<ケテル編> 77.雷霆
77.雷霆
肉眼で見えるほどの隕石がスノウたちによって放たれた神の息吹の魔力砲で破壊された光景は、地上にいる者たちにとっては突如現れた星が上空で爆発したとしか見えなかった。
その破壊波はかなり遅れて地上にも届き、人々の鼓膜に影響し一時的に耳の聞こえなくなるものが現れたり、中には家の窓ガラスが割れたところもあったが、しばらくすると収まり大きな被害もなく日常を取り戻すに至った。
隕石の破壊で残った4つの赤い大きなカケラの落下も、落下地点付近では噂になったが、いざ落下地点に行ってみると小さなクレーターだけで何も残っていない状況で大した話題にもなっていない。
それよりも重大な出来事は、ケテル全土で風が止まったことだった。
否國を中心に巻き起こっていた砂の雨や砂嵐の衝突も突如煙のように消え去った。
否國の住民はそれを喜ぶ者も少なくなかった。
一方東西南北の国々では風が止まったことでエレキ魔法で動く様々な日常生活を支える設備が軒並み止まってしまい混乱を来していた。
多くの人々が混乱する中で、地上にいる神々は事態をより深刻に受け止めていた。
―――否國カイキア ジジギーンの近く―――
「あんなものを出せる者がまだこのケテルにいたとはねぇ」
金色の輪に沿って光球体が回っている存在が言葉を発した。
旧神エークエスのひとりであるシャマシュだった。
「あれは神の咆哮だ。あれを見るのは何百年ぶりだろうか」
頭が獅子で体が大鷲の生物アンズーの姿をしたエンリルが続けて言葉を発した。
「神の咆哮?」
小型犬の姿をしたマルデュークが質問した。
「そうかお前は知らないのだな。それも仕方がない。アプスーとティアマトが深淵に沈められた時それを救おうとしていたのだからな。神の咆哮はその直後に一度放たれている。あれは超高圧風に魔力を混ぜ込んだ超破壊波だ。地上に向ければケテルに巨大な大穴が開くだろう」
「それほどの威力が。となればその力を得た勢力がケテルを制すると言っても過言ではないのではないか?‥‥いや、そもそもこのケテルにそれだけの威力を発する魔力量など存在しないはずだ。あれはどうやって出したというのだ」
「その通り、あれを支配すればこのケテルを制することができた。だが、お前の言う通り魔力が失われた瞬間からあの力はガラクタとなった‥‥はずだったのだがな。それを調べるためにギビルを遣わそうとしたのだが、指示をする前に向かいおった。そんな予見力持っていたか‥‥?」
「まぁよいでしょう。きちんと情報を持ち帰ってくれれば私たちのこれからの動きがより現実的に成功に近づくと言うものです。あの星を壊した者は、なぜあのような星が落下してくるのを知っていたのか。そしてどうやって神の咆哮を撃つことができたのか」
コップに入っている水が答えた。
エアだった。
「そうだな。父上の言う通り、その情報が手に入れば我らがその手段を奪えば済むこと。シャマシュよ。それでラフムとラハムの状況は?」
「まだだね。深淵はそう簡単に辿り着けるものじゃないよ。それにまだ時は満ちていないしね。もっと混沌が必要だよ」
「そうだな‥‥ん?」
突如マルデュークが周囲を警戒し始めた。
同時に他の旧神たちも警戒する。
「落ち着け。あれだ」
アンズーの姿のエンリルは翼を広げて遠くの空を指した。
「あれは?!」
「あの雷を帯びた巨大な黒雲‥‥見覚えがあるぞ。忘れもしない‥‥憎き我らが宿敵‥‥」
・・・・・
・・・
バシュゥゥゥゥゥゥゥ‥‥スタ‥
遥か上空から吹いて来た旋風が、ボレアス神殿のあった場所に降り立った。
その風の中から3人の人影が現れる。
メロ(ミトロ)とスノウを抱きかかえたシアだった。
ボレアスは周囲を見渡す。
まだ破壊の直後という事で砂煙や燃えて燻っている煙などが辺りに散見され、見通しはよくなかった。
それがさらに破壊の凄惨さを物語っていた。
「これが我の神殿があった場所‥‥なんという事だ‥‥」
美しい造りのボレアス神殿は見る影もなく破壊されていた。
アネモイ剣士協会剣士やスタッフたちによって参拝者や周辺の住民たちは避難させられていたため、人的被害は最小限に抑えられたが、ボレアス神殿の周辺の建物は破壊されているところもあった。
この国を治める立場としてボレアスはその光景をみてひどく心を痛めた。
「ひどい有様だな」
ミトロがボレアスに話しかけた。
「ああ‥‥。我が統治して以降このような事態は初めてだ。それにこのボレアス神殿は我が統治する遥か前から存在している建造物だ。それも破壊されてしまった。‥‥いや、我の責任で破壊させてしまったのだ‥‥この責任の重大さは我の命をもってしても償えるものではないだろう‥‥」
「命に代えて守る建物などない。ひとりで背負い込むほどお前の命は軽くない」
ボレアスはミトロの言葉に無言で返した。
「マスター!」
シアがスノウに声を掛ける。
スノウは、意識を完全に失っているわけではないが、目を開ける事もできない状況のようだ。
シアはスノウが意識を失って力尽きないように必死に呼びかけている。
「あ‥‥う‥‥」
スノウは何かを訴えようとしているが、言葉にする力がなく聞き取れない状態だった。
だが、意識が保たれている状態のスノウを見てシアは少し安心した。
(マスターは必ず回復させてみせる!)
その横でミトロが驚きの声にならない声を上げた。
「お、おい‥‥あれは何だ?!」
ミトロの指差す方をボレアスとシアが見るとその先には瓦礫の上でボロボロになって仰向けで倒れ込んでいるアテナがいた。
仮面で顔が見えないが、体の至る所に傷があり、重傷で意識がないことが見て窺えた。
「あのアテナ様が単なる天界からの落下でこのような状態になるものか‥‥」
「シンザは?!」
シアの声でボレアスとミトロは周囲を見渡す。
「い、いたぞ!」
さらに奥の瓦礫に座った状態で項垂れているシンザがいた。
シンザもまた意識を失っている状態だった。
「一体何があったのだ?!」
突如背後に凄まじい音が響く。
ドスゥゥゥゥゥン!!
「キィシャァァァァァ!!逃しはしない!」
女神エリスだった。
その顔はもはやトカゲのように変形しており、元の美しい顔はどこにもなかった。
『!』
ヴァッサァァ!!
さらに上空から大きな鳥の炎が舞い降りて来た。
「やってくれたじゃないか!お前ら覚悟はできてんだよねぇ!」
ギビルだった。
「万事休すか‥‥」
「隕石を破壊できたのだ。一応の役目は果たしたはず。ここで死んでも我は悔いはない」
「戦いなさい!マスターがこの状態で負ければマスターの命が危険となるでしょう!貴方達はその身が指一本になるまで戦う義務があるわ!」
シアが叫ぶ。
「キシャァァァ!!いいわ!いいわ!そこの娘!気に入った!こやつらを殺した後、お前だけは生かしてやろう。私の奴隷として一生尽くす事を許す」
シアはエリスの言葉を眼中にないとばかりに無視して、スノウを抱き抱え被害の少なくて済む瓦礫の影に寝かせ、剣を抜いた。
「戦いたいのはやまやまだが、私の体はメロだ。傷つけるわけにはいかない」
「分かっている。奥でスノウを見ているがいい。フランシアの言う通りだ。最後まで諦めるわけにはいかない。我は神だ。神は如何なる状況でも諦めてはならない。ここを我の死に場所としてあやつらを道連れにしてやる」
ボレアスはシアの横に空気のゆらぎの状態でたった。
「すまなかったな。お前の言う通りだ。我の命に代えてもスノウを守ろう」
「キシャハハハ!随分と心許ない姿ではないかボレアス。そのような姿では私にかすり傷ひとつつける事は不可能だわ」
「その前に僕が一瞬で燃やし尽くしてやるよ!」
エリスとギビルがボレアスとシアの前に立ちはだかる。
「おいおい、俺たちのこと忘れてやしないか?」
「ボレアス様を死なせはしない。無論スノウもシアもだがな」
アキレスとアカルが瓦礫の奥から跳躍しボレアスとシアの前に着地して言った。
「ふたりとも!」
「お前ら生きておったのか?!」
「当たり前でしょうよ。俺、アネモイ剣士序列で実質1位だから」
「いや2位だ。1位はペルセウスでしょうが」
「あれは頭がいいだけだ。強さで言えば俺の方が上なの!」
「フィジカルの強さだけで言ったらヘラクレスでしょうが」
「おい、緊張感がなさすぎるぞ!構えよ!」
ボレアスが言った。
「あいよ!」
バシュゥゥン!!
アキレスは突如振り向いてボレアスに剣を振り下ろした。
空気の揺らぎのボレアスは真っ二つになるが、すぐに元通りになる。
だが、アキレスの太刀は魔力を吸う力があるようで、ボレアスにはそれなりにダメージがあった。
「ぐぁ‥‥ア、アキレス‥‥貴様、気でも狂ったか?!」
ズヴァァァァン!‥シュワン!‥‥スタ‥‥
アカルが条件反射のように刀をアキレスに向けて横振りしたが、アキレスはそれをギリギリでかわして跳躍しエリスたちの横に立った。
「どういう事だアキレス?!」
アカルが表情を変えずに問いかけた。
「さぁな。だが、お前達にはここで死んでもらうということらしい」
「何を言っている?!」
「アカルよ‥‥あやつは何やら洗脳されているようだ‥‥一体ここで何があったのだ?!」
「い、いえ‥‥私たちはアテナの凄まじい攻撃を避けるべく退避した後、アテナ様やエリスたちがいなくなったため周辺住民の救助にあたっていたので洗脳を受ける暇などなかったかと」
「洗脳だろうとなんだろうと、答えはシンプル。目の前で私たちに剣を向けている以上彼は敵。マスターを守るために殺すまで」
シアが怒りの表情できっぱりと言った。
その刺すようなオーラでアカルたちはエリスたちに集中した。
「さぁ、3対3。フェアな戦いだから文句はないわねキシャァァァ!」
エリスが叫ぶ。
「ちょっと待て!!」
エリスたちの攻撃が繰り出される直前、突然ミトロがこれまでにないほどの大声で呼び止めた。
「あ、あれを見ろ!」
「なんだというのだ貴様!確実に殺してやるから大人しくそこで待っていろ!」
エリスが怒りの声で答えた。
「殺すのは構わないが、それどこではないぞ?!」
一同はミトロの指差す方向を見た。
エリスもしぶしぶ同じ方向に目を向ける。
ゴロロロロロロロォォォォォォ‥‥‥
轟音が鳴り響く。
凄まじい勢いで積乱雲のような巨大な形の黒雲が押し寄せてくる。
黒雲の中では先程の轟音の発生源である稲妻が怒り狂ったかのように無数に発せられている。
『!!』
一同は驚きの表情で思わず声を失っていた。
「な、なぜだ?!なぜやつが?!」
エリスは先程までの凶暴な爬虫類のような顔から一変して恐怖に慄いた表情に変わって驚きの言葉を発した。
「ば、馬鹿な?!あの方は今別世界にいるはずだ!」
ボレアスもまた驚愕の表情で言葉を発した。
「誰?!何がくるの?!」
シアが叫ぶ。
凄まじい勢いで迫り来る黒雲が突如上空で止まった。
ビカビカビカ!!
ガガガガガガガ!!ドッガガガガン!!シュゥゥゥゥン!!
方々で地面が揺らぐほどの轟音とともに発せられた無数の稲妻が、一点に向かって発せられた。
その一点は、周囲が昼に変わったと見紛うほどの光を放つエネルギー体になっていた。
そこからレーザーのような光が地面に注がれる。
シアたちとエリスたちの間にその光の線が落ちて来た。
「下がれ!巻き添えを食ってしまうぞ!」
ボレアスの声に反射的に後方へ飛び退く。
シュゥゥゥゥゥン‥‥ドッゴゴゴゴォォォォォォォォォォォン!!!!
目の前で超弩級の落雷が生じた。
爆音とともに光の線が降りていたところを中心にてドーム状の超電撃波が広がる。
シュバァァァァァァァァァァン!!
瓦礫を巻き上げ、凄まじい砂嵐を発生させた。
シアはすぐ様スノウのところへ行き、ミトロ含めて盾となっている。
あまりの衝撃波のため吹き飛ばされないように剣を地面に深々と刺して掴まって堪えている。
他の者達も同様に吹き飛ばされないように何かにしがみ付いて必死に堪えている。
シュゥゥゥゥゥゥ‥‥‥
衝撃波が去った後、しばらくして砂嵐が落ち着いて来た。
爆心地とも言える衝撃波が発せられた場所の地面は裂けて周囲20メートル程がクレーターのように抉れていた。
そしてその中心に人影が徐々に現れる。
バチバチ!‥‥バチッ!バチバチ!
人影の右手には何か槍のようなものを持っているが、そのやりが火花のようにバチバチと弾けながら光を発している。
シュウウゥゥゥゥ‥‥
その人影は白い炎のように燃え盛る動きを見せる鎧に身を包み、鮮やかな蒼いマントを身につけている。
そして空中に浮いて周囲を見渡している。
何かに気づいたのか、ゆっくりと移動した。
移動した先には瓦礫の上で仰向けで意識なく倒れ込んでいるアテナがいた。
その人物はアテナの額に手を当てて数秒沈黙した。
「かはぁぁ‥‥」
アテナは意識を取り戻した。
思い出したかのように深く息を吸っている。
だが、全身傷だらけの瀕死状態は変わらずで起き上がることができない。
再度その人物が先程の降り立った場所の上に戻ってくると周囲を見渡した。
「説明せよ」
稲妻のように低く響く声が発せられた。
シア、ミトロ、ボレアス、アカル、エリスがその人物を前にして動けずにいた。
ギビルは既にその場から逃げ出したようで姿を消していた。
アキレスはその人物が登場した際の落雷でダメージを受けたようで倒れ込んでいる。
その耳からは銀色の液状の物体が垂れている。
「2度も言わせるな」
「は!」
ボレアスが人型の空気の揺らぎとなって跪いた。
「何者だ?」
シアが隣にいるアカルに囁き声で聞いた。
するとこめかみから汗を滴らせながらアカルが掠れ声で答える。
「ぜ、全能神‥‥ゼウス様だ‥‥」
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