<ホド編>32.不死鳥戦
32.不死鳥戦
「さぁ願い事をいいなさい」
鎮座するフェニックスが言う。
(願い事‥‥?何を言ってるんだこの魔物)
「永遠の命ですか?それとも誰かを生き返らせますか?それとも誰かの命を奪いますか?」
「なるほど、フェニックスは何度も甦る不死の鳥。命を操る鳥といってもいい。だから命に関する願いを聞き遂げる鳥でもあるのか?」
我ながら鋭い分析だとスノウは思った。
するとスノウの銀髪から大きく細長い目が見開き話し始める。
「フン‥全く‥。お人好し馬鹿者だねぇ、鼻くそ童。こやつが命を操れるわけがなかろうが。お前たちのようなお人好しの生命力を吸って生きながらえるんだよ。願い事を聞くふりをして業火に焼かれる際の恐怖の顔を見るのが好きなのさ。間違ってもこやつの言葉に応えるんじゃないよ。言霊で縛られるからねぇ」
「おや?聞き覚えのある声がすると思ったら女狐じゃぁないですか。あなたまだ生きていたのですか?」
「うるさい鳥だねぇ。あたしはあんたみたいに柔にできてないからねぇ。これからも生き続けるのさ。でもあんたは日の鳥に拾われてなけりゃ今頃丸焼けで人間の腹の中で糞にでもなってだろうねぇ。フェネクスよ」
「カカカカ。オボロ、500年前に私の美しい炎に焼かれて尻尾を切って逃げたじゃないですか?おや?その時の影響で1本だけ尾が短いですねぇ。流石に再生するとは言っても500年足らずでは不恰好な状態までにしか戻らない見たいですねぇ。」
明らかにスノウの銀髪に大きな切長の目を見せているだけのオボロの姿は、フェニックスの目にはオボロ全体が見えているようだった。
「くっ!‥‥口の減らない鳥だねぇ。あの時は油断しただけさね!お前みたいな虎の威を借る “狸” みたいな柔なやつがあたしは大嫌いなんだよ!」
「カカカカ!柔かどうか試してみましょうか?そして今度こそ終わらせてあげましょう、あたなの見窄らしい命をね!」
そう言いながら美しい巨大な炎の両翼を大きく広げる。
ブオォォォォォォ!!
強烈な熱風が襲う。
「ぐ!翼ぁ広げただけでこの熱波かよぉ」
アレックスは闇のランプをフル活動して全員が焦げ消えるのを防いでいる。
「さぁそこの紳士気取り!あんたが指示を出すんだ。デカイの!お前はとにかくランプで火炎、熱波を吸い込んでみんなを守りな!鼻くそ童!紳士気取りの指示でお前がフェネクスの懐に飛び込んでいくんだよ、いいね!くれぐれもあたしの手を煩わせるんじゃぁないよ!」
「紳士気取り?!なんたる屈辱!オボロ殿!貴女の指示には従うがその呼び方は胸が塞がる思いだ。帰還した後に異議を申し上げさせて頂こう!」
そう言いながらエントワは辺りを見回し状況を把握する。
「陣形バリスタ!」
「了解!」
作戦通り、据え置き型の投擲武器の形の陣形を取る。
先頭はスノウ。最後方にはロムロナ、ニンフィーが陣取り魔法でサポート、その前にアレックス、エントワ、ワサン、エスティの4人がロムロナ、ニンフィーを守る。
ライジはさらに後ろで待機だ。
ただしアレックスは闇のランプで熱吸収に集中するため、ワサンは後方とアレックスの守備を行う。
「スノウ殿、体感はいかがか?!」
「問題なし!」
エントワは熱波に対するスノウの炎耐性を確認した。
一方でロムロナとニンフィーは肉体強化魔法を全員にかける。
陣形バリスタ。
その形の通り、マジックキャスターを後方に置き、その前で戦士が守る。
敵の攻撃を受けながら魔法攻撃行う陣形だが、最大の特徴は前衛が敵の注意を引きつけて、後方から放たれる矢が敵の懐に入り、致命傷を与える。
今回その矢がスノウの役割となる。
フェニックスは首を真上に向けて体の温度を上げる。
そして両翼を再度大きく広げた。
「来るぞ!」
「ダブル・バリアオブウォーターウォール!!」
二重の水の壁をロムロナとニンフィーが同時にかける。
合わせて四重の水の壁ができた。
しかしこれも数秒持たせるのが精一杯なはずだった。
その間にアレックスが迫る熱波や炎をランプで吸収し切れなければ全員丸焦げだ。
グォォォォォ!!
フェニックスが翼を羽ばたかせると、同時に恐ろしい風圧と共に超高温の空気の波が襲ってくる。
シュワワワン!!
「一瞬にして水の壁2枚が消えた!」
「ダブルバリアオブウォーターウォール!!」
魔法をさらに追い掛けする。
ショワァァァァァァ!!
ランプが熱を吸い取る。
しかし吸い取るスピードが遅いため水の壁を重ね掛けし続けないとならない。
その間にスノウはフェニックスの方に詰め寄る。
熱はヨルムンガンドの加護のおかげで影響を受けないが、風圧が前進を阻む。
「側面からいくしかない!」
迅移で左に移動し、壁伝いに走り、フェニックスの後ろに回り込む。
「ちょろちょろとうるさいですねぇ。熱刺線!」
フェニックスの孔雀のような無数の尾が一斉に燃え盛る。
その燃え盛る尾を動かしスノウ目掛けて刺していく。
まるで無数の槍で串刺し攻撃を受けているようだ。
しかも高熱を帯びた槍であり、触れずとも近づくだけで火傷を負うレベルだ。
しかしスノウは体を反転させてそれらを避け、剣でフェニックスの尾を切る。
シュラン!!
切られた方の尾は燃え尽きて消えたが、フェニックスの尾はすぐに再生してしまった。
さらにフェニックスの尾が飛んでくる。
あまりの連続攻撃に剣で防ぐも本数が多く全てを避けきれない。
「ぐあぁぁ!!」
左腕に一発食らってしまった。
たがかすり傷だ。
「おや?なぜ燃え尽きない?女狐が加勢しているからでしょうかね。いいでしょう。そんなものもちょっとした時間稼ぎにしかならないですから。熱刺線連撃!」
無数の業火の槍が飛んでくる。
シャバー!シャババババー!
一度に防ぎきれず、右腿に尾が突き刺さる。
「がっぁぁ!!」
「スノウ!」
「ダブルアブソリュートゼロ!!!」
ニンフィーとロムロナが絶対零度の魔法を重ね掛けフェニックスに向けて放つ。
シャカカカカアン!!
フェニックスの片翼が一瞬にして凍りつく。
「ん?小賢しい真似をしますね。デミヒューマン風情が!」
フェニックスは矛先をスノウからアレックスたちに変え再度攻撃体制にはいる。
「追憶の業火!」
フェニックスの翼に生える無数の羽が業火の飛弾となって一斉に放たれる。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!
「バリアオブアースウォール!」
「バリアオブウォーターウォール!」
ロムロナは土の壁を作りそこにニンフィーが水の壁を作って炎と物理的衝撃力を持つ羽根を防ぐ壁を形成する。
ガガガガガガガッガアガガガガガガガガガガッガッガ!!
3分の2を防いだところで壁が崩れる。
「バリアオブアースウォール!」「バリアオブウォーターウォール!」
再度重ね掛けする。
「うおぉぉぉ!!」
その間、アレックスは熱をランプで吸収する。
「ワサン、エスティ!二人の魔法では防ぎきれない!若のランプで熱を失った羽根だけを剣で弾き返してください!」
エントワが指示を送る。
「了解!」
「来ますよ!」
カンカンカンカンカンカン!!
エントワ、ワサン、エスティは剣を構えて火の消えた羽根だけを狙って剣で払い落とす。
炎の消えていない羽根は避けるしかない。
そこはライジがうまく立ち回る。
ロムロナとニンフィーに当たりそうな羽根が迫る前にロムロナ、ニンフィーを抱えて避けているのだ。
「ライジやるわね!」
「なんとか防ぎきりましたね‥‥」
「ライジ?!」
羽根によって切られたのか横っ腹から血が流れている。
「がはっ!!‥‥しくじっちゃいました‥‥」
エスティは慌ててライジのところに駆け寄る。
「休んでなさい!もう!弱いのに無理して!ほんとに馬鹿だわ、馬鹿すぎよ!」
「総帥‥頑張ったのに‥‥やっぱひどいっすね、へへへ」
「第3波がきます!」
「次は防ぎきれるの?!」
「ヤルシカネェ!」
「泣き言いってる場合じゃぁないわねぇ、ウフフー」
メンバーの状況を見ていたスノウは自分の責任の重さを感じ焦る。
自分の動きが遅れれば遅れるほど、仲間が窮地に立たされる。
フェニックスがメンバーに気を取られている間に距離を詰める。
「うぉぉぉ!!」
剣でフェニックスの足を切る。
シャバン!
(やったか?!)
しかし、すぐに炎とともに傷が塞がってしまう。
「おやおや、まだ燃え尽きていないとは。追憶の業火!」
フェニックスは片翼を振り上げ業火の羽根弾をスノウ目掛けて放つ。
体をのけぞりながら体全体と剣で羽根を防ぐが数枚は体をかすってしまう。
「むぅ‥‥。なぜ燃え尽きないのでしょう?」
そのままフェニックスに突っ込む。
「ま、まさか?!あの忌々しい蛇の牙を持っているというのですか?!」
「だったらどうだって言うんだ?」
「キョエェェェェェェェェエ!!」
突然フェニックスは奇声を発し飛び上がる。
「わたくしを殺しにきましたか!わたくしを殺しにきましたか!キョエェェェェ!!」
天井すれすれまで飛び上がる。
流石にそこまではジャンプできないので攻撃を加えるには衝撃系のスキルかリゾーマタの魔法しかないが、おそらくどちらも効かないはずだった。
従って、ヨルムンガンドの加護を持ったスノウ自身がフェニックスの体内に入り込んで飛翔石を手に入れる必要がある。
度重なるフェニックスの攻撃になんとか耐えているアレックス達だが、攻撃が効かないので防戦のみだ。
耐えるだけの戦闘ほどキツいものはない。
フェニックスも一手一手確認するかのように少しずつ攻撃を強めているが、ヨルムンガンドの加護を持っていても攻撃そのものをしあぐねているスノウたち一行を見て余裕を取り戻したのか、次第にその様子はまるで楽しんでいるかのように変わっていく。
ヨルムンガンドの加護を持っていても、こうも距離をとられては正直状況の好転は望めない。
(いや!おれは何を弱気になっているんだ‥‥おれがやつとの距離を詰めればいい)
アレックス達にとっては距離が延びた分防御の時間を作る事ができる。
これは状況の悪化じゃない好転だ、スノウはそう思い返した。
(アジリアル、ジノ・アジリアル、バイタリア、バーサーク、ジノ・ソリッドスキン、バイオニックソーマ、アドレント、ジノ、アドレント‥‥)
ウルソーの肉体強化系魔法を重ね掛けする。
相変わらずバイオニックソーマみたいな神聖レベルのクラス3は魔法の効力が薄い。
オボロ戦でも使ったが、ロムロナのサポートがあったから魔法の効きが悪くても突っ走ったが、今回自分を回復などサポートしてくれる存在はいない。
そんな余裕がないほど、フェニックスの攻撃がアレックスたちを防戦にとどめているからだ。
「迅移!」
スノウは壁伝いに駆け上がる。
部屋がドーム状になっているため側面を駆け上がってもフェニックスには辿り着けない。
従って途中で跳躍してフェニックスに攻撃を加えるしかなかった。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!
(今だ!)
スノウは大きく跳躍する。
弾丸のようにフェニックスに一直線で突進する。
「第4波きます!」
既に第3波となる追憶の業火で陣形が崩れてしまっている状態で第4波の攻撃が繰り出されようとしている。
「させるかよ!」
剣をフェニックスに向けて一直線に突っ込む。
「忌々しい蛇の牙を近づけるんじゃぁありませんよ!」
フェニックスはアレックス達に向けていた無数の業火の羽根攻撃の矛先を変えてスノウに向ける。
カンカンカンカン!!
剣で弾く。
フェニックスに頭から突っ込んでいく体制のため、羽根の当たる面積が小さく避けるのも容易い。
「なめてもらってはこまりますね!」
やり過ごした無数の羽根が自動追尾のように方向を変え後ろからスノウ目掛けて飛んでくる。
「ぬおおおおおお!!」
ザクザクザク!!
向きを変えて飛んでくる鋭い羽根に足や胴をかすめ無数の切り傷を加えられる。
ヨルムンガンドの加護のおかげで燃え尽きる事はないが、物理的ダメージは避けられない。
剣がフェニックスの腹目掛けて突き刺さろうとした瞬間、フェニックスが足で剣を抑える。
スノウは構わず刃をつきたて足ごと腹に斬撃を加える。
ザッバァァァァァァァ!!
フェニックスが胸あたりから真っ二つに切り裂かれる。
しかし、炎が結合し何事もなかったように体は元踊りになる。
「だめかぁ!」
「スノウ殿諦めてはなりません!」
「あたし達のことは気にせずにあたなはひたすら攻撃よ!」
無数の業火の羽根をひたすら受け切っているアレックス達。
闇のランプで炎を吸い取っているものの、スノウ同様に鋭利な羽根の攻撃による物理ダメージが蓄積され、早くも疲労困憊な状態だ。
「鼻くそ童、見えたか?」
「ああ!」
(そう!切った瞬間!ちょうど心臓の辺り!)
そこに一瞬機械のような塊がみえたのだ。
「3度目はないよ」
「わかってるよ!」
(あやつも日の鳥化身の端くれ。日の鳥の呪詛を抱えて平然としているというのはそれなりの力を持っているという事。簡単ではないよ?さて、どうする?童)
オボロは心の中で戦況を見ている。
「そういえばババァ!あの鳥野郎はあんたより弱いんだよな?」
「ん?何をいうかと思えば‥‥。当たり前だろう!あたしがあんなひよっこの鳥なんぞに負ける道理があろうかね」
「了解!」
スノウは側壁を走りながらブラストレーザーを放つ。
ビシャヤー!!
「くだらないですねぇ!」
フェニックスはいとも簡単にそれを避ける。
水のレーザーはフェニックスに当たらずそのまま仲間のところへ飛びあわやロムロナに当たりそうになる。
「くぉらぁ、スノウ!おめぇ当てる時は方向考えろよぉ!味方攻撃してどぉすんだ!」
スノウは、そのまま側壁を駆け抜け大きくオーバーハングする辺りで一気に蹴り出しフェニックスに飛び込む。
「カカカカ!小賢しいですね!先程のようにはいきませんよ?次はフルコースで行きますよ」
「マグマの咆哮!キョエェェェェ!!‥‥ドッベェェェェェェ!!」
フェニックスは口からスノウ目掛けてマグマを吐きつける。
「スノウボウヤ危ない!ディルヴィアルカタストロフ集中放射!」
ロムロナは大洪水を巻きこす魔法を範囲を狭めて威力を高めてマグマ目掛けて放射した。
ジャバババババ!!
マグマは洪水砲で冷える。
だが、固まっては岩を割ってまたマグマが溢れ出る。
洪水砲は高熱で蒸発し、あたりに水蒸気を撒き散らす。
マグマそのものは止まらないが襲いかかるスピードは格段に落ちた。
「サンキューロムロナ、うおぉぉぉ!!」
冷えた溶岩を足場にしてフェニックスの上部に周り一気に剣を振り下ろす。
「カカカカカ!予測通り!熱刺線!」
フェニックスは燃え盛る尾を素早く動かし無数の炎の槍を繰り出す。
「串刺しの丸焼きにしてやりますね!」
ジャザザン!!
体を燃え盛る尾が貫く。
「スノウーーー!!」
叫ぶアレックス。
「大丈夫よ、落ち着いて!」
闇のランプに集中させるべくニンフィーが叫ぶ。
熱刺線で貫かれたのはスノウの残像だったのだ。
そしてスノウ本人は、フェニックスの背後に回り込んで剣で今にも刺せる状態だ。
「もらったぁ!」
「カカカカカ!小細工小細工!」
しかしそれを読んでいたフェニックスは翼を広げ無数の業火の羽根を放つ。
目の前で無数の羽がスノウ目掛けて放たれる。
ジャジャジャジャジャジャアジャ!!
「おおおおおぉぉ!スノォォーーーー!!今度こそ終わりだぁ!!」
泣きそうな顔で叫ぶアレックス。
無数の業火の羽根は体を切り刻み炎によって焼かれた肉片は煙を出している。
ジュジュワーー!!
「カカカカカカカー!!!そうだそうだぁ!焼かれろぉ!燃えろぉ!カカカカー!!!」
勝ち誇った顔のフェニックス。
「あれ、なぜ煙が出てるの?」
エスティがつぶやく。
「カカカカカ!!煙が出ない訳ないでしょう!私の超高温の業火に焼かれているのですよ!なんという芳香で‥‥!!!!」
フェニックスは何かに気づいたのかあたりを見回す。
「油断したな!」
ザザン!
フェニックスの首が胴体から離れる。
「キョエェェェェェェエ!!!」
フェニックスは奇声を発する。
「き、貴様!!」
悔しそうに呟くフェニックス。
何が起こったのかわからないままスノウを睨みつけている。
「いったい何がどうなったんだぁ?」
ランプを擦りながらアレックスたちは戦況を見守る。
11/4 修正




