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<ケテル編> 131.人類のための教義

131.人類のための教義



 ヴェルガノたちがフルイドに案内されたのはスクールと呼ばれる場所だった。

 さほど大きくはない建物で日本で言えば体育館程度の大きさだった。

 いわゆる人類議会ヒューパラメンタルの教義を学ぶ場所らしく、中に入ると広めのロビーのような場所に30名ほどが壁を見ながら色々と話をしていた。

 大きな壁の中心には巨大な石板が立てられておりそこに文字が彫られている。

 その左側には小さな石板があり、どうやらこの施設の地図を表しているようだった。

 そして両脇にいくつかの羊皮紙が貼りだされていた。

 大壁の反対側には大きな階段があり、2階に通じているのが見えた。


 「ここは住宅に比べるとかなり大きめに作られているようだな」


 ヴェルガノがフルイドに質問した。


 「ああ。ここはこの危機的状況を生き残った人間たちに人類議会ヒューパラメンタルの教義をしっかりと伝えるための重要な施設なんだ。だからそれなりに必要な情報や、意見交換、それとこのシヴァルザに住む住民の管理も行っているんだよ。そう言うのが色々あってそれなりの大きさが必要だったって事だな」


 「管理?」


 「ははは。管理って言うとちょっと引くよな。なんか四六時中監視されるんじゃないかとか、生活が色々と制限されるんじゃないかとかさ。でもそういう意味じゃない。ここは目的に応じていくつかのエリアに分かれていてその内容を聞けば納得するよ」


 そう言うとフルイドは石板の横にある小さな石板の前に案内した。

 小さな石板にはこのスクールと呼ばれる施設のマップとその説明が簡単に書かれていた。



――――――――――――――――――


■ 1F: 人類議会ヒューパラメンタル教義を学ぶエリア

  ・人類議会ヒューパラメンタル教義の石板

  ・人類議会ヒューパラメンタル総合管理事務所

  ・人類議会ヒューパラメンタルセミナー掲示板

  ・会議室1~3

 

■ 2F: 研究会エリア

  ・終末ドグマ研究会

  ・植物育成研究会

  ・水循環設備研究会

  ・畜産研究会

  ・水産研究会

  ・適正日照カレンダー作成部会


■ B1F:終末ドグマの書保管室




――――――――――――――――――



 「見てもらって分かる通り、このスクールには大きく二つの役割があるんだ。ひとつは一階にある人類議会ヒューパラメンタルの教義を学ぶ場所だ。こっちの大きな石板がまさにその教義を書いたそのものなんだけど、シンプルな内容だけにそれをしっかり理解するには色々と意見交換をする場が必要でな。それをやるのが向こうに沢山貼りだされている羊皮紙に掛かれているやつだ。セミナーっていうらしいんだが、一人講師を決めてその人が学んだものや定義を整理した内容を説明して、参加している公聴者側が質問したりして意見交換をするんだ。その内容は全て記録されて、教義の補足資料として都度このシヴァルザ全体に共有される。管理っていうのはそれら情報の管理ってやつだな」


 「・・その教義ってのぁ、簡素に書いているだけあって解釈が色々とできちまうから、それを実例とか踏まえてもう少し具体的にしてるってのが、セミナーとかいうやつか」


 「そうだ。あんた中々賢いんだな。俺は初めて聞いた時は何を言ってんだが分からなかったぜ。教義を聞いて初めてこういう時はどう考えればいいんだとか出てきて、やっとセミナーの必要性ってのがわかったんだからな」


 フルイドはあまり賢い男ではないようだ。

 質問にきちんと答えられないのに自分エピソードをいちいち絡ませてくる会話が面倒な相手だと理解しヴェルガノは軽くため息をつき質問を変える。


 「それで2階は?」


 「お、おう。2階はこのシヴァルザを運営していくのに必要な研究を行っている場所だ。いくつかの領域で分科会的に研究が分けられて行われているよ。内容は書いてある通りで俺も詳しくは説明できないが、この限られた街の中で全ての住民の食料を自給自足し続けるための研究でとても重要なんだ。俺なんか全くそう言うの気にしなかったんだけどさ、ここへきて意識がコロッと変わっちまったよ」


 ヴェルガノはこのそれぞれの研究は今後のケテル復興に大きな利益をもたらすものなのではと期待をしたが、一方でそれが目的だとすればこういう研究で得られた手法や情報を握っている人類議会ヒューパラメンタルの力は更に増すだろうと思い、改めて人類議会ヒューパラメンタルの得体の知れない抜け目ない活動やなぜそのようなことが出来ているのかという謎から言いようの無い不気味さを感じた。

 そしてもう一つ聞くべき点があった。

 終末ドグマの件だ。

 これは一体何なのか。

 予言なのか、妄想なのか、いずれにしてもこのような街を風の大破壊ヴァシュヴァラ前に造り始めて大破壊直前で完成し、多くの人間が救われ大破壊前と同じように生活しているのは事前に風の大破壊ヴァシュヴァラを知っていないと出来ない芸当だった。


 (いや、もう一つあるか。この人類議会ヒューパラメンタルが風の大破壊ヴァシュヴァラを引き起こした可能性)


 ヴェルガノは首を軽く左右に振って自身の想像を否定した。

 そんな事を行える力が人類議会ヒューパラメンタルにあるとは思えない事と、もしそのような力があったらわざわざ大破壊で多くの人間の命を失わせるようなことはしないと思ったからだ。

 だが、それもヴェルガノの常識の範疇の想像でしかない。 

 ヴェルガノは情報収集をもっとしてから判断すべきと結論付けるのをグッと堪え質問を続けた。


 「この終末ドグマっていうのは誰でも見れるのかい?」


 「はっはっは!それは無理な相談だぜ。これは人類議会ヒューパラメンタルとして最重要情報の位置づけだ。俺たちみたいな一般民は見る事はできないし、見たら犯罪になると決められているよ」


 「へぇ・・じゃぁこの終末ドグマ研究会ってのは何をする会なんだい?」


 「ああ、これは終末ドグマの書を読んだマスター・ヒューが解釈の整理とそれに対する対応を検討させる会で、このシヴァルザにいる数名の戦略軍師の資質のある方が最高機密状態で研究してるんだ」


 「そうすると、カエーサルが毎回この内容の解釈を整理しろとか対応を考えろって言ったのを研究会とやらが検討しているってことか?」


 「お、おお、あんた飲み込み早いな。その通りだ。そこで出された新たな解釈や対応はマスター・ヒューが直々に全員に伝くれるんだ」


 「なるほどねぇ。じゃぁこの地下にある終末ドグマの書の保管室ってのぁカエーサルしか入れないってことで合ってるか?」


 「え?!お、おお、ま、まぁそうだな。他に入れる方いるっていうのは聞いてないからなぁ。だが、噂では何か不思議な文字で書かれていてそれを読めるのはマスター・ヒューしかいないっていうのは聞いたことがあるよ。つまり他のやつが忍び込んでも読めないから意味が無いってな。俺みたいな下っ端はここまでしか分からない」


 「可笑しいな。この人類議会ヒューパラメンタルにゃぁ上も下もないんじゃなかったのか?お前の今の言葉、明らかにお前は使われる側でカエーサルはお前らみたいなのに指示を出す立場だと聞こえたが?」


 「はっはっは!お前、何か勘違いしているよ。マスター・ヒューはそんな人じゃない。常に人間のことを考えて下さっている方だ。俺たちがのんびり酒飲めるのも、夜に家族との団らんの時間がとれるのも彼のおかげだし、俺たちがそうやって自分の時間を使っている最中もマスター・ヒューだけは人類のために働いている。彼は眠らないからな、って言うか、もう少し敬意を払ってカエーサルさんって呼べないのか?」


 「はぁ?!眠らない人間がいるのか?」


 「ん?!ま、まぁ、そう思うよな。俺も最初はそう思ったし。寝なくて済む人間がいるのか?もしかしたら人間じゃないんじゃないのか?ってな。だが、俺たちの前で会員の一人が同じ質問をしたんだが、明確に答えられたよ。マスター・ヒューは最近になって大病を患ってその時に睡眠をとれなくなられてしまったのだそうだ。その代わり、寿命が半分になってしまわれたらしい。俺は医者じゃないから分からないけどな」


 「ほぉぉ‥そんな病気があるのか。世の中広いんだな。って事はカエーサルは短命か・・それで最後の質問だが・・」


 「お、おいー!カエーサルさんだろう?!」


 「あーすまん。それで “適正日照カレンダー作成部会”  ってのは何なんだ?」


 「ああ、それな。それはこのシヴァルザにとってはとても重要な研究会なんだ。他の研究会で植物が効率的に栽培できるような日照時間や温度を特定し日照時間を調整するんだよ」


 「??」


 ヴェルガノはフルイドの言っている意味が理解できなかった。

 ウィンチも同様に怪訝な表情を浮かべている。

 トリアに至ってはほとんど話を聞いておらず、石板や羊皮紙のセミナーの案内を見ていた。


 「ははは!分かりづらいよな。これはな、太陽ってのは常に同じ高さで同じスピードで同じ角度で日照しているわけじゃないってのは知っているか?・・知らないか!」


 「いや、まぁ・・」


 ヴェルガノは文法が滅茶苦茶な説明にも関わらず上から目線の知らない情報のひけらかし圧を受けて怒りが振り切りそうになったが堪えた。


 「だろうな。実はそうなんだ。このシヴァルザは上から光と暖かさを注ぐ人工太陽と地下から汲み上げてる地下水がこの街で栽培している植物の育成の運命を左右しているんだ。つまり植物が最も効率的に育ち、少しでも長く生き続けられる日照量と水量を実現できれば、より多くの住民に食べ物を供給できるようになるってことだ。そのために人工太陽の動きを最適にしようって研究してるってわけだな」


 「へ、へぇ・・で、その人工太陽っつーのは何なんだ?」


 もはや自分に酔っている説明で内容もイマイチ入ってこないものの、もう少し情報を引き出せるとしてヴェルガノは我慢して質問を続けた。


 「はっはっは!そうだよな、人工太陽って言われても分からないよな!いい質問だ。これがこのシヴァルザを人類希望のオアシスとしている理由の一つだよ。人類議会ヒューパラメンタルにいる聡明な学者たちが作り上げた人類の英知の結晶なんだぜ!あれは小さな太陽と同じだ。それを動かして昼を作り出しているんだ」


 自分で作ったわけでも原理が分かっているわけでもないのにフルイドはドヤ顔で説明を続けた。

 ヴェルガノは怒りを抑えながら頷きつつ、この男にこれ以上聞いても情報は得られないだろうと思い質問はこの辺りで切り上げた。


 その後、巨大な石板の前に行き、そこに掛かれている人類議会ヒューパラメンタルの教義について説明された。


――人類議会ヒューパラメンタル教義――


  ・人間が誰に支配されることなく生を全うできる世界を作る


  ・人間は法の名のもとに平等が保証される


  ・法は人間のために人間によって作られるものであり、人間以外の作ったものは適用されない


  ・人間は他種族を侵略しない。ただし、人間の生活を脅かす存在には人間の尊厳と力の全てをもってそれに抗う


  ・それらを実現し維持し続けることが人類議会ヒューパラメンタルに課せられた宿願である


  ・人類議会ヒューパラメンタルに属する者は以下を必ず守ることが義務付けられ、守れない場合は然るべき罰を受ける


 <表教義>


   ⅰ)人類議会ヒューパラメンタルは如何なる人間の入会も拒まない。また如何なる人間の脱会も引き止めない自由意思に基づいた組織である


   ⅱ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は仲間を殺してはならない


   ⅲ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は困っている人間に手を差し差しのべることをためらってはならない


   ⅳ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は仲間と争わない。もし争いごとがある場合は正当な理由が必要となり、それが無い場合は罰則の対象となる


   ⅴ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者はいかなる公共のものを独占してはならない


 <裏教義>


   ⅵ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は如何なる情報も人類議会ヒューパラメンタルに属さない者に話してはならない


   ⅶ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は人類議会ヒューパラメンタルに属さない者を管轄する土地に入れてはならない


   ⅷ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は人類議会ヒューパラメンタルに属さない者の主義主張を信じてはならない


   ⅸ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は人類議会ヒューパラメンタルに属さない者から攻撃を受けた場合速やかにそれを撃退しなければならない


   ⅹ)人類議会ヒューパラメンタルに属する者は教義及び終末ドグマの内容を否定してはならない


―――――――――――――


「・・・・・・・・」


 (凄いな。まるで洗脳じゃないか・・・。特にこの裏教義ってのはやばいな・・・・これって禁則だよな。そして上位概念に守れない場合は罰則を受けるとある・・自由意思に基づいたものとは名ばかりなんじゃないのか?!)


 フルイドによれば裏教義とは根本的な思想を指すらしく、この裏教義が遵守できて初めて表教義を実践出来るのだという。

 ヴェルガノは驚きを隠せなかったが静かに頷くだけにした。

 ここで色々と質問をしたり、否定的なコメントをすれば目を付けられかねなかったからだ。

 その後の説明は人類議会ヒューパラメンタルの歴史など大した情報はなく、ヴェルガノ達は案内された地下街の食堂で食事を摂ることになった。

 地下街はスクールからも行ける様になっており広さは野球場くらいのもので入り組んだ通路沿いに様々な店が並んでいて賑やかな市場のようだった。

 ウィンチとトリアはその様子に感動してまた明日来たいと喜んでいた。

 食事は大破壊前と大きく変わらず野菜や少量だが肉も頼むことが出来た。

 久しぶりのまともな食事に3人は驚き感動した。

 嬉しそうに話している自分の子供のように思っているウィンチとトリアを見てヴェルガノは、この人域シヴァルザや人類議会(ヒューパラメンタル)を疑う事は果たして良い事なのかと自問していた。




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