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<ホド編>30.作戦会議

30.作戦会議



――元老院大聖堂の地下の一室――



 「ホウゲキさん、いつ出動ですか?早くあの獣のワサンを怒破手にぶっ殺したいんですがね!」


 ひょろ長い体型の軽口な男がイライラしながら話す。

 この男のイライラは相当なもののようで、部屋の壁にいくつもの破壊の跡が見られるが全てこの男の仕業だ。


 「連隊長と呼べと言っているであろう。いい加減にしないと貴様本当に殺すぞ」


 今度は赤髪がとぐろを巻いた髪型の大男がさらにイライラしながら答える。


 「まもなくギョライと隊員が到着する。そうすれば出撃態勢が整う。アレキサンドロスが蒼市に戻ってくるまでには到着することになっている」


 「そしたらすぐ殺しに行っていいですよね?」


 「貴様元老院様のご指示を忘れたか?アレキサンドロスの船を越界できる状態で献上せよと。つまりタガヴィマ(飛翔石)を手に入れさせるのが先だ」


 「そんなもん俺らで取りに行けばいいでしょうが!何をトロトロやってんすかぁ?」


 「貴様、本当に死にたいか。タガヴィマはフェニックスが持つ火の鳥の呪詛だぞ。触れる前に焼け溶けて死ぬのは必至。それこそ怒破手にな!」


 「それじゃぁあのクソいまいましいレヴルストラのやつらも入手できないじゃないっすか!」


 「例のウルスラグナがシュムロムを手にしたというのだ。あれがあればフェニックスの灼熱の業火に焼かれることはない」


 「はぁ?!シェムロムっていやぁヨルムンガンドの牙じゃないっすか!あれだって強力な呪詛こもってるやばい代物でしょ?何者なんすか?そのウルスラグナって!」


 バゴオォォンン!!


 イライラが止まらずに蹴りでさらに壁を破壊していくひょろ長い男。


 「特異点らしい。破壊神スノウ・ウルスラグナの転生した姿だという者もいるようだが、元老院様はそれはないと言われている。いずれにしても単体で越界できる存在でもある。故にヨルムンガンドの呪詛にも耐えうるということだ」


 そう言いながら赤毛とぐろの大男は恐ろしく太い右腕を振り上げる。


 ドッゴォォォォーーーン!!


 振りかぶった腕は強力なパンチとなってひょろ長い男に向けられる。

 背中から殴られ体がえびぞり状態でくの字に曲がったまま部屋の壁にめり込む。


 「よいか。アレクサンドロスたちがタガヴィマをフェニックスから奪い取ったら奴らが地上に出る前に殲滅する。やつらの船には人を一瞬にして移動させる妖術があるらしいからな。そのような怒破手な妖術であれば我らもほしいところだが、その妖術の届かない階層で待ち受ける。当然やつらもそれを想定しているだろうが、そんなことはどうでもよい。我らは常に力で怒破手に圧倒する。それだけだ」


 「えぇっと連隊長殿‥‥カヤク分隊長‥‥聞いていないようです」


 ひょろ長い男の配下の副分隊長のひとり、マイトという太った男が言う。


 「大丈夫でしょ。聞こえてるわよ。こう見えてカヤク様、意外と耳はいいのよ、チチチ」


 同じくひょろ長い男の配下の副分隊長のひとり、ダイナというスタイル抜群な女が言う。


 「聞いていようがいまいが我輩には関係ない。我輩はきちんと伝えた。それだけだ」


 (はいはい、私らがきちんとカヤク様に伝えろってことですね、わかりましたよ)


・・・・・


・・・



――ところ変わってヴィマナ内―――



 ヴィマナの食堂で茶を飲むエスティ。

 そこにたまたま通りかかったライジが声を掛ける。


 「あ、総帥」


 「なんだ、ライジか」


 「なんだはないでしょ、いったいなんだと思ってんすか、僕のこと」


 「下僕」


 「ハー!確かに下僕っちゃぁ下僕ですけどね!扱いが下僕ですから薄々気づいていましたけどね!でも僕一応ガルガンチュアの一員なんですけどね!」


 「ははは、そうね。あなたは立派なガルガンチュアの一員よ。逃げ足担当だけど」


 「なんか違った意味でロムロナさんに似てきましたね」


 「はぁ?誰があんなエロ女に似てるって?!いくら私があの女よりもグラマーだからといってエロさまで一緒にしてほしくないわね!馬鹿なのね、ええ馬鹿だわ!」


 「ち、違いますよ!ドSって意味ですよ!スタイルとかエロとかは言ってませんし思ってもいませんでした‥‥ご自分で鏡見たことあるんですか?」


 エスティは急に顔を赤らめて腕に力を溜める。


 ドゴン!!


 ライジは脳天にきついグーパンチをくらい涙目になっている。



 「まぁね!あんたは、その‥‥弱いくせによくやってるわよ!」


 「それ、褒めてます‥‥よね?」


 「当たり前でしょ?ちょくちょく足手まといになったりしてるけどね‥‥ガルガンチュアにはパンタグリュエルの12ダイヤモンズみたいなダイヤモンド級を超える精鋭はいないからね。それを考えるとここ最近の激しい戦闘で生き残ってるだけでもすごいと思うわ。特にキンベルク戦の際は見直したわよ」


 ティーカップの茶面に映り揺れる自分の顔の影を見ながらエスティは感慨深そうに話す。


 「それに‥‥今はレヴルストラと行動をともにしているのだけど、正直心細いのよね。余所者って感じだから。だから‥‥あんたが‥‥ガルガンチュアの一員のあんたがいるだけでちょっとは気持ちが楽になってるのもあるのよね」


 「褒めて頂けてるのかよくわからないけど、なんか嬉しいです」


 「あんたの存在知らなかったけどね」


 ズコ!


 「ははは‥‥なんか素直に喜べる瞬間はこない気がしますが‥‥僕も‥総帥と行動を共にできて嬉しいです」


 「そう‥‥」


 ライジは何かを思い出すような仕草をしながら話を続ける。


 「僕、実は捨てられっ子なんです。ご存知の通り漆市が巨大亀に破壊された ”漆市大破壊” のせいで大量の難民が緋市と素市に移住しましたが、その中に僕の親もいたらしいんです。でも元老院が難民を切り捨てたせいで移民は貧民層になり、育てられずに捨てられる子が多くいたのご存知ですよね?僕はその中のひとりだったんです」


 ライジは話を続ける。


 「孤児院で育ちましたが何せたくさんの孤児がいましたからね。5歳で放り出されました。生きていくためには誰かから盗むしかなかった‥‥‥何度も捕まっては殴られましたけど、なんとか生き延びて10歳を超える頃には盗んでも捕まらなくなりました。足速かったんです。それが今の逃げ足の速さにつながってるんですけどね、ははは」


 「‥‥‥‥」


 「その後ガルガンチュアに拾ってもらったんです。盗んだ食材を少しでも美味しく食べるために自分で料理とか工夫してましたからね。中には腐りかけの廃棄食みたいなのもありましたから‥‥‥。そういうのを食べられるようにするので料理も得意になってたんです。そういう足の速さと料理の腕を買ってもらったってわけです。入団しても特に剣術とか戦闘とかの訓練を受けたわけじゃなく、ひたすら料理作ったり、ダンジョン潜っても偵察だけする斥候役ばっかりだったから戦力期待されても困っちゃうんですけどね」


 「そっか‥‥。まぁガルガンチュアはそういう人々の苦しみを知った者たちが集まったキュリアだからね。お父様も元々は貧民の出だったし。統一戦争の時に戦績をあげたことで報奨金をもらって血族中心のコグネイトから始まったのがガルガンチュア。モットーは “弱きを助く” 。貧しさ、苦しさを知ったものじゃないとこの腐った世界は救えない。だから‥‥」


 エスティは何かを思い浮かべるように続ける。


 「だから‥‥あんたも立派なガルガンチュアの一員。できることをやればいいのよ」


 「はい!」


 「ただ、これだけは約束よ」


 「え?下僕としての役割を果たす‥‥とかですか?」


 「はぁ?!あんたやっぱり馬鹿だわね、馬鹿だわ。約束は‥‥“無駄死にしない”こと。せめて死に場所くらい自分で選んで死ねるようにって意味。要は三足烏サンズウーとの戦いも生きて帰ってきなさいって意味よ!」


 「はい‥‥」


 ライジは目に涙を浮かべて返事をする。

 素直に嬉しいようだった。



 食堂入り口の影からエントワが腕を組んで聞いていた。

 その表情はどことなく嬉しそうだった。

 教え子が立派に成長し、さらに若者を育てている姿を見て、この想いが繋がっていくことでこの世界はきっとよくなる、そう想い嬉しくなっていた。


 (ここで割って入るのはダンディズムに反しますね)


 エントワは自分の部屋へ戻る。


「はっ!寝る前の紅茶が飲めなかった‥‥」



・・・・・


・・・



―――素市を出て5日目の朝―――



 「全員揃いましたね」


 作戦室に全員が集まる。

 今回はガースも同席している。


 「今晩、転送可能域に到着する。つまりだ!今晩ダンジョンに突入するってことだぁ」


 「でしょうねぇ」


 「なんだぁ?せっかくこの俺が気を引き締めようってのによぉ」


 「いいから早く作戦言いなさいな。アレックスボウヤ」


 「よし、わかった。作戦を告げよう。エントワ頼むぜ」


 (結局エントワからか!)


 皆が心の中でツッコミを入れる。


 「素市ダンジョンに向かう前にお伝えした通り、ヴィマナの操作をするガース以外は全員ダンジョンに入ります。転送可能域でヴィマナは待機。ガースは我々から連絡入り次第ヴィマナに転送して下さい」


 「了解ガス!」


 「蒼市ステーションに近づくと三足烏の攻撃を受ける可能性がありますからね。ヴィマナが破壊または奪われる場合、我々は壊滅します」


 (確かにな‥‥‥)


 仮に生き残れても飛翔石を入手して使うことができなくなるし、そもそもヴィマナを飛ばし越界しることもできなくなるわけだから死んだも同然だった。


 「ダンジョンに転送されてからは、今回チームを分けずに進みます。ヨルムンガンドの呪詛を持つスノウ殿を中心に攻撃は若と私。感知系魔法を得意とするワサンと素早さに長けるエスティには斥候として警戒に当たってもらい、肉体強化や魔法防御系のサポートはロムロナ、ニンフィーは回復に専念してもらいます」


 「あのぉ‥‥僕は?」


 ライジが忘れ去られ不安になった顔で聞く。


 「失礼。ライジ殿はロムロナ、ニンフィーの近くで後方の警戒にあたって頂きたい」


 「了解しました!」


 自分にも役割があったことで嬉しくなったのか途端に元気になるライジ。


 「おそらくは飛翔石を入手するまで三足烏サンズウーは攻撃して来ないと思われます。彼ら‥‥いえ、元老院もヴィマナもしくは飛翔石そのものを狙っている可能性が高い。ヴィマナを飛ばす、もしくは彼らの越界装置を飛行させることが可能になりますからね」


 「つまり、フェニックスから飛翔石を入手した後の帰りで三足烏サンズウーと対峙すると?」


 確かにそうだ。

 いかに三足烏サンズウーが強いからと言ってもフェニックスの業火に耐え飛翔石を取れるとは思えない。

 もしスノウ同様にヨルムンガンドから呪詛加護を得るとしても、スノウたちより先に飛翔石を得ることは不可能だった。

 ヴィマナより早い移動手段がないからだ。

 仮に三足烏サンズウーがスノウたちより早く呪詛加護を得ていたとしたらあの調子のいい蛇のことだ、そのことを言っていたに違いない。


 「ええ、そうです。ほぼ間違いなく飛翔石を入手後に三足烏は現れます。しかも我々の転送可能域もおおよそ把握した上で、転送できない階層で対峙することになるでしょう」


 「フェニックスはたしか65階層だったわね。それじゃぁそこより少し上の階層で待ち構えてるってことね」


 「なるほど‥‥あれ?待てよ。たしか以前フェニックスの話になった時にフェニックスの炎を吸い取るランプみたいなものを使うっていってなかったっけ?」


 (おれの記憶が間違ってなければたしか、闇のランプ!)


 「あぁ!あれぁなぁ、消せる炎しか吸い取れねぇんだよ。つまり、フェニックスの体内の消せない業火には効果が無い事が分かったんだ。だけどなぁ、当然フェニックスも炎で攻撃してくるはずだが、その炎は有限だぁ。その炎を吸い取るのがこの闇のランプってわけだぁ」


 「そうですね。フェニックスの炎の燃焼温度はクラス4の爆裂魔法の比ではないほど高いと聞きます。おそらく水魔法のバリアでは防ぐことができないでしょうからね」


 「なるほど‥‥」


 「スノウボウヤを中心にした飛翔石をゲットするまでの大まかな作戦は理解したけどぉ、帰り‥‥つまり三足烏と戦う時の作戦はどうするの?」


 エントワはアレックスに目をやる。


 「ここからはおれが話すよ、エントワ」


 そう言ってアレックスがきり出す。


 「まず、飛翔石だがあれは火の鳥の加護だ、つまりヨルムンガンドの呪詛と同様に誰でも持ち運べる代物ではない可能性が高けぇ。つまり、帰りもスノウを中心とした隊列になるわけだ」


 「ざっくり過ぎるわねぇ。それで勝てたら苦労しないわよ?」


 「まぁ聞けよぉ。ダンカンメモによるとなぁ、連隊長のとぐろ赤毛のホウゲキ、ワサンがやり合ったカヤクってぇ分隊長、その他の3人の分隊長の合計5人の強者がいるわけだぁ。もしかするとそれ以外の下っ端でも強えぇやつらがいるかもしれねぇ」


 「でもあたしたちは7人‥‥。複数で対処する余裕は無いわけねぇ」


 (僕入ってない‥‥)


 凹むライジ。


 「そうだぁ。しかもスノウは確実にヴィマナに帰還してもらう必要があるから6人だなぁ。だからここからは心して聞いてほしい」


 アレックスはおもむろにポケットからくしゃくしゃな紙を取り出ししわを伸ばして広げる。


 メモにはこう書いてあった。


 ・  ホウゲキ ー アレクサン

 ・ 第一分隊長 ― エントワ

 ・ 第二分隊長カヤク ― ワサン

 ・ 第三分隊長ギョライ ― ロムロナ

 ・ 第四分隊長フンカ ― ニンフィー

 ・ その他 ― エスティ、ライジ、スノウ


 「おそらくなぁ、ホウゲキとカヤクってのはリベンジマッチ的な因縁もあるからこの通りに行くはずだぁ。だが情報のねぇ第一分隊長、第三、第四分隊長がどう出るかも分らねぇからなぁ。もしかすると集団戦闘になるかもしれねぇ。だが、必ず其々が担当するやつを倒すってのが俺たちの作戦だぁ。シンプルだろう?」


 (ちょっと待ってくれよ‥‥おれがその他って‥‥。これじゃぁおれを逃すための犠牲みたいにも見えるじゃないか!)


 「スノウ殿。納得がいかないようですね」


 「だってさ!」


 「いえいえ、私たちはひとり、もしくはせいぜい対象の隊長と雑魚数人を相手にすれば良い。ですがスノウ殿たちは一人で150人は相手にしてもらわないとなりません。これが大した役回りではないと言いますか?」


 「い、いや‥‥」


 「全員生きて帰る‥‥。これが俺たちのモットーだ。そのために、自分の担当する相手は責任を持って倒す。それこそ死ぬ気でなぁ。小賢しいまねしたってこういう輩には通用しねぇ。だから正面切って戦う。一度ホウゲキってやつと戦ったが、やつはとにかく派手好きだぁ。小細工なんてできねぇタイプだ。でも逆に言えば、正面きっての直接攻撃に相当な自信と実力を持っているってぇことだ。そんな奴らには小細工は効かねぇし、最低ひとりで全力でぶつかるしかねぇ。ひとりでふたりを相手に出来るようなこれまでの柔なやつらとは訳が違う。だからこそ俺たちぁ素市のダンジョン潜って必死こいたって訳だからよぉ」


 「覚悟を決める時です」


 「ええ、そうねぇ」

 「うん」

 「ええ」

 「フン‥‥」


 それぞれの顔が引き締まる。


 「それでは出発まで各自待機。準備を怠ることのないように。解散します」



 (よかった‥‥僕の名前入ってた‥‥)






11/2修正

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