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<ケテル編> 105.異系の旧神たちの統べる街

105.異系の旧神たちの統べる街



 「ここですか。嫌な雰囲気が漂っている」


 「以前に比べ随分と様子が変わってんな」


 兄弟の半神馬バリオスとクサントスが引いて来た馬車がエークエスの拠点となっているジジギーンに到着した。

 だが、街から少し離れた場所に止まっている。

 ふたりはこのジジギーンの異変に気づいて警戒しているのだ。


 ガチャ‥‥ズン‥‥


 「ほう、原初の神2体を復活させて、勢いづいているって感じだな」


 ヘラクレスが馬車を降りて腕を組みながら街を見て言った。


 「原初の神2体‥‥ティアマトとアプスーか?」


 「そうだ。風の大破壊ヴァシュヴァラ前は、否國カイキアにあった小さな街ジジギーンを根城にして異系の旧神たちが細々と暮らしてたんだ。だが、元々はティアマトとアプスーの2神柱を源にして多くの神々が強い神技シンギを持ってこのケテルの約三分の一を支配していた。それをこのケテル全土を欲した欲張りなゼウスが戦争仕掛けてな」


 「ゼウス‥‥」


 その名前を聞いた瞬間、スノウは全身の血が沸き立つのを感じた。

 バルカンを殺した神。

 スノウは薄れゆく意識の中で、次に会ったら必ず殺すと誓った相手だった。

 そんなスノウの思いを感じ取ることもなく、ヘラクレスは話を続けた。


 「結構壮絶な戦いだったと聞いている。とにかくティアマトとアプスーが影響を与えて他の神々も強力となり、かなり苦戦していたらしい。ゼウスは思案を巡らせたらしいんだが、殺すことのできない2体はどこかに封印するしかないとなってタルタロスに追い込んで封印した。オリンポス側もかなりの犠牲を払ったがな。普通はタルタロスに飲み込まれたら出ることは不可能だ。あそこは一方通行だからな。だが出て来た。おそらく現世に引っ張る糸が繋がっていたんだろう」


 「糸?」


 「ああ。おそらくティアマトが封印される前に取り込みやがったポセイドンを使ったんだろう」


 「どういうことだ?」


 「ティアマトとアプスーをタルタロスの口に追い込んだのはゼウスとアテナ、そして海の守護神ポセイドンの3人だったんだ。だが、2体がタルタロスに飲み込まれる直前、道連れだと言ってポセイドンとアテナを掴んだ。残されたゼウスはどちらかしか救えない状況に追い込まれたが、迷いなくアテナを助けた。そうしてポセイドンはティアマトに取り込まれてそのままタルタロス行きになったってわけだ」


 「糸とは?」


 「血だ。ポセイドンにはトリトーンっていう息子がいた。あいつとはよく取っ組み合いしたもんだ。トリトーンは父親がティアマトと共に飲み込まれたことでエークエスとゼウスをひどく恨んでたよ。とある頃からトリトーンの姿が見えなくなってな。もしやとは思ったんだが、単身エークエスに挑んで囚われたんだろう。それで何か儀式に使われて、子であるトリトーンの血を使ってタルタロスに幽閉されているティアマトに取り込まれているポセイドンの血と繋ぎ、深淵の牢獄からアプスー共々引っ張り上げでもしたんだろう。だがそれには相当な犠牲を伴うはずだ。かなりの命が贄として使われてるはずだぜ」


 「‥‥‥‥」


 想像を遥かに超える神々の戦いと力にスノウは返す言葉がなかった。

 まだまだ自分の知らない次元の力が存在することを痛感したのだった。


 「あの湖‥‥おそらく塩湖だと思うが、元々の姿はトリトーンだと思う。俺はやつと取っ組み合ってたから雰囲気で分かる」


 「湖が神?それって生きているのか?」


 「生きているどころか死より辛い状況だ。通常神は死んでもまた神として転生する。だが、あれば生きながら別の物質に変えられている。あれじゃぁ再生も出来ねぇしそもそも死ぬことも出来ねぇ。残念だがトリトーンは永遠にあのままだ」


 「‥‥‥‥」


 バァン!


 突然ヘラクレスはスノウの背中を叩いた。


 「まさか臆してんじゃねぇだろうな。あんなのは神々の領域じゃ当たり前のことだぜ。さっきも言ったが、神は殺せる。めんどくせぇことに転生はするがな。だが、その度にまた殺せばいい。こっちは一度死んだら終わりだ。何に転生するか分かったもんじゃねぇからな。スリルあると思わないか?向こうは何度も甦るが、こっちは1回こっきり。常に消滅と隣り合わせの緊張感あるバトルってやつだ。人や亞人を殺せば、まぁちょっとは罪悪感あるが、神には罪悪感を感じる必要ねぇんだぜ?これほど本気で叩きのめす絶好の相手はいないだろう?」


 イカれているとスノウは思った。

 戦いに身を投じ続けた挙句、精神的にネジが外れてしまったのだと理解した。

 だが、彼が味方である限りこれほど頼りになる存在もなかった。

 おそらく神に対して臆したり容赦したりすることはなく、最初から全力で叩きのめしにかかるはずだ。

 そうして殺めて来た神々の数だけ強くなり、神殺しの異名を知らしめたのだ。

 ヘラクレスを恐れる神がいても何ら不思議ではない。


 「おい、こんなところで立ち話するためにわざわざ契約したのか?」


 突如現れたディアボロスが面倒くさそうに嫌味を言った。


 「お、お前いつから居たんだよ。怖くなって逃げ出したのかと思ったぜ」


 「お前と同じ空間で呼吸したくねぇからだ。中途半端な肉はゲロくせぇんだ。この距離でも相当我慢してんだぜ。そこを察して少しはその口塞いだらどうだ?」


 「大魔王とやらは殺したら転生するのか?お前の系統じゃぁ転生できても相当時間かかるんじゃねぇの?試しにここで殺してみるか。どれくらいで戻って来れるか計ってやるよ。待っても2〜3日だけどな、わっはっは!」


 「口の減らねぇ肉だるまだな。まぁ今のうちに精々弱者と戯れとけ」


 スノウはヤレヤレとうんざりしていた。



・・・・・


・・・



 一行はジジギーンの街の入り口に到着した。

 兄弟の半神馬たちに向かってスノウが話しかける。


 「中では何があるかわからない。お前たちは重要な機動力だから念の為、ここで待っててくれ」


 「了解した」

 「分かったが、ピンチになったらいつでも呼んでくれ。俺の蹄で粉々に粉砕してやるからよ」


 威勢だけはいい兄弟の半神馬たちを街の入り口の外に残し、スノウたち5人はジジギーンの中に入っていった。


 ズゥゥゥゥン‥‥


 『!』


 一行にとてつもない重圧が襲いかかった。


 「結界だな‥‥おそらく何者かが破壊の風から守ってんだろう」


 「しかも何ていう明るさですかこれ‥‥まるで太陽の光が差し込んでいるみたいじゃないですか」


 「シャマシュだ。あれは確か太陽神だったからな」


 (こいつは単に戦闘を好み誰彼構わず戦いを挑んでいるだけの戦闘バカかと思ったが、それなりに知識もあるんだな‥‥)


 スノウはヘラクレスを少しだけ見直した。

 さらに街中を進んでいく。

 大通りの両サイドには多くの家が立ち並んでいたが、誰かが住んでいる気配はなくゴーストタウンとなっていた。


 「誰もいませんね」


 「確か旧否國カイキアには禍外他人カゲビトが住んでるってソニックが言っていたわね。ルナもここの出身だったはずだけど、こんなことならソニックを呼び寄せておけばよかったわ」


 シアはあくまでスノウの関心事にしか興味がないため、ソニックが今何を考え行動しているかには興味がなく、禍外他人カゲビトの情報収集のためにルナがこの場にいれば都合がいいという理由だけでソニックはここに来ているべきだったとイラつきながら言った。


 「大丈夫だ。禍外他人カゲビトは攻撃的じゃないと聞いている。仮に攻撃してきてもおれたちに敵うほどの存在じゃないだろう。それよりもエークエスの神々の方が警戒に値する。ティアマトとアプスーの存在は聞いているが、他の神々については情報がほぼない」


 「そうですね。その神々には一つ聞きたいこともありますし」


 「そうだな。あの鳥の炎の存在‥‥明らかにおれたちに敵対してきたからな」


 「スノウさん!あれ!」


 シンザが前方を指さした。

 その先には美しい姿の男女が立っていた。

 綺麗に巻いている髪が6つの束になっている髪型の女性と男性だった。

 全身赤い服を纏っているため、白い肌に赤が映えている。


 「我らの領域に何用だ?」

 「人の家に土足でズカズカと踏み込んでくるあたり、流石は躾のなってないゼウスの血筋の者‥‥それに大魔王を気取っている駒‥‥殺されたくなければ直ぐに立りな」


 重苦しく丁寧な口調の男に続いて威圧的な口調の女が話しかけて来た。

 明らかに敵対姿勢だ。

 話す内容から、ふたりにとって会話すべき対象として映っているのはヘラクレスとディアボロスだけで、スノウたち3人は完全に無視されているようだ。


 「ラフムとラハムか。確か泥人形だったはずだが、多少まともな姿を取り戻して気が大きくなったか」


 ディアボロスが腕を組みながら相手を馬鹿にするような不敵な笑みを浮かべて言った。


 「駒が吠えるな。お前らなど母と父の手にかかれば一瞬だぞ」


 ラハムと呼ばれた女が答えた。


 「なんだお前らが相手をしてくれるんじゃないのか。まぁどうせティアマトとアプスーには挨拶するつもりだったから、その前にウォーミングアップで相手をしてやってもいいぜ」


 ヘラクレスが割って入って来た。

 腕を組みながら筋肉を盛り上がらせている。

 顔よりも大きい上腕二頭筋には血管が浮き出ていた。


 「いい度胸じゃないか。神殺しとか言われて浮き足立っているお前の吠え面が見られると思うとゾクゾクするぞ、ハハハ」


 「やめろラハム。もう一度聞く。用件はなんだ」


 「倒れない燭台をティアマトが持っていると聞いてな。少し借りに来たんだ」


 「レムゼブルノーの燭台か。確かにあれは我が母のものだ。忌々しいゼウスから得たものだが、今更何に使う気だ?」


 「野暮用だよ。お前らには迷惑はかけねぇ。ほんの100年ばかし借りるだけだ」


 「見返りは何だ?」


 「おいおい、器の小せぇこと言うんじゃねぇよ。こっちはわざわざ頭下げてんだ。それで十分だろ」


 ヒュゥゥゥゥン‥‥スタタ‥‥


 突如空から何者かがやって来て着地した。

 その姿は飛んでいる間は獅子の頭に大鷲の体であるアンズーの姿だったが、着地と同時にまるで全身の肉がそれぞれ生きているかのように動き変化して、翼の生えた男性の姿に変わった。

 顔は凛々しいが異様なのは胸の部分に獅子の顔、背中には天使のような鳥の大きな羽、そして手足は鳥のように爪が伸びている姿だった。


 「ヘラクレス‥‥ボレアスはどうした?お前はあやつの子飼い。まさかボレアスの指示ではあるまいな」


 「エンリルか。ボレアスさんは今忙しい。それにあの人の指示でもなんでもねぇ。単純に野暮用で倒れない燭台を借りに来ただけだ」


 ボゴゴゴゴゴ‥‥


 地面から水が湧き出て来た。

 そしてその水はまるで生き物のように上に伸びていき、美しい女性の姿に変化した。


 「物を借りるのに野暮用という説明だけで借りれるなら神々はここまで歪み合いませんね。あなたの父が我らに何をしたか、忘れたわけではないでしょう?」


 「エアか。忘れるもなにも俺たちには関係のないことだ。生憎俺もあの偉そうなクソ親父は嫌いなんでね。一括りにされるのは俺なりに心傷ついちまうぜ」


 まるでこの後の展開が戦闘になってほしいとでも思っているかのようにヘラクレスはこの会話を楽しんでいた。


 ヒュゥゥゥン‥‥スタタ‥‥


 右の茂みから何かが飛んできたかと思ったら、大きな獅子だった。

 その獅子はヘラクレスたちの前にたどり着くや否や、エンリルやエアと同じようにその体を変化させた。

 その者もまた異様な姿だった。

 薄い青色の肌で全身には毛がなく、まるで燃える炎のようなスカートを履いている。

 背中からは一瞬羽に見紛うような形で毛に覆われた獅子の腕が左右3本ずつ、計6本生えていた。

 顔には目しかなく、鼻も口もなかった。

 何故かどこからともなく、その者の声が聞こえてきた。


 「ここは我らエークエスの神国。ただで帰れると思うな賊の分際で」


 「フフフ‥‥マルドゥーク‥お飾りの王め。言ってくれるじゃないか」


 ディアボロスが先程から変わらず相手を馬鹿にするような不敵な笑みを浮かべながら言葉を返した。

 そして更に話を続ける。


 「雑魚が何匹集まろうと意味はねぇんだよ。さっさとお前らの親玉に会わせろ。お前らと違ってこっちは暇じゃねぇんだ」


 ガチャガガガ!!


 ディアボロスに向かってエークエスの神々が一斉に攻撃体勢をとり構えた。

 マルドゥーク、エンリル、ラハムの構えた剣先がディアボロスの顔面にあと数ミリというところまで向けられている。

 普通なら臆して後退りするか、そうでなくても表情が強張るはずだがディアボロスは眉ひとつ動かさずに不敵な笑みを浮かべ続けている。

 スノウたちはいつでも戦闘に入れるよう武器に手を添えていたが、エークエスの神々にとって眼中にないらしい。


 「おやめなさい」


 突如周囲に響く声で何者かが言葉を発したのと同時に溺れるような呼吸の苦しくなるオーラが充満した。

 まるでそれまでずっと生じていたかのように霧が充満しており、その中から女性が現れた。


 ズザザ!!


 その姿を見るや否やマルドゥークたちは道を開けるように両側に下がった。


 「人間?!」


 シンザが小声で言った。

 それに対してスノウが返す。


 「いや、あり得ない。あれは他の神とは桁違いの存在だ」


 「その通りだスノウ」


 ヘラクレスが笑顔で答えた。


 「見た目に騙されてんなよシンザ。あれが原初の海にしてバビロニアの神々の頂点に君臨する一柱、ティアマトだ」


 「!」


 ヘラクレスの言葉を聞き再度目の前に現れた女を見た。

 目の前の女がスノウには巨大な竜のような姿に感じられた。




次のアップは日曜日の予定です。

いつも読んで下さって有り難う御座います!

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