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<ホド編>28.戦局を見よ

28.戦局を見よ



 「もう少し動けそうですね。少し相手の行動パターンを探ってみましょう」


 「おじさま、無理なさらず。わたし行けます!」


 「いえ、この状況で私があの魔物を倒すのはほぼ不可能。つまり勝機を掴むためにはエストレア、あなたにあの魔物を倒して頂くしかないのです。ただ、今のままでは相手の情報が少なすぎる。あのヘドロの魔物はまだ毒を纏った単純な物理攻撃しかしていないのですから」


 そう言い終えるとエントワは激痛の走る足で立ち上がった。

 おそらく転げ回るほどの痛みだろう。

 しかし言われないとわからないほど表情は普段と変わらず、動きもなんの影響もないように見える。


 「エストレアにはこのフルーレを返しておきましょう。ライジ殿、片手では心許ないので少しお貸し願いたい」


 そういうとライジの持っているショートソードを手に取る。


 「さて。あなたがどうやってそこまで大量の毒を溜め込み大きくなったか。見せてもらいましょうか」


 いつもの背筋を伸ばし脇を締めダンディそのものの姿勢で言う。

 剣先は地面に向いているがどんな攻撃にも対応出来るように隙はない。


 「そうそう、遊んでいてはいけませんよエストレア。これは所謂(いわゆる)卒業試験とでも思っておいて下さい。私に師事し学んだ者はいずれも巣立っています。若やダンカンのように皆、人を統べ導く力を身につけて自分の道を進んでいます。残念ながらダンカンは道半ばで命を落としましたがね。そしてエストレア、今日はあなたが私から巣立つ日です。将来ガルガンチュアを背負って導くための第一歩を踏み出しなさい」


 そう言い放つと迅移で一瞬にして移動する。


 「ブレレレ‥‥なかなか早いな。だが朕の前ではスピードなど無意味だ」


 そう言うとガングリオンは再びタイダルウェーブを放つ。


 ズザザバババァァァァン!!!


 「いえ、スピードも重要ですよ」


 エントワはヘドロの津波の根元部分にダブルエアダンディズムを放ちながら突っ込んでいく。

 まるでサーフィンで言うドルフィンスルーのように波に逆らわないように風のトンネルを作り津波をやり過ごす。


 「すごい‥‥」


 エスティの脳裏に幼い頃にエントワにつけてもらった厳しい稽古の風景が蘇る。



・・・・・


・・・



 「やぁ!」


 13〜14歳と思われる少女が地面を思いっきり蹴り、細身の木剣を手に目の前に美しい姿勢で立つ男性目掛けて切り込んでいく。

 しかし、その男性はいとも簡単にその木剣を素手、しかも人差し指のみで軌道をずらしかわす。

 もちろん動かしたのは剣の軌道をずらした腕のみで、もう片方の腕は後ろに組んだままで立ち位置もずれていない。


 「くそ!なんだ!あたらない!」


 「エストレア。レディーがそのような汚い言葉遣いはよくありません。いつなんどきも毅然として冷静にです。悔しがる仕草を少しでも見せれば相手は自分の行動が有効だと認識します。つまりあなたは今自分のスピードがMAX近くであったことを相手に知らしめたのですよ。まぁブラフとしては使えなくもないですがね」


 「違う!おじさまは年の分だけ経験があって強いだけよ!身体能力の差!あたしもおじさまと同じように大人になれば簡単に攻撃を当てられるようになるわ!」


 そう言いながら再度同じように猛スピードで突進し木剣を男に叩きこうもうと試みる。


 「ほう!言い訳ですか。レディにあるまじき発言ですねぇ」


 男は目を開けずに小石を拾い上げ指先で小石を飛ばした。


 「きゃ!!」


 その小石は少女の木剣を持つ手にあたり、痛みから思わず木剣を落としてしまう。

 だが勢いは止まらずそのまま突っ込んでしまうが気づくと服の背中を掴まれ、もう片方の手の親指を首のあたりに押し付けられた。

 ツボを押されているのか、体に力が入らず抵抗ができない。


 「エストレア。あなたは戦局を見ていないのですよ。つまり、自分好き勝手に剣を振り回しているだけ。ほしい玩具を買ってもらえずに駄々をこねている子供と同じです。周りを見なさい。相手を見なさい。そして自分を見なさい。何をすべきか、どのような行動を取るべきか、その都度瞬間瞬間で判断するのです。その判断の積み重ねが次の一手の予測を行う思考に繋がります。年をとったからといって出来るものではありません。常日頃意識して行動しそれを積み重ねた者が得られるものなのですからね」


 体が動かない中意識まで遠のいていく。


 (くそ‥‥あたしだって早く動けるんだ‥‥エントワおじさまよりも早く動けばこの木剣を当てて‥‥褒めて‥も‥ら‥)



・・・・・


・・・



 「あれは単にエアダンディズムの威力が高いだけじゃない。あのヘドロの津波にうまくスピードを合わせて、出来る限り抵抗を減らして突き進んだからこその突破。スピードは速さを出すものじゃない。相手の動きを把握しその動きに合わせ制するための基礎能力‥‥」


 エスティは当時のエントワの教えを思い返しながら戦局を見据える。


 「そしておじさまはあのタイダルウェーブの中に力の流れをみたのね。相手を見る、そして自分を見る‥‥相手の状況を見て自分が対応出来るかを判断し動いた‥‥」


 ドルフィンスルーで抜けでたエントワはそのまま反対側の壁に捕まる。


 「困りましたね。相手の攻撃を避けることは出来てもこちらの攻撃は効かない。この巨体を動かすコアがどこかにあるはずなのですがね」


 (もしコアがない場合切ったら切った分だけ分裂する可能性ありますね。少し試してみますか)


 「さて、ガングリオン殿。貴殿の強力な毒と広範囲な攻撃の有効性は理解しました。おそらくそれ以外にもいくつか手はお持ちなのでしょうが、こちらもあまり持ちそうにありませんからね。ちょっと攻めさせて頂きますよ」


 「ブレレ!面白い!」


 ガングリオンは再度タイダルウェーブを繰り出す。

 一方、エントワはウルソー系強化魔法を心の中で詠唱し力を溜め込む。


 「大海切断ディズム!」


 両手を前に出し剣を合わせるように構え双剣を振り上げる。

 両腕には力がみなぎりその熱からスチームのような煙が放出される。

 そして押し寄せるヘドロの大波の右側を狙い思いっきり振り下ろす。


 「フン!」


 ブジョァァァァァァァ!!


 振り下ろした剣から凄まじい空圧が発せられ暴風と雷を纏った空気の亀裂がヘドロの津波の右端を切り裂く。


 ドガバッシャーーー!!


 エントワは大技を放つと同時に迅移でできた亀裂に飛び込み反対側の壁に飛び移る。

 すぐさま次の魔法を放つ。


 「バリアオブウォターウォール」


 できた亀裂を隔てるように水の壁を作る。


 「ダブルジオ・エクスプロージョン」


 さらに切られた津波の大きい方と小さい方それぞれに目掛けて高熱爆発魔法を放つ。

 津波本体の方には大した効果はないように見えるが小さい方の津波は少しヘドロが蒸発したように見えた。


 「うおおおおおお!!!!!テメェ!何すんだよ!ダメージはねぇけどなんか一本取られたみてーになっててすげームカつくぜ!!朕にこれだけの攻撃をしかけられたのはてめーが初めてかもなぁ!」


 低い地響きのようなガングリオンの太い声は若者のような声になり、言葉遣いは突如乱暴になる。


 「さすが、この一体の支配者。私の渾身の一撃もほとんど効果なしですか。参りましたねぇ」


 そう言いながらエントワはエスティを見る。


 “ここからはあなたの戦いですよ”  と言わんばかりの表情だ。

 エスティがエントワの足を見ると、先ほどの毒が少し広がっているように見える。

 おそらく大技の連続で体内魔力が減ったことで毒の進行が進んだのだろう。

 通常であれば傷を治したらその場で効果を失う回復魔法も今回は毒の進行を抑える効果になっていたわけだが、それは常に魔力によって押さえ込んでいるもののため、今のような魔力消費の多い大技を繰り出すと途端に回復に魔力が回らず毒が進行する、という状態のようだ。


 (おじさま‥‥。おそらく常人なら立つことさえできない状態のはず。これ以上おじさまに頼る訳にはいかない!)


 エスティは覚悟を決めた。

 右手にフルーレ、左手にはキンベルクを倒し入手したヴァナルカンドをもち立ち上がる。


 「おい!ヘドロの王!こんどはわたしが相手だ!」


 「あぁ?さっきからオロオロしてる女のガキじゃねぇか!生意気な口聞きやがって!いいぜ速攻壊してやるぜ!」


 エントワの放った魔法バリアオブウォターウォールの効果が薄れ分裂状態だった切れ端が本体に戻り融合する。


 「さぁくるがいい子娘。そこの初老の玩具のように朕を楽しませてみろ!ブレレー!」


 急に元の太い地響きのような声に戻る。


 (戦局を見るのよわたし!)


 ウルソーで全身強化したエスティはロワール流剣技、聖蘭剣舞を放つ。

 振りの早い剣技は風をまといかまいたちに似た切り裂く風を生む。

 放たれるかまいたちはヴァナルカンドによって強化されており、エアダンディズムにこそ及ばないが近しい威力を持ってガングリオンに飛んでいく。


 「ふん‥‥こんなそよ風がなんだというのだ‥‥」


 シャヴァン!!


 かまいたちを振り払おうとしたヘドロの壁は切り裂かれヘドロの顔と思しき一帯に飛んで行きヒットする。


 「朕の顔に傷をつけたな!こんなもの効かぬが言うなれば鳥獣のフンをかけられた気分だ!さぁ恐怖しろ子娘!今壊してやる!」


 そう言いながらヘドロを動かし始める


 「螺旋の蛇!」


 無数の棒のようなヘドロがカクカク方向を変えながらエスティに向かって飛んでくる。

 一本一本のヘドロの棒には規則性がないように見えるが、全体を見るとまるで大きな蛇が獲物目掛けて口を大きく開け今にも飲み込もうと迫ってきているように見える。


 「おじさま‥‥ライジを頼みます」


 おそらく聞こえてはいないが、入り口から少し離れたヘドロに触れない高さにある段差にライジを寝かせエスティは階段入り口付近でその蛇を迎え撃つべく構える。


 「観念したか!子娘!」


 ヘドロの蛇はそのままエスティのいる階段入り口に突っ込んでくる。


 「さぁ!鬼ごっこの始まりよ」


 エスティは階段を登り始める。

 それを追うようにヘドロの蛇も階段へ突入する。


 「ブレレレレレ!逃さんぞ!何人たりとも朕の攻撃から逃れられるものはおらんのだ!」


 ヘドロの蛇は階段を素早くズルズルと這い上がっていく。

 1フロア上に出たエスティを追ってヘドロ蛇も上がってきた。


 「ロワール流剣技、聖蘭剣舞、連続咲き!!」


 シャラン!シュラン!シャララン!シャララン!シュララン!


 エスティは無数のかまいたちの刃をヘドロ蛇に放った。


 「だからそよ風といっているだろう?」


 そう言いながらヘドロ蛇はエスティの放ったかまいたちヤイバを食いながら向かってくる。

 エスティは迅移で壁を飛び渡りながらさらに聖剣乱舞をさらにお見舞いする。


 シャラン!シュラン!シャララン!シャララン!シュララン!


 放たれた聖剣乱舞は全てヘドロの蛇に食われて消える。

 ガングリオンのヘドロの蛇は上の層でエスティを追って壁沿いの這い出て戸愚呂を巻いた状態になっている。


 「そろそろ頃合い‥ね」


 (わたしの技が通用するのかわからないけどおそらくこれが今わたしのできる最良の策)


 タッタッタッタッ!


 エスティは壁沿いに走り階段まで走る。

 後ろにはヘドロの蛇が口を開け今にもエスティを飲み込もうとしている。

 エスティは心の中で再度ウルソーの強化魔法をかけ攻撃に備える。


 (バーサーク、ジノ・アジリアル、マジックアドヒレンス‥‥おじさま‥‥)


 「聖華聖嵐(せいかしょうらん)


 エスティのフルーレの軌跡が聖なる華を咲かせ舞う。

 目を瞑り大きく振り上げる。

 技に呼応しヴァナルカンドが光出す。

 そして舞うように階段から飛び出ているガングリオンの蛇の胴に一撃を加える。


 ファササン!!


 綺麗な断面とともに蛇が切られる。

 エスティはそのまま階段に入りそのまま最下層階へ向かう。


 「聖狼牙突(せいろうがとつ)


 振り返り強力な突きを喰らわし階段を破壊、封鎖する。

 切り離された蛇の方は本体と切り離されたのか力なく落下し元のヘドロに戻る。


 「あああああああああ!!!!ちっちゃくなる!ちっちゃくなるー!!」


 大幅に体積を減らしたガングリオン本体が叫び出す。

 その声は最初に会話した際の声色と同じ子供のようなものに変わっている。

 エスティはそのままエントワの元に駆け寄る。


 「グッドジョブです。エストレア」


 「おじさま‥‥」


 「さぁ、まだ終わりではありません。油断は最大の敵です」


 「はい!」


 エスティは迅移でガングリオン本体に詰め寄る。


 「聖狼牙突!」


 「やめろよー!ポイズンレインんんーー!」


 ガングリオンは無数のヘドロの針を雨のようにエスティに飛ばしてくる。


 ザザザザザザン!!


 エスティは迅移でそれを避ける。

 ヘドロの針は地面に突き刺さる。


 「聖剣乱舞!」


 スガガガガン!!


 エスティは剣の乱舞で床を抉り、岩や砂を巻き起こし突き刺さっているヘドロの針が本体に戻らないように岩や砂で覆い尽くす。

 さらに体積を減らすガングリオン。


 (これは時間との勝負。時間をかけるとせっかく分離したヘドロが本体に再融合し振り出しに戻ってしまう。戦局は “叩くときは今” と伝えている!)


 「聖狼牙突!」


 エスティは再度強力な突きを放つ。

 剣先が触れる前に体に空間を作り避けるガングリオン。

 そこに突っ込むエスティを毒まみれにしようと毒のヘドロで覆い尽くそうとする。


 「聖華聖嵐!」


 聖華を振り撒く流れる剣技でガングリオンを真っ二つに切り裂く。


 「聖剣乱舞!!」


 ドガガガがガン!!


 エスティは天井を攻撃し、大量の瓦礫で体積の少ない方のヘドロを埋めつくす。


 「す‥‥すごい‥総帥‥‥いつの間にあんなに強くなったんだろう‥‥」


 ライジは朦朧とする中でもエスティの動向を見守る。


 「強くなったというのは違いますねぇ。今繰り出している技の数々は既に体得しているもの‥‥今まではそれを使いこなせていなかったということです。それをこの戦いで適所で使い始めている。しかも意識して行動しているのではなく、戦局をみながら流れに身を任せた戦い方をし始めている。ロワール流剣技の基礎ですがね」


 「ロワール流剣技‥‥」


 エスティのガングリオンを分割によって弱体化させる攻撃は功を奏し、大きく体積を削りついには人と同じくらいの大きさまでになった。

 この程度の大きさとなればいくら強力な毒を持っていても普通のダークスライムのサイズと同じ。

 普通のダークスライムであれば倒せるはずだ、エスティはそう考えていた。

 しかし、エスティ本人が気づいている通り少しでも隙を与えれば分裂した体を取り戻してしまうだろう。


 (そろそろだわ!)


 「聖剣乱舞!」


 かまいたちを見舞い、ガングリオンがそれを避けている隙に一気に間合いを詰める。


 「聖魔斬!!」


 闇を滅する聖なる力を宿した剣技、聖魔斬でトドメをさすべくフルーレを大きく振りあげる。

 フルーレは白い光に包まれて輝く。


 「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ガキィィィンンン!!


 衝撃で煙が舞う。


 「ど‥‥どうなったんだ?」


 ライジは煙で状況が見えず目を凝らすが、やはり見えない。

 煙が流されて徐々にその姿が見えてくる。

 ふたつの影。

 ひとつは切り込んだエスティと思われる。

 もう一つはその攻撃を受けたガングリオンだろう。

 しかしおかしい。

 エスティが上から切り込んでいる状態の影になっている。


 「ブレレレレ‥‥あまり調子っていうのにのらないでほしいよねー。」


 「く‥‥!」


 (渾身の力を込めた攻撃が止められた‥‥?!)


 砂煙が消え姿が露わになる。

 エスティの攻撃を受けているガングリオンの姿。

 人の姿を形取って左手でエスティの放った剣を受けていた。


 「いつまで体重かけてんのー。重いよ」


 ブアン!!


 剣ごとエスティを放り投げる。


 ドガガガン!!


 エスティは壁に直撃する。


 「がはっ!!」


 壁にのめり込むほどの衝撃で血反吐を吐くエスティ。


 「総帥!」


 顔を歪め振り絞るような声で叫ぶライジ。


 「あーぁ。やっぱこれくらいの大きさのほうが体軽くて楽ちんだなぁー。ブレレー」


 黒ずんだヘドロ色の人型のスライムが壁に埋まったままのエスティの方に向かっていく。


 「いろんなもんがくっついてると統率とるのでしんどいんだよなぁ。だからこっちの方がやっぱ楽ちん」


 少しずつエスティの方に近づく。


 「でもねぇ。お前は壊すよー。朕をここまで切ったり叩いたりしてくれたからね。久しぶりにむかついちゃったよ、ブレレー」


 「ポイズンファング!」


 ガングリオンは人型から狼のような姿に変わり、鋭い牙を見せエスティに突進していく。


 ザガンザガン!


 3倍くらいに頭部を膨らませ、口を大きく開け鋭い牙を剥きエスティに襲いかかる。


 ガキィィィン!!


 「若い者との戯れあいは飽きたでしょう?ここからは私がお相手しましょう、ダンディズムブリザード」


 シャガガン!!


 牙を受け止めたエントワは続け様に氷結剣のダンディズムブリザードを繰り出す。

 切れてもすぐ融合してしまうスライムに対し切断面から氷つかせる攻撃によって切られた牙は地面に落ちて割れた。


 「ひっこんでろよじじいー」


 今度はムカデのような形状に変化し無数の鋭い毒の足でエントワを攻撃する。


 「紳士の壁!」


 エントワは剣を円形に素早く振り回し、盾を作り出す。


 シャシャシャシャ!!


 剣によって防がれる尖った足の攻撃だが、少しずつ切られていく足は毒のしぶきとなってエントワに降りかかる。

 体の至る所に毒が付着し、徐々に変色し始め身体中に激痛を与える。


 (これ以上このヘドロを浴びるのはまずいですね‥‥)


 エントワは後ろに飛び一旦引く。

 それを読んでいたかのように一緒に突進してくるガングリオン。

 既に人型に変化し手にはヘドロで作り出した毒剣を持ち切り込んでくる。

 それを剣で防ぎながらさらに後退するエントワ。

 防ぐたびに毒のしぶきが降りかかり続け、さらに毒がエントワの体を蝕んでいく。


 「それそれそれー、なんとかしないと毒で壊れちゃうよー、ブレレレー!」


 剣を交えながら壁の方へ進んでいくエントワとガングリオン。

 ガングリオンはまた変形する。

 今度はアーチェリーのような形だ。


 「さぁて、上手にあてられるでしょーか?」


 ビュワン!!


 エントワはかろうじて矢尻部に剣を当て急所を外したが、右肩に突き刺さりその勢いのまま壁にぶち当たり壁に突き刺さった毒のやによって宙吊り状態となってしまった。


 「うーん‥‥70点―。ブレレー!じゃぁ次は当たりやすいように大きな球にしよっとー!」


 ガングリオンはバズーカのような形に変形する。


 「スリー、トゥー、ワーン、ファイヤー!」


 毒の球が宙吊りとなったエントワに放たれる。


 「聖剣乱舞!」


 ドガァァァン!


 ヘドロ球より少し大きな岩が飛んでくる。

 その岩はヘドロ球にあたり方向を変えたため、寸前でエントワへの直撃は避けられた。

 岩を放ったのはエスティだった。

 口から血を垂らし、まさに満身創痍だった。

 しかし目は死んでいない。


 「ヘドロ野郎‥‥お前の相手はわたしだ!」


 (あたしの全てを叩き込んでやる‥‥)


 「さぁ来い!ヘドロ野郎!聖剣乱舞!」


 エスティは剣技で地面に衝撃を与え砂埃を撒き散らし視界を遮る。


 (気配を捉えろ‥‥毅然として冷静に‥‥確実のあたしの全身全霊を次の一撃に注ぎ込む)


 フルーレとヴァナルカンドを構え目を閉じる。


 「聖魔斬」


 ザバババギャン!!


 砂埃が徐々に晴れていく。


 そこに立っていたのはエスティだった。


 ガングリオンは跡形もなく消え去っていた。


 「グッジョブです‥‥」


 エントワを宙吊りにしていた毒の矢は消え去り、地面に着地する。

 エスティは白目を剥いて立ったまま気を失っていた。

 ライジも毒の影響で動けないようでかろうじて意識を保っていたが限界に見えた。

 エントワは応急処置としてエスティとライジに回復魔法をかけてさらに手持ちの解毒薬も使った。

 そして肩に担ぐ。


 「成長しましたね‥‥さぁ戻りましょうか。エアダンディズム」


 ドッゴォォーーン!!


 エスティによって塞がれていた階段の岩岩をかまいたちで吹きとばす。

 エントワは教え子の成長に少し満足げな笑みを浮かべ、重傷を負っていることを感じさせない足取りでダンジョン入り口を目指した。






10/31 修正

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