<ケテル編> 108.エヘルの脱出提案
108.エヘルの脱出提案
「いいかい?今から言う事をよく聞くんだ。ここから出るための唯一の方法を教えるから‥‥」
『!』
突然のグッドニュースにフランとロイグのふたりは思わず無言で喜びの表情を浮かべ顔を見合わせた。
「おっさん!早く教えてくれ!」
「おいおい、声が大きいって」
ここが牢屋で今から脱走する話をするのに空気を読めずに大声で話すロイグにエヘルはヒソヒソ声を荒げて言った。
「わ、わりぃ‥‥それで、どうすりゃいいんだ?」
「ここはノトス神殿だ。ノトス神殿はとても入り組んだ構造になっている。俺はここの警備隊員だったからね。よく知っているんだ。通常入り組んだ構造になっている場合、必ずある一定の間隔で通気口を造るんだ。火を炊いたりする場合もあるから、通気口が無いと下手をすれば煙に巻かれて死んでしまうからね」
「それが何なんだよ、早く結論を言ってくれ」
エヘルが今まさに重要な説明をしているにも関わらず、出口を教えてもらえないと我慢できないといった表情でロイグがヒソヒソ声を荒げた。
「少しは落ち着きなよ‥‥今説明しているんだから。それで、この牢屋に閉じ込められてから位置関係を整理していたんだが、丁度そっちの牢屋の壁の上部に通気口が通っているはずなんだ」
「え?!」
「まじか!よし行くぜ」
「待て待てこら!話は終わってない。この要塞は入り組んでいるって言ったろ?その通気口に入ったら右に行く。そして突き当たったら左だ」
「右に行って‥‥左だね!」
「そうだ。そしてそのまま真っ直ぐ行くと少し大きめの縦穴に出くわす」
「縦穴?」
「そうだ。途中にいくつか分岐があるが絶対に曲がっちゃだめだよ?ずっと真っ直ぐに進むんだ。その先で出くわす縦穴はかなり地下まで通っているんだが、いわゆる排水道で地下まで降り切ると横穴になる。その横穴を通っていくと要塞の外に出られる構造になってる」
「まじか!やったぜこれで出られるぞ!」
パシ!
ロイグとフランはハイタッチして喜んだ。
「ひとつ言っておくけど、排水道の縦穴は排水を流す穴だからかなり臭い。そんでもって汚い。だからと言って上に登ろうとしちゃだめだからね。必ず下に降りていく。もちろん下におり切るまで横穴に入ってもだめだからね。飛び降りてもいいから必ず下だよ。底まで降り切るんだ。いいね?」
「わかったぜおっさん」
早速フランとロイグは通気口を探した。
ブロックで埋められていたようだが、音の違うブロックを見つけたフランが正拳突きをすると奥に空間が現れた。
「ロイグ!あったよ!」
フランは自分たちが入れるくらいまで壁を壊したが、ギリギリロイグが通れる大きさだった。
ケンタウロスは人よりも体が大きいため、もしロイグが青年となっていたら入れなかったことだろう。
さっそくふたりは通気口の中に入ろうと試みる。
まず最初にロイグが入っていった。
続いてフランが入ろうするが、フランは隣の牢にいるエヘルに話しかけた。
「おじさん、おじさんも一緒に行こうよ!そっちには通気口はないの?」
「残念だが通気口と繋がっているのはその部屋だけなんだ。俺のことはいいから早くお逃げ?モタモタしていると看守が来てしまうから。そろそろ1日1回の食事を運んでくる時間でもあるしね」
「おじさん、必ず助けに来るから!」
「俺は大丈夫だ。助けに来ちゃダメだよ?次は逃げられる保証はないからね。俺には反対派の警備隊の仲間がいるんだ。待っていればいずれ助けに来てくれる。俺のことは気にせずに早く行くんだ」
「うん、分かった!ありがとうエヘルさん!」
フランは通気口に入っていった。
ロイグに続いてフランが通気口に入り、牢から抜け出したのを音で理解したエヘルは笑みを浮かべながら呟いた。
「エヘルさんか‥‥優しい子だな‥‥フフ‥‥」
・・・・・
・・・
「えっと、どっちだったか?」
「左だよ、忘れたのかいロイグ。左に曲がったら突き当たりまでずっと真っ直ぐだよ。絶対に曲がっちゃだめなんだ」
「はいはい、分かったよ。草原走るのは得意だがこういう狭いところを進むのはどうも苦手だぜ‥‥」
「少しの辛抱だよ。頑張ろう」
ロイグとフランは順調に進んだ。
「!」
「どうしたのロイグ?」
「突き当たりまで来たけど、壁だぜ‥‥」
「ええ?!」
「あのおっさんまさか‥‥俺たちを騙したんじゃねぇだろうな」
「そんなことはないよ、ロイグ、壁叩けるかい?」
「お!なるほど、通気口みたいに壁壊すやつか!」
ドゴォン!‥ガララン‥‥
フランの言う通り、叩くと壁が壊れて空洞が見えた。
「これが縦穴か?!」
ヒュゥゥゥ‥‥
中から風が吹き込んでくる。
「きっとそうだようぐぁぁ!!」
「あがが!」
「あぎゃぁぁぁ!」
ふたりは突如悲鳴をあげ始めた。
「くっせぇぇぇぇ」
「ぐげぇぇぇぇぇ」
あまりの悪臭にフランは思わずその場に胃の中のものをぶちまけてしまった。
ビリリ‥‥
ロイグは自分の服の袖を破いて、それをフランの鼻と口にマスクのように被せて後ろ側で結んだ。
同様に自分の鼻と口も覆う。
「なるべく鼻で息せずに耐えるんだ、いいな?」
「う‥‥うぇ‥‥うん」
「そいでどっちに行くっつったっけ?」
「!!」
フランの顔が急激に泣きそうな表情に変わった。
「し、下‥‥」
「おおおのぉぉぉぉ!」
『おげぇぇぇぇぇぇ』
排水道の下を覗き込んだふたりはそのまま下に胃の中のものをプレゼントした。
通常、間違いなくいかなる時もゲロは避けるものだが、今回に限ってはゲロを追いかけることになった。
ふたりはまさか自分たちがそんな羽目になるとは思っていなかったようで、エヘルが執拗に下に行けと言った意味をようやく理解した。
激臭は縦穴の下から風と共に吹き上がって来ており、あえて激臭に向かっていくなどという発想にはならず、縦穴の上部を覗くといくつか横穴があり、そこに行けばこの強烈な刺激臭から逃れた上に脱出まで出来るのではないかと結論付けたくなるほどだからだ。
「仕方ねぇ!行くしかげぇぇぇ」
「やめてよロイゲェぇぇ」
お互いに色々と貰い合いながらも意を決して慎重に降りていく。
半ばヤケクソになり滑るように降りていったこともあり、5分もすると底が見えて来た。
『!!』
いよいよ自分たちが “お戻し” した物とのご対面だったが、それ以上に様々な例えようのないものがあったため、ご対面している以上の衝撃があった。
バッシャァ!!
幸運にも汚水は浅く、跳ねはするものの素早く動けたので息を止めながらふたりは走り続けた。
しばらく進むと川に出た。
バッシャァァン!!
汚物が流されている場所から遠ざかるにつれて綺麗な水になっていく。
ふたりは全身を洗いながら泳いだ。
息継ぎする空気のなんと美味いことか。
ふたりは当たり前に感謝した。
しばらく川を泳ぐと対岸小さな集落が見えてきた。
どうやら風の大破壊の破壊を免れたルガロンの中の集落のようだった。
「あそこに行こうぜ」
「うん、多分反対派の人たちの家だよ」
ふたりは岸から上がった後、慎重にその集落に入っていった。
「家が20軒くらいか‥‥なんでここだけあの大破壊から逃れて助かったんだ?」
「見て、あっちに少し大きめの家があるよ」
「きっと偉い奴の家かもな」
「反対派の偉い人とか?」
「そうだ。そこに行ってみよう」
フランとロイグは忍足で集落の中で一番大きい家に向かった。
その家には大きな庭があった。
生垣の木々の間から中の様子を伺う。
「やっぱ暗くてよく見えねぇな」
「うん‥‥でも誰もいなそうだね」
「もう少し中に入ってみるか」
「もう少し様子を見よ‥もう!」
ロイグはフランの言うこと聞く前に行動に出て茂みから体を乗り出した。
「誰もいねぇのかな‥‥」
人の気配がしないためロイグはどんどん進んでいく。
ついには家の側まで行き、窓から中を覗き始めた。
フランもついていくしかなく、一緒に窓から中を覗いている。
「人が見えるぞ!」
「窓が曇っててよく見えないね」
「何言ってんだママだろ」
「今から飯なんだ」
「へぇ飯かぁ。腹減ってるからちょうどいいぜ」
「でも最近は食べ物少ないからたくさん食べれないんだよな」
「そっか、どこも食料に困っているんだね」
『え?!』
『え?!』
フランとロイグの会話にいつの間にかもうふたりの子供が加わっており、会話の途中で気づいて顔を見合わせて改めて両者驚いている。
『ええええ?!』
『お前たち誰だー!』
「ママー!!悪いやつがきたー!」
子供のひとりがそう叫びながら家の中に入っていった。
「お、おい!ちょと待ってくれ!」
「お、お前たち “しんかんは” のやつか?」
「しんかんは?ああ、神官派か!ち、違う!俺たちは人探ししてんだ」
「僕の母さんを探してたんだ」
「嘘つけ!お前ら “しんかんは” の悪いやつだー!」
ガチャ‥‥
『!』
先ほどの子供が中にいる者を呼んできたようで中から何者かが出て来た。
フランとロイグは警戒した。
「おやおや、どうしたんだい?ずぶ濡れじゃないか。風邪を引いてしまうよ。ささ中にお入り?ペッツ、ズンク、ふたりを中に入れておやり?さぁ、ふたりとも中に入って?お風呂沸いているからゆっくり暖まりなさい?」
ママと呼ばれた女性が出て来てフランとロイグに優しい言葉をかけてきた。
それに対してペッツとズンクと呼ばれた少年ふたりは鼻をつまんで怪訝そうな顔をし始めた。
「ママ!なんかこいつらくっせー!」
「ほんとだくっせー!」
「てかお前なんでお腹から下が馬なんだ?」
「まものだ!まものだ!くっせーまもの!」
ゴツン!ゴツン!
『いで!』
ふたりの少年はママと呼ばれた女性から脳天にゲンコツをいれられて頭を押さえている。
「そういうこと言うもんじゃないの。お前たちもおねしょした朝の布団は臭うじゃないの」
「お、俺はおねしょなんてしないよ!ズンクはするけど!」
「違うよ!ペッツだよペッツ!ペッツはうんこももらすもん!」
「おしっこだけだぞ!うんこはもらしてないぞ!」
「ぷっ!」
「あはは!」
ふたりのやりとりを見てフランとロイグは思わず笑い出してしまった。
「何がおかしいこのくっせーまものー!」
「そうだそうだ!」
ゴツン!ゴツン!
『いで!』
「ささ、早くお入り?」
フランとロイグはいつの間にか警戒を解いていた。
そして言われるままに家の中に入っていった。
・・・・・
・・・
―――ノトス神殿内牢屋フロア―――
コツコツコツ‥‥
ふたりの男が階段を降りて来た。
「さぁて、全部吐かせてやるぜ」
「ガキを拷問するのぁちょっと気が引けるけどな」
「でも、ガキがあれだけの食料を持ってたんだぜ?食料の在処を吐かせれば、もしかしたらもっと美味いもん食えるかもしれねぇんだ、大破壊前みてぇにな!」
「そりゃぁ気合入れねぇとな!」
そういいながらふたりの男がフランとロイグのいた牢の前まで来た。
「お、おい‥‥」
「いねぇじゃねぇか!?」
ふたりはフランとロイグが消えたのに驚き、牢屋内の全ての部屋を確認した。
「どこにもいねぇ‥‥」
「誰か知らねぇかって聞こうにもこの牢には元々誰もいなかったしな‥‥」
「やべぇぞ‥‥シバールさんに殺されるぞ‥‥」
「どうする?」
「どうするも何も、牢の鉄格子も壊れてねぇ、鍵も掛かってた、牢屋内の壁も壊された形跡がねぇってことは消えたとしか考えられねぇじゃねぇか‥‥そんなの俺たちの責任じゃねぇ。素直に言うんだよ。黙ってる方が殺されるぜ‥‥」
「そ、そうだな‥‥」
ふたりの男は怯えながらシバールに報告に向かった。
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