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<ケテル編> 112.和解

112.和解



 「もう大丈夫だ。少し寝ていろ」


 そういうとアカルはフランに横顔で優しい笑みを見せると正面を向き直った。

 相対するシバールはアカルの不意打ちで吹き飛ばされたのを物ともせずに立ち上がり、ゆっくりと前に歩きながら話始めた。


 「アネモイ中位剣士アカル。アネモイ四柱神にお仕えしていた貴様がなぜ反対派に就くのか理解できないが、この私の前に立ちはだかるという事はいよいよ決着を付けに来たという事だな?」


 「ここに来た理由は成り行きだが、そう捉えてもらって構わん。そして訂正させてもらう。私はアネモイ四柱神にお仕えしていたのであって、ノトス様の名を借り、穢し、ルガロンを支配しようとしているお前たちに従う義理はない。お前たちはそもそもノトス様とは無関係の単なる賊だ。これ以上アネモイの名を口にするな。イライラが止まらん」


 「言うじゃないか。だが風の大破壊ヴァシュヴァラによって既にアネモイの名は死んだ。貴様もこれから来る新世界では不要な過去の遺物なのだ」


 「アネモイ剣士とは単なる身分や称号ではない。力と精神を高みへと昇華させた強さを貫いた者たちの積み上げた武の実績なのだ。つまりアネモイ剣士とは強さの象徴。時代がどう変わろうと強き者は強い。剣が何に代わろうともな。そしてお前は今その強さそのものの前に立っている事を知れ」


 「ペラペラと講釈を垂れる事が強さの象徴であるなら、商人や道化の方がよっぽどアネモイ剣士の名にふさわしい!貴様こそ自分の非力を思い知れ!」


 シュバン!‥‥ガキン!


 シバールは凄まじい速さで剣を横振りしてアカルに斬り込んだが、アカルはそれを刀のかしらで受け、体を回転させて受け流しつつシバールに向けて斬撃を放った。


 ブワン!‥ジャキン!


 シバールは体をブリッジの様に反らせてアカルの斬撃を避けると、そのまま蹴りを放った。

 アカルはその蹴りをジャンプで躱すと刀を突き立てた状態で前宙し、攻撃を加えた。


 ガキガキガキガキ!!シュバァァン!!


 シバールはそれを剣で受け、そのままはじき返す。

 吹き飛ばされたアカルは空中で回転しながら後方に着地した。


 「貴様の動き、その程度か?遅すぎて片手で十分だぞ。貴様の言う強さの象徴とやらは剥がれかけたメッキだったようだな。うそぶく達者な口風に免じてそろそろ止めをさしてやろう‥‥縛突ばくとつ


 そう言うとシバールは腰を落として突きの型の姿勢をとった。


 「はぁぁぁぁぁ‥‥」


 シュン‥‥


 その場から消えたかと思われるほどの速さで跳躍して一気にアカルとの距離を詰めたシバールは剣突攻撃を繰り出す。


 (私の縛突ばくとつは、つま先で地面を蹴り出した力を剣の先へと伝えていく中でしなやかに動く筋肉がその力を数十倍にも増幅させて突きの威力を爆発的に跳ね上げる究極奥義。そのスピードから逃れられる者は皆無。故に縛突ばくとつ!)


 そのスピードから確実に食らう凄まじい突き攻撃によってシバールはこれまで何体もの凶悪な魔物や賊を葬り去ってきた。

 素早い動きから逃れられる獲物はこれまでいなかった。

 いわば百発百中の剣突攻撃だった。


 シュン‥シュヴァン!‥‥ズザァン!


 (獲った!)


 「?!」

 

 しかし目の前にはいるはずアカルがいない。

 シバールの繰り出した剣突が手に伝えた感触は確かに何かを貫いたものだった。

 しかし貫いた感触に対して視覚はアカルを捉えていない。


 (どういうことだ?!)


 シバールは警戒した。

 縛突ばくとつの構えをとり周囲の視界と音、臭いに全神経を集中させている。


 (とこへ行ったのだ?‥‥これがやつらの神技シンギというやつか?!)


 ズザン!!


 「がはぁ!!」


 突如背後から斬られたシバールは吐血しながら膝をついた。


 「な‥‥ぜだ‥がばぁ!」


 斬られた背中の傷は深く、さらに血を吐くシバールは剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がる。


 「ほう‥‥立つか」


 「神技シンギ‥‥神技を使ったな?がはぁ‥‥」


 「‥‥‥‥」


 シバールの言った言葉にアカルは答えなかった。


 「くっ‥‥ふふ‥‥け、結局は‥‥アネモイ剣士は半神の集まり‥‥神技シンギが使える優位な点だけで‥‥見せかけの強さの集団か‥‥おめでたいことだ‥‥実力で私に勝てないとなり使ったのだろう?神技シンギを‥‥」


 「神技シンギが使えるからアネモイ剣士か‥‥。だからお前は私の動きを掴めんのだ。お前との戦いで神技シンギは使っていない。それどころか剣技の実力の半分も出していない」


 「ほざけ‥‥偽りの剣士風情が‥貴様など‥」


 「もう喋るな。聞くに耐えん」


 シュバン!!


 アカルは刀を軽く振り上げた。


 「がっはぁ‥‥」


 シバールの腹から胸にかけて斬られた場所から血が噴き出る。

 そしてそのまま後ろに倒れた。

 アカルは倒れたシバールの姿を見ながら呟いた。


 「こんな世界になってしまったからこそ手を取り合って復興に向けて進んでいけるものと期待していたが無駄だったな‥‥ん?」


 アカルはシバールの亡骸に何か異様なものを感じた。

 シバールの耳から銀色の液体が滴っていたからだ。

 銀色の液体が滴っていることも異様だが、その液体が放つ自然界にはない異物感が何か吸い込まれて消えてしまうような感覚を与えていた。

 触ると何か不吉なことが起こるのではないかと思いつつも、シバールの剣を掴み剣先でその液体に触れてみる。


 シュゥゥン‥‥


 まるで生きているかのように蠢いたかと思うと、銀色の液体の色が黒く錆びたように変色した。


 (何だこれは‥‥はっ!)


 銀色の液体に気を取られていたアカルは、フランとロイグを手当することを思い出し急いで詰め寄る。

 フラン、ロイグ共に気を失っていたが命に別状はなかった。


 「よく頑張ったな」


 「ア、アカルさん‥」


 フランが意識を取り戻した。


 「大人しくしていろ。戦いは終わった。帰るぞ」


 「し、神官‥‥が‥‥」


 「ほう、そうだったな。まだ神官派の親玉がいたのを忘れていた」


 そう言うとアカルは周囲を見渡した。

 床の大部分が抜けてひとつ下のフロアに落ちた状態でシバールとの戦闘になっていたが、神官の座っている場所だけは倒壊せずに残っていたため、アカルが見上げると微かに神官の後ろ姿が見えた。


 シュン‥‥スタ‥


 アカルは軽々と神官が座っている場所まで跳躍し真横に着地した。


 カチャ‥‥


 神官の首に刀を突きつける。


 「観念するがいい、ノトス様の名を借り偽りの教えで人々を惑わせた罪は重いぞ神官ゼイノラス」


 だが神官は何も答えない。

 答えないどころか何の反応もなかった。


 「!」


 アカルは神官の顔を見て驚く。

 何故なら神官の顔が精巧に作られた人形だったからだ。


 (何だこれは‥‥なるほど、ゼイノラス‥‥既に殺されていたのだな。大方シバールに殺され、その存在だけを神官派の統率のために利用されていたのだろう。‥‥哀れな男だ)


 シュン‥‥スタ‥‥


 「アカルさん‥」


 「安心しろ。神官は既にこの世にはいない。おそらく最初は本当に神官派としてゼイノラスが仕切っていたのだろう。だが、良からぬ噂の絶えない神官だったからな。武闘派を仕切るシバールと関係が悪くなったに違いない。シバールによって殺されたようだが、ノトス様の意を継ぐ神官としての存在を失うわけにはいかなかったようだ。上に座っていたのはゼイノラスの人形だった」


 「‥‥そうなんですね。‥一体何でいがみ合っていたんですかね‥‥」


 「そうだな‥」


 気づくとフランはまた眠るように意識を失っていた。


 「ひとまず帰ろうか」


 アカルはフランとロイグを担いでアネモイ剣士協会支部に戻っていった。



・・・・・


・・・



―――翌日―――


 「う‥うぅ‥‥」


 「フラン!」


 目覚めたフランの視界にはロイグがいた。

 嬉しそうな顔があり、目覚めたばかりで何が起こっているのか分からないフランだったが不思議と安心した。


 「目覚めたか」


 ロイグの横にはアカルが椅子に座っており、何か果物を剥いている。

 周囲を見渡して初めて自分がベッドに寝ており目覚めた直後なのだと気づいた。


 「シバールは‥‥」


 「アカルが倒したぜ。安心しな。もう神官派も反対派もねぇ」


 「そっか‥でも‥‥」


 フランの目から涙が溢れる。

 神官派の襲撃で燃やされてたシウバーヌの孤児院が思い出されたからだ。


 ガチャ‥‥


 「フランちゃん!」


 「!!」


 部屋にシウバーヌが入ってきた。

 続け様に孤児院の子供たちが部屋に入ってきた。


 「フラン!」

 「起きた?!」

 「無事だったんだね!」

 「これでやっと上半身と下半身の次目の構造を確かめられる」

 「心配させやがって、弱いくせに」

 「弱虫クッサーズのくせに」


 何やら途中ロイグに向けられるべき怖い発言があったが、皆フランが目覚めたのを喜んでいる。


 「シウバーヌさん‥‥それにみんな‥‥生きてたんだね‥‥」


 フランの目に涙が溢れてくる。


 「うわぁぁぁぁん」


 フランは子供のように泣いた。

 つられてロイグまで泣き出した。

 シウバーヌたちが何故無事だったのか。

 まず始めに、彼女と子供たちは神官派が襲ってきた際に素早く地下室に入って身を潜めた。

 やがて火が放たれたが、地下室の奥から外に繋がっている避難通路を通って無事に脱出できたところを反対派の者たちに助けられアネモイ剣士協会支部に匿われたというのが無事だった理由だ。

 フランを抱きしめるシウバーヌ。

 再度母のような温もりに触れ、さらに声をあげて泣いた。


 「泣き虫め。まぁまだ子供だからな。感情を押し殺して生きるには早い。心ゆくまで泣けばいい」


 アカルは剥いた果物は子供たちにも分け与えた。

 貴重な果物だったが、こういう時こそ空腹を満たすべきだとしてフランを囲みながら皆で満腹になるまで果物を食べた。


 ノトス神殿内でフランとロイグが大暴れし火も放たれたことで神殿内の所々は損傷してしまったが、元々現代の建築技術では造ることのできない古代遺跡を神殿としていたこともあり異常なほど頑丈で大した損傷ではなかったために反対派の者たちはノトス神殿に移ることになった。

 神官派だった者たちは神官が既にシバールによって殺されていた事で自分たちの信じて行ってきた事が全くの偽りの教示に基づいたものだったと知り、反対派の者たちに謝罪をして仲間として受け入れてもらった。

だが約三分の一はシバールの非道な行いに迎合し楽しんでいた悪人気質の者たちであったため、一般民に危害が加えられないように彼らは牢に入れられた。

 そんな中でフランとロイグは牢屋のフロアを訪れた。


 「あの、すみません」


 フランは看守に声をかけた。


 「どうした?ここは君たちみたいな子供が来るところじゃないぞ?凶悪なやつもいるから直ぐに立ち去りなさい」


 追い返そうとする看守にフランさらに話しかけた。


 「あの、ここにエヘルという元警備隊の反対派だったひとはいませんでしたか?」


 「エヘル?‥‥いや、ここには元々誰もいなかったし、私は元警備隊主任だったから警備隊員のほとんどを知っているが、エヘルという名の警備隊員はいなかったな」


 「え?‥‥でも僕たちが神官派に捕まってこの牢屋に入れられた時に助けてくれた人なんですよ?エヘルさんは。あの人がいなかった僕たちは助からなかったんです。一緒に逃げようって言ったんですけど、もうすぐ助けが来るから僕たちだけで逃げろって‥‥」


 「そうだったのか。だがエヘルという名には聞き覚えがないな‥‥。警備隊を辞めた者かな‥‥。だが警備隊を辞めたのはここ数年でヴェルガノ副隊長とウィンチくらいだからな‥‥。やっぱりエヘルという名の警備隊員はいなかっと思うぞ?」


 「そ、そうですか」


 「おっさん、本当にいなかったのか?ここんとこ色々とあったから呆けてたりとかしてねぇよな?」


 「失礼なやつだなお前は。俺は亞人だからと言って差別するのは嫌いだから誰にでも礼は尽くす。逆に礼を尽くさないやつには厳しいんだ。それが人間であっても亞人であってもな。お前は少し言葉遣いを学べ」


 「はぁ?!何でそこまで言われなきゃならねぇ。あんたこそ、その言い方は礼儀っての知らねぇんじゃねぇのか?」


 「何だと?!」


 「す、すみませんでした!ありがとうございました!」


 グィィ‥‥


 フランはロイグの胴を抱え半ば引き摺りながら戻っていった。

 牢屋フロアを出てからもロイグは悪態をついていた。


 「あのおっさん、何様だよ!」


 「ロイグ‥‥君も悪いよ?一生懸命思い出そうとしてくれていた人に呆けてるとかさ‥‥」


 「そうか?でもその可能性もあるかもしれねぇじゃねぇか」


 「可能性とかの問題じゃなくてさ。君だって誰かのために一生懸命対応したのに、努力が足りないとか言われたら頭にこない?」


 「来る。マジでキレるね。俺はそういうの厳しいぜ?」


 「同じ事してたよロイグ」


 「そうか?‥‥そうなのか?‥‥まぁお前が言うならそうなのかもしれねぇな。ちょっと思い返して反省でもしてみるわ」


 「僕が言うならって‥‥」


 フランは相変わらず常識の通じないロイグに何と説明すればよいのか悩んだが、自分のことは100%以上信頼してくれていることに対しては嬉しくなった。


 「それにしても何で誰もエヘルさんの事知らないんだろう‥‥」


 「不思議だけどよ。そもそもエヘルのおっさん、俺たちを助けてくれたには違いねぇけどさ、流石にあの臭い道しかなかったのかと問いただすまでは本当にいいやつだったかどうか分からねぇぜ?」


 「分かるよ!いい人だって!本当に根に持ってるねロイグは」


 「だってよぉ、ゲロにダイブだぜ?自分とお前のゲロだったからよかったものの、これがバルカンとかのゲロだったらマジで無理だったわー」


 「ははは!そんな言い方したらバルカンさん凹んじゃうよ。普通なら怒るけどあの人優しいから」


 「まぁな!俺はバルカン好きだぜ?ゲロは無理だけどな」


 「ははは」


 そんな会話をしながらノトス神殿の中で充てがわれた部屋に戻ったふたりは旅の支度をし始めた。


 コンコン‥


 「入るぞ」


 ガチャ‥


 「おい、アカル!入っていいって言ってないのに入ってくるのってさ、ノックする意味あるのかって気づかねぇのか?」


 入ってきたのはアカルだった。


 「ほう、お前はノックしたら相手の返事を待つタイプなのか?」


 「待たねぇけどさ」


 「では文句はないな」


 そんなふたりの会話を無視してフランが話しかけた。


 「アカルさん、そろそろ僕たち出発します。おそらく僕の母さんはマパヴェにいると思うんです。早く無事を確認したくて‥‥」


 「ああ、分かっている。分かっているんだが、何か胸騒ぎがしてな」


 「胸騒ぎ?何だよ。あ、あれか神技シンギってやつか?」


 「おそらくな。私はそのての感覚はあまり強くないようだから確信はない。だが逆に言えばその私がこうも胸騒ぎを感じるというのは何かあるんじゃないかとちょっと心配になってな」


 「用心しろってことですね。ありがとうございます」


 「まぁそれもあるのだが‥‥私も同行しようと思っているのだ」


 『ええ?!』


 ふたりは驚いた。


 「そ、それは嬉しいですけどここ離れてもいいですか?」


 「大丈夫だ。もはや反対派も神官派もなくみなひとつになっているからな。これもどこかの無鉄砲なふたり組が暴れてくれたおかげなんだがな」


 フランは何か悪いことをしてしまったという顔をし、一方のロイグはドヤ顔になるという対照的な表情を浮かべていた。


 「本当に大丈夫なんですか?」


 「不服か?」


 「い、いえそんなことはないです!本当に嬉しいですし、心強いです!」


 「あんた強いから有難ぇけどよ、予め言っておくが俺の背中には乗せないからな!」


 「はっはっは!そうか!乗せてくれないのか!それは残念だ!」


 「残念とか思ってねぇだろ!」


 「はっはっは!」



 フランとロイグはアカルという強力な助っ人を仲間にしてマパヴェに向かうこととなった。

 マパヴェまでの道のりを確認し、現在の暗闇の中進む状況や、道のりが悪路に変わっているであろうことを想定して時間を逆算し、安全な場所で野営する前提でその日の午後に出発した。

 自分を育ててくれた叔母にあたるクレアを探すために。



いつも読んで下さって本当に有難うございます。

次のアップは水曜日の予定です。

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