<ケテル編> 157.消滅
157.消滅
「逃がすと思うのか?!」
唯一飛行できるアンクはスノウたちを逃がすまいと大きく上昇した後急降下しながら攻撃を繰り出して来た。
ガキィィン!
スノウはアンクの攻撃をフラガラッハで受けた。
(これは‥)
スノウは先ほどソニックが不意打ちで斬ったアンクの腰から生えている翼の付け根部分の傷が思った以上に深いことに気づいた。
無意識にスノウは手を伸ばしアンクの白い翼の付け根部分を力強く掴んだ。
ガシィ!
「うぐっ!‥て、手前ぇ!放せや!」
「理由は知らないが返してもらうぜ」
ブチギィィィリリィィ!!‥‥ヴァサァ!
凄まじく痛々しい音と共にアンクの左の翼がスノウによってもぎ取られた。
「ぐあぁぁぁ!」
「宵闇の千手」
その背後にはニュクスが迫っていた。
ニュクスの背後から無数の黒い闇の手が現れアンクを捕らえようと襲って来た。
「おやおや大苦戦中じゃありませんかぁククク」
「!」
シュゥゥゥン‥ズドォォン!
突如上空から凄まじい勢いで何かが飛来して来た。
ニュクスとスノウはいち早くその場から飛び退いて躱した。
現れたのは黒い皮のコートに身を包み、鼻の尖ったアルルカンの仮面を被った者だった。
手には巨大なハサミを持っており、おそらくニュクスとスノウはあの場にそのまま止まっていたら真っ二つに両断されていたに違いない。
「ク、クァム手前ぇ‥‥今まで何サボってた?!」
「おや、随分な言い方ですね。今回のミッションで私の助けは不要だと言い切ったのはどこの誰でしょう?」
「うるせぇな。臨機応変に動くんだよ‥‥能書きばかり垂れやがって‥‥これは戦争なんだぜ」
突如現れたのは人類議会で大幹部の1人、アルルカン・クァムだった。
頭上から突如現れた際も気づけたのは攻撃を受ける直前であったし、今も攻撃できる隙を見せていない状況からふざけた出立ちではあるが明らかに強者であることが窺えた。
それ以上にスノウが感じたのは何か別の次元の存在のような違和感からくる恐怖だった。
恐怖というより、まともに戦えば必ず負けると思わされてしまう異様な敗北感だった。
(こいつ‥‥かなり危険だ‥やばいオーラを感じる)
スノウは異常なほど警戒した。
「ソニック準備は?」
「大丈夫です!」
スノウは凄まじいスピードで装甲馬車に乗り込んだ。
「逃がすかよ」
アンクは剣をスノウに向けて投げつけた。
ガキキィィン!
スノウはそれをフラガラッハで弾き返すと剣はアルルカン・クァムに向かって飛んでいった。
クァムはアルルカンの仮面を少しせりあげると口を異様なほど大きく開けてその剣を飲み込んだ。
「!」
「おいクァム、俺の剣を返せ」
「全く。貴方はご馳走したディナーを気が変わったからと言って後から返せとせがむタイプですねぇ。おげぇぇ」
大袈裟なジェスチャーを交えながらクァムは口らか剣を吐き出してアンクに投げつけた。
「汚ねぇな」
そう言いながらアンクはその剣を取りスノウを追いかけて迫っていく。
一方クァムもまたスノウを追いかけて走っていた。
「鉄の箱ですか!面白い馬車ですねぇ。欲しくなって来ましたよぉ!」
アンクとアルルカン・クァムは装甲馬車に向かって大きく跳躍した。
ギュゥゥゥン‥‥ザヴァヴァン!!
『!』
突如装甲馬車から現れたシルゼヴァがアンクとアルルカン・クァムを蹴りで吹き飛ばした。
スタ‥
静かに着地したシルゼヴァは明らかに不満そうな表情で首の骨をコキコキと鳴らしながら言った。
「全く騒々しいな。流石の俺も目を覚ましてしまったぞ。俺の睡眠を奪った貴様ら、きちんと責任をとってくれるんだろうな」
シルゼヴァは不機嫌そうな表情でアンクとクァムの方へ歩いていく。
それを見たニュクスは自身の左側に闇の扉を開いた。
「ふたりも悍ましいものが現れたのでは興醒めじゃ。この地は後で頂くとしようかえ」
そう言いながらニュクスは闇の扉の中に消えた。
「おやおや貴方は異端神の子じゃありませんか。貴方とはまだ戦う時ではなさそうです。アンク、ここは頼みましたよ。後ろの大きな蛇と犬をひねって来ます」
「お、おい!」
そう言うとクァムは大きく跳躍して溶岩壁の反対側への消えた。
「何だお前。羽が3つとは面白い生き物だな」
「ほ、ほざけ!」
(やばい‥‥こいつは何かやばい‥クァムの野郎が逃げるほどだ。作戦に影響が出る前にティアマトたちを追い払うのが先だ)
「へ!貴様にかまっている暇はねぇんだ!あばよ!」
バシュァァァ!!
アンクは翼を広げて凄まじい勢いで飛び立とした。
ガシィ!
「!」
だが、シルゼヴァに足を掴まれて飛び立てない状態となった。
「は、離せ!」
「俺に命令するな。俺に命令できるのは俺が認めた者と俺だけだ」
シルゼヴァはアンクの足首を掴んだまま思い切りアンクを地面に叩きつけた。
バゴォォン!
「あがぁ!」
シルゼヴァは無表情のままさらにアンクを地面に叩きつける。
バゴォォォン!
「ぐっばぇぁ!」
吐いた血反吐が空中に舞った。
アンクはシルゼヴァによってまるでボロ雑巾のように好き放題地面に叩きつけられていく。
バゴォォン!
「あがばぁ!!」
(に、逃げられない!!)
周囲にアンクの吐いた血が飛び散っている。
一方溶岩壁の反対側ではティアマト、マルドゥークと人類議会の者たちが戦っていた。
グルフスは後方で腕を組んで戦局を見守っていた。
ジン・ザンとジン・ワムがマルドゥークと戦っていたが、スノウによって長刀が折られてしまったジン・ザンはグルフスから借りた剣で戦っていた。
(ちぃ!距離感が掴めん!)
「昔を思い出せバカタレが!」
ジン・ワムはジン・ザンに喝を入れた。
ヒュゥゥン‥‥スタ‥
そこにクァムがやって来た。
「マルドゥーク、少し下がりなさい」
ティアマトはクァムの異様なオーラを感じ取って少し距離をとり、マルドゥークにも下がらせた。
「お前は一体何者ですか?」
ティアマトはクァムに話しかけた。
「何者!いいご質問だ。私は‥」
クァムは突如くるりと回った。
するとその手に大きな花束が握られていた。
「私は淑女の皆様の味方‥‥さぁどうぞお受け取りください。細やかな歓迎の気持ちですよ」
ババン!
「貴様、我らが原初の神を苦労するか!」
マルドゥークがティアマトの前に立ちはだかり吠え始めた。
「あららぁ。野暮ですねぇ。せっかくそちらのレディに敬意を評しているのに場が白けてしまいました。ということで貴方は死んでくださいね」
突如花束の花一本一本が鋭い剣に変わり一斉にマルドゥークの顔面に突き刺さった。
「がっばぁ!!」
「マルドゥーク!」
グザリグザリ!
しかもその無数の短刀はまるで一本一本が生きているかのように刺さっては戻りまた刺さるという動作を繰り返している。
それによって目や鼻が潰され、大量の血を流している。
ザバザン!
ティアマトは鋭い爪でマルドゥークの頭部を切り落とした。
ゴロン‥‥グザリ!グザリ!
切り落とされ転がったマルドゥークの頭部に刺さった無数の短刀はまだ刺さっては抜けてを繰り返している。
一方切られた首の切断面が盛り上がり、徐々に新たな頭部が形成されていく。
「なるほど、ニンゲンが独立と統治を主張するだけのことはあるようです。一旦この地はあなた方に預けておきましょう。ですが次はありませんよ。クァムとやら‥‥名は覚えましたよ」
そう言うとティアマトはマルドゥークを掴んで沼に沈むようにして地面の中に消えた。
場面は戻って溶岩壁の反対側ではまだシルゼヴァによってアンクが何度も地面に叩きつけられていた。
アンクはもうほとんど意識がない状態になっている。
「もうそろそろ気が晴れたんじゃないですか?」
シルゼヴァは背後から聞こえた声に反応してアンクを背後に投げつけた。
ビュゥゥゥン‥ガシィ!
現れたのはクァムだった。
「返してくれてありがとうございます。それでは」
そう言うとクァムはアンクを担いで消えた。
「あれは‥‥。まぁいい。気は晴れた。戻るか」
シルゼヴァはその場から大きく跳躍して装甲馬車に戻っていった。
・・・・・
・・・
アステリオスの言う通りナーマには既に誰もいない状態となっていた。
エルノアスが命を賭して伝えた情報によってゼピュロスがナーマ住民を連れて避難したのか、別の理由かは分からなかったが、人域シヴァルザ、そして亞人域ロプスの連合勢力がナーマ全域を占拠するのに然程時間は掛からなかった。
すぐさま旧ゼピュロス神殿も占拠された。
なぜか重要な書物などは全て消えていたという。
ナーマの住民を探すのにアステリオスが建物などを破壊しながら探そうとしているのをイルザが厳しく注意したこともあり、街はほぼ無傷で占拠されたことになる。
その日、神域アイオリアは消滅した。
いつも読んで下さって本当に有難うございます。
次のアップは火曜日になる予定です。




