<ケテル編> 154.溢れる怒り
154.溢れる怒り
―――ナーマの東の戦場―――
「こいつら中々やるぞ!」
「と言うより戦い方が焦ったいですね!」
スノウたちレヴルストラとアルジュナ、アルカス、エリュクス3人の半神たちが亞人域ロプスのレプティリアン2000の兵と戦っている中、ワサンとソニックが背中を合わせ戦いながら会話していた。
「いや、焦ったいというよりまるで時間稼ぎのようだな!」
少し離れたところで戦っているヘラクレスが会話に入って来た。
更に離れた場所で戦っているスノウもヘラクレスと同様の感覚だった。
攻撃してはすぐに下がる。
下がっては強固な防御態勢で完全に守りに入る。
隙をついて攻撃し始め素早く分散するが、それを追いかけるようにして攻撃していくといつの間にか周囲を囲まれる形となり、集中攻撃を受ける。
そしてスノウたちが反撃に出るとレプティリアンたちは攻撃をやめて下がる。
このループを先ほどから何度も繰り返しているのだ。
スノウたちも撹乱させる攻撃を繰り出すが、臨機応変に対応できているのはヌヌカス配下のビルビア、アールノール、ペルド、スグメレの的確な指示によるものだった。
(なぜこんな戦い方をする?!時間稼ぎをして得をするのは誰だ‥‥まさか!?)
何かに気づいたスノウは全身に螺旋と流動の波動気を溜め込み、回転しながら一気に放出する。
バシュアァァァ!!
放射状に飛ぶ斬撃が周囲のレプティリアンを吹き飛ばした。
その隙にスノウは仲間に合図を送った。
“おれは離脱する。ひとりだけついて来てくれ”
その合図に呼応したのはソニックだった。
“あとは頼んだ”
シア、ヘラクレス、ワサン、そしてアルジュナたちは了解の合図を返すとスノウたち3人を逃がすための陣形を取る。
それをみたヌヌカスはニヤリと不敵な笑みを見せた。
(中々感が鋭いようだ。だがまぁここまで時間を稼げば事は済んでいるだろうが‥‥‥)
ヌヌカスは手をあげた。
それを合図にレプティリアン軍は一斉に隊列を組み始めた。
「キィィィィカカカァァァ!!」
奇声を発したヌヌカスの合図で隊列を組んだレプティリアン兵たちは一斉にヘラクレス達に向かって襲いかかってきた。
「はは!面白くなってきた!」
ヘラクレスは満面の笑みで両手を腰にあてて筋肉を盛りあげた。
「マスターの行動を邪魔する者は誰であろうと許さない」
シアは凄まじい殺意のオーラを展開した。
一方スノウ、ソニックのふたりは凄まじい速さで装甲馬車・新ストラ号に向かって走っていた。
「バリオス!クサントス!ナーマに向かって進め!」
走りながらスノウは半神馬の兄弟に向かって叫んだ。
それに気づいて兄弟はすぐさま走り出した。
一気にスピードが上がっていくが、それ以上のスピードで走っているスノウとソニックはそのまま装甲馬車に飛び乗った。
その数秒後、装甲馬車はトップスピードになった。
・・・・・
・・・
―――神域アイオリア主要都市ナーマ内―――
タッタッタッタッタ!
エルノアスはナーマの奥にある神殿へと全速力で走り続けていた。
肺がちぎれそうなほど苦しいが、一刻争う状態でありアイオロスが自分に託してくれたミッションであるため是が非でも成功させなければならなかったのだ。
(あと少し!)
そう思っていた直後、エルノアスは何かに潰されるように地面にうつ伏せの状態で押さえつけられた。
「ぐあぁ!」
突如頭上から何もかが凄まじい勢いで飛来してきたのだった。
エルノアスがそれに気づいた時には既にの背中から踏みつけられるようにして倒され、そのまま押さえつけられてしまっていた。
背面に感じる感覚から、背中と後頭部に足が乗せられているよだった。
「おいおい俺の体重程度で起き上がれねぇとかどんだけ弱いんだよお前」
「うぐぅぅ‥‥だ、誰だ?!」
グググッ!
アルノアスの上に乗っている者は更に力強く踏みつけた。
「言うわけねぇだろうが。俺は用心深いんだよ。戦術とは計画と集中力で構成されてる。つまり計画をいかに集中して実行して変更を余儀なくされたら適宜修正しそれを実行する。これが戦術だ。その最大の阻害要因が油断と奢りだ。お前はこの後ここで死ぬが、よくあるシーンでは死ぬ相手にベラベラと計画を喋る馬鹿がいるだろう?結局相手は死なずに計画がバレて戦術が失敗に終わるってやつだ。だからこれからお前は死ぬんだが俺は計画を言わない。わかったか?ひとつ勉強になったな。それで‥‥」
バシュッ!!
上に乗っている何者かは突如剣でエルノアスの左手を手首から切り落とした。
「あがぁぁぁぁ!!」
エルノアスの悲鳴が響く。
上に乗っている者は切り落とされた左手を剣で刺して拾い上げるとその手に握られている何かを確認する。
「お前アイオロスから何かを受け取っているだろう?隠せると思ったようだが無意味だったな。ククク」
そう言いながら握れていた物を確認する。
折り畳まれた布に血のような紅い何かで文字が3文字書かれていた。
「‥‥クク‥‥クハハ‥‥アーッハッハッハ!」
上に乗っている者は突如高らかに笑い出した。
「面白いなお前!やってくれるじゃねぇか!」
その布には紅い血のようのものでこう書かれてた。
“バーカ”
よく見ると右手の人差し指がナイフか何かで切られている痕が見えた。
どうやらエルノアスが自分で書いたもののようだ。
「フハハ!お、お前が何者か知らないが僕も油断と奢りが戦術に対しての最大の阻害要因だと思ってるんだよ!ザマァみろ!」
ピキッ!
上に乗っている者の雰囲気がブチギレたように一変した。
「クハハ!やるなお前!ハハハ!いいねぇ!嫌いじゃねぇよお前みたいなやつ!」
「ハハ‥‥そうかい‥‥そ、それならど、退いてくれると嬉しいんだがな‥‥」
「ハッハッハッハッハ!」
ズバン!‥‥‥ゴロン‥‥
エルノアスの首が剣で一瞬のうちに斬られその場からずれた重心が戻るように少しだけ転がった。
なんとエルノアスは首を斬られ絶命してしまった。
「嫌いじゃねぇよお前みたいなやつを殺すのはな」
そう言うと上に乗っていた者はどこかへ行ってしまった。
・・・・・
・・・
―――15分前―――
エルノアスはアイオロスからメモを受け取った。
急ぐ必要がある一方で神殿までの距離が長い事に気づき、その移動の最中に何者かに襲われてアイオロスから入手したメモをゼピュロスに渡せなくなる可能性があると考えた。
初めて受けたといってもいいミッションであったため、慎重の上に慎重を期す必要があると思ったのだ。
衛兵たちのための武器倉庫に大きなバリスタがあるのを見つけたエルノアスはそれを動かした。
武器庫から外に出たところから神殿までは直線で障害物がなかったため、矢を飛ばしてアイオロスのメモをゼピュロスのところまで届けることに変えたのだった。
エルノアスはバリスタの矢にアイオロスから受け取った布を硬く結びつけた。
人力で弓を引くタイプのバリスタだったため、エルノアスは力の限り引っ張った。
(届け!)
バシュゥゥン!
渾身の一矢を放った。
矢は地面すれすれを低空飛行して凄まじい勢いで進んでいきあっという間に神殿にたどり着く。
そして神殿入り口の階段を登るように上昇しそのまま神殿の中に入っていく。
更に矢は飛んでいき、ついに地下シェルターへと続く入り口付近にいたゼピュロスまで届いた。
「!」
ガシュィ!
ゼピュロスは矢を自分の顔に刺さる直前で掴み止めた。
そして矢に括り付けられている布を取り中身を見てみる。
「!!」
ゼピュロスはその文字が神の血によって書かれた者だと一瞬で理解し、このような知らせ方とその書かれていた内容から文字を書いた主がアイオロスだと悟った。
そこにはこう書かれていた。
“にげろ”
ゼピュロスはこのナーマに危険が迫っていることを理解しすぐさま行動に移した。
・・・・・
・・・
―――時間は戻ってナーマの入り口近く―――
「間も無く着きます。ひとまず僕が降りて衛兵に話をつけてきます」
スノウに話しかけるソニックだったが、スノウはスメラギスコープで前方を見ることに集中しているのか返事がなかった。
「それではここで先に降ります」
「待て!」
ソニックは馬車よりも早く動き衛兵と話をつけるつもりだったが突如スノウが声を張り上げて止めたため、ソニックも前方に目を向けた。
「!」
ソニックの脳裏に嫌な予感が走った。
相変わらずの暗闇ではっきりとは見えなかったがあるはずのない大きなテントが見え、そのテントの中央の柱の上に何かが括り付けられていたのだ。
スノウは怒りに震えた手でスメラギスコープをソニックに手渡した。
恐る恐るスメラギスコープから前方のテントの上の柱に括り付けられているものを見る。
「な!!」
嫌な予感は的中した。
なんとその柱に括り付けられていたのは変わり果てた姿のアイオロスだったのだ。
「急いで!」
滅多に声を張り上げることのないソニックから大声で急ぐよう指示があったため、バリオスとクサントスはとにかく急いだ。
トン!
ズザァァ!
横滑りしながら装甲馬車が止まるが、その前にソニックは馬車から大きく跳躍しテントの上の柱に括り付けられているアイオロスの縄を解いて抱き抱え、再度大きく跳躍して装甲馬車の手前で着地した。
スタ!
ソニックと入れ替わるようにスノウが馬車から降り立った。
そしてゆっくりとテントの方へ向かっていく。
スノウは凄まじい斬り刻まれるようなオーラを周囲に発している。
テントの天井で物音がしたのに気づいたのか、スノウの強烈な殺傷オーラを感じたのか、何者かがテントから出てきた。
「おや、もう到着したか」
出てきたのはグルフスだった。
「やはり貴様か。たしかスノウだったな」
その後に出てきたのはジン・ザンだった。
「どうするグルフス。タイミングがずれてしまったようだぞ。このままやり合っても俺は構わんがな」
「まぁこうなることはある程度予測はしていたからな。構わんよ。このままこいつらを叩きのめして生捕りにする。マスター・ヒューがそこのスノウとやらにご執心のようだからな」
どうやら一緒にいたはずのイルザ、アステリオス、ヘケセドはこの場にはいないようだ。
「それじゃぁ俺が行こう。あいつには少し借りがある。ここで一気に返して釣りをもらう」
「油断するなよ」
「誰に言っているのだ?」
トン!
ジン・ザンはその場から消えたかと見紛うほどの速さで動き、スノウの背後に周りこんで攻撃を仕掛けてきた。
ドゴォォォン!!
突如スノウの背後でジン・ザンの頭部が地面にめり込んで埋まった。
スノウの正拳がジン・ザンの頭部を捉えて強烈な打撃が放たれ、その衝撃で一瞬にして頭部が埋まってしまったのだ。
“分かっているなスノウ。怒りを制御しろ。真の強さはその先にある”
スノウの脳裏にヘラクレスの言葉が浮かんだ。
(無理だぜヘラクレス)
スノウの心の中は怒り一色となっていた。
バルカンが肉体を失ったこと、一時行動を共にしたディアボロスの傍若無人ぶりに仲間を殺されかけていること、仲間を攻撃するさまざま勢力など風の大破壊後に立て続けに仲間を傷つけられるような出来事が続いた上、仲間を攻撃してきた者たちの動機が単なる殺戮衝動や八つ当たりといったくだらないものであったことから常に怒りが治らない状態だったのだ。
常に火種がついており些細なきっかけですぐに火炎流となってしまうという状態だった。
アイオロスは仲間ではなくスノウにとって数度会っただけの存在だが、ソニックが守ろうとした存在であり、アイオロスがこのような状態にされたことはスノウにとってソニックを侮辱したことと同義であったのだ。
「ほう、やるじゃないかスノウとやら。まぁこんなことでやられる存在ならそもそもカエーサルはお前に興味など示さないか。まぁいい、それよりジン・ザン。そろそろ起きろ。いつまで寝ている?」
バシュ!ファシュン!
突如起き上がって剣を振り上げたが、スノウはその攻撃を見ることなく軽く躱した。
「おいグルフス。いい加減にしろ。俺の作戦をバラしてどうする。いいか?このスノウを侮るんじゃないぞ。こうやって奇襲をかけないと倒せないほどの強者なのだ。俺は決して油断しない」
「ごちゃごちゃ煩ぇな」
ブゥン‥ガキン!
スノウの強烈な足刀蹴りを剣で受けるジン・ザンだったが、先ほどの地面に頭部がめり込んだ攻撃のダメージはほとんど無いように見えた。
「力も使い方が理解出来ていなければ受け流すことは容易い。悪いが早めにお前を屠って終わらせる。安心しろ、殺しはしない」
「やってみろ。おれは手加減しねぇ。普通に殺されると思うな」
横目で見下してみているスノウの表情はまさに鬼神そのものだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。
次のアップは金曜日になります。




