表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/1104

<ホド編>29.成果

29.成果



 「おぉ!オメェらこの数日でありえないほどの成長を遂げたなぁ、いやー嬉しいねぇ、はっははー」


 相変わらず楽天的に豪快に笑うアレックス。

 ニンフィーとワサンが帰還し、続いてスノウとロムロナが帰還したあと、最後にエントワ、エスティ、ライジがヴィマナに帰還した。

 ニンフィーとワサンが連れて戻ってきた赤龍ヴァルンはヴィマナの甲板から既に飛び去っていた。



・・・・・


・・・



----1時間ほど前----



 「おぉ!これが空ってやつか!でっけぇーなぁ!」


 火竜ヴァルンは初めて見る大きな空と広い海を見て感動している。


 「そっか、あなた初めてなのね。外に出るのが」


 「あぁ!あの場所も悪かねーんだがよぉ。つい半年前くらいから体が疼いてしかたなくてなぁ!何かが俺様を呼んでいるってゆーの?グァババババ!」


 「早ク行ケヨ。ウルサクテタマラネェ」


 「グァアババ!つれねぇなぁ!あんなに交わった中じゃぁねぇかよぉー」


 「気持チ悪インダヨ!」


 「グァバババ。でもまぁ礼を言わせてもらうぜぇ、銀狼に水の女。ありがとうよ!じゃぁ行くぜ!しみったれたのはなんだか背中がむず痒い」


 ワサンとニンフィーは既に中に入ろうとしている。


 「うぉーーーい!おらんのかい!ってグァバババ!覚えておけよ!お前らがピンチの時には必ず駆けつけるからなぁ!」


 そういうとヴァルンは大きな翼を広げて飛び立っていった。

 ニンフィーは少し微笑んでいる。

 ワサンはほっとした表情をしている。



・・・・・


・・・



 「今回の収穫はっと‥‥」


 アレックスは作戦室に集まった全員を一人一人値踏みするように頷きながら見回している。


 「基本全員が大幅にレベルアップしているようだが、ワサンが根源魔法の一つを使えるようになったことと、ガルガンチュアのねーちゃんが棚ぼたでゲットした伝説級武器ヴァナルカンドかぁ?」


 「はぁ?何なのあんた棚ぼたって!馬鹿にして!自分はただ体でかい馬鹿力なだけじゃない‥‥痛た!!‥‥ほんとに‥‥いったいあんたは何をしたってのよ‥‥痛た‥‥ぶつぶつ」


 エスティはライジに制されてもイライラが収まらない様子でぶつぶつ言っている。


 「あとは‥‥」


 全員がスノウの頭に目をやる。


 『スノウの頭な‥‥』


 全員が口を揃えて言った。


 (おれだけ強さじゃなく見た目か!)


 ロムロナのスパルタ教育はまさに鬼のようだった。

 いや、ドSの鬼そのものであれに耐えた自分こそがもっとも称される存在だとスノウは心の中で主張した。

 不満げにしていると、スノウの白銀頭の一部に目が現れる。


 「鼻くそ童。貴様は自分の努力を誇示する前にあたしが生かしてやっていることに感謝しな」


 『ゲェェェェェェェェェ!!』


 スノウとロムロナ以外の全員がオボロの目とコメントを目の当たりにし驚いている。


 「目‥‥目‥‥目ぇがぁ!!」


 (そうだろう、髪に目が現れるってのは気持ち悪いよな‥‥)


 「目がしゃべったぁぁぁぁ!!」


 「そこかい!目がついているところじゃなく、目がしゃべったとこかい!」


 反応のおかしいアレックスはさておき、スノウは事情を説明した。

 というよりオボロが事情を自ら説明した。



・・・・・


・・・



 「なるほど。理由は他にあるようですが、オボロ殿はこのダンジョンから抜け出すためにスノウ殿の髪に憑依したということですね。自分の本来の体はダンジョンの最下層階に封印されているため、精神体だけ憑依する形で地上に出てきたと」


 「あんたさすがじえんとるまん。礼儀がしっかりしているし理解も早い。その通りだよ。出てきた理由は言えないがねぇ」


 「そっかぁ。じゃぁばぁさんも俺たちの仲間になったってことだなぁ。戦力が追加されていいなぁ、はっははー」


 「勘違いするんじゃぁないよ。誰があんたらに加勢するといったね。あたしはこの鼻くそに憑依しただけで、仲間になるつもりはないんだからねぇ。この童が死ぬと困るからその時くらいだね、あたしが力を振るうのは。あんたらが何をしようと興味もないし誰と戦おうと知ったことじゃないんだよ、よぉく覚えておきな」


 「はっははー。いいんじゃぁねぇの?理由なんてそれぞれだ。一緒の飯食って一緒に行動したらそれは仲間っていうもんだ。まぁとにかくよろしくな!ばぁさん!」


 「あんた殺すよ。これでもあたしは神だからね!きちんと崇めな!オボロ神とかオボロ様とかね!」


 「そりゃそうだなぁ。確かに髪だなぁ!わかったよ、髪さん!はっははー」


 なんだか噛み合っているようで噛み合っていない。


 「さぁて、俺からも報告がある」


 少し真剣な表情に変わったアレックスの顔をみて一同が注目する。


 「知っての通り、ダンカンは三足烏サンズウーに殺された。」


 アレックスの握る拳に少し力が入る。


 「だが、ダンカンもただじゃぁ死なねぇ男だ。少しだが情報を入手していた。いやむしろ情報を入手したから殺された‥‥ということだ。俺たちなんかのために情報を得ようとしてなぁ‥‥」


 少しだけ複雑な表情を浮かべるエントワ。

 アレックスはグレゴリから受け取ったメモを皆に見せる。



ーーーーダンカンメモーーーー


 ―三足烏・烈―

 連隊長である<とぐろ赤毛>ホウゲキを筆頭に4つの分隊があり、その総数は500人にのぼる。

 500人というとガルガンチュアやパンタグリュエルから見れば弱小キュリアレベルの規模だが、ホウゲキとその4つの分隊それぞれをまとめる分隊長が桁外れの実力だ。


 ・ 烈連隊:連隊長・・・ホウゲキ。屈強な大男。どぐろを巻いた赤毛が特徴。

 ・ 第一分隊:分隊長・・・情報なし。一度も姿を見せず不明。第一分隊の存在を確認したのみ。

 ・ 第二分隊:分隊長・・・カヤク。戦力は不明。細身で長身の男。能力不明。

 ・ 第三分隊:分隊長・・・ギョライ。シャチの魚人。人の血が濃いためか肺呼吸と思われる。能力不明。

 ・ 第四分隊:分隊長・・・フンカ。容姿は中肉中背。能力は不明。


ーーーーーーーーーーーーーー



 「このホウゲキっていうのはぁ俺が戦ったやつだが、とにかくデカくて強い!完全に押されちまったぁ」


 「カヤク‥‥。次ハ必ズ殺ス‥‥」


 「つまりアレックスボウヤ、ワサンボウヤ、エスティちゃんが対峙したホウゲキって連隊長と第2分隊のカヤクってのだけでも相当な実力があるのにさらにあと3つの分隊長がいるってことね‥‥しかもそのうちの一人はパンタグリュエルの12ダイヤモンズを圧倒している」


 「あぁそういうことだなぁ」


 「元老院は三足烏という強力な手駒を得、戦闘力に長けたパンタグリュエルを事実上壊滅同然に追い込んだ‥‥ガルガンチュアは数でこそ強力だけど、おそらく三足烏の敵ではない。つまり残るはあたしたちレヴルストラだけってことね」


 ニンフィーが冷静に整理する。


 「ええ。そして悲願の王位継承権一位の若を殺す好機とも捉えているはずですね」


 「そうなると、このヴォヴルカシャは名実ともにいよいよ元老院のじじぃどもの支配下に置かれ、弱者はより元老院に怯えて暮らす生活を強いられるなぁ!しかも、やつらは越界技術を持っているはずだぁ。三足烏は間違いなく別世界から来ているからなぁ‥‥つまり、俺たちはぁ!」


 ダン!!


 アレックスはテーブルを叩く。


 「是が非でも飛翔石を手に入れてヴィマナを飛ばし、越界しなけりゃならなねぇ!三足烏・烈を倒すのはもちろんだが、それは単なる始まりだぁ!他にも同様の連中がいるはずなんだぁ!そいつらから貧しい生活強いられているやつらを救ってやれるのは俺たちしかいねぇ!」


 全員の表情が引き締まる。


 「さて、スノウ。おめぇに土産がある。剣だ。」


 アレックスは布で巻かれた二つの棒状のものを取り出しそのうちの一つをおれに手渡した。


 「これはフラガラッハ。神が使っていたとされる剣だ。たまたま預かっていたんだが」


 「いや!おれよりもエントワとかワサンとかもっと持つに相応しいのがいるじゃないか!」


 「ちげぇんだ。俺もそうしてぇところなんだが、この剣‥‥ちょっと扱いが難しくてなぁ。相性ってやつがあって、その相性が合わねぇと触れることすら出来ねぇって代物でさ」


 「何言ってんだよ、アレックス。今その手にもってんじゃん!」


 「いやな、これは神の織った布で出来ているからいわばその布を掴んでいるって感じなんだわ。おれもこの剣には触れられねぇ」


 「やってみないとわかんないじゃんか?っていうかなんでおれなんだよ!おれだって触れられない可能性高いと思うよ?」


 心なしかエントワもロムロナ、ニンフィーもよそよそしいというかこの会話に入ってこようとしない。


 「まぁ見ててみ?」


 アレックスは剣を台の上に置き布をとってみる。

 目の前には古めかしいが何か威圧感を覚えるような剣が現れる。

 アレックスはその剣を取ろうとするが、当たり前のようにすり抜けてしまう。

 まるでその剣がホログラムであるかのようにすり抜ける。

 同じようにエントワやワサン、その他のメンバーも触れてみるが同じようにすり抜けてしまう。


 「ってわけだ。残るおめぇが触れられなかったらこの剣は使えねぇってことで宝物庫行きだなぁ」


 恐る恐る剣に手を伸ばす。


 ツツ‥‥


 「あ‥‥」


 (触れられる‥‥なぜだか触れられる!)


 スノウはそのまま柄を握りしめ剣を持ち上げる。


 (軽い‥‥いや軽く振れるがその振れかたは重い‥‥)


 何をいっているかスノウ自身でも分からないが、軽く振れるのにダメージは重いという感じが伝わってくるのだ。


 「な?やっぱり。ということでそれぁ今日からおめぇの剣だ」


 「あ、ありがとう‥‥」


 なぜ自分だけに触れられるのか。

 スノウの脳裏にそんな疑問が真っ先に頭に浮かんでくるが、周りの雰囲気がその質問を受け付けない感じになっているので今は控えた。


 「それでもう一つの包みは?」


 「あぁ、これか?これは俺の槍だ。これもフラガラッハと同様に神が使ってたって言われる槍だがこれは代々ヴォヴルカシャに伝わっているものでなぁ。王家の血筋のものだけが使える血の契約を交わしたものらしいんだなぁ。つーことで一応王家の血とやらが流れてる俺には扱えそうだってことだなぁ。親父も使っていたからなぁ、多分大丈夫だろう、はっははー!」


 そう言いながらアレックスは包み布を取り外し中の槍を手に持ってみる。

 見事に掴める。

 試しにライジが持とうとしたが手渡された時に手をすり抜けた。

 そのまま下に落ちたが自分の足の甲に落ちたため、激痛が走って転げ回っていた。


 「手では持てないけどそれ以外では触れられるってことか?」


 「スノウ殿。武器を持つ時心の中でどのようなことを思いながら手にしていますか?」


 「え?意識はしていないけど、しっかり掴もうとか、思いっきり振ってやろうとか、そんな感じかなぁ」


 「一方、相手の剣を受けそうになる時はどのような意識ですか?」


 「当たりたくない!避けなきゃって感じ?」


 「そう。扱う者と攻撃対象、それをその武器そのものが選んでいるのですよ。だから貴殿が手にしているフラガラッハはスノウ殿には触れられてスノウ殿以外には触れられない。つまり、あなたは扱う者としてその剣に認められた存在、我々は単なる攻撃対象でしかない、ということです」


 「じゃぁ今ライジが触れないのに足にヒットしたのは‥‥」


 「ライジは扱える者として認められていない為に触れられなかった。一方で触れられた足は攻撃対象とみなされたのでしょう」


 「はははライジ!修行が足りないわね、あなたは素早さにかけては超一級だけど攻撃がだめなのよねー。その辺りをこの槍に見抜かれたんじゃぁないのォ?」


 おいしいネタを仕入れたとばかりにエスティがライジをいじる。


 「総帥だって触れないじゃないですかぁ!総帥なんていじわる力と威圧感は超一級ですけどそれ以外はからっきしですもんね!」


 ボッゴォォン!


 「ギャーーース!」


 エスティからどぎつい蹴りが飛んだ。


 「よぉし!これで準備万端だなぁ!蒼市にもどるぜぇ!おそらくは三足烏サンズウーの烈のやつらは飛翔石のあるダンジョン付近で待ち構えてるはずだ。このヴィマナへの侵入は避け少し離れたところから転送でダンジョンの中層あたりまで飛ぶ。そこからは時間との勝負だぁ!もたもたしてると500人を超える烈のやつらが集まってきちまうからなぁ!」


 「ダンジョン突入は到着後すぐ。夜中に転送できるようにヴァマナで移動する。それまで各自戦闘の準備と体力の回復に努めましょう。作戦はダンジョン転送前に伝えます。それでは解散です」


 各自自室に戻っていく。

 

 ニンフィーの回復魔法の効果は非常に高い。

 基本的にスノウ、ワサン、エスティ、エントワ、ライジがかなりの負傷を負ったが移動時間中に全回復できるところまで治してもらっている。

 ガングリオン討伐組となった3名は毒の影響もあるが、ガングリオン本体が消えたことで強力性は失われほぼほぼ完治できるようだ。


 「なんだい、緊張してるのかい?」


 オボロがスノウに話しかける。


 「誰だよ ”ぷらいばしい” は尊重するって言ったのは。まぁいいや。そうだなぁ少し緊張しているかもなぁ。つい数ヶ月前まで別の世界にいて、戦いとは無縁のビジネスパーソンやってたんだぜ?しかもダメ社員だったし。そんなおれが今や剣とか魔法とかファンタジーなことにどっぷり浸かってさ。それに今の仲間は‥‥なんていうか‥‥おれの約40年間を180度ひっくり返すほど密度の濃い関係というか、心が落ち着く関係というか‥‥」


 ベッドに横たわりながら自分の気持ちを整理するようになぜかオボロに心境を話している。


 「今はあいつらのためならおれはどんなこともやれるって思えてる」


 「ふん。そういうやつが一番最初に命を落とすんだよ。死なれたら困るからねぇ。しっかり用心して、怖くなったら逃げろ。自分の感覚ってのぁね、ある意味本能で説明のつかない一番確かな情報なのさね」


 「逃げる‥‥か。逃げて逃げて逃げまくったのがおれの37年だからなぁ。惨めで苦しくて‥‥そんな気持ちを誤魔化してるからどこ行っても居場所なんてなくてさ。これが本能の仕業だとしたら、おれの本能はおれを惨めで辛くさせる根本要因ってことだな」


 スノウは以前いた世界での自分を思い出しながら話を続ける。


 「確かにこの世界に来て、自分がいつ死ぬかわからないっていう恐怖はあるけどさ。でもあいつらと出会ってこれまで抱いていた惨めな気持ちとか、寂しく辛い気持ちとか全部吐き出した時に何か吹っ切れたっていうか‥‥。死ぬのは怖いけど、アイツらの信頼を失うのはもっと怖いって‥‥今はそう思うんだ」


 「そういうもんかい。あたしぁ1000年以上生きているが生まれたての頃はいつ死ぬかわからない状況で必死だったからねぇ。食べる、寝る、逃げるっていう本能だけが唯一信じられる確かな情報だったね。まぁお前たちゲヌスは一人で生きられないひ弱な生物だからねぇ。まぁせいぜい頑張りな‥‥って寝てるのかい!」


 ダンジョンでの戦いで疲れ切ったのかスノウはいつのまにか眠っていた。


 「全く‥‥このあたしの言葉を聞けるなんてこの上ない光栄なことなのにねぇ。全く罰当たりなやつだ童め」


 心なしか微笑んだような口調でオボロも目を閉じた。






10/31修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ