<ケテル編> 67.ボレアスからの連絡
67.ボレアスからの連絡
「すまねぇな。急に集まってもらって」
ゼピュロス神の執務室に呼ばれたのはバルカン、ワサン、ソニア、アルジュナの4人だった。
「どうかしたんですか?暇つぶしとか勘弁してくださいよー」
アルジュナが嫌そうに言葉を返した。
「お前本当に一度徹底的に説教してやるから心しておけよ。ってそんなこたぁどうでもいいんだ。ボレアスから鳥が飛ばされて来た」
『!』
「バカルカン?」
「バカルカンね」
「間違いないだろうな」
「おい!」
アルジュナ、ソニア、ワサンが、ボレアスから飛ばされた鳥がバカルカンだと妙に納得しているのを見てバルカンは思わずツッコミを入れた。
「なんだ?バカルカン?バカなバルカンの隠語か何かか?」
ゼピュロスが話に入って来た。
「違うわ!ってかあんた隠語の意味知ってるんですか!ダイレクト過ぎるでしょうが!鳥の名前ですよ。いや違う!こいつらが勝手につけた名前ですからオレは認めてないですけど!」
「はっはっは!お前ぇ、仲間に可愛がられてんだな!いいじゃねぇか!羨ましいぜ」
「そんなことより連絡は何だったんですか?!」
「まぁそう急くなよ。しっかり仲間とのコミュニケーションってのを堪能したらどうだ?」
「そうよバルカン。小さなことでグチグチ言っているとモテないわよ」
「いいんだよ!てかお前みたいな意地の悪い女にモテなくても特にオレは問題ねぇ!」
「はぁ?!聞き捨てならない言葉が軽々と放り込まれたわ!表に出なさいよ!その腐った性根を叩き直してあげるわ」
「お前なぁ!その言葉、使う会話の内容と合ってねぇからな!お前こそ性根叩き直してやるぜ!少しは‥‥少しは‥‥」
バルカンは言葉に詰まった。
「少しは何よ!」
「あ、いや、少しは誰々を見習えって言おうと思ったんだが、思い浮かばなかっただけだ。‥‥改めて思ったんだがオレの周りには気の強い意地悪な女しか居ないなと思ってよ。お前だろ?シアなんて氷の剃刀みてぇだしよ。エスカもやべぇ。一言一言刀で刺されているみてぇに心抉られるし。ナージャなんてチンピラみたいだしよ」
「確かにな」
バゴン!ドゴン!
ソニアの鉄拳がバルカンと彼の言い分に賛同したワサンに落とされた。
ふたりの脳天には大きな瘤ができ、煙を発している。
「はっはっは!お前たちは本当に見ていて飽きねぇな。俺も昔はお前ぇたちみたいな仲間と共に冒険したもんだが、思わず思い出しちまったぜ」
「それで、スノウは無事に到着しているんですよね?」
脳天の瘤を摩りながらバルカンが質問した。
「まぁ待てよ。お前らの知りたい内容も教えてやる。その前にお願いというか業務連絡ってやつだ。お前らには急ぎボレアスに行ってもらいたい」
『!』
「それは誰からの指示・連絡でしょうか?僕たちは貴方を守るためにこの地にいます。これはマスター・スノウからの指示ですから、僕たちに命令できるのはスノウだけですし、貴方を守るというミッションを変更できるのはスノウだけです」
「おお、お前はソニックだな。ややこしいが興味深い。今度じっくり話そうじゃないか。それで、お前の質問に答えると、これはスノウじゃない。ボレアス国統治神のボレアスからの連絡だ」
「そうですか。いくら神の依頼とは言え、僕らのマスター・スノウの指示を変更することはできません」
「まぁそう急くな。スノウも関係しているしむしろあやつを守るための連絡だと思ってくれ」
「どういうことですか?!」
今度はバルカンが食いついた。
「お前たち本当にスノウってのを慕ってんだな。まぁいい。ボレアスによればあやつはスノウとある契約をしたようだ。どんな契約というとだな‥‥」
・・・・・
・・・
ゼピュロスはボレアス国で起こっていることを説明した。
ボレアスがメロの精神体を彼女の精神世界の深層から引き戻す代わりに、スノウが天界神の息吹発生装置を破壊するミッションを受けたというものだ。
そしてボレアスがメロの精神世界にいるミトロと話をした際に、7つの “探し物” のうち5つを集めることもボレアスは約束していた。
スノウとボレアスが協力して、5つのうち4つまで入手する見込みとなったため今回、バルカンが持っている “探し物” のひとつである左腕のアームガードが必要になるということと、天界に出向く際に相当な危険を伴う可能性があるということで応援を頼んできた、というものだった。
「なるほど、連絡してこられたのはボレアス神ですが、内容としてはスノウに大きく関わるものでスノウを救う話でもあるということですね」
「そうだ」
ソニックがまとめたことに対してゼピュロスが答えた。
「となれば、僕たちはボレアスに急がなければならない。それがもし真実なら‥‥最優先で対処しなければなりませんが、今の話が真実かどうかを見極めることが重要ということになります。僕たちは何を根拠にそれが真実だと理解すればよいですか?」
「ソニックよぉ。お前、意外と面倒なやつだな。そんなことじゃ本当にスノウに危機が訪れている時に対処し損じるぜ。まぁ裏を返せば俺たちがまだお前らに信用されていないってことだろうけどな」
「いえ、僕らには僕らのやり方で情報連携することができます。今それがない中であなた方を信じるだけの情報の根拠がないだけです。本来ならこのままスノウからの直接の連絡を待つのですが」
ソニックの毅然とした対応に他のメンバーは頼もしいという感覚になっていた。
神を相手に一歩もひかないソニックの態度はスノウがいないこのチームにとってはとても頼りになるものだった。
「分かった分かった。正直言って示せる根拠なんざねぇよ」
パチン!
ゼピュロスは指を鳴らした。
すると執務室の奥の扉が開いて男がひとり部屋に入って来た。
マントをつけており、大きな鶏冠のついた兜を被った男だった。
年齢にすると30歳後半に見える。
「え?!」
アルジュナが驚きの表情を浮かべる。
その直後嫌そうな表情に変わった。
「紹介するぜ。アキレスだ」
「アキレウスだ。よろしくなニンゲンども」
アルジュナは下を向いて顔を隠している。
そのまま少しずつ後退りしている。
「お、そこで俺から目線外してるアホ面ボウズはジュナじゃねぇの」
ビク‥‥
「ど、どうもアキレスさん」
ガシィ!!
突如アルジュナにヘッドロックをかけるアキレス。
「いででででで!!」
アキレスはヘッドロックをかけながらアルジュナの脳天をゲンコツでグリグリと擦っている。
ワサンはこの光景をどこかで見た気がした。
(ああ、アルジュナにアカルがヘッドロックしてたやつと同じだ‥‥)
「アキレウスさんだろ?お前にはアキレウスと呼べっつたよな?」
「言ってませんてー!それカルナでしょーよー!いでででで!」
「あ、そうだったか」
アキレスはヘッドロックを止めた。
「それくらいにしておけよアキレス」
ゼピュロスが困ったような表情を浮かべながら静止した。
「紹介するぜ。レヴルストラ4thって名乗っているトライブのメンバーで、バルカン、ソニック‥‥こいつはちょっと説明がややこしいからとりあえず今はソニックだ。それでそっちがワサンだ」
スタ‥‥
アキレスはワサンの前に立った。
「へぇ。お前さん中々面白いオーラ出してんだな。お前さんはまだ力を解放してねぇみたいだから折りを見て俺と稽古しようや。2億倍は強くなるぜハッハッハ!」
「気をつけろよーあの人マジでいい加減だから‥‥。特に名前と身長には慎重に」
「どう言う意味ですか?」
ソニックに耳打ちしているアルジュナは無意識にくだらない駄洒落を言ってしまってややこしくなったのか苦い顔をした。
「あの人‥‥人によって呼ばせる自分の名前を変えてんだよ。アキレスとアキレウス。面倒臭いだろ?それで間違えるとブチ切れる。それと、これはもっと重要なんだけど、あの人実は身長意外と低くてシークレットシューズ履いてんの。でも低身長を指摘すると激ギレして手つけられなくなるから絶対に触れちゃだめだからねー」
「ん?ジュナ‥‥なんか言ったか?」
「い、いえ何も」
ゼピュロスが割って入る。
「ソニック‥‥それに他の者たちも聞いてくれ。俺の警護には大きくふたつの力があたってくれていた。ひとつはアイオロス様だ。そしてもうひとつはこのアキレスだ。ソニック‥お前の先程の指摘だがな、俺には論理的に何か根拠を示すとかは面倒だし出来ねぇ。だから俺に出来ることは俺の力をお前たちに貸すことくらいだ。俺自身がリスクを取らなきゃ信じてもらえねぇ‥‥今の俺に出来ることはこれだけだ。だからボレアスに行くときにアキレスを連れて行ってくれ」
『!』
「そんなことをしたら貴方の身に迫る危険度が上がるだけじゃないですか。スノウからの指示は貴方を守ることです。本末転倒もいいところです」
「それなら大丈夫だ。お前たちがさりげなくまとめてくれた話で人類議会が協力してくれるし、お前たちが護衛に当たってくれていた間に各地に散らばっていたアネモイ剣士たちを呼び寄せることが出来た。それにアイオロス様のそばにはギルガメッシュもいるからよ」
ソニックは頭の中でソニアに相談した。
(信用できると思うわよ。私たちを殺すつもりならとっくにやっているはずだしね。アキレスってのを寄越したのは私たちを監視する目的もあるのかもしれないけど、それはゼピュロス神とボレアス神の関係による話で極論すれば私たちには関係ないことだし。私たちはあくまでスノウと共にあるのだから)
(そうだね、姉さんの言う通りだよ)
ソニックはバルカン、ワサンにも目で合図を送った。
ふたりともソニックの意向に異論はないといった表情で返した。
「いいでしょう。ゼピュロス神、僕たちは貴方を信じることにします。ですが、もしスノウの意向が少しでもあなた方のそれと沿わないことが分かった場合はアキレスさんとの同行も解消します。よろしいですね?」
「上出来だ。それくらいの警戒心があった方が安心だぜ。アキレス、それで構わねぇよな?」
「ええ。それでだ。俺の名は実は2通りの呼び方があるんだよ。それである日思ったんだ。ふたつの読み方があるのにどっちかに統一するってのは、もったいないんじゃねぇかってな。それで俺は俺と接する者たちにどっちで呼ばせるか最初に決めることにしてんだな。それで‥‥バルカンっつたな。お前はアキレスでいいぜ。それでソニック‥‥内側にいるお嬢ちゃんもだがアキレウスだ。ワサン‥‥お前は‥‥そうだなアキレスだな」
「面倒だな‥‥」
「ワサン!」
ピキ‥
アルジュナが叫んだ直後にブチ切れた表情に変わったアキレスはワサンにヘッドロックをかけ始めた。
グリグリグリグリグリ‥‥
「俺の名を呼ぶのを面倒くせぇとは舐めてんのか?!お前―!」
「おおおお!!いでー!!わかった!アキレス!アキレス!面倒臭くねぇ!いででで!」
ワサンはあまりの激痛に叫び声を上げた。
アキレスは笑顔のままこめかみに血管を浮き立たせてヘッドロックで首を締め上げている。
「ぷっ!」
「わっはっは!」
ワサンの悲鳴を聞くのが初めてだったバルカンやソニックはその滑稽な姿に思わず吹き出してしまった。
「はっはっは!早速仲良さそうじゃねぇか!紹介した甲斐があったぜ。じゃぁ明日出発でいいな」
「それですが‥‥」
ソニックが真面目な表情で話始めた。
「やはり、貴方の護衛は続ける必要があると思います」
「ん?!何言ってんだよ今更よ!」
「ボレアスに行くのはバルカンだけです」
『?!』
ゼピュロスだけでなくバルカンとワサンも驚いている。
「なぜだ?」
「僕らはまだこの世界の情報を十分に得ていません。スノウはそれも踏まえてレヴルストラメンバーをふたつに分けたのです。そして今後もし何か起こる可能性があるとしたら、やはり二手に分かれて情報をしっかりと収集して連携すべきだと言う考えに至りました。今回ボレアス神からボレアスに来るように言われた最大の理由は護衛ではなく、バルカンの左腕の “探し物” を届けることなのですよね?もちろん天界へ向かう援護ということもあるでしょうけど、スノウは誰よりも強い。シアもいます。そしてバルカンが加われば十分だと思ったのです。そこにいて無駄に同行するより、神の息吹を破壊して以降の動きを万全にするための行動を取ろうと思います」
「なるほど。分かった。それはお前たちの決断だ。好きにすればいい」
「ご理解有難うございます」
「それじゃぁ明日の出発でいいな?バルカン、アキレス」
「はい」
「ええ」
「馬車は用意してやる。とびきり速いやつをな」
「有難うございます」
バルカンたちはゼピュロスとアキレスに礼を言いその場を後にした。
バタン‥‥
扉が閉まった。
「いいんですか?」
「あいつの背負ってる運命の歯車はでかい。ちょっとやそっとの抗いじゃ歯車の方向を変えるどころか止めることすら出来ねぇはずだ。むしろソニックの言うようにその先どうするかを考えて動く方が悲運の矛先を変えることもできるかもしれねぇ」
「そんなもんすかねぇ。俺には未来を見通す力はないからゼピュロス様の言葉を信じるしかないですけどねぇ」
「それより俺たちも気張らねぇとならねぇ。ボレアスによれば風が止まるらしいからな。このケテルが生まれて以降一度も風は止まったことがねぇ。維持するなら俺の力全て使っても足りねぇんだから、死を覚悟しねぇとな」
「そうですね。でもまぁ周りは任せてくださいよ。そのためのアネモイ剣士でしょう?」
「ああ。頼んだぜ。お前とアカルくれぇだからな‥頼れんのはよ」
「はいはい‥‥それじゃ俺も明日の出発に向けて準備してきますわ」
頭を掻きながらアキレスは片手を上げて部屋を出て行った。
いつも読んでくださって本当に有難うございます。
次のアップは日曜日の予定です。
これから徐々に前半におけるクライマックスに向けて進んでいきます。




