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<ケテル編> 128.炎と風

128.炎と風



 目の前のテーブルには倒れない燭台の上に永遠に火を灯し続けられる溶けない蝋燭が乗せられている。

 そしてシルゼヴァに保管してもらっていたバルカンの灯火の入っている箱がその横に置かれている。

 ボレアスの風が消えないように必死に守っているバルカンの灯火が ”消えない炎” に変わる瞬間をスノウ、シア、シンザ、だけではなく、シルゼヴァ、ヘラクレス、キュレネ、サルぺドン、ジェイドも見守っていた。

 後はフラマによって消えない炎と共にバルカンの灯火をこのエターナルキャンドルに移してやればいい。

 やり方は難しくなく、フラマに消えない炎を吐いてもらいエターナルキャンドルに点火し、その炎にバルカンの灯火を混ぜ込むように移してやればいいとのことだった。

 消えない炎に取り込まれたバルカンの灯火はその炎の力を得て力強く消えない炎を灯し続けることになる。


 バサバサバサ‥チョン‥


 フラマは飛んできてスノウの左肩に乗った。

 スノウがフラマを見て笑顔を見せると、懐いているようにフラマはスノウの頬に頭を擦り付けた。


 「頼んだぞフラマ」


 「キュィィ!」


 「本当にやる事分かってるのか?こいつ」


 ヘラクレスが怪訝そうな表情を浮かべながら言った。

 それに対してシルゼヴァが答える。


 「朱雀種は鳥に見えるが、根本は違う。いわゆる神獣の部類に入る全く上位レイヤーの種族にあるから我らの言葉を理解しているのだ。下に留めてる喋る馬どもより賢いぞ」


 「そうなのか?」


 驚いているヘラクレスに対して、馬の姿をしているとはいえバリオスとクサントスは半神であるのに喋る馬扱いされて気の毒だなとシンザは思った。


 丁度その頃、地上の馬部屋では二人がくしゃみをしていた。


 場面は戻って、エターナルキャンドルを目の前にしているスノウの肩にいるフラマは、準備をしているのか何やら深呼吸めいたことをし始めた。


 「キュィィィ‥‥キュルルルゥゥ‥‥キュィィィ‥‥キュルルルゥゥ」


 ((か‥‥可愛い‥‥))


 可愛い呼吸音に加えて一生懸命に深呼吸している姿に、シルゼヴァとシア以外は思わず応援したくなる雰囲気になっていた。


 バサッ!


 そしてスノウの肩から降りてバルカンの灯火がある箱の縁に立った。


 「キュィィィ‥‥キュルルルゥゥ‥‥キュィィィ‥‥キュルルルゥゥ」


 しきりに一生懸命な深呼吸を繰り返している。


 「ぴゅぅぅぅぅぅぅ」


 次の瞬間、フラマは息を吐き切っているような仕草をした。


 「お、いよいよか!」

 「静かにしろヘラクレス」

 「だってよ」


 スノウが小声を荒げてヘラクレスに黙るように言った。


 モアァァ


 ゆっくりと小さな嘴を開いたかと思うと、自分の体以上に大きく口を開いた。

 その突然の不気味な変貌ぶりに恐怖に慄く表情を浮かべた。

 そして次の瞬間。


 パクッ!


 「あ‥食べた」


 『ええええええええ〜〜〜〜!!』


 一同は目が飛び出るほどギョッとした表情を浮かべたあと、一斉に叫んだ。

 なんとフラマがボレアスの巻き風もろともバルカンの灯火を食べたしまったのだ。


 「わっはっは!食べやがった!」

 「おいハーク!こいつの首を斬れ!」

 「やめろ!斬るなよ!」

 「ど、どうすりゃいい!」

 「何ボサッとしてるのシンザ!早く吐き出させなさい!」

 「で、できるわけないでしょう?!」


 あまりの予想外の展開にヘラクレスは大笑い出し、事態の収拾を図ろうとシルゼヴァが無茶なことを言ったのに対してスノウが制し、おろおろするサルぺドンの横で無茶振りをするシアに困り果てるシンザがいるという動揺ぶり。

 キュレネとジェイドに至っては寝ずに蝋燭を作り上げた苦労が水の泡になったショックが大き過ぎて泡を吹いて倒れてしまった。


 ドン!ドン!ドン!


 「わっハブぇ!!」

 「おい!とにかく!その鳥を!捕まえろ!こうなったら!俺がその首を!捩じ切ってやる!」


 シルゼヴァはブチキレモードに入ってしまったようで怒りで叫びながらヘラクレスの腹にすさまじい勢いで何度もパンチをぶち込んでいる。


 「きゅるるるぁぁぁぁぁ!!」


 するとフラマがけたたましいほどの鳴き声を発した。


 ブクゥゥゥゥ!


 そして胸を異常なほどの膨らませている。


 「ポッパァァァ!!」


 何かが弾けるような甲高い音と共にフラマの口から炎の玉が吐き出された。


 「‥‥‥‥」


 一同の動きが慌てふためいていた状態で止まる。

 全員不自然なポーズのまま炎の玉の行方を見守る。


 シュゥゥゥゥ‥‥‥ボッワ!!


 するとエターナルキャンドルの先端に向かってゆっくりと進んでいき、なんとキャンドルに火がついた状態になった。


 「あ、ついた」


 『おおおおおお〜〜〜〜〜!』


 皆固唾を呑んだ状態から一気に歓喜に沸いた。

 泡を吹いて倒れていたキュレネとジェイドは抱き合って飛び跳ねている。


 「成功だ!こりゃぁ成功だろ!」


 「当たり前だ。俺が確認して俺が指示をしたんだ。成功するに決まっている」


 先ほどまで腹にパンチラッシュを入れられていたヘラクレスが喜ぶと、シルゼヴァは先ほどのブチギレモードから打って変わって何故かドヤ顔になっている。


 「バルカン!」


 そしてスノウは目の前で力強く燃える炎を見て思わず涙を流しながらバルカンの名前を叫んだ。


 カタカタカタカタカタ‥‥ブオオオオオオォォォォ!!


 すると、突如炎が巨大で荒れ狂った状態となり周囲に高熱を帯びた暴風が吹き荒れ始めた。

 まるで炎でできた竜巻のように部屋中に広がり始める。


 「やべぇぞ!部屋の端に寄れ!」


 ブオオオオオオォォォォォォォォォ!!


 羊皮紙の書類やペン、小道具などが吹き飛び書類は炎で一瞬のうちに燃え尽きた。


 「おいシルズ!どうなってる!」


 「火が付くとキャンドルは暴れると言っただろう!いちいち俺に質問するな!」


 「馬鹿か!これ暴れてるとかいうレベルじゃねぇって!」


 ブオオオオオオォォォォォォォォォ!!


 部屋の中心ですさまじい密度の炎の竜巻がかなりの熱を発しながら暴れている。


 「出口に近いやつは部屋から出るんだ!」


 スノウが指示を出す。

 だが炎の竜巻から生じる稲妻のような電撃でなかなか扉まで移動できず誰も部屋から出ることができないでいた。


 ブオォォォォォォ‥‥


 ヘラクレスやシルゼヴァは着ている服に火がついたらすぐ消すを繰り返しながら腕で顔を覆って必死にガードしているようだが、然程ダメージは受けていないように見えた。

 一方シンザ、サルぺドン、キュレネ、ジェイドは衣服も燃え始めた上、かなりの熱風で息苦しくなったようで悲痛の表情を浮かべて床に座り込んでしまった。

 スノウとシアだけは風で髪や服が激しく靡いているものの、何故かまるで熱くないかのように平然としていた。


 ブシュウオォォォォォ‥‥‥


 次第に炎の竜巻が収まっていく。


 ブシュゥゥォォ‥‥シュゥゥゥゥゥン‥‥パシュ!


 そしてついに異常なほど濃い赤をしている小さくも力強く安定した輝きを見せている炎に落ち着いた。

 炎の周囲には風の渦が回っている。


 ヒュゥゥゥゥゥゥン‥‥


 そしてレムゼブルノーの燭台は宙に浮いた状態となっている。


 「なるほど‥‥これなら倒れようがないですね」


 シンザがつぶやいた。


 ドン!ドン!ドン!


 「おぶぇ!ぼう!ごぼ!」

 「あいつは!俺が!間違ったという!指摘を!遠回しに!してんのか!」


 シルゼヴァはレムゼブルノーの燭台が倒れない理由を形状によるものだと説明した内容と違う結果になった事に対し、シンザが嫌味のように指摘したと思い込んだのかブチギレながらヘラクレスの腹にパンチをなんどもぶち込んでいる。


 「これでやっとバルカンが死のリスクから解放されたな」


 スノウが再び涙を流して喜びながらつぶやた。


 「そういえばボレアス神はどうしたんですかね」


 自分の出番が来たとばかりにシルゼヴァはヘラクレスへの腹パンチをやめて説明し始めた。


 「恐らくやつはバルカンに取り込まれた形になっているな。フラマがバルカンの火とボレアスの風を丸ごと飲み込んだ時に一体化したんだろう」


 「ボレアス神がバルカンさんの炎を乗っ取ったって可能性はないですか?」


 「それはない。ボレアスにそこまでの力は残っていなかった。あやつは最後の力を振り絞ってバルカンを生かす道を選んだのだ。そしてエターナルキャンドルにバルカンを移し終えたら消滅するつもりだったのだろう。だが、思わぬ展開でフラマの消えない炎の力を取り込んだバルカンの炎によってあやつの中で生かされた形になったようだ」


 シンザの素朴な指摘にスノウは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、シルゼヴァの指摘で安心する。


 「なるほど。これで時間ができたんだが、シルゼヴァ。バルカンを元に戻すにはどうすればいい?」


 「元に戻すなどできるわけがないだろう?」


 「え?!」


 「驚く話か?肉体はゼウスによって消し炭にされて風と共に消え去ったのだぞ?その肉体をどうやって元に戻すのだ?」


 「じゃ、じゃぁ‥‥バルカンはこのままだってのか?!」


 「不服か?」


 「当たり前だろ!おれは‥‥」


 スノウは本当に言いたいことを飲み込んだ。


 「おれたちにはあいつが必要なんだ‥‥」


 スノウは苦しそうな表情を浮かべた。


 「頼むシルゼヴァ!教えてくれ!どうしたらバルカンを元に戻せるんだ?!」


 「お前は馬鹿なのか?元に戻せないと先ほど説明したろう?一体こいつをどうしたいのだ?」


 「!‥‥‥一緒に冒険をしたい‥‥色んなことを語り合ったり、共に魔物と戦ったり、剣の稽古もしたい‥‥い、いや‥‥あいつは親友なんだ‥‥。だから‥‥」


 スノウは苦しそうな表情を浮かべて言葉を詰まらせた。


 「自分の無力さで死なせてしまって申し訳ないと詫びを入れようとでも思っているのか?くだらんな。まぁいい。つまりお前の言う “元に戻せ” というのはバルカンの精神体をベースに実体があり人のように共に行動し、会話ができ、戦うこともできる。それができればニンゲンの体そのものに戻す必要はないという事でいいんだな?それならば方法はなくはない」


 『!!』


 シルゼヴァのいう事が正確には理解できなかったが、希望でスノウの表情が変わった。


 「どうすればいい?!」


 「はるか昔の古代の文明では物に精神を宿し命をつなぐ技術があったと聞いた事がある。オリンポスの神々が書いた書物をかなり昔に見た事があるのだ。アルカ山山頂の神殿の図書館に行けばまだその書物は残っているはずだ。あそこは風の大破壊ヴァシュヴァラの影響を受けないからな」


 「!」


 「なるほど。だが厄介だな。あそこにはペルセウス率いるセプテントリオンってのが陣取っているからな。ちょっと本借りに来ましたなんつって入れる状態でもないだろう」


 「神々が居座っている時よりはマシだろう。なんならペルセウス以下全員殺してしまえばいい」


 「わっはっは!そんときゃ俺も戦うぜシルズ!面白そうだ!一度あいつのキザっぽい顔を怯えた顔にしてやりてぇんだよな」


 ヘラクレスの割り込みを無視してスノウが質問する。


 「それじゃぁその古代の技術を記した書物を見ればバルカンを何か物体に宿して復活させることができるってことか?」


 「そうだ。その書物を見れば俺でもお前でもバルカンの精神ほのおを何かに移すことができるだろう。確か生物でも可能なはずだ。その時はその体の主である精神体よりも強い力、つまり強靭な精神力と精神エネルギーを持っていないと逆に取り込まれてしまうらしいがな」


 「それじゃぁ人にも移すことができるってことか‥‥」


 「でもスノウ。それはいずれ朽ち果てる死人じゃだめよきっと。生きているニンゲンに移す必要があるわ。‥‥そしてその意味‥‥分かるわよね‥‥」


 「‥‥‥‥」


 「そのニンゲンの精神が取り込まれて消滅するということはそいつが死ぬってだけのことだ。何の問題もないだろう。いや、問題はあるな。その書物の内容が面白かったから実験するのにへパイストスの助けを借りようとしたんだが、やつが言うには強靭な精神体を宿すには強靭なボディが必要らしいのだ。今のバルカンは永遠に消えない炎という強い力を持っている上、神であるボレアスも取り込んでいるとんでもない代物になっている。そんな精神エネルギーに耐えられるニンゲンはいないだろう。もちろん半神でも無理だ。神ならあるいは‥‥だが、神の肉体は神の精神体があって初めて強靭な肉体となるから神の精神体が消滅すれば肉体も簡単に滅んでしまう。つまり見合った入れ物がないわけだ」


 「くっ!」


 せっかく見えた希望の火がまた消えかかってしまった。


 「だが物なら話は別だな」


 「!‥‥どういう意味だ?」


 「ヘパイストス曰く、強靭な肉体というのは中々見つけることは難しいのだが、物であれば選択肢は増える。例えばオリハルコンやアダマンタインなどがそうだな」


 「聞いたことがある」


 スノウは雪斗時代によく見たファンタジーものの映画などでよく聞いていた固有名詞だったので反応した。


 「オリハルコン‥‥アダマンタインか‥‥ケテルでは聞いたことがねぇなぁ」


 ヘラクレスが手を顎に当てて何かを思い出そうとするような仕草で言った。


 「聞いたことがあろうがなかろうが探すしかないだろう。そしてその金属を使って体を造ればいいのだ。時間はたっぷりあるだろう?ケテルにないなら越界でもなんでもして探せばいい」


 「俺たちも手伝うぜ」


 サルぺドンがそう言うとキュレネやジェイドも笑顔で頷いた。


 「ありがとうみんな。よし、シア、シンザ。これからおれ達レヴルストラの目的はバルカンが復活するために耐えられる神話級以上の金属を探すことになる。シルゼヴァの言ったようにケテルになければ別世界に越界してでも探さなければならない。そうなれば越界する方法も見つけなくてなならない。みんなと合流しよう」


 「ワサンやソニック、ソニアたちですね」


 「ああ」


 「そういえばソニックさん神領アイオリアで大統領になったらしいですね」


 どこかで情報を入手したのかジェイドが言った。


 「そうなのか?」


 「大統領か。ソニックならうまくやるだろうなぁ‥‥」


 「何になっていようが関係ないわね。マスターが新たな目的を掲げたのならメンバーはそれに従って動くのみよ。大統領なんてくだらない職などすぐにやめれば済むことだわ」


 「わっはっは!いいこと言うじゃねぇかフランシア!その通りだぜ!」


 「そうと決まれば準備をして早速明日ナーマに向かって出発だ」


 尽きかけていたバルカンの命を繋ぎとめ、さらに復活の可能性も見出したスノウは気持ち新たにレヴルストラ4thメンバーと共にまた旅を続けるのだと気合を入れた。

 だが、変わり果てたケテルで暗躍する複数の勢力はレヴルストラの面々を巻き込んでこれから大きく動き出す。

 この時のスノウはまだそのことを知る由もなかった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

次のアップは木曜日の予定ですが、日付跨ぐ可能性あります。

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