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<ホド編>31.フェニックス降臨

31.フェニックス降臨



 ヴィマナはダンジョン転送可能域に到達した。

 行きは転送可能域ギリギリから転送する。

 おそらく転送先のダンジョン階層は5階あたりになるはずだった。

 帰りはニンフィーの念話で合図を送りギリギリまでステーションに近づいて転送する。

 40階層くらいまでならギリギリ拾える距離らしい。

 フェニックスは65階層だ。

 つまり25階分を一気に上がっていかなければならない。

 三足烏サンズウー・烈との戦いは熾烈を極めることになるだろう。

 しかし戦いは上層を目指し移動しながらとしたい。

 当然三足烏サンズウーもそれを阻止すべく、対峙した階層に止めて戦おうとするだろう。

 全滅の可能性が出てくる場合、プランBとして全員が盾となりスノウを一人上層へ送ることになる。

 なんとしてもそれだけは避けたいとスノウは思っていた。


 「さぁ着いたでガスよ。ここが最も遠い位置になるザマスが、おそらくダンジョンの6階層には飛ばせるでガスよ」


 「あぁ、エネルギーはなるべく抑えたいからなぁ。送るのは1階層でいいぜぇ。どうせ行きに攻めてくるこたぁねぇだろうしなぁ。まぁゆっくり行こうぜぇ、はっははー」


 脳天気に聞こえるが理にかなっている。

 焦っていく必要はなく、なるべく体力を温存しながら進むべきだった。

 その後すぐ、レヴルストラ一行はヴィマナ転送室に向かう。


 「さぁ飛ばすでガスよ!」


 ガースが転送装置を操作する。


 「お前ら!」


 突然ガースが大声を出す。


 「生きて帰ってこいよ!」


 全員拳を前に出し無事の帰還を誓う。

 全員に、そして自分自身に。



・・・・・


・・・



―――ダンジョン1階―――



 1階〜20階程度の上層階は雑魚魔物しかいない。

 魔法を使う必要もなく、疲れることもなく容易に進むことができた。

 53階層から落とし穴を通って65階層にでるコースになるが、それまでに2回野営することになった。

 要は2日かけて65階まで行くということだ。

 45階層の廃墟の町エリアと65階層のフェニックスに対峙する前の2回だ。

 フェニックス戦、そして三足烏サンズウー戦に向けてなるべく体力を温存しながら進みたいということと、新しい武器に慣れるために少しでも時間を取りたいというのが理由だった。


 「さぁて、じゃぁ行くかぁ!そういやフルメンバーで一緒に出るのはこれが初めてじゃぁねぇか?」


 「そうねぇ。あたしはスノウボウヤと二人が良かったんだけどねぇ、ウフフー」


 「断る」


 スノウは身震いしながら答えた。

 イルカ女と二人きりというのもう避けたいところだが、何よりあのスパルタ単純戦闘の連続はもう嫌だ、というのがスノウの本音だった。


 「あららぁ歓喜に震えてるの?体は素直に反応してるわよぉ、かわいいわね、ウフフー」


 ギロリ!


 (なぜに?!)


 ニンフィーとエスティがなぜかスノウを睨んだ。


 「拒絶反応だ!いるか女!誤解されるような表現やめろ、マジで!」


 (マジでイラッとする。少し離れて歩かないと‥‥)



・・・・・


・・・



 しばらく進むと低レベルの魔物が現れる。

 数ヶ月前に初めてダンジョン入りした時、スノウは命を奪うことに対する衝撃をうけた。

 しかし今は慣れてしまっている。

 生きるか死ぬかの瀬戸際を突っ走ってきたからか、 “自分が生き残るため”  というのを理由に正当化してきたからか、命を奪うことに対して鈍感になっている。


 (いや‥‥待てよ。三足烏サンズウーって魔物じゃないわけだから、初めて人と戦うってことじゃないか!

今までの魔物を殺すのと訳が違う‥‥)


 「鼻くそ童、今更何を考えてるんだ?魔物を殺すのも人を殺すのも同じことじゃないかえ?」


 「同じじゃないだろ!ってか勝手に人の心読んで反応するんじゃねぇ!ババァ!」


 「おやおや、腰が引けたかい。いいか童。魂の形を視るんだよ。見えてるものに惑わされるな。輪廻転生、人間がずうっと人間に転生し続けるとでも思っているのかい?元々人間だった者が来世では魔物になっていることなんてザラにある。逆も然り。お前は人という肉体と魔物という肉体で殺して良い存在かを決めているのかい?だとしたら童、お前はこの先必ず自ら命を経つほどの罪悪感に押しつぶされて死ぬね」


 「‥‥‥‥」


 (いちいち正論を言うババァだ。でも魂を視るつったって一体どうやりゃぁいいんだよ!自分ができるからって偉そうにいうなっつーの。だいたい1000年も生きてるって事はそう言うの見られるのも相当時間掛けたからだろ?

おれなんてたった数ヶ月前にこういう状況に放り込まれたってのにそんな短期間で魂の形?なんて見れるかっつーの!)


 「やっぱりお前は鼻くそだね。考えない生き物はただの肉の塊だよ。いいかい?勝手に死なれると困るから言うけどねぇ、色や形やオーラや人それぞれ魂の視え方は違うのさ。要は相手の存在の核を視ようとする意思が大事ってことだ。あとはその視えている魂をどう仕分けるかだね」


 (見えるかぁ!!じっくり見たって毛穴しか見えん!しかも仕分ける?なんだそれ!)


 「お前馬鹿者だねぇ。殺していい存在と殺してはならない存在に仕分けるって意味だよ。善と悪、信仰の違い、自分の直感で動く、様々にあるだろう?そういう自分の決めた掟みたいなものが持てない限り、さっき言ったように罪悪感で死んじまうね。そん時は早めに言うんだよ?あたしはとっとと他の体に乗り移るからねぇ、キョトト」


 ザババン!


 おれはゴブリンやコボルドといった低級魔物を切りながらオボロと会話し考えている。


 (確かに大義名分ってやつは必要だな。おれはなぜ殺すのか‥‥か。なんだかわからないが、この答えが出た時、自分がこの世界で目指す目標が見つかる気がする。今は未だ、言ってみれば誰か他人の意思に乗っかっている感じだ。レヴルストラのみんなの意思に乗っかっている)


 スノウは改めて自分が何のために戦っているのかを考えられていないことを認識した。


 (おれは本当にヴィマナを飛ばしたいのか?いや違う。このレヴルストラのみんなが好きだから何か役に立ちたいと思って行動しているだけだ。‥‥でももし、こいつらがいなくなったら自分は空っぽになってしまうのか?)

 

 スノウの頭の中で様々な考えが錯綜する。


 (今は考えても仕方ないな。まずは突き進むだけだ。自分が何者かもわからないこの今の状況で、 ”おれはこうしたい!”  と言ってもそんなの嘘っぱちだ。まずはこいつらと突き進む!それでいい。そのために三足烏と戦う!人を殺すかもしれない。綺麗事は言ってられないからな。今は自分の信じる者のために戦うというのがおれの大義名分だ)


 スノウの気持ちはいつの間にか整理されていた。


 (悪くないねぇ。馬鹿は馬鹿なりに考えてるってことかねぇ)


 オボロは心の中で少し微笑んだ。



・・・・・


・・・



 レヴルストラ一行は順調に進んでいく。

 素市ダンジョンでの修行の成果もあり、40階層を過ぎ中層階に入って以降も戦闘に苦労することはなく、大した体力消費もないまま45階層に到着し1回目の野営を張ることにした。

 獲物はメンバーがそれぞれ狩ってきており、調理担当のライジに渡される。


 「ちょ、みなさんどんだけ食うんですか?って狩ってきてるの動物だからほぼほぼ肉だしこんな量持ってこられても食べきれないでしょ!」


 「まぁそー言うなってぇ。うまい料理って言ったらお前ぇしか頼れねぇんだしよぉ、黙ってとっとと作ってくれや」


 「なんでこうもみんな素直に褒めないんでしょうかね。雑なんですよ扱いが!」


 そう言いながらまんざらでもないライジ。

 戦闘は皆に遅れをとっているが、ちゃんと活躍の場はあるってことが本人にはことのほか嬉しいらしい。

 

 大量の料理が用意され、なんだかんだで食べ尽くされていた。


 「あぁ食ったなぁ。さぁてお前ぇらはもう寝たほうがいいぜぇ。明日もあるが、なるべく体力はマックス維持した方がいいからなぁ。見張りはおれとエントワで交代でやるから安心しときなぁ」


 「あら珍しい、気前がいいのねぇ。それじゃぁ遠慮なく休ませてもらうわぁ」


 ロムロナの一言でアレックスとエントワ以外は寝袋に入り眠りについた。



・・・・・


・・・



 そして次の日も順調に進む。

 53階層から落とし穴を経由して65階層まで来た。

 まだ中層階であるにも関わらずだいぶ下層階に近づいているからか魔物の強さはかなり上がってきているが、今のレヴルストラメンバーにとって大した差ではなかった。

 そして一行は巨大な扉の前まで来た。


 「ココガフェニックスノイル部屋カ‥‥」


 「どうやらそのようですね。気温に変化はないようですが、この重厚な扉を見るに間違いないでしょう」


 「よぉしお前ぇら。ちょっと戻ってくぼみのあったところで野営を張るかぁ」


 やはり三足烏サンズウーは襲ってこない。

 のんびり動いているように見えるが、実はいつ攻撃されても良いようにロゴス系の感知魔法で警戒し続けていた。

 そのせいもあり体力的には全く疲労はないが精神的には多少疲れも出始めている。


 「さすがにここまで来て襲ってくることはないわね。とは言え警戒は怠れないから順番に休みましょう」


 おそらく最も魔力の高いニンフィーが皆を気遣って精神的にもゆっくり休むよう促したのだろう。

 ニンフィーの魔力で三足烏サンズウーほどの存在を見逃すはずはない。

 1日目と同様にそれぞれが狩ってきた獲物をライジがぶつくさ文句言いながら嬉しそうに調理し、同様にそれらを皆で平らげた。


 「よし。じゃぁみなさん、今日も私と若で交代で見張るのでゆっくり休んでください」


 「必ず休めよぉ?明日はしんどくなるぜぇ」


 灯を消しアレックスとエントワを残しみな就寝する。



・・・・・


・・・



 「ねぇ、あの‥‥まだ起きてる?」


 誰かがスノウに声をかけてきた。

 声をかけてきたのはエスティだった。


 「あぁ、起きてるよ。どした?緊張で眠れないとか?」


 「はぁ?!誰が緊張するっていうの?そんなわけないでしょ!馬鹿だわね!」


 エスティは一気に顔を赤らめて恥ずかしそうに慌てふためく。


 (おれそんな恥ずかしがること言ったか?)


 「あぁ、ごめん。聖騎士隊副隊長だもんな。緊張なんてしないか‥‥」


 エスティはなぜか突然落ち着いたようでゆっくりと話し始める。


 「元‥副隊長ね。聖騎士隊はなくなっちゃった。代々ヴォヴルカシャ王家と国を守ってきた聖騎士隊。元老院の策略で王家が没落して以降、聖騎士隊は辛い思いを隠しながら元老院に仕えてきた。いつの日かもう一度ヴォヴルカシャ王政を復活させて元の平和で貧困の少ない世の中にするために元老院に仕えるふりをしながら国民を守ってきたの。そんな聖騎士隊もなくなっちゃった‥‥」


 「そっか‥‥」


 こう言う時イケメンは気の利いたことを言って慰めるのだろう。

 だが、真逆の人生を送ってきたスノウにとってかける言葉は見つからない。

 とは言え、目の前でしんみりされて沈黙が続くのも耐え難い。


 「あ、あの‥‥。なんていうか、わ、わからないと思うけどサラリーマンってやつをやってきたおれには王家とか元老院とかそういうのよく分からないんだけどさ、役職っていうか立場を誇示してる人ってなんていうか、あまり尊敬されなくてさ」


 (やべぇ、おれ何話してんだぁ?)


 「その‥日々の仕事ぶりとか部下との接し方とかさ、そういうところが尊敬されるっていうか‥‥。つ、つまり、周りの人たちの認識はさ‥‥どう言う立場かよりどう行動するかで決まるっていうか。‥‥ええっと、聖騎士隊はなくなっても聖騎士隊がやってきたことは人々の心に残っているわけで、改めて聖騎士隊ってのを作るのは大変かもしれないけど、三足烏サンズウーとか元老院とかそういう悪党をぶっつぶしたら、また聖騎士隊作ればいいんじゃないかな?そこにエスティがいればみな喜ぶと思うんだよな‥‥それだけ聖騎士隊がやってきた事っていうのは皆の心に残っているって思うから‥‥なんつって」


 (”なんつって” って!?おれ、”なんつって” って言ったか?!ダサすぎる!カー!!!恥ずい!)


 「スノウ‥‥ありがと‥‥そうだよね‥‥私たちがやってきたことって皆の心に残っているよね‥‥。そだね!聖騎士隊‥なくなっちゃったけど、また作ればいいよね!」


 (ってなんで私逆に励まされてんの?スノウを元気づけるために頑張って声かけたのにー!)


 「そうそうその意気!頑張って!よし寝よう!」


 (ふー。やばかったぜぇ!上手くスルーされた!人生の汚点だ。自分の口からあんな恥ずい言葉がでるとはな!2度とこういうのやめよ。まじで寒い!)


 「えっとね‥‥、なんかこの間ロムロナから聞いたんだけどさ、スノウ‥‥英雄神と同一視されるのがいやで悩んでるんだって?」


 「ん?あぁ、そうだね。なんつーかさ。その英雄神って神?相当すごい存在なんだろうけど、それをおれに期待されても困るつーか、英雄神なら大丈夫的な感じで何かを押し付けられて、それでおれが死んじゃったりしたらどうすんだー!みたいな感じで思っててちょっとしんどかったんだよな‥‥‥」


 「うん‥‥」


 「死ぬのはもちろん怖いし嫌だけどさ‥‥なんていうか、期待に答えられないとかで死んじゃう事で、役立たず的な感じでレヴルストラのみんなにがっかりされるのが凄く息苦しいっていうか‥‥‥」


 「うん‥‥」


 「でもこの間の世界竜から呪詛を受けた時になんだかおれ一人で気負ってたっていうか‥‥‥みんな英雄神の生まれ変わり的な感じで見てたわけじゃなく、おれ自身をちゃんと見てくれてたんだなぁってのがわかって吹っ切れたっつーかさ」


 「そっか」


 「そんな皆の思いは知らずに皆を責めたんだけど、そんな気持ちも知らずに自分勝手に責め立てたことに腹がたったというか申し訳なかったというか恥ずかしかったというか‥‥‥まぁそんなんでちょっと沈んでたんだ‥」


 「そっか。じゃぁ私がちょっとお節介だったね」


 「あ、いや!そ、そんなことないよ。気にしてくれてたんだよな‥‥‥‥あ、ありがとう、エスティ」


 エスティの顔が一気に赤くなる


 「な!や、やめてよ!お礼なんて言われる筋合いないわよ!大したことしてないんだから!馬鹿だわね!」


 (馬鹿?なぜに怒られた?!よくわからんやつだ‥‥相変わらず)


 「ま、まぁ今は吹っ切れてるから大丈夫だよ。素市ダンジョンでの度重なる戦闘で体動かして集中しまくったのもあってさ。もうすっかり英雄神とは全く別人のスノウとしてここにいるわけです、はい」


 (なんだぁその言い方‥‥‥気持ちわりー。職場で女子社員にそんなこと言ったら一気にキモいやつって話題になる感じだー。あーないわー)


 「ははは、そうね。全くの別人ね!そうよ、スノウがあの英雄神なわけないもん。英雄神だったらもっとイケメンのはずだしねー」


 「おい!」


 『ぷ‥‥ぶははは!』


 ひとりは勝手に恥ずかしがり、もうひとりは顔を赤らめて怒り出す、訳のわからない会話だったが、最後は二人笑っていた。

 明日がとてつもない修羅場と化すことを知ってか知らずか束の間の和みの時間だった。


 「うるせぇなぁ!‥‥はべばばから‥‥なになべ‥‥‥‥」


 その声に振り向く二人。

 目線の先はライジだった。


 「ははは」


 ライジの寝言か。


 ゴチン!


 せっかく寝てるライジにパンチ食らわすエスティ。

 寝言でも生意気な口を聞いたらお仕置きか、とスノウは苦笑いした。

 

 (恐ろしい女だ。絶対に怒らせてはならない部類だな)


 スノウは肝に銘じたところで眠りに就く。



・・・・・


・・・



―――翌朝―――



 「さて、ここからが本番です。言うまでもありませんが、フェニックス戦は助走です。全力を出すのはその後の三足烏サンズウー烈との戦いです。ということでフェニックス戦はスノウ殿に戦いの中心となって動いていただきますのでみなさんはサポートに回りながら極力体力と魔力を温存するように」


 ”んなことたぁわかってるよー”  と言いたげなメンバーたち。

 しかし今回ばかりは簡単ではない事も分かっている。

 表情から決意の表れのような熱気が伺える。



 「よぉしお前ぇら!いくぜ!」


 アレックスは巨大な扉に両手をかけ押していく。

 重い扉のため腕の血管が浮き上がる。


 ゴギギギギイ‥‥‥‥


 少しずつ扉が開いていく。


 ドーーン!


 扉が完全に開いた。

 部屋はだだっ広く中央に聖火台のようなものがあるだけで他に扉も道もない。

 辺りを見回してもフェニックスどころか魔物一匹すら見当たらない。


 「イネェナ。ドコカニ隠レテヤガルノカ?」


 「お馬鹿なやつらよのなぁ。まさか不死鳥を呼ぶ方法も知らずにきたのかい?」


 突然スノウの髪に細長い目が表れ喋り出す。


 「またババァか。何か知ってるなら早く教えろよ」


 「鼻くそ童。相変わらずお前は礼儀がなっとらんねぇ。代わりの器が見つかり次第八つ裂きにして貪り喰ってやるから覚えておきな」


 「わかったよ。それでいいから教えてくれ」


 「ふん‥‥。中央に大きな灯籠があろう?そこに火を灯すんだよ。あやつは日の鳥の化身。器を与えてやらねば化身の精神体はお前たちには見えなんだ」


 「なるほどねぇ。オボロねーさん物知りねぇ。あとでスノウボウヤの弱点も教えてねーウフフ」


 「よかろうて、妖女。つまらん小物だけに弱点だらけゆえ一刻ではすまんがよいかえ?」


 「ええ、いい‥」

 「どーでもいいから早く火ぃつけてくれ!」


 スノウは面倒くさいという思いで会話に割って入った。


 「私が行くわね」


 ニンフィーがリゾーマタの炎系クラス1魔法のフレームレイを魔力を抑えて唱える。

 炎の熱線は空中で塊となり火の玉となって聖火台の方へ飛んでいく。

 炎の球が台に触れると静かな空間に機械音のようなものが響きわたる。


 キィィィィィィーーーン


 ボッ‥‥


 灯籠に薄っすらと炎が灯る。


 「お前ぇら!準備はいいかぁ!」


 「ああ!」


 「‥‥‥‥」


 「‥‥‥‥」


 「何も‥‥起こらないなぁ‥‥」


 「なんだかあったかい」


 「ホッ‥‥」


 「は!!」


 和んでいる場合ではなかった。

 しばらく燃え続けた後火は徐々に小さくなる。


 「おいおい、消えちまうんじゃないかぁ?」


 「デカイの。そうあわてるんじゃぁないよ。せっかちな男は嫌われるっていうじゃないか。もう少しまちな」


 「はいぃ」


 オボロの言葉にアレックスは素直に返事をした。

 そのような素直なアレックスも珍しい。

 意外と相性がいいのかもなとスノウは思った。

 肝心の炎はどんどん小さくなっていく。


 「ああ!消えちゃう‥‥‥」


 エスティがそう呟いた次の瞬間。


 ドッボアァァァ!!


 突然巨大な炎が沸き起こる。

 炎の高さは5メートルほどにも及んだ。

 周辺の温度が急激に上昇し、近くにはいられないほどの暑さになってきたらしく皆後退りしながら炎を見続けている。

 不思議とスノウだけは熱く感じていない。

 これがヨルムンガンドの加護の力か、とスノウは思った。


 「暑いというか熱い!」


 「これほどとは!」


 「は!不死鳥なめるんじゃないよ!姿が現れたらこんなもんじゃ済まないよ。ほれ、デカイの。お前闇のランプもっていたろう?それを早くだしな!じゃないとお前ら全員黒焦げになるよ」


 「はい!おばーちゃん!」


 オボロの呼び方はこの際一旦置いておいて、アレックスはバックパックから闇のランプを取り出し前方の炎の方へかざしてみる。


 「デカイの、お前使い方を聞いてこなかったのかい?馬鹿者だねぇ。かざすんじゃないよ。こするんだよ。蓋の周りをねぇ」


 (擦る?ランプの精とか出てくるんじゃぁないだろうな?)


 スノウはアレックスとオボロの会話を聞きながら想像した。


 「はい!おばーちゃん!おれぇこする!」


 アレックスの頭がおかしくなったのかという疑問は一旦置いておいて、アレックスがランプの蓋の当たりを擦ってみるランプに吸い込まれていく風を感じる。

 なんとランプが熱風を吸い込んでいるようだ。

 火を吸い込むものだと思っていたが、熱を吸い込むランプのようだ。


 「熱風は不死鳥の体の一部ではないからねぇ。熱はなんでも吸い込んじまう優れものだから熱風も吸い込んじまうのさね。だが使い方には気をつけるんだよ?このランプは諸刃の剣。使い方間違えて凍りついて滅んだ国があるっていうくらいだからねぇ」


 「はい!おばーちゃん。こすり方気をつけるぅ!」


 アレックスが馬鹿になった点についてはもはや無視するとして、炎に目をやる。

 炎はさらに大きく燃え盛る。


 ゴワァァァァ!!


 「何か気配を感じる!」


 「ああ!いよいよくるぜぇ!」


 「全員陣形を整えてください。最初を間違えるといきなり全滅しますからね!」


 ゴワァァァァァアアアアア!!


 「わたくしを呼ぶのはなにものです?」


 (来た!)


 今回のミッションでいえば本丸は三足烏だが、実はこのフェニックスとの戦いも普通に考えたら最上級ミッションだった。

 今まさに目の前に伝説級の魔物、フェニックスが鎮座している。



 「さぁ‥‥願い事を言いなさい‥‥」







11/2 修正

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