか住む場所を失わずに住んでいたが、轟音と暴風がやってくる度に怯えていた。

 だがこの禁断区域には破壊の風は来ない。

 平民兵達はこの地に第2の故郷を築ける期待を持った。



・・・・・


・・・



ーー旧ナーマ(現亞人領)ーー


 「まだゼピュロスとニンゲン共は見つからねぇのか?!」


 声を荒げているのはアンクだった。

 ハーピーの空戦部隊や、ケンタウロス達を動員して旧ゼピュロス國中を探し回っているが全く手掛かりが掴めない状態に苛ついていたのだ。


 (たかだかタッチの差だぞ!あそこであのガキが投げたメモで気づけたとしても一瞬で消えたかのように移動できるとでもいうのか?!)


 「うぐぅ!」


 イライラで体に力が入るたびにスノウにもがれた翼の付け根部分がひどく傷んだ。


 「そんなに息巻いても誰もついて来んぞ」


 突如背後から聞こえた声にアンクは振り向いた。

 その場にいたのは人類議会(ヒューパラメンタル)No2のヴィカール・ヒューを担っているグルフスだった。


 「何だ驚かすな、突然現れやがって。お前の堀の深い顔は光の加減によっては恐怖なんだよ」


 「おいおい、身体的特徴を悪意を持って表現するのは単なる悪口だぞ」


 「うるさい。今俺は忙しいんだ。早く要件を言えよ。計画通りこのナーマは手に入れたんだ。後は俺のやりたいようにやるだけだろうが」


 「まぁそう息巻くな。傷口に障るぞ」


 「ちっ!いちいちい気に食わない野郎だ」


 悪態をついているアンクを見ながらグルフスは真面目な表情になった。


 「マスター・ヒューからの伝言が届いた」


 「!!」


 「いよいよ始まるぞ。ケテルノマキアがな」


 「!!」


 アンクは驚きの表情を隠せなかった。


 「その前に調べる必要がある事柄あるそうだ」


 「何だ?」


 「アイオリアの北に配置されていた軍の所在を突き止める事だ。あれは一度はジン・ザン達が足止めを行っていたがその後行方が分からなくなっているのだ。その軍を見張っていた者の証言では、二人の剣士らしき者が現れてから数分後に一瞬だけ周囲に光が放たれたらしい。その後軍がいた場所を確認したが忽然と消えてしまっていたというのだ」


 「冗談も休み休みに言えよ。確かあそこにいた軍の規模は3000はあったんだぜ?一瞬で消せるわけがねぇ。その確認した兵を連れてこいよ。俺が問いただしてやる」


 「無理だ」


 「何でだ?!」


 「既に死んでしまったからな。何やらその情景を思い出すたびに脳裏に巨大な目が現れていたらしい。その目がずっとその者を睨みつけていたというのだ。そしてその恐怖に耐えきれず終いには自ら命を絶ってしまったらしいのだ」


 「はっ!バカバカしいぜ!この魔法が使えないケテルで精神操作系の何か特殊な技でも使ったってのか?!もう少し現実的に状況を整理しろよ。ここの指揮権は依然俺にあるんだからな。不確実な情報で撹乱させてくれるな」


 「いや、この事態を重く受け止めているのは私じゃない。カエーサルだ」


 「はぁ?!」


 「私も何度か理由を聞いたのだが、まだ確証がないという事で詳しくは教えて貰えていない。だが周辺をくまなく調査しろと言われた。珍しく真剣な眼差しでな」


 「・・・・・・・・」


 アンクは黙ってしまった。

 カエーサルが真剣な眼差しで会話することなど今までなかったからだ。


 「ケテルノマキアで重要な点になるという事なのか?」


 「恐らくな。今、終末ドグマの書の解釈を進めているが、カエーサルが重要視しているワードは3つだ」


 「3つ・・・・」


 「ああ、一つは忽然と消えた3000の兵、二つめはアノマリーだ」


 ドォン!!


 突如アンクの側にあったテーブルが粉々に破壊された。

 もちろん破壊したのはアンクだがその表情は憎悪に燃えている。

 グルフスはそれを静かに見つめながら話を続けた。


 「3つめは過去の再来だ」


 「何だそれは?!抽象すぎだろ!そんな事よりあのクソ野郎がケテルノマキアの台風の目になるって言うのか?!そうなる前に絶対に殺してやる!」


 「おいおい、お前も分かっているだろう?終末ドグマの書の解釈に反する行動とる場合反動があると。影響力のある事象であればあるほど抗った時の反動は大きい。アノマリーを事前に殺せても我々の目指す方向に流れが進むとは限らない。くれぐれも馬鹿な真似はするなよ。いいか?これは私の指示じゃない。カエーサルの指示だ。あいつがこれをお前に念押ししておけと言ったのでな」


 「くっ!」


 「勘違いするなよ?あいつはお前のことも気にかけているんだ」


 「・・・・・・・・」


 アンクは黙ってその場から立ち去ってしまった。

 それを腕を組みながらグルフスはじっと見ていた。

 

 (お前の出番はまだまだある)



・・・・・


・・・



ーー人域シヴァルザーー


 ロクドウの執務室。

 トリアとロクドウが真剣な面持ちで何かを見ている。


 「ケテルノマキア・・・・一体何なのこれは?こんなものが発生する未来なんて聞いてないわ」


 「私もだ。そもそも私がここに来た任務のスコープにも入っていない。このケテルノマキアがケテルにおける最終戦争であるなら私はその前に任務を遂行し切らなければならない・・・・」


 「原因はやはりアノマリーなの?」


 「いや、それだけじゃない。ハノキア全土で虚無の侵攻を防ぎきれていない次元の解れが影響し始めているのかもしれない。アノマリーの役割は多元宇宙の収束だから、彼が何を選択するかが問題なんだがこれは明らかにその選択の幅が増やされ恣意的にアノマリーの収束方向を操作しているようにも見える。そもそも我々が守るべき領域が侵されているという事だ・・・・」


 「ロクドウ、貴方は一刻も早く彼を連れて戻るべきね。そしてこれを本部に伝えて?何らかの対処が必要よ」


 「もちろんそうしたいが、それが出来たら苦労はしないよ。彼は今記憶を失っているんだから」


 「でもケテルノマキア前には必ず彼を蘇虎へ戻さなければ」


 「分かっている。こっちも手をこまねいていたわけじゃない。後は間に合うかどうかだけだ」


 「ええ、そう・・」


 ブワガタン!


 トリアは慌てたように扉を開けた。


 「・・・・・・・・」


 (気のせい・・・・)


 フゥバタン・・


 「まさか誰かに聞かれていたわけじゃないだろうな?」


 「いえ、恐らく大丈夫。誰もいなかった。それにこの部屋は扉も含めて防音対策を施しているんでしょ?」


 「ああ。大声で歌っても外には聞こえないよ」


 「あらそう。それじゃストレスが溜まったらこの部屋で歌う事にするわ」


 「はっはっは!カラオケボックスみたいに使ってくれるなよ?一応ここは私の執務室なんだからね」


・・・・・


 (ケテルノマキア・・・・最終戦争・・・・アノマリー、虚無・・・・そして蘇虎・・・・一体何を話していたんだこいつら・・・・)


 防音密室でのトリアとロクドウの会話を聞いていた者が一人だけいた。

 下のフロアの天井から侵入して2階にあるロクドウの執務室の床に小さな穴を開けて聞いていた者。

 シンザだった。

 スクールのレストランで働きながら、建物の構造を調べていくうちに、分厚い防音密室になっている部屋が二つだけあったのだ。

 終末ドグマの書研究室とロクドウの執務室だった。

 流石に終末ドグマの書が保管されている部屋はそもそも分厚い鋼鉄で囲われているため小細工で侵入は諦めざるを得なかったが、それらふた部屋へは情報を得るための小細工は出来た。


 (いつにも増して真剣な表情だったからロクドウの執務室の床下で待っていたけど当たりだったみたいだな)


 シンザはウィンチと協力しながら人域シヴァルザの事を秘密裏に調べていた。

 ウィンチは大幹部であるヒューの面々について調査し、シンザは終末ドグマの書についての調査を行っていた。

 既にウィンチから得られた情報では、グルフス、ヒース、イルザ、ジン・ザンの情報は得られたが、アルルカン・クァムだけは何も分からない状況だった。

 グルフスとイルザは昔から人類議会(ヒューパラメンタル)の会員でありカエーサルを支えてきた古参の重鎮だが、ヒースとジン・ザンは突然カエーサルが連れてきた新参者らしい。

 その際同様に連れてきたのがアンクだった。

 しばらく調べていたがそれ以上の情報は得られないと言う事で手詰まり感を感じていたシンザだったが、ロクドウとトリアの衝撃的な会話で有益な情報が得られたと興奮気味になっていた。


 (しばらくここで人類議会(ヒューパラメンタル)の動向を探る事にしよう。これまでの情報は一度スノウさんに届けた方がいいな)


 シンザはロクドウとトリアが部屋を出たのを確認してその場から退避した。



・・・・・


・・・



ーー禁断区域居住区ーー


 この地にやって来てから1週間が過ぎた。

 きちんとした村の青写真と分業体制を整えて作業に取り掛かったのがよかったのか、思ったよりも早いペースで村が形成されて来ていた。

 1000人もいるとそれなりに多種多様な得意分野を持った者がおり、都度適材適所に入れ替えながら村づくりを進めて来たこともあって一応の生活は出来るようになって来た。

 後は農作物の自給自足だけだった。

 そんな中、シンザからの便りを見てレヴルストラメンバーは驚きの声をあげた。


 「ケテルノマキア・・・・」


 村に作られたレヴルストラの拠点の建屋の中で一同は真剣な面持ちで聞いていた。


 

 

いつもお読み下さって本当にありがとうございます!

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