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<ケテル編> 152.2000対8

152.2000対8



 「懲りねぇやつらだと思ったら別の種族のお出ましか」


 ヘラクレスは腕を組みながら迫り来る亞人軍を見て言った。

 それにスノウが答える。


 「となればこちらの兵は満身創痍、向こうは元気満々の第2ラウンドってことか。平民兵たちも素人なりによく頑張った。だがこれ以上戦わせればあっという間に総崩れだろうな。無駄に死なせるわけにはいかない」


 「つまりオレたち5人であの大群を何とかしろってことだな?。面白ぇ」


 スノウに続いてワサンが武者震いのように体を動かしながら答えたが、それにシアが反応した。


 「あらワサン、あなたマスターがやる気なのに震えているの?そんなに雑魚雑魚しかったかしら」


 「武者震いだ!っつうかお前どこで雑魚雑魚しいとかいう意味不明な言葉覚えたんだよ」


 「造語よ。弱々しいだと言葉のインパクトが足りないからあなたを例えるのに適切ではないと思ったの。こういう時インパクトある言葉を重ねていうとより強調されるじゃない。それでたった今作ってみたわ。こう言うのが稀に人々の中で流行ったりするのよね。そういうのを作りたくなる瞬間だって感じたわ。直感でね。人間は直感で発言したり行動したりする生き物でしょう?私には分かるわ」


 「おいおい‥‥」


 (こういうのはバルカンの役目だったんだがな。早くあいつを復活させないとオレの立ち位置が面倒なことになるぜ‥‥)


 「はっはっは!でもワサンの言う通りですよ。ここは僕たち5人でやるしかありません」


 「おいおい、俺たちを忘れちゃこまるよー」


 そう言いながらアルジュナが近寄って来た。多少ダメージを負ってはいるが、まだまだ戦えるというジェスチャーを見せながら歩いて来た。

 その後にはアルカス、エリュクスもいた。

 アルカス、エリュクス共に元アネモイ下位剣士だ。

 ふたりともアネモイ剣士になって日が浅く、アルジュナより数年後輩だが、アルジュナに対してあまり敬意を払っていない。

 ただアルジュナの戦闘力の高さは認めており、アルジュナが先輩としての威厳を保っていられるのはその強さだけだった。


 「おお、ヘラクレスさんじゃないっすか!あんたみたいな人と一緒に戦えるなんて光栄っすよ!」


 「これから俺たちヘラクレスさんの下で働きます!」


 威勢の良い男がアルカスで、一応礼儀正しい言葉遣いをしているが調子の良さそうなのがエリュクスだ。

 それに対してヘラクレスが答える。


 「お前らは誰だ?」


 「おぉい!」

 「マジか!覚えて貰えていないとは!」


 「わっはっは!冗談だよ冗談!頼むぜ人数は少しでも多い方がいい。タルカスは右だ。エリコスは更に右だな」


 ((お、覚えてねぇ‥‥))


 「8人であの大凡2000の兵を相手にする。それも亞人です。しかも見たところリザードマンのようですね。強敵ですよ」


 ソニックの言葉に皆が反応し前方の亞人軍に目を向ける。


 「確かにトカゲ見てぇな面しているな」


 「ゲブラーでヘクトルの生体技術によって生み出されたドラコニアンとは違いあのような進化を遂げた種族なのだと思います」


 ワサンの言葉にソニックが応え、スノウが賛同して話し始めた。


 「そうだな。あのような進化を遂げて来たとなれば、このケテルで生き残るための術を身につけて来たはずだ。舐めてかかるなよ。普通に考えれば鋭い牙による噛みつきあたりを警戒するんだろうが先入観はよくない。まずは様子を見て相手を見極めろ」


 『おう!』


 ソニックは平民兵達を極力後方へ下がらせ休むよう指示を出した。

 彼らはよく頑張ったがこれ以上の戦いとなれば逆に足手纏いにしかならない。

 そうこうしている内に亞人軍が射程距離内まで近づいて来た。


 ドカラ!ドカラ!パカラ!


 突如先方から馬に乗ったこの部隊を率いている指揮官のような出立ちの者がひとりやって来た。


 ズザザァ!


 指揮官と思われる男はスノウたちのいる場所から30メートルほど手前で止まり、馬上から一礼した。


 「私の名はヌヌカス。この部隊を指揮しているレプティリアンのヌヌカスと申します。亞人域ロプスの大幹部がひとりにしてロプス様直轄の特殊戦闘部隊コマンダーのヘケセド様の右腕にございます。以後お見知りおきを」


 「随分と礼儀正しいな。調子くるうぜ」


 「レプティリアン‥‥様々な言い方があるようだが、ヒト型爬虫類であるようだな」


 スノウのその言葉にヌヌカスと名乗った男は失笑するような表情を浮かべながら答える。


 「ヒト型爬虫類‥‥フッフッフ。傲慢なニンゲンの表現しそうな物言いですね。我らに言わせればあなた方こそ亜流の系統である猿系ヒューマノイドにあたります。レプティリアンこそが人間と称される存在なのです」


 「猿系ヒューマノイド?!なんだそれは?」


 ワサンが素直な表情で疑問を口にした。それにシアが答える。


 「人のような猿、もしくは猿系統の人のような存在って意味ね。つまり私たち馬鹿にされているのよ。まぁワサン、あなたは関係ないと思うけど。そんなことよりマスターのお言葉にあのような不敵な笑みで答える無礼を許すわけにはいかないわね。早速死刑よ」


 ザン!


 シアは言い終えると同時に凄まじい速さの跳躍を見せヌヌカスに剣を振り下ろす。


 ガキン!‥‥ズファン!


 ヌヌカスはシアの一撃を太く長い尾に取り付けられた剣で受け、その後、素早く右手で抜かれた剣でシアを斬ろうと横振りするが、シアはそれをギリギリでかわして空中で回転しながら元の場所に静かに着地した。


 「私の攻撃を躱すとは猿もなかなかやるじゃありませんか」


 「面白いわ。喋るトカゲは意外と器用に道具も使うのね。マスター、彼らの戦闘スタイルは尾を利用した武器の三刀流もしくは盾との併用で攻守バランスよく戦う身体特徴を活かしたものと思われます。それにスピードもあるようです」


 スノウの相手を警戒するという指示に基づき早速ジャブを入れ相手の戦闘スタイルを分析したシアの顔はヌヌカスを相手になどしていなかった。


 「なるほど。ありがとうシア。これで戦い方が浮かんで楽に戦えそうだ」


 「ぷっ」


 ピキッ!


 シアとスノウのやりとりにヘラクレスが思わず引き出すと我慢の限界を越えたのか、ヌヌカスの表情が怒りの表情に変わった。


 「いいでしょう。どちらが真の人間かをこの場で決めてあげましょう。ついでに半神の皆さん、あなた方のような半端者も消えて頂きますよ。‥‥キィィィィェェェェェェ!!」


 ヌヌカスは話の最後に耳を擘くような奇声を発した。


 バシュゥゥ!!


 突如スノウたちの背後から何者かが地面から飛び出し武器を突き刺して来た。


 ガキキキン!ガキン!ギキキン!ゴキン!


 スノウ、シア、ヘラクレス、ワサンの4人に向けられた刃を4人皆軽く武器で受けた。


 「中々やるじゃないか」

 「私の攻撃をこうも軽々と受けちまうなんてしょげちまうよ全く」

 「ビルビア、貴方がとろいからじゃないの?私は傷をつけてやったわ。少しは私を見習うことね」

 「‥‥‥‥」


 スノウたちの背後から攻撃をしかけたのは4人のレプティリアンだった。

 彼らはそこから大きく跳躍して、ヌヌカスの横に着地した。


 「ほう。中々壮観だな。神殺しにアノマリー、それに出来損ないの半神どもか。このアールノール、久々に腕がなると言うもの。楽しみだ」


 「アールノール。調子に乗るんじゃないよ。慎重にいかないといくら弱いあの子達との戦いとはいえ寝首かかれるからねぇ」


 「何を言っているのビルビア。あなた先ほど傷一つ付けられなかったじゃない」


 「お前もだよ、スグメレ。そうやって高飛車に見下す癖はよくないねぇ」


 背の高い男がアールノールと言われた者だ。

 威厳ある口調をわざとらしく使っているのが鼻につく。

 そしてその横にいる小柄で太っている女性のレプティリアンがビルビアと呼ばれた者だ。

 ヌヌカスの馬は挟んで反対側にいるのが、高飛車な口調で喋るグラマーな体型のレプティリアンのスグメレと呼ばれた女性だ。

 その隣に立っているのは身長は然程高くはないが、筋肉質でいかにも戦士といった体型の無口な男のペルドだ。

 そして馬上のヌヌカスが口が裂けるほど開いた不敵な笑みを浮かべながら言った。


 「いかがでしたか?我ら2000の兵を相手にするにあたり、多少情報をお与えしました。私たちは尾も使いこなす三刀流です。そして、先ほどのように地面も潜って攻撃も可能です。2000対8、これくらいのハンデは差し上げないと数の差は埋まりませんから。それでは開戦です!キィィィィィィアィアィアァァァァ!!」


 ヌヌカスは先ほどの数倍はあろう音量で奇声を発した。

 スノウたちは思わず耳を塞いだが、直ぐに武器を構えた。

 レプティリアン2000の兵が一斉にスノウたちに襲いかかって来たからだ。

 ヌヌカスの言う通り2000対8の戦いが始まった。



・・・・・


・・・



―――神域アイオリア本拠地ナーマ―――



 「戦況はどうだ?」


 「見事に嵌められたね。しかもギルがやられてしまうとはとんだ番狂わせもあったものだよ全く。幸い命には別状はないようだから一安心だがね」


 ナーマにある旧ゼピュロス神殿の上層にあるテラスからアイオロスが神技シンギを使ってアイオリアの各地で繰り広げられている戦闘の様子を見て、都度大きな動きについてゼピュロスに伝えていた。


 「あのソニックの遥か上をいく戦術を作れるやつがいるとはな。だが、スノウたちの帰還と参戦はラッキーだったな。おまけにヘラクレスとあの異端神の子シルゼヴァまで仲間に率いれて戻ってくるとは末恐ろしい野郎だスノウはよ」


 「そうだね。だが、戦況はよくないね」


 「やつらが負けるってのか?まさかそりゃ流石に弱腰過ぎやしねぇか?」


 「いや、スノウたちは問題ないよ。問題は2つだね。ひとつは北軍の動きだ。アカルがいるから良いと思っていたが、北の方角からとてもいやなオーラを感じるんだよ。未だかつて感じたことのないものだ。いや、神々の記憶の中で伝えられている負の感覚の中で似たようなものを感じたことがあるやもしれない」


 「そうかい。そこまでのレベルとなっちゃぁ俺にぁ分からないな。それでもうひとつの問題は?」


 「ここだよ」


 「!!‥‥まさか‥‥ここが落ちるってのか?!俺たちふたりがいるんだぜ?!」


 「そうだな。考え過ぎかもしれない。私なら周囲の戦闘は囮にして引きつけてこの本丸を少数精鋭で攻めると思っただけだが、お前の言う通り確かに俺たちふたりを相手に勝てる者もほとんどいないだろう」


 「まぁこの機に乗じてティアマトやニュクスが来たら別だけどな。まぁあの女どももそこまで馬鹿じゃねぇだろうさ。この勢力図の中で今や最も力を持っているっつても過言じゃねぇ2大勢力だ。俺たちに構っている隙を突かれて攻められるリスク考えりゃこの戦争はとりあえず様子見するだろうぜ」


 「その通りだ。何ならここアイオリアと人域、亞人行きそれぞれ3者で潰し合えばいいと思いながら高みの見物でもしているかもしれないな」


 「違ぇねぇ。それじゃ俺ァちょっくら周囲を見回ってくるぜ。お前の言う通り鼠でも入り込んでいたら大変だからな」


 「ははは‥頼んだよゼファー」


 アイオロスはうかない表情で無理やり笑顔を作りながらゼピュロスを見送った。

 7つの勢力のうち、人域シヴァルザと亞人域ロプスが最弱2大勢力だと位置付けられており、一方ティアマトたちのいるエークエス、そしてニュクスのいるツィゴスが強力な2大勢力であると見られていた。

 地下に住まう素性怪しい者どもは一旦外すとして、中間に位置する神域アイオリアとセプテントリオンの差を見ると、スノウたちの帰還以前であればアイオリアは不利な立場にあった。

 アテナのずば抜けた戦闘力と、ペルセウス、テセウス、ピッポリュテの3巨頭の半神の強さは折り紙付で大きな脅威だったからだ。

 だが、スノウたちの帰還によって戦局は大きくアイオリア有利に動き出している。

 ゼピュロスの言う通り2大勢力エークエスとツィゴスはお互いを潰したがっているはずであり、双方留守にはできないだろうという読みは強ち間違っていない。

 故にアイオロスはゼピュロスの言い分に納得した。

 だが、心のどこかで不安が渦巻いており消すことができないでいた。


 タッタッタ!


 突如テラスに兵の1人が大慌てでやって来た。


 「アイオロス様!」


 「どうしたんだ?そんな焦った様子で」


 「な、何者かがナーマの門の前に現れました」


 「何者かわからないのかい?」


 「は、はい。ただ明らかに人間のように見えます」


 「我らの兵で帰還した者では?」


 「いえ‥‥おそらく人類議会ヒューパラメンタルの者かと」


 「‥‥‥‥」


 アイオロスはしばし思考を巡らせた。


 「その者たちは何人ほどいるんだい?」


 「5名ほどです」


 「そうか。私も行こう」


 アイオロスは消しきれない不安が大きくなっていくのを感じた。





いつも読んで下さって有り難う御座います!

次のアップは火曜日の予定ですが、日付跨ぐ可能性あります。

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