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<ケテル編> 156.誘い

156.誘い



 (いったいここはどこなんだ?!あの影はどこに行こうっていうんだ‥‥)


 何故か前を進んでいく影についていかなければならない気になり、スノウは一定の距離を保ちながら歩いていく。

 影が進んでいく先は、この見慣れているようで建物の配置が違う違和感のある場所にさらに違和感を与えるようにここにあるはずのない図書館だった。

 影は図書館の入り口へ進む階段を登り入り口から中へ入っていった。

 入り口から入ったスノウは扇状の広い空間の半円の壁部分にびっしりと本が並んでいるを見て足を止めた。

 

 (すごい図書館だな‥‥)


 扇状の曲面に無数の本が所狭しと並んでいる様はまさに壮観だった。

 視線を影に戻すとちょうど全体を見渡せる位置に立っていた。

 そして何やら指を差している。

 その先には本が薄っすらと光を放っているのが見えた。


 (あれを読めっていうのか?)


 スノウは警戒しつつその薄っすらと光っている本を手に取ってみる。

 表紙に描かれている文字は読めなかったが、なぜかスノウの心の中に題名がイメージとして響いた。


 (日記‥‥いや‥何かの実験の記録?)


 慎重に本を開いていくと凄まじい光が溢れ出す。

 スノウの視界があまりの眩しさで真っ白になっていく。


 (うわっ!)


 スノウは本から発せられた光に包まれた。


 シュゥゥゥゥゥ‥‥


・・・・・


 眩しさのあまり瞑っていた目をゆっくりと開くとそこは真っ白で何もない空間に変わっていた。


 (転送?!‥‥‥ここはどこだよ‥‥ていうかおれを誘っているのは何者だ?!)


 一瞬にして別の場所に場面が変わったことでさらに困惑するスノウだったが、周囲を見回すと遠くに何かがあるのが見えた。


 (周りには何もないし、ここを抜けるきっかけとなるのはあの遠くの何かしかなさそうだ。行ってみるか)


 スノウは遠くにある何かを目指して歩き出した。


 (あれは‥‥)


 近づくにつれてその何かの姿形が鮮明に見えて来た。

 手足が拘束され目隠しされた状態で直立している者がいたのだ。

 何か十字架や棒のような者に括り付けられているわけではなく、拘束されているものがそれ自体で直立している不自然な姿だった。

 驚くべきはそのものの背中と腰から2枚ずつ計4枚の大きな翼がついていたのだ。

 背中から紅い翼、腰のあたりから白い翼が生えていた。

 傷一つない美しい翼だった。


 (何者だこいつ‥‥)


 ふと気づくと目の前の4枚翼の男の背後にさきほどの影がおり、白い翼を引きちぎろうとしている。


 (何してんだ?)


 影は必死に翼を引きちぎろうとしているが、翼は微動だにしない。


 (手伝った方がいいのか?)


 スノウはその影と一緒に翼をもぎ取ろうと手を伸ばす。

 思い切り翼を握った瞬間拘束されている翼の主が奇声を発し始めた。


 「キィィィィィィアァァァァァ!」


 「!!」 


 その瞬間意識が飛んだ。

 

・・・・・


 目を覚ますと目の前に川が流れている場所にスノウは立っていた。

 見渡す限り平地で目の前に川だけが流れている特に何もない空間だったが。

 淀んだ空気に若干むせるスノウだったが、しばらくするとそれにも慣れてきた。

 目の前を流れる川は幅5メートルほどの小さな川だが、とても流れが速く深さも見えない川だった。

 スノウの脚力なら飛び越えようとすれば容易に飛び越えられる川幅だったが、なぜかこの川を渡ってはならないという感覚がスノウの頭の中に直感的に響いた。


 「スノウ‥‥」


 「!」


 突如川向こうから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 だがどこにも声の主の存在は感じられない。


 「スノウ‥‥」


 声のする方に目を向けると白い煙のような姿がいつの間にか出現していた。

 煙の姿が曖昧で顔や体格は分からなかったが、何故か知っている気がした。


 「スノウ‥‥だな?」


 「あんたは何者だ?」


 「スノウ‥‥最早私には何も見えない‥‥何も聞こえない‥‥」


 白い煙の存在は何かを話し始めた。


 「頼む‥‥どうか返してやってくれないか‥‥」


 「何をだ?誰に何を返せばいい?!あんたは何者だ?!」


 「頼む‥‥体を‥‥私の代わりに‥‥どうか‥‥」


 ゴゴゴォォォォォ‥‥


 突如川下のほうから黒い煙がもくもくと湧いて来た。


 「!」


 「頼んだよ‥‥スノウ‥‥君だけが頼りだ‥‥」


 白い煙はさっと消え去った。

 黒い煙が徐々に襲いかかる。

 逃げたいが、体が思うように動かない。

 この黒い煙に飲み込まれたら全てが終わる感覚だけが感じられ、そんな黒煙が今まさに自分を飲み込もうとしている状況に恐怖を覚えたスノウだったが、突如スノウ意識は背後から何もかによって強引に引っ張られた。



・・・・・


・・・



 ガキィィィン!!


 「!!」


 場面は意識が飛ぶ直前のところに戻った。

 突如襲って来たアンクの攻撃をフラガラッハで受けている最中にスノウは意識を取り戻した。

 凄まじい力で交えた剣を押し切ろうとする有翼人アラトゥス種のアンクの表情は不敵な笑みを浮かべていた。


 「お前がこの場にいることは読んでいたがまさかティアマトとニュクスが来るとはな。だが修復可能範囲だ。安心しろ、お前は殺さない」


 「突然やって来て随分不躾なやつだなお前。一体何者‥‥」


 スノウはアンクの背中の4枚羽の翼を見て目を見開いた。

 背中から紅い翼、腰からは白い翼が生えているのが見えたのだ。


 (こ、こいつは‥‥あの拘束されていた者なのか?!)


 「戦闘中だぜ?考え事かよ!」


 ガキィィン!!‥‥ズザザァ!


 スノウは後方に吹き飛ばされた。


 (あれを‥‥あの腰の翼をもぎ取れってことなのか?!)


 「宵闇の彷徨‥」


 突如アンクの背後から闇の霧が襲って来た。

 アンクとスノウはその霧の危険度を察知したのかさらに後方へ飛び退いた。


 「ちぃ。勘のよいやつらめ」


 恐怖で心を支配する闇の霧を放ったのは突如アンクの背後に回り込んだニュクスだった。


 バァン!バァン!バァン!‥‥ジュゥゥ‥‥


 次の瞬間、突如燃え溶ける溶岩のような火の玉が複数飛んできた。

 それをスノウ、アンクは避けるが、あまりの高熱に近い部分の皮膚が焼けた。


 「なんて高熱の火を吐きやがるティアマトめ」


 超高熱の溶岩の塊を吐き出して攻撃してきたのはティアマトだった。

 一方マルドゥークはグルフス、ジン・ザン、ジン・ワムたちに攻撃を加えている。

 ティアマトはさらに溶岩の塊を吐き出そうと迫って来たため、アンクはそのまま真上に飛んだ。


 「ホーリーフェザー!」


 アンクは白い翼から無数の聖なる羽の刃を飛ばした。


 ババババババ!!


 広範囲に発せられた羽の刃はスノウだけでなくニュクスとティアマト、マルドゥークをも襲った。


 「くだらぬ。宵闇の千手せんじゅ


 ニュクスの背後から無数の闇の手が白い羽の刃を弾いていく。

 一方ティアマトに向けられたものはすべてマルドゥークが両前足の爪で弾いていく。


 グババババババァァン!


 そしてスノウはそれをフラガラッハで全て弾き返した。

 弾かれた白い羽の刃は全てニュクスとティアマトに向けて飛んでいった。


 「宵闇の千手」


 ニュクスはスノウによって弾かれた白い羽の刃を弾こうとしるが、その手が刃に触れた瞬間破裂するようにして砕けた。


 「生意気な!」


 同時に弾かれティアマトへ飛んでいった羽の刃をマルドゥークは両前足の爪で弾こうとするが、羽の刃が触れた瞬間に爪が切断されてしまった。


 「ほう。螺旋を込めたか。ニンゲンの分際でなかなかやるではないか。アノマリーよ」


 前足から血を流しながら白い羽を弾き切ったマルドゥークはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。


 「迅卷錬然じんかんれんぜん!」


 突如ジン・ワムによる攻撃がマルドゥークとニュクスを襲った。

 凄まじい速さで移動しながら両手に持った短剣を回転させて斬りつつさらに波動気の回転刃を無数に放つ攻撃によってマルドゥークの体は複数箇所を斬り刻まれてしまった。

 一方のニュクスは両手を前に差し出した。


 「宵闇の吸収のみこみ


 ニュクスは両手にブラックホールのようなものを作り出し全ての回転刃を飲み込んだ。

 回転刃を放ったジン・ワムは両足を大きく開いて構えながらアンクに向かって言った。


 「アンクよぉ。こいつらぁ相手にするのはぁちょいと骨が折れるぜ?」


 「弱気になってるんじゃないだろうなジジイ。もう少し耐えろ」


 「全く人使い洗いやつだなぁ。おいザンよ。いや隊長。動けるだろうなぁ」


 「当たり前だ。ご老体に前に立たれて戦うほど落ちぶれてはいない」


 「度胸だけはついたようだなぁ!」


 ズザン!


 ジン・ザン、ジン・ワム、グルフス、そしてアンクが固まって構えをとった。


 「そこの有翼人。そこに立っているということはお前は人類議会ヒューパラメンタルの者とみていいんだな?」


 「どこに立とうが俺の勝手だ。そう思いたきゃそう思え」


 (あいつの翼‥‥あれを誰かに返す‥‥そうなんだろ?何者か知らないがおれに幻影か幻覚をみせているやつ‥)


 「ほほほ。雑魚がどれだけより集まろうが雑魚に変わりはないわ。妾の闇がお前たちの全部を喰ろうてくれる」


 「威勢だけはよいのですね。ですがこの領地は我らエークエスが貰い受けます。異系の神ニュクスよ。そしてか弱きニンゲンども。今すぐにここを明け渡せば命だけは取らずにおいておきましょう」


 「まったく。いつの時代になっても、世界がどう荒廃しようと神々がいう言葉は変わらないな。このケテルは貴様らのような時代遅れの存在を拒絶したのだ。即刻立ち去れ」


 ニュクス、ティアマトの言葉に続きグルフスが剣を抜きながら言った。


 ゴオオオォォォォン‥‥


 突如ナーマの門が開き始めた。

 中から出て来たのはアステリオス、ヘケセド、そしてイルザだった。


 「おい随分と早い帰還だがきちんとゼピュロスは殺したんだろうな?」


 アンクがアステリオスに向かって問いかけた。


 「言葉を慎め新参者が。私が到着したころには神殿内のシェルターはもぬけの殻だった。確かに連絡係は殺したんだろうな?」


 「当たり前だ。俺が失敗しくじるわけないだろう。ピーピー泣きながら命乞いしていたぜ。おそらく半人前の半神剣士だな。あれは」


 ヒュウゥゥゥン‥‥ズザン!!


 「うぐ!」


 アンクは突如現れた何者かに剣で斬られた。

 辛うじて躱したため体へのダメージは避けられたが翼の付け根部分を斬られてしまった。


 ズザァァ!


 斬ったのはソニックだった。


 「て、手前ぇ‥いきなり斬りつけやがって」


 「お前は確実に殺すよ。エルノアスの無念を晴らすために」


 ソニックは静かに怒っていた。


 「へぇ!お前はあのガキを知ってんのかい。じゃぁもっと教えてやるよ。最後首を落とす時にピーピーわめき‥」


 グズザン!!


 ソニックの凄まじい攻撃がアンクに繰り出されるがアンクはそれを剣で全て受け斬っている。


 「黙れよ」


 「怒ったかニンゲン。まだ伝え切れていねぇんだ。もう少し時間くれたっていいだろう?」


 「黙れと言っている!」


 ガキキィィン!


 「宵闇虫の大群」


 ニュクスは目の前に闇空間を作り出した。

 数秒後そこから無数の小さな黒い虫が凄まじい勢いで飛び出して来た。


 「ヘルウェル」


 ティアマトは凄まじい超高熱のマグマを吐き出した。


 「ちっ!」


 ブジュウゥゥゥゥゥ!!


 ティアマトは吐き出した溶岩によってニュクスの闇虫の大群を焼き尽くし攻撃を防いだ。

 残りの闇虫はスノウやアンク達を襲ったが、アンクが放ったホーリーフェザーに宿る聖なる力によって闇虫は全て消し去られた。

 そして溶岩はさらに広がり、戦闘場所を二分した。

 グルフスたち人類議会ヒューパラメンタルやティアマト、マルドゥークたちと、スノウたちやニュクスとを隔てる形となっている。

 溶岩の超高熱によって迂闊に溶岩壁を越えることができない。


 「エアダンディズム!螺旋乱舞!」


 スノウはエントワ直伝の風の刃を纏った螺旋の飛ぶ斬撃を複数放ち闇虫を斬り刻みながら吹き飛ばした。

 その間にソニックはスノウの背後に戻って来た。


 「アイオロスは?」


 「はい、意識がありません」


 「くっ‥不味いな。ここには医者もいないだろう。それにさっきあの牛頭がゼピュロス神たちは既にいないと言ったな。おそらくどこかへ避難しているはずだ。おれ達は一旦旧ボレアスのグザリア跡地まで引くぞ」


 「はい。バリオス達に伝えて来ます!」


 「頼んだ」


 スノウたちはアイオロスを救うため一旦この場から退避することを決めた。




いつも読んで下さって本当に有難うございます!

そして評価下さった皆様本当に有難うございます!とても励みになります。

次のアップは日曜日の予定です。

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