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<ホド編>35.カヤク

35.カヤク



―――とある村―――



 寂れた村。

 家々はボロボロに壊されている。

 ところどこで炎が噴き出ている。

 だが、家が壊れているのはその炎によってではない。

 明らかに人の手によって壊されたものだ。

 つまり何者かに襲われた後ということだ。

 この国は悪政を敷く国王にいくつかの抵抗勢力が歯向かっているのだが、その境界にある町や村は戦場となっているのだ。

 ここはその中のひとつの村で既に抵抗勢力征伐という名目で国王軍に襲われ壊滅した村だった。


 「生き残っている者がいたら殺せ。女子供関係ないぞ、わかったな」


 「は!」


 残兵が村人の生き残りがいるかどうかを確認している。

 生き残りがいる場合、その者が自国の軍に連絡を取る可能性があり状況が知れ戦況を悪化させてしまうリスクが生じる。

 そのため、襲う街や村は皆殺しか、残ったものは全員捕虜にするのだ。

 崩れた家の影に隠れて隙間から様子を伺う影。

 手には果物ナイフ。

 近くには男性と女性の死体が無残にも血まみれで横たわっていた。

 彼は突然村を襲われ、両親を殺された少年だった。

 歳の頃は10歳にも満たない。

 おそらく目の前で両親を殺されたに違いない。

 両親はなんとか息子だけは生き残ってほしいと家の小さな床下倉庫に息子を入れ庇って殺された。

 両親の血は床に染み流れ、床下でじっと声を潜めていた彼の体に滴ってきていた。

 そんな中でじっと大隊が去るのを待った。

 大隊が去った後に逃げ出そうと考えていたが、残兵を見て思ったのだ。

 父さん、母さんの仇を取りたいと。

 幼心に恐怖ではなく復讐心が芽生えていた。

 そして今、壊された家の壁の隙間から残兵の様子を伺い、手に持ったナイフで刺し殺すチャンスを窺っていたのだ。

 残兵は3人。

 1人は3人の中で指示を出している上官らしい。

 だが、金品を漁るのに夢中だった。

 生き残りを始末するよう二人の部下に指示した後、村長の家だったところでタンスや机をひっくり返しては何かないかと物色していた。

 残り2人の部下兵は村の両端に別れて順々に確認し、生きのある者にトドメをさしていた。

 そして今、少年の目の前にひとりの残兵が近づいてきた。

 隣の家の生き残りの有無を確認しており、今まさに少年に背中を向けた状態だ。


 (今だ!)


 少年は静かに飛び出し残兵の背中にナイフを突き刺す。


 グジョリ!


 「ぐぁぁぁぁ!い、いでぇ!」


 残兵は突然の激痛に叫んだ。

 そして顔を横に向け痛みのする背中を見る。

 横目で見た視界には自分に向かってナイフを突き立てている少年が入ってきた。

 普通なら刺した後、思わず手を離してしまうがこの少年は違った。

 確実に殺すまで何度も刺す覚悟で決してナイフを手から離す気はなかったのだ。

 少年の可愛い顔立ちに対し、その目は大きく見開き真っ赤に血走っていた。

 そしてその黒目は異様に小さくそして鋭い眼差しで自分を凝視していた。

 例えるなら “憎悪の塊”。

 少年は思い切りナイフを抜くとすぐさま突き刺す動作に移り今度は脇腹にグサリとナイフの一撃。

 突き立てられたナイフは抜かれ、さらに腿に突き刺される。

 思わず倒れ込む残兵。

 続け様にナイフを突き立てる少年を押さえつけようとするがその手にナイフが突き刺さる。

 痛みから反射的に手を引っ込めた次の瞬間、自分の目にナイフが飛び込んでくる。


 ブシャギ‥‥


 残兵の右目にナイフが突き刺さる。

 少年は尻餅をつくように後ろに倒れる。

 もがき苦しむ残兵。

 30秒ほどバタバタと暴れた後、急に動かなくなった。

 少年が初めて人を殺した瞬間だった。


 「テメェこのガキ!なにしてくれてんだぁ!!!」


 悲鳴を聞きつけた上官がやって来たのだ。

 今にも少年に掴みかかろうとしている

 少年は咄嗟に避けて残兵に刺さったままのナイフを抜き取り、這いながらも開けた通りに出る。

 掴み掛かろうとしてタイミングを逃した上官は、肩透かしをくらったように前に転び倒れたが、すぐ体勢を整えて少年が這い出た通りに出ていく。


 「このガキ‥何をしたか分かっているのか?愚民の分際で俺に歯向かうとは国王様に対する不敬も同じ。楽に死ねると思うな?指や手、足を少しずつ切り裂いて長く激痛を味わわせてから殺してやる。ギギギ!」


 相手は兵士。

 それもそれなりの訓練や戦場経験のある兵士だ。

 先程は不意打ちだから刺し殺す事ができたのであって、改めて向き合った状態で訓練を積んだ兵士につい昨日までナイフなどまともに持ったこともない少年が敵うはずもなかった。

 おそらくは一歩も動けずに上官の言う通り、見るに耐えない虐待の末に殺される。

 誰もがそう思っただろう。

 だが違った。

 その少年はナイフの刃の部分を持ち振りかぶると子供ながらに思いっきり上官に向かって投げつけたのだ。

 距離が近いのもあったのか、ナイフは兜のギリギリ下に飛び、眉間に突き刺さった。


 「っが!」


 バタン!


 上官は声も出せずにそのまま後ろに倒れる。


 「上官殿!」


 最後の一人が上官の少年を怒鳴りつけていた大声に気づき駆けつけたのだった。

 残兵が全速力で上官に向かって走ってくる。

 ナイフは倒した上官に刺さったままだった。


 (抜くの間に合うか?)


 子供ながらに刺さった部分は骨を突き破って刺さっているため、簡単には抜けないだろうと想像し逃げる選択をした。

 冷静だった。

 相変わらず大きく見開き真っ赤に充血し点のような黒目で凝視している異様な表情を浮かべていたが、判断は至極冷静だった。

 残兵は、上官の額にナイフが刺さっているのが見え、刺したのが近くにいる少年という信じられない状況を見ながら、上官はもう助からないことを悟り詰め寄る矛先を少年に変えた。

 ここで逃しては自分がどのような罰を受けるかわからない。

 信じてもらえるかわからないが、この少年を捕らえるしかない。


 (腕の一本でも切り落とせば大人しくなるはずだ)


 持っている剣を振り上げる残兵。

 少年はもはや切られるのが必至の状態だった。


 ヒューーーードガガアン!!!


 突如、巨大な壁と見紛うほどの大剣が凄まじい速度で飛んできて残兵を突き刺し、その威力のまま後ろの家の壁に突き刺さり家ごと破壊した。

 残兵の姿はもはや原型を留めていなかった。

 自分の真横をかすめた大剣によって巻き起こされた空気のうねりで吹っ飛んでしまう少年。

 やっとの思いで体勢を整え恐る恐る飛んできた方向に目をやると、そこには髪の毛が赤くとぐろ状にまかれた髪型の大男が立っていた。

 少年は赤毛とぐろの大男を凝視しながら少しずつ上官兵に刺さっているナイフを抜こうとその死体に近づいていく。


 「ほう、小僧なかなか良い目をしているな。地獄の鬼を喰らう目だ。気に入ったぞ!貴様我輩の部下にしてやろう!ゲキシン、こいつに食い物をやれ。そしてお前の全てをこやつに叩き込め」


 「御意」


 そういうとゲキシンと呼ばれる男を残し赤毛とぐろの大男は姿を消した。


 「少年。お前、名は?」


 「‥‥‥‥」


 少年はまだナイフを手に取ろうと必死に隙を窺っている。

 その様子から察したゲキシンは質問を変える。


 「安心しろ。噛みつきたければ噛みつけ。ナイフで刺したければ刺せ。何をしようがたった今からわしはお前の味方だ。そう、たった今からな。さぁお前の名は?」


 「ヤ、ヤク‥‥です」


 「そうか “ヤク”  という名か。よし、お前これからは “カヤク”  と名乗れ。これまでのお前は死に、そして新たに生まれ変わったのだ。よいか?お前は今日からカヤクだ」



・・・・・


・・・



 カヤクの脳裏になぜか昔の情景が浮かんだ。

 今まさに剣を交えている相手、ワサンは獣だがどこか自分の境遇と似ている、そんな感覚を持ったからかもしれない。

 どことなく身内を殺され殺戮に身を置くしか生き残る術のなかった、そんな匂いがワサンから感じられたのだった。

 故に自分の写身のようなワサンを見ると血塗られたゴミのような人生を突きつけられているようで無性に腹が立つ。

 前回の対峙で恥をかかされたのもあるが、それ以上にワサンに執着する理由がそこにあるのだとカヤクは思った。


 「お前も忍術使いみてーな動きするよなぁ!この勝負、速い方が勝ちだな!へへへ」


 「ヨク喋ル‥‥」


 キンキンカンカキカカカン!!


 ワサンが繰り出す短剣の連突きに対し、カヤクは円月輪で受けかわす。

 円月輪の中から手裏剣が飛んでくるため、ワサンはそれを避けながら連続突きを繰り出す。

 常人では目で追えないスピードで突き、躱し、受けている。

 ふたりともウルソー、エル・ウルソーの肉体強化系魔法を上限まで付与しいきなり全力でぶつかり合っている。


 「おお、お前この前までバイオニックソーマ使えなかったのに使えているじゃなねーか、やるねーへへへ」


 「上カラカヨ、偉ソウニ!負ケネェ!」


 舞うように体を回転させながら円月輪で斬りつけるカヤク。

 その間もところどころで手裏剣が飛んでくる。

 ワサンも避けながら隙をついて短剣で刺しにいく。

 手裏剣がワサンの体をかすり始める。

 一方、円月輪の攻防一体の動きでワサンの攻撃は阻まれる。

 パワー、スピードは互角だが武器の差でカヤクが徐々に押し始めている。


 「さぁこの前みてぇに獣になってみろよ!おれも性に合わずあの後修行してっから獣化したお前でも負けねぇぜー。へへへ!」


 (お前を殺せば、これまでの自分のクソみてぇな人生に区切りがつく気がする)


 カヤクの攻撃は徐々に早くなる。

 同じ肉体強化魔法をかけているためワサンの方が基本的な身体能力が種族上上回っているはずだった。

 しかしワサンが押されているのは、カヤクがこれまでに積んだ経験の差だろう。


 「怒破手円月輪(どはでえんげつりん)!」


 カヤクは逆立ち状態で両足を広げ凄まじい勢いで回転し接近してくる。

 足にはナイフが付いており、触れるとズタズタに切り刻まれる竜巻だ。


 「ソレハ前回見タ!」


 ワサンは壁伝いにジャンプし竜巻となったカヤクの上方に飛び、そこから急降下して短剣を突き刺そうと突っ込む。

 竜巻の目となる部分を上から攻撃する。


 ズザザ!!


 カヤクは両足でワサンの突き刺す短剣を阻み、さらに体をくねらせて口に咥えていた武器の円月輪を首を振りながら投げつける。

 超至近距離からの攻撃に避けるのが間に合わず、ワサンは左腕に深い切り傷を負ってしまう。


 「へっへー!まずは1ヒット!骨までいったかぁ?」


 「フン!カスリ傷ダヨ、イチイチ五月蝿エナ」


 「あらら、痩せ我慢?まぁいいやその出血だとそう長くは持たないだろうからなぁ」


 ワサンは腰につけているバッグから針金のようなものを取り出し、コの字型に曲げそれを勢いよく切られた箇所に叩きつける。


 ジュグア!!


 それを3度ほど繰り返し、ハンカチできつく縛る

 まるでホッチキスのようにして傷を塞ぎ、布で固く縛ることで止血した。


 「何カ問題デモアルノカ?」


 「はっはー!やるねぇー!」


 そう言いながら素早くワサンとの間合いを詰め攻撃してくる。


 「そろそろ本気をだそうかね!」


 円月輪を半分に割り、半円状の刀剣を両手に持つ形で凄まじい速さで切り込んでくる。

 まるで両手に扇を持って舞っているようだ。

 その間所々で手裏剣を投げてくる。

 ワサンは懸命にそれらの攻撃を避け、隙を付いて突きを放つが円月輪に阻まれてしまう。


 (アノ半円状ノ武器‥‥盾ニモナッテイルカラ厄介ダナ。奴ヨリ速ク動カナケレバ‥‥)


 カヤクの怒涛の攻撃ラッシュは一向に止まる気配はなく5分以上も続いている。

 通常相手との戦闘において攻守がある。

 攻撃していた側が守りになる理由は、攻撃が続いていても必ず攻撃の流れに止めが入るため、相手に隙を与えることになるからだ。

 攻撃のチャンスを伺い相手の攻撃に耐え守っていた相手はその隙をついて攻撃を仕掛ける。

 そうして攻守が逆転する。

 これが通常の戦闘において攻守が交互にやってくるカラクリだ。

 それが続くと後は持久力の差となる。

 先に力尽きた方が一気に劣勢に立ち、大きな一撃を受けるのが通常の流れだ。

 拳や槍、矛のように突きを多く使う場合、突き自体は相手の懐近くで次の動作に入れるため比較的隙が生まれにくく、隙の時間も非常に短くて済む。

 そのため、自分の体力が続く限り攻守反転を避ける可能性が高くなってくる。

 しかし、剣のように振り上げたり振り下ろしたりする動作の場合、その軌道は相手の行動範囲から外れた後にある終点が流れの止めにあたる。

 つまり自分の攻撃が相手の警戒範囲から外れる瞬間があるということだ。

 従って、突きではなく振り回す剣技においては、隙を作らないようにするため如何に連続した軌道を描き止めにならない動きをするかが重要なポイントになる。

 それに対し、カヤクが繰り出す円月輪の連続攻撃は扇を持った美しい舞のように、無駄のない動きでワサンを捉え続けワサンに攻撃の隙を与えていないのだ。

 しかも踏み込みも素早く、リーチの短い武器の短所を帳消しにして毎回鋭い攻撃を繰り出してくる。

 ワサンは防戦一方となっていた。

 他のメンバーもそれぞれ激しい戦いで自分のことで精一杯となっているためヘルプを求めることもできない。

 そもそもワサンは仲間に助けを求める気は無かったが。

 カヤクの攻撃は一向に止む気配がない。

 攻撃が止まる一瞬の隙もない。

 それどころか少しずつさらに早くなってきている。

 そして戦いを受けるワサンに少しずつ攻撃が当たるようになり、そのダメージから少しずつワサンの反応速度が遅くなっていた。

 一方のカヤクのスピードは落ちていないため少しずつスピードの差も開き始めていた。


 (コノママデハ確実ニ殺ラレル‥‥)


 「仕方ネェ!ゲノア・アジリアル!」


 ワサンはウルソークラス4の魔法を唱える。

 ワサンのスピードが1.5倍程度に上がる。


 ガキン!!!グググ‥‥ヒューン!!!


 カヤクのエンドレス攻撃を見切り、円月輪内側の輪の部分に短剣を引っ掛けて捻り奪い取り放り投げる。


 「何?!」


 ワサンはそのまま体勢をくねらせて側面から蹴りを食らわす。

 カヤクは焦りながらもその蹴りを避けるが、同時にもう片方の手に持っている円月輪にも短剣を引っ掛けられ、捻り奪い取られてしまった。


 「!」


 一気に形勢逆転した。


 「お前‥‥クラス4の魔法使えるのか?獣人じゃぁ精々クラス2か3程度のはずだがどうやって?!」


 「アァ。限界ヲ超エタダケダ」


 「ふっざけんな!どんな修行したって種の壁を超える限界越えなんてあるわけねーだろーが!」


 「フン!知ラネェ!俺ハシンプルニタダオ前ニ勝ツ!ソレダケダ!」


 「クソ!クソクソクソクソぉぉぉぉぉ!!」


 悔しさからかカヤクの怒りが頂点に達する。


 「カヤク様!いけません!」


 エントワと戦闘中にもかかわらず、カヤク隊副隊長の一人、キセキが叫ぶ。


 「うるせぇ!俺はこれに賭ける!」


 カヤクは腰に下げているポーチから箱を取り出す。


 「ワサン!お前ぇにはぜってー負けねぇ!いや負けられねぇ!」


 カヤクは箱を開けた。

 その中には手のひら位の大きさの何かが入っており(うごめ)いていた。

 蟹のような生き物。

 いや蠍のようにも見える。

 カヤクはそれを掴み取り自分の首の後ろに押し付けた。


 ガシャァ!グザリ!


 「カヤク様!いけません!!その蟲の実験はまだ完了しておりません!」


 キセキが尋常ではない表情でカヤクを止めに詰め寄るが間に合わない。


 「!」


 おぞましい空気を感じ取りワサンは警戒の構えを取る。

 カヤクの首の後ろに押し付けられた蠍のような蟲は、6本の尖った足で首に挟むように体を固定し、蠍のしっぽのような尾を背骨あたりに刺している。

 尖った尾はカヤクの首から下の体内に埋まっていき背骨に刺さるように固定される。


 「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 上を向き両手を上げ叫ぶカヤク。


 「ほう、カヤクめ。あの蟲を使ったか。潔し!必ずワサンを仕留めて死ね」


 アレックスと戦っているホウゲキがカヤクに目をやり告げる。

 ヒョロ長かったカヤクの体型がみるみる変化し、筋骨隆々な体型になっていく。

 体は赤みがかっていき、目も血走っていた。

 上を向いていたカヤクは突然力が抜けたかのようにだらんと首を垂れる。


 ガクン‥‥


 「‥‥‥‥」



・・・・・


・・・



 「そうだ!いいぞ!」


 ガキン!ゴカン!


 「そうだそうだ!」


 数人の少年が地面に突き刺さった杭に両手両足を括り付けられた状態で口に刀を咥えさせられ、数人からの剣の攻撃を受けさせている。

 ゲキシンという長い白髪を後ろで縛ったガタイのいい男は、杭に括り付けられて必死に攻撃を受けているカヤク少年をみて満足げに笑みを浮かべている。

 カヤク以外の少年は既に息絶えていた。


 「カヤク!お前のその目!最高だ!それは何がなんでも相手を殺すという執念だ。まさにホウゲキ様が言っておられた鬼を喰らう者の目だヘファファファ!」


 「はい」


 カヤク少年はくる日もくる日もそうやって誰かと戦い常に死と隣り合わせの日々を過ごし今に至っている。

 勝たなければ死ぬ。

 死にたくなければ殺せ。

 少年の心は死に、代わりに本能的な生への執着心だけが育まれた。


 「カヤクよ!お前を救う者はおらん!お前を救うものはお前だけだ!自分で自分を救えない物は不要!さっさと死ね!それが我らの掟だ」


 「御意‥‥」


 彼にとって生きることはすなわち殺すこと。

 彼にとって相手を殺せなければ存在する意味がない。



 --とある日。


 「カヤク、ギョライ!フンカ!貴様らも戦闘に参加しろ!からなず殲滅せよ!」


 ゲキシン隊の1人が傷だらけでアジトに戻ってくるなり、まだ実践経験も少ないカヤクたちまで呼びつけた。

 それだけの一大事のようだった。

 目の前に赤いローブに身を包み仮面を被った男。

 そしてそれに対峙しているのは、片腕を失いボロボロになっているゲキシンだった。

 ゲキシンは満身創痍であった。

 ふと視界にカヤクの姿が見えた。


 「カヤク!貴様早く加勢せい!お前はこの私のために死ね!早く私に逃げる時間を稼ぐのだ!」


 カヤクは動かなかった。

 自分を生かすのは自分のみ。

 そう教えられていたからそれを守った。

 たとえ師の命令でも掟は絶対だった。

 そして目の前で無惨にも切り刻まれて細切れにされていく師のゲキシン。

 その目は自分を助けない弟子に対する恨みと死を目の前にした恐怖が現れていた。

 そして肉片と化した後、仮面の赤ローブは去っていく。

 残されたカヤクは呆然と、かつて師だった肉片を見ていた。


 「ハ‥‥」


 「ハハハハ!アーハハハハハハハハハ!!!!」


 突然大声で笑い出すカヤク少年。

 隣に居合わせた二人の少年は思わず顔を見合わせる。


 「なぁーーんだ。俺ぇこんな弱いやつにしごかれていたのかぁ、じゃぁ俺も弱ぇってことじゃねーか!」


 ブチュ!グチャ!ヌチャリ!


 鬼を喰らう目でかつて師だった肉片を足で踏み潰していくカヤク少年。


 「俺を!弱く!しやがって!この!クソ野郎!」


 そう言いながら何度も何度も師だった肉片を踏み潰す。

 自分をこんな生き物にしたゲキシン。

 完全な操り人形のように洗脳され心が死にきる前に、いつか殺して別の人生をと思っていた相手のゲキシンが自分の前であっけなくも死んだ。

 あれだけの攻め苦を自分に与え続けてきた憎むべき師は呆気なく死んだ。

 そんな呆気なく死ぬような者の下で自分はあのような責め苦を受け続けていたのか。

 同時に、弱く何者にもなれていない自分の人生に嫌悪感さえ抱いた瞬間だった。


 「俺は死なねぇ!絶対に生き続ける!そのために殺す!殺しまくってやるぜぇ!!」


 何度も何度も肉片を踏み潰しながら叫んでいた。



・・・・・


・・・



 「お‥‥俺は‥‥死なねぇ‥‥」


 カヤクは俯いたままボソッと呟いた。

 次の瞬間カヤクの目が見開く。


 グゴン!!


 次の瞬間、ワサンが突然吹き飛ばされる。


 「ナニ?!」


 どうやら蹴り飛ばされたようだ。

 蹴られたワサンも動きが見えなかった。

 ゲノア・アジリアルをかけていたにもかかわらず、動きが全く見えなかった。

 その後も何度も何度も見えない速度で蹴りが飛んでくる。


 バゴン!

 ドガン!

 ガゴン!


 「ヒャハハハ!!!オラァオラァ!どした獣ぉ!その程度かァ!!!」


 バゴオン!

 ガガン!

 ドオン!


 サンドバッグ状態が続く中で挽回の一手を考えているワサン。


 (クソッ見エネェ。間合イモ取レネェ。ドウナッテヤガルコノ速サ‥‥異常ダ)


 ワサンは避けられない連続攻撃に次第に意識が飛びそうになってきた。


 (コレホドカヨ三足烏‥‥)


 自分のマックスの状態に対し、それを超える速さの連続攻撃で珍しく弱気を見せたワサン。

 だが目は死んでいなかった。




11/13修正

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