<ケテル編> 117.転移
117.転移
「んん‥改めて考えてみるとあの混ぜ物はこの体と繋脳レベルでどうやって我らのイルミネルを解いたのだ?」
大男に乗り移ったと思われる異形の存在が話始めた。
声は乗っ取った大男の声になっている。
((そこの混ぜ物にアンチ能力が使いこなせるとは思えないけど、論理的に考えればそれしかないわね))
変わらずどこから声を発しているか分からない存在の女性と思われる声は話すと同時にアカルたちに頭痛を生じさせた。
「ふむ、そのようだ。興味深い。だがこれまでの検体にはそのような能力を持つ者はいなかった。この地下施設に検体を誘い込む方法を変えてみるのもよいかもしれないな。しかしなかなか全結合しない。未だに頭痛が消えない。全く不便な脳構造だ。このような半端な状態を繁殖させているとはあの者の力はその程度ということだな」
((では私は必要最低限の思念を飛ばすだけにしましょう))
「そうしてくれると有り難い」
大男の体を乗っ取ったと思われる異形の存在と姿を見せない女性のような声の存在の会話が終わり、大男はアカルたちの方を向いた。
その目は眼球が左右不規則に動いており、まるで左右の眼球がそれぞれ別の生き物のように見えた。
不気味なのは頭痛がすると言いつつも無表情なところだった。
「バ、バンダム?!」
フランが大男を見て叫んだ。
「お、おい!お前あのデカブツ知ってんか?!」
ロイグが驚きながら言葉を挟んできた。
「うん、リグで近所に住んでいた気のいいおじさんだよ。力持ちなんだけど気弱な性格の人だったんだけど‥‥きっと母さんと一緒にこのマパヴェに来たんだよ。それでここで捕まったんだと思う‥‥」
「じゃぁ助けねぇとな!」
「そうも言ってられんぞ」
アカルが口を挟んできた。
「あやつらの力‥‥言葉を発するだけでひどい頭痛を発生させる力は見ただろう?そしてその存在があの力持ちのバンダムとやらに乗り移っている。クレアを救うだけでも至難の技だぞ‥」
アカルはフランとロイグを引っ張りながら少しずつ右奥のゲートに意識を集中させている。
シュウン‥‥
「!」
突如バンダムが姿をけした。
ブワン!!‥‥ファシュン!!
アカルはフランとロイグを右奥のゲートの方へ放り投げた。
そして次の瞬間凄まじい速さで繰り出されたバンダムの裏拳をしゃがんで避けすぐさま後方に飛び退いた。
「アカルさん!!」
アカルの額から汗が滴り落ちる。
滴り落ちる汗が鼻の横を通る際、鼻から血が滴りその血と混ざって床に落ちた。
(セクタスセンスを使っていなかったら終わっていた‥だが、精神と体への負担が尋常ではない‥‥長期戦には持ち込めない‥)
「‥‥‥‥」
バンダムは裏拳を放った手を分析するようにまじまじと見ている。
しばらくして不敵な笑みを浮かべた。
「運動能力は意識とほぼ同調できている。その速度でもこの体の骨格は過度の負担で壊れることもなさそうだ。第3段階は成功のようだな。試してみるか?」
((そうね。それじゃぁ含有率6%だけど順応性はあるから試す価値はありそうね))
無言で話すバンダムにどこからともなく頭痛を誘発する声が答えた。
「!」
フランは頭痛で顔を歪めながらも女性の声で言った言葉に恐怖した。
(まさか‥‥母さんに乗り移ろうとしている?!)
ロイグはフランの表情を見て何を想像しているか察した。
ブゥゥゥン‥‥
左奥のゲートから先ほど現れた姿とほぼ同じような異形の容姿の者がゆっくりと部屋に入ってきた。
そしてゆっくりと吊るされた者たちの方へ歩いてくる。
その顔には鼻しかついていないため、表情は全く分からない。
ペタ‥ペタ‥ペタ‥
一方バンダムは体のひとつひとつを確認するような動きをしながらアカルへの攻撃体勢を継続しているため、アカルは全く動けない状態となっている。
視覚覚醒でバンダムの体全てを見ているが、関節や筋肉、筋が全ていつでも攻撃できるような状態になっていたのだ。
ペタ‥ペタ‥ペタ‥
そして異形の存在は吊るされたクレアの真下に立った。
手を目の前にかざすと筒状の装置が迫り上がってきた。
異形の存在はその筒状の装置の中に入った。
タッタッタ‥ジャキィィン!!
「!!」
ロイグに跨ったフランが吊るされたクレアの鎖を斬り、彼女を抱きかかえて左奥のゲート近くに着地した。
そしてそのまま右奥のゲートまで走る。
自分たちを全く脅威の存在とは思っていない隙をついた行動だったが、功を奏したようだ。
「フラン!」
アカルが叫ぶ。
抱き抱えながらフランとロイグに緊張感が走る。
目の前のクレアはクレアなのか、それとも異形の存在が乗り移っているのか。
もし乗り移っていたとしたら、ほぼ間違いなく瞬殺されてしまうことだろう。
「なぜ抱き抱えたままでいる?!床に置いて少し離れろ!」
大声のアカルの言葉も聞かずにフランはクレアを抱き抱えたままでいた。
既に異形の者に乗り移られているとは認めたくなかったのだ。
ズザザァァァ‥‥
右奥のゲート前にたどり着いた。
ドクンドクンドクン‥‥
フランとロイグの心臓が高鳴る。
クレアが目を覚まし始めた。
「母さん!」
ドクンドクンドクン‥‥
バチン!
クレアの目がゆっくりと開いた。
「!!」
「か、母さん?」
ドクンドクンドクン‥
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「!!」
急にクレアが叫び出した。
それに呼応するようにロイグは構えたが、フランはそれを抑えた。
怯えたような表情で叫んだ後、周囲を見回して状況を把握したのか、我に返ったような表情になった。
「フ‥‥フラン‥‥」
「か、母さん!」
クレアには乗り移っていなかったようだ。
クレアを強く抱きしめるフラン。
一方ロイグは筒状の装置を警戒する。
ドサッ‥‥ズズズ‥‥
隣に吊るされていた男が地面に落とされ力なく着地した。
グググ‥‥
足の関節が逆向きに曲がり地面を捉える。
その足の力と地面に接している頭部で体を持ち上げる。
不気味な動きで少しずつ立ち上がる。
上半身を起こすと曲がった首を奇妙な動きで上に向けた。
天井を見上げる形となった顔をみると、その口元は何やらブツブツとつぶやいている。
「この体‥‥違う体に転移しているのか‥‥繋脳が進まない‥‥かろうじて側頭葉と運動野への結合ができた程度‥‥」
バシュン‥‥
「フラン!」
乗り移られた男が凄まじい速さで移動したのを見てアカルが叫んだ。
ガキィィン!ボギギン!
それに反応するようにロイグがフランとクレアを庇って攻撃を受けた。
男の腕がロイグのクロスした腕に当たった瞬間でまるで脆い木の枝のように複雑に折れ曲がった。
ドズスン‥‥
更に下半身は、膝の部分や脛の骨も複雑に折れているようで立つことができなくなったのかその場に崩れるように座り込んだ。
足の関節はあらぬ方向に向いている。
だが、男は無表情のままブツブツと何かをつぶやいている。
「はやり土塊では我らの動きには耐えられない。実験第2段階の結果の通り、土塊は我らの器とはなりえない」
ドゴォン!!
ロイグは前足の蹄でその男の顔面を蹴り飛ばした。
顎が外れほとんどちぎれた状態のようになり、後方に吹き飛んだ。
「きゃぁぁぁぁぁ!!べ、ベスタぁぁ!」
クレアがその恐ろしい状態を見て恐怖の悲鳴を上げ、その男の名を叫んだ。
男はベスタだった。
だが既に原型は留めておらず、顎は砕け千切れそうになっており、手足の骨は複数箇所で折れているため、糸の切れた操り人形のようになっていた。
バッゴォォォォン!!
再度ロイグに蹴り飛ばされ、ベスタはさらに吹き飛んだ。
もはやどこがどう言う関節だったかも分からないほど複雑に骨が折れており、異常な体勢で筒状の装置の近くまで吹き飛んだ。
だが、その表情は苦痛に歪むことなく平然としている。
「あら、これじゃぁもう動けないわ。この体は使えないわね」
その言葉にバンダムが答えた。
「戻った方がよいな」
「そうね、もう一体も含有率0%だから繋脳率も期待はできない」
バシュゥゥゥゥゥゥ‥‥
そう言うと筒状の装置から蒸気のような白煙が噴き出した。
「ロイグ!先に行け!」
アカルが叫んだ。
ロイグは頷き、フランとクレアを乗せたままゲートに向かった。
既に異形の者たちが登場してきたことからこのゲートの構造は理解しているようで、迷いなくゲートに向かっている。
タッタッタ!‥バシュゥン‥ブゥゥゥゥン‥‥
そして勢いそのままにゲートの中に飛び込んだ。
ヴワァァァン‥‥ズタ‥‥
筒状の装置が開くと、異形の姿の存在がゆっくりと出てきた。
「ここは激しい戦闘になりそうだ。お前は一旦戻っているがいい」
異形の姿の存在はゆっくりと左奥のゲートに戻っていった。
ベスタに乗り移っていた存在は元の体に戻っているようだった。
(さて‥‥私もロイグたちの後を追いたいが、そうも行かないみたいだな‥‥)
「知った者を救い逃したことでここへやって来た目的が達成されたとでも思っているようだが、我らにとっては既に価値のない検体。それよりこの地の存在が知れてしまう方が今は困る。新たな検体の入手が困難になるからな。だが先ほど出ていった者たちはイルミネルで対処可能だ。問題はない。従ってイルミネルの効かないお前に対して対処すればよい」
異形の者が乗り移ったバンダムは直立した状態で言った。
戦闘の構えではないが、アカルはその姿勢に全く隙がないことから最大限の防御に徹し攻撃を繰り出せずにいた。
一方ロイグ達は隣の部屋にきて動きを止めていた。
「なんだよこれ‥‥」
先ほどと同様に真っ白で巨大な空間だが、天井一面に無数の何らかの肉塊と思われる物体が吊るされていたのだ。
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