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<ケテル編> 166.睨み合い

166.睨み合い



 ガッ‥‥ヒュン‥‥トン


 スノウはアルカ山の山頂に辿り着いた。


 「遅かったな」


 既に山頂に到着しているシルゼヴァが大きめの岩の上に寝そべりながら言った。

 シルゼヴァはヘラクレスに背負ってもらっていたバックパックチェアに座っていたのだが、3分の2を登った付近で座っているのが飽きたらしく、どうやったのか不明だがバックパックチェアに座った状態で大きく跳躍したのだった。

 シルゼヴァは凄まじい跳躍で一気に頂上付近まで到達し、そのまま登りきった。

 一方のヘラクレスは突如凄まじい下方向に働いた力によって不意を突かれて地面まで真っ逆さまに落ちていった。

 スノウはヘラクレスがシルゼヴァから何をされても本気で怒らないこの関係性は一体どうやって築かれたのか不思議に思っていた。

 その後、シア、ワサンと続いて山頂に辿り着いた。


 ガン!ガン!ガン!


 しばらくすると下の方から何かを破壊するような音が等間隔で聞こえてきた。

 どうやら崖と垂直の姿勢で足を崖に埋め込みながら歩いているようだった。

 まるで崖が地面で重力が働いているかのように上に向かって歩いている。

 ワサンがその音の主を見下ろすと腕を組みながら壁を歩いており、目が血走るほどの怒りの表情を浮かべていた。


 ガン!ガン!トォン!ドン!


 ヘラクレスが頂上付近でジャンプしたようで、山頂を大きく飛び越えて着地した。


 「おいシルズ!手前ぇ!」


 明らかに怒っている。

 それを何も気にしていないかのような表情でシルゼヴァはヘラクレスに言葉を返す。


 「なんだ1人だけひどく遅れてきてその態度は。早く来い。置いていくぞ」


 「て、手前ぇが俺を突き落としたんだろうが!」


 「突き落とした?何を言っているのだ。お前だからこそ俺はあの場所で飛べたのだぞ?お前ほどの男じゃなければ俺はあのような行動は取らなかった。お前だからこそなんだハーク」


 「そ、そうか‥、ま、まぁそりゃそうだな!俺にしかお前を支え切ることなどできないな!わっはっは!」


 ヘラクレスが知的で勇気ある行動をとっている姿を見てきたスノウは、ここ最近の彼のシルゼヴァにいいように乗せられている単純さに性格が読めなくなっていた。


 (ただ煽てりゃいいってもんじゃない。こいつが認めたものしかこうはならない。別のやつがシルゼヴァと同じことしたら間違いなくヘラクレスは怒り狂ってそのままそいつを殺してしまうだろうな‥‥全く面倒なやつだ)


 スノウはうんざりした表情で見ていた。


 「!」


 ガキィィィン!!


 スノウは突如背後に向かってフラガラッハを引き抜いて振り上げた。

 だが、空中でフラガラッハが火花を散らして止められたのだ。


 「マスター!」


 シアが叫びながら武器を構えるが、スノウはそれを制した。


 「盗み聞きでもしてたかよ。随分と趣味が悪いな。セプテントリオンには品格ってものがないのかい?」


 スノウは何も見えない空間を見ながら言った。


 「はっはっは!流石はスノウ君!相変わらずの重い剣撃だけど、私に気づき攻撃したということははかなり成長したみたいだね」


 何もない空間から徐々に何かが浮かび上がる。

 兜を脱いだ姿で現れたのはペルセウスだった。


 「よう。随分と荒っぽい歓迎じゃねぇか。まぁ元気そうでなによりだ。こんな山の頂上に引きこもっているって聞いたからてっきり病気にでもなったかと思ってたぜ」


 「また会ったねヘラクレス。この間会った時のことをテセウスに話したら、随分と鼻息荒くなってしまったよ。お前の方が大人だろうからくれぐれも彼の挑発には乗ってくれるなよ?神殿を壊されたたまったものではないからな」


 「はっはっは!面白ぇ。俺は売られた喧嘩は買う主義だ。神殿を壊しちまったら後で直せばいいじゃねぇか」


 「相変わらずのわがままぶりだな‥‥え?!これは驚いた!もしかして君はシルゼヴァかい?」


 「‥‥‥‥」


 シルゼヴァはペルセウスを完全に無視している。


 「珍しいこともあるもんだね。誰とも協調せず、自分の思うままに行動してきた君がまさかスノウ君の仲間になるとはね。風の大破壊ヴァシュヴァラで気圧が変わったかなにかで君の脳内になんらかの変化でも起きたか?」


 「相変わらずごちゃごちゃ煩い男だ。俺はお前のその弱いくせに上から話しかける態度が大嫌いだ。これ以上話しかけるようなら殺すぞ。ハークがな」


 「はぁ?!ってまぁそれはそれで楽しそうだがシルズ、お前ならやつなんざ瞬殺だろう?」


 「はっはっは!言ってくれるじゃないか。そういう態度は死期を早めるぞ。我らは最早アネモイ剣士だったころとは違うのだからね」


 『!!』


 スノウたちは周囲の気配に気づき警戒した。

 いつのまにかセプテントリオンたちが武器を構えて自分たちを取り囲んでいたのだ。

 姿に気づいた瞬間に凄まじい殺意のオーラが向けられた。

 少しでも動けば八つ裂きにされかねない状況となっている。

 そんな中にも関わらず、スノウたちは笑みを浮かべている。


 「おれ達も以前とは違うぞペルセウス。ここでやり合ってもいいが、仮におれ達を抑え込めてもお前らも無事には済まないはずだ。少なくともセプテントリオンという勢力は消えるか、すぐに潰されることになるだろうな」


 「わっはっは!スノウ、俺たちが押さえ込まれるなんざ万に一つも起こり得ないぞ。ここでこいつら全員が死ぬだけだ」


 ヘラクレスが高笑いしながらスノウの言葉に重ねていった。


 ガキィィィン!!


 突如ヘラクレスに向かって剣が振り下ろされた。

 ヘラクレスはバングルでその剣を受けている。


 グギギギギ‥‥


 「テセウス‥手前ぇ」


 「脳筋野郎が。相変わらずの脊髄反射だな。だがまぁいい。俺は嬉しいんだぜ?今らなここでお前を殺せるからなぁ」


 「お前如きじゃ無理だな。神殺しを殺すってのぁ常人じゃ無理なんだよ」


 バゴォォン!


 ヘラクレスはテセウスの剣を弾き返した。

 テセウスは後方に吹き飛んだが、空中で回転して綺麗に着地した。


 「ペルセウスさん、シルゼヴァは任せていいですよね?私じゃ彼には勝てませんから。その代わりアノマリーはお任せください」


 ガキッィィン!


 「うぐ!」


 ヒッポリュテが言葉を言い終えた瞬間に凄まじい剣撃が彼女に向かって繰り出され、腕につけられている盾で辛うじて受けきったが、あまりの衝撃で吹き飛ばされそうになっている。

 攻撃を仕掛けたのはシアだった。


 「今あなた、マスターを侮辱する発言をしたわね。万死に値する。ここで死になさい」


 「あらあら、貴方は何?彼の彼女か何かかしら?それとも奴隷?それならば、私の魅力でスノウを虜にした後、八つ裂きにして貴方に差し上げるわよ」


 「フフ‥半神にも救いようのない馬鹿がいるのね。マスターを八つ裂き?マスターに八つ裂きにされるが正解ね。それに私はマスターの彼女でも奴隷でもないわ。永遠の伴侶であり、マスターのために生まれ、マスターのために生き、マスターと共に永遠に歩んでいく存在。マスター無くして私は存在しない。吐き気を催す俗世間の表現で括るのはやめてくれる?それより貴方こそそこの野蛮で下劣な男に恋心でも抱いているらしいじゃない」


 「は、はぁ?!」


 ヒッポリュテは顔を赤らめて怒りの表情を浮かべた。


 「く、くだらない!出鱈目を!」


 「あらそうなの?ヘラクレスが自慢げに話してくれたわよ。ヒッポリュテとかいう半神はテセウスにぞっこんだと、フフフ」


 ガッキィィン!‥‥ヒュゥゥゥン、スタタ‥バッゴォォン!


 突如ヒッポリュテは凄まじい殺気のオーラを放った直後、渾身の一撃をヘラクレスに向けて放った。

 ヘラクレスはそれをバングルで受けるが、その腕は弾かれてしまった。


 「死ねぇ!ヘラクレス!」


 ヒッポリュテの凄まじい剣撃がヘラクレスを襲う。


 ガシィ!


 「おい待てヒッポリュテ」


 「止めないでテセウス!こいつは私を侮辱した!」


 「おいおい、頼むよヒッポリュテ。こいつは俺の獲物だ。横取りは良くない。お前を侮辱したヘラクレスは俺が殺す。お前はお前に生意気な言葉を吐いたあの女を殺せ。俺はいつもお前のために戦っているんだぜ」


 テセウスがヒッポリュテを止めながら言った。


 「なんだこの茶番は。三流芝居を見せられているようだがこれは何かの罰か何かか?」


 ワサンがイラついた表情で言った。


 ズゴコォォン!!


 突如ワサンに向けてオリオンの攻撃が放たれた。

 ワサンはそれを軽々と受けきった。


 「やるじゃないか!俺のこの攻撃を辛うじて受け切るとはな」


 「お前弱いだろ」


 「何?!」


 バッゴォォン!


 ワサンはオリオンを蹴り飛ばした。


 ザザン!!


 レヴルストラメンバーとセプテントリオンたちは武器を構えて睨み合い状態となった。

 しばらくしてペルセウスが言葉を放った。


 「なるほど、ヘラクレスとシルゼヴァに戦力依存しているわけではないという事だね。このまま勝敗がつくまで戦い尽くしてもいいが、スノウ君の言う通り君たち相手に我らは戦力を消耗するのも得策ではない。現在のこのケテルで一勢力として名乗っていない君たちがわざわざここにきた理由を一応聞いておこうじゃないか。もし誰かの差し金で我らを滅ぼしにきたというなら、全力で君たちを殺すがね」


 それに対してスノウが言葉を返す。


 「‥‥おれ達を試したとでも言いたげだな。何の目的でわざと攻撃を仕掛けるようにし向けてきたんだペルセウス」


 「お、なかなか鋭いじゃないか。そうだね、君たちに殺意のオーラを向けはしたが殺す気はなかったよ。何かお願いがあってわざわざここまで来たんだろう?そして私が君たちのお願いを聞く代償として君たちを何かの駒のように使うこともあるわけだ。その時に使い物にならない戦闘力だったら困るからね。君たちの強さを測らせてもらったよ」


 「趣味悪いじゃないか。全部お見通しかよ」


 「戦争は戦力だけじゃない。情報力こそが最大の武器であり防具だからね」


 そういいながらペルセウスはセプテントリオンたちに武器を収めるように手で合図した。

 武器をしまいながらヒッポリュテはシアに話しかけた。


 「今日のところはこれで勘弁してあげるわ。でも敵同士になったら真っ先にあなたを殺すわ、フランシア」


 「望むところね。面倒だからこの後殺してもよいのだけど」


 「まぁ一旦落ち着いてくれよ。それでスノウ君。我らへの頼み事とは何かい?」


 スノウは図書館での本の閲覧許可の件と禁断区域に住む事の許可を欲しい件を説明した。


 「なるほど。その二つが君たちがわざわざここまで来た理由か」


 ペルセウスは少し考えている素振りを見せた。


 「いいだろう。ふたつとも許可しよう。その代わり条件がある」


 「何だ?」


 スノウは想定範囲としていたが一応ペルセウスに聞いた。


 「今後セプテントリオンの一勢力として戦ってもらいたい」


 想定通りの返答だったが、これを受けるかどうかは今後の会話次第だとスノウは思った。


 「拒んだら?」


 「ふたつの要件は許可できない。どうだいシンプルだろう?」


 ペルセウスは自信に満ち溢れた表情で答えた。





いつも読んで頂き有難う御座います。

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