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<ケテル編> 96.シルズとハーク

96.シルズとハーク



 「はぁ?!」


 (全くこいつマジで俺の何だと思ってんだ‥‥クソ)


 ガガガッ‥‥


 ヘラクレスは自分の5倍はあろうかという大岩に自分の指一本一本を突き刺した。


 「ふん!」


 ヘラクレスの身体中の筋肉が膨らみ血管が浮き出る。


 フシュゥゥゥゥゥ‥‥


 体から蒸気のようなものが噴き出してきた。


 グググググググ‥‥


 彼以外の半神ではまず間違いなく持ち上げられない大岩が少しずつ浮いていく。


 「凄い‥‥」


 ジェイドはその光景を見て驚きの声をもらした。


 「こいつの天技は主は力だ」


 「力?」


 「そうだ。力といってもこいつの力は単純だ。腕力ポテスタス。こいつの異常なまでの腕力は神が持つそれを凌駕する。魔法が使えないこのケテルでこいつに敵う神はごく少数だ。だから神殺しとも呼ばれている。事実何人か神相当のやつらを殺しているからな」


 「ほぇぇ‥」


 ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥グガガガガガガガン‥‥


 大岩はさらに持ち上がる。


 グガガガガガガガガガガ‥‥‥バラパラパラパラ‥‥‥


 「おおおお!」


 ガガガガガガガガガ!!‥‥スタ‥スタ‥スタ‥スタ‥


 ヘラクレスは大岩を抱えて一歩一歩後退りした。


 「おぉうらぁ!」


 ビシュゥゥゥン‥‥ドスゥゥゥゥン!!


 ヘラクレスは大岩を影響がない場所に放り投げた。

 大岩が着地すると同時に地面が揺れた。


 「ふぅ‥‥どうだ?これでいいかっておい!聞いてねぇ!」


 ヘラクレスが岩を退かしたことに対する礼や労いの言葉もなく、シルゼヴァとジェイドは大岩のあった場所に目を向けていた。


 (くそ!礼儀知らずなやつらめ!シルズは無理だからあのヒョロイのだけでもぶっ殺しておくか?じゃねぇとよ)


 ヘラクレスは右腕を上にあげた後、準備体操のように腕を回し始めた。


 「俺の気が治らねぇ」


 ガッ!


 「!?」


 ヘラクレスはジェイドの荷物を取り上げて放り投げた。

 そしてもう片方の手でジェイドの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


 「おいお前‥‥俺の憂さ晴らしのために死ね」


 「おい」


 背後から聞こえた声にヘラクレスの背筋が凍る。


 ガガッ!!


 「あがぁぁぁあ!!」


 シルゼヴァがヘラクレスの背後におり、ヘラクレスの腰より少し上の部分を鷲掴みにしている。

 指は肉に食い込むのを通り越して突き刺さっている。

 凄まじい激痛が全身を巡りヘラクレスは思わずジェイドを放り投げた。


 スタ‥


 突然の状況に何が起こったのか分からなかったジェイドだが、うまく着地してふたりのやりとりを見守った。


 「ハークお前、何勝手なことしてるんだ?俺があの岩の下に興味を持っているのを知っててジェイドを殺そうとしたのか?ええ?!」


 グイィィ!!


 「あがはぁぁぁぁ!」


 シルゼヴァはヘラクレスを掴んだまま彼をを持ち上げた。

 ヘラクレスはシルゼヴァの上で仰向け状態で持ち上げられている。

 ジェイドは、シルゼヴァの言った岩の下への興味とジェイドを殺す殺さないの関連性は、ヘラクレスは知り得ないのではと思いながらも助かってよかったと思った。


 「分かった分かった!俺が悪かった!もうそいつは殺さねぇ!だから離してくれ!頼むシルズ!俺が悪かったって!」


 ドォォン!!


 シルゼヴァはヘラクレスを放り投げた。


 「分かったならいい。許してやる。ハーク、お前も来い。俺の興味あることにはお前も興味があるだろう?」


 「あだだだ‥‥もちょっと待ってくれ‥‥腰に激痛が走ってて立てねぇ」


 「待つわけないだろう?お前はそこで寝ててこの俺の興味が満たされる瞬間を見逃していればいい」


 労っているのか、突き放しているのは分からないシルゼヴァの応対にジェイドはヘラクレスのことが少し気の毒になった。


 (シルゼヴァさんのおかげで殺さなくて済んだけど、元はと言えばこの人がヘラクレスさんを呼んだのが原因だよな‥‥と言うよりこの人の力‥‥あのヘラクレスさんを片手で軽々と‥‥わざわざ呼びつけなくてよかったんじゃぁ‥‥)


 ジェイドは疑問に思ったがそれを口に出した瞬間に自分の命がないと悟ったため黙っていた。


 「おいジェイド。早く調べよう」


 「は、はい!」


 ジェイドは感覚を研ぎ澄ませた。

 間違いなくこの地下に自分が助けるべきと感じている存在がいる。


 「慎重に岩を取り除いていきましょう」


 ガララ‥‥ガガン‥‥ギィィガララ‥‥


 ジェイドとシルゼヴァは慎重に岩を取り除いていく。


 ガラ‥‥


 「!」


 ジェイドは地面の下に何かを見つけた。


 「シルゼヴァさん!」


 「ああ」


 地面の下に球体状の空間があり、その中に3人の人影が見えたのだ。

 ジェイドは小さな松明をつけて中を照らした。


 「!」


 見覚えのある3名だった。


 「ス、スノウさん!!」


 ジェイドは急いで瓦礫や土を退かして中にいる3人を引き出そうとする。

 球体状の空間にいたのはなんと、スノウ、シア、シンザの3人だったのだ。

 シアとシンザはスノウを庇うようにして倒れ込んでいたため、ふたりから引き上げられた。

 ふたりとも傷だらけで意識がなかったが、脈拍と呼吸は感じられたためジェイドはほっと胸を撫で下ろした。

 そしてシルゼヴァがスノウを引き上げようと地下の空間の中に入った。

 中に入らないとスノウを引き上げられなかったからだ。


 「シルゼヴァさん、すみません」


 「いい。俺の方が体が小さいからな」


 シルゼヴァはスノウを見て何かを思い出したように話始めた。


 「おお、こいつは一度会ったことがある。そういえば他のふたりも見覚えがあるな」


 シルゼヴァはスノウを肩に担ごうと触れる。


 バチィ!!


 何か電気のようなものが弾けた。

 シルゼヴァは思わず手を引っ込めた。


 「‥‥‥‥」


 スノウの銀色の髪の中から覗く細く切長の目がシルゼヴァを睨みつけている。


 「そんな目で見るな。消し去ろうなんて考えていない。俺は他の者とは違う」


 「そうかい‥‥嘘だったら殺すよ」


 「俺にそんな口が聞けるとは心配不要だな」


 「お前にこの世界の常識が通じるとは思わないけど男に二言は無いだろうね‥‥」


 「約束しようじゃないか。まぁ信じるかどうか俺が決められるものじゃないがな」


 切長の目はゆっくりと閉じて消えた。

 シルゼヴァはスノウを担いで地上に向かって飛んだ。


 スタ‥‥


 「スノウさん!」


 スノウは明らかに他のふたりと違う異様な状態だった。

 全身真っ白で死人と見紛う状態だが、かろうじて脈拍と呼吸が感じられた。

 全身から生気と魂が抜けたようなまるで抜け殻の人形のようにも感じられた。


 「これは?!何をしたらこんな状態になるのでしょうか?!」


 「魔力だな」


 「魔力?!」


 「ああ。おそらく魔力がカラカラに尽きるまで放出したのだろう。普通こんなことやりたくても出来ないんだが。まぁやりたいと思う者もいないがな」


 「それでどうしたら良いのでしょうか‥‥」


 「心配するな。魔力がないなら与えればいい。簡単ではないが、元に戻すことは出来る。おいハーク!」


 ヘラクレスは “またか‥” といった表情でシルゼヴァの方を見た。

 だが、まだ抉られた腰に激痛が走っており立ち上がることも出来ない。


 「何だ?情けないな」


 そう言うとシルゼヴァはヘラクレスの腰に手を当てた。


 ブルルン!!


 エンジン音のようなものが聞こえたかと思うと、ヘラクレスは何事もなかったかのように立ち上がった。


 「ほほう!痛くねぇ!‥‥シルズ、サンキュ‥‥違う違う!これそもそもお前がやったんだから礼は言わないからな!」


 「そんなことはどうでもいい。興味がない。それよりジェイドとスノウたちを担いで家まで連れてこい」


 「はぁ?!お前いい加減にしろよな!俺を何だと思ってんだ!」


 「お前か?お前は “トモダチ” だ」


 「!‥‥お、ま、まぁお前が俺を友だっつーんなら仕方ねぇな」


 シルゼヴァの言葉にさっきまでイラついた表情を浮かべていたヘラクレスは一気にまんざらでもない顔に変わった。


 「頼んだぞ。俺は一足先に戻る」


 そう言うとシルゼヴァはスクーパを広げた。

 吹き荒ぶ風は相変わらず不規則なため、地上で風を掴んで空に飛び立つことはほぼ不可能だ。

 だが、シルゼヴァはスクーパを広げるとしばらく空を見つめた。


 ヴァサッ!‥‥バシュゥゥゥゥゥ!!ヴァフゥゥゥン!


 一瞬フラついたがすぐに体勢を整えて風を掴み、空に舞い上がった。


 「ほあぁぁ‥‥あんなことできる人がいるんですね‥‥」


 「ああ。あいつは異常者だからな。おそらくケテル‥‥いやハノキアいちのスクーパ乗りだ」


 「へぇ!あのペフタステリ・コンテストで伝説になっているアステリマスカよりもですか?」


 「ん?ああ、あれはシルズだ。星のマークのついたマスクかぶって出たからシルズだって分かるやつはいないけどな。あの大会では俺がどうしても出てくれってお願いして出てもらったんだが、さらっと優勝しちまって、つまらないとか言って2度と出てくれなくなっちまった。まぁ同じく出場した俺は地面に大穴開けちまって出禁になったけどな!わっはっは!」


 「ほえぁぁぁ‥‥」


 ペフタステリ・コンテストとは旧ボレアス国首都グザリア発祥のスポーツの大会で、スクーパを装着した選手が峡谷の上から風を捉えて思いっきり跳躍しギリギリまでスクーパ(グライダー)を開くのをどこまで我慢できるかという勇気点と、どれだけ着地を綺麗に砂煙を立てずに行うかの技術点の総合得点を争う競技だ。

 風の大破壊ヴァシュヴァラ以前はグザリアには常に同じ方向に良い風が吹いていたため、大会は常にグザリアで行われていた。

 世界各地にスクーパ乗りがいたが、他の土地では風の質がよくないためメジャーな選手はみなグザリア出身だった。

 その中でもアネモイ剣士たちが出場するペフタステリ・コンテストは絶大なる人気を誇っていた。

 大会で残された伝説の中でダントツの得点を叩き出したのがシルゼヴァが扮したアステリマスカだった。

 通常ムササビのように両手両足を拾げてスピードを調節し、スクーパを開くタイミングを見計らって静かに着地できるように飛ぶ。

 しかしアステリマスカは空高く跳躍したあと、頭部を地面に向けて急降下しあっという間に地面に激突すると思った直前地面スレスレでスクーパを開き、なんとそのまま浮上して1回転した後に、まるで羽が地面にゆっくりと落ちていくのように着地したのだ。

 あまりの美しさに観客たちはしばらく何が起こったのか理解できない跳躍だったが、前にも後にも誰にも破られることのない記録として残り大歓声の中ぶっちぎりでアステリマスカが優勝した。

 同大会でシルゼヴァの見せた跳躍を真似たヘラクレスは急降下したままギリギリで開いたスクーパが大破し、そのまま地面にクレーターのような大穴を開けて失格となった。

 スクーパが不良品だと主張し暴れ出して大会を台無しにしかけたことで、ヘラクレスはペフタステリ・コンテストに出禁となったのだった。


 「おいお前何ぼさっとしてんだよ。行くぞ。早く荷物を持て」


 既にスノウたちを抱えているヘラクレスはそう言うと、巨大なバックパックを背負ったジェイドも抱えていきなり走り出した。


 タッタッタッタッタ‥‥ズドォォォォン!!


 まるで爆発でも起こったかのように地面を蹴り跳躍した。

 弾丸のように山脈の壁面に向かって飛んでいく。


 ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!


 そしてかなりの高度にある切り立った壁面にある横穴に着地した。


 スタ‥‥


 ジェイドはそこで下され、ヘラクレスはスノウたち3人を抱えたまま、奥へと入っていった。

 ジェイドは生きた心地がしなかった。





いつも読んで下さってありがとうございます!

次のアップは日曜日の予定です。

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