<ホド編>25.九尾の狐
25.九尾の狐
―――ダンジョン北側―――
スノウとロムロナは1000体以上もの魔物との戦いを経てダンジョン北側の最下層階の手前まで来ていた。
「スノウボウヤもだいぶ強くなったわね。魔法の選び方、使うタイミング、魔力量の調整、魔物に合わせてきちんと見極めて戦闘に合わせて使えるようになってきたじゃない、ウフフフー。あたしのおかげねぇ、一通り片付いたらちゃぁんと一晩付き合ってもらうからねぇ」
「断る」
だが、このロムロナ言う通り強くなったのは本当だ。
地味な戦いをここまで体に染み込ませるスパルタ教育の成果は確かに実践に表れていた。
大した魔法を使っているわけじゃないが、戦いには勝てるとスノウは実感していた。
強力な魔法はそれだけ魔力を使う。
その強力な魔法を外したり防がれたりすると、後は魔法に頼ることなく戦うことになるわけだが、このベーシックな戦い方に慣れた今、肉体強化系や感知系魔法を使わず戦うことを想像するとゾッとした。
相手が強者であればなおさらだった。
戦う前から負けが決まっているようなもので、その感覚もスノウには備わっていた。
スノウは戦闘力も大幅に上がっていたが戦闘センスも鍛えられていたのだ。
「さぁて、いよいよ最下層っぽいわよぉ?」
ロムロナの言葉通り、階段を降りた先にある光景がこのフロアが最下層階であることを主張している。
だだっ広い草っ原の中心に赤い鳥居があり、その奥には少し大きめな稲荷が鎮座していたからだ。
(なんだ‥‥これ。稲荷‥なのか?これって日本の神を祀る場所だよな。なぜこのホドに存在するんだ?この世界には日本の神がいるっていうのか?)
「こんな光景見たことないわねぇ」
「おれには非常に馴染みある光景に見えるけど‥‥」
「ああ、スノウボウヤのいた世界にはこういう建物があったってことね。だとするとこの後に出てくる魔物もだーいたい検討つくんじゃないのぉ?」
「ああ。稲荷といえば‥‥」
スノウとロムロナは鳥居の前に立っていた。
この世界の礼は同じかどうか分からないまま、一応知っている参拝方法で参拝してみた。
スノウはロムロナにとにかく自分の真似をしろと告げた。
鳥居の前で1礼し、境内に入り賽銭箱に入れる小銭は以前いた世界の小銭をロムロナにも渡して賽銭箱に入れた後、2礼2拍手1礼する。
・・・・・
・・・
特に変化はなかった。
「やっぱりこの世界ではお作法が違うのか。それともそもそもこの階層には魔物がいないのか」
(単にお参りしただけってか?まぁそれはそれでいいけどさ)
「!」
突如スノウの全身から嫌な汗が噴き出てくる。
(いや、この魔力圧‥‥。感知系魔法使わなくとも冷や汗が出てくるこの感じ‥‥何か来る!)
「キョトトトト。いつぶりだろうねぇ、あたしを拝みにくる人間など」
凄まじいい重圧感の中、本殿の屋根のあたりに徐々に何か影が見えてくる。
「!」
「スノウボウヤ‥‥予想以上ねぇ、この子」
「ああ」
強さは別としてこの存在は知っている。
雪斗時代にあった世界の伝承にも出てくる伝説の妖怪。
見上げた先に鎮座しているその物体は、象と同じくらいの大きさで全身白い毛で覆われ、鋭く長い目と大きく裂けた口、フサフサと毛並みの良さそうな九つの尾。
「九尾の狐だ‥‥」
「キョトトトト‥‥このようなところまでわざわざ出向いたという事は、さしずめあの異界から来た者共に挑むために力をつけに来た、つまりあたしを殺しにきたというところか」
「な!なぜそのことを知っている?」
「お前のことも知っているぞえ?あたしのような神や様々な神々を崇めている世界から来た者だね?」
(なんなんだこの狐は?‥‥ま、まさか!こいつもおれのいた世界から来たのか?)
スノウは混乱する頭の中を必死に整理しようとしていた。
「あんたが言うその世界がおれの知っている世界そのものかは知らないけど、近しい世界だって事は言える。それと異界から来たやつら、三足烏に勝つために力を付けにきたっていうのは当たりだよ」
一瞬ロムロナの方に目をやる。
ロムロナは明らかに警戒していた。
これまで見た事のない表情で構えていた。
「あんたを殺しにきたっていうのは半分当たりだよ。このダンジョン内にいる4派閥のそれぞれのボスを倒すって目的で来たからね。でもまさかその一体が九尾の狐だってのは知らなかった。あんた半分神様だよね?神様となると話は別だって感じだが‥‥」
スノウは様子を見るため少し敬ってみた。
それによって相手に隙を作る戦いやすい方向に持っていけないかと考えたからだ。
「キョトトト‥‥お前面白いな。あたしを相手におべっかなど使いおってさぁ。そんな容易い存在に見えているとはねぇ。いいよ、きちっと食い殺してやろうね。丸のみにはしないよ?骨まで噛み砕いて食べ尽くしてやろうねぇ。よく噛むと体に良いと言うだろう?」
重圧と共に敵意丸出しの言葉を放った九尾の狐にスノウは必死で冷静に答える。
「いやぁ、おれなんか食っても腹壊すだけだと思うよ?」
「案ずるな。あたしが腹を下そうがその頃お前はもはや黄泉比良坂。そうだねぇ、お前が地獄に行くか極楽にいくか占ってやろうかねぇ?キョトトト」
(こんな半神半妖怪みたいなやつを倒さないと三足烏は倒せないのかよ、全く‥‥)
スノウの汗はいっこうに引く気配がない。
世界竜ヨルムンガンドが檻から解き放たれた状態に近い威圧感があった。
その圧迫感を放つ存在が今まさにスノウたちに牙を向けていた。
スノウは、ダンジョンに入って早々にエントワが4派閥魔物の一体を倒したと聞き、4派閥の魔物は然程のレベルではないと高を括っていた。
確かにエントワは強い。
だがスノウとエントワは天地の差はないわけで、これまでの1000体越えのロムロナスパルタ戦闘を繰り返してそれなりの自信も得ていたのもありエントワひとりで倒せる4派閥の魔物のレベルは自分ひとりで十分倒せるものと思っていたのだ。
一方目の前に現れた大きく避けた口で今にも自分を噛み砕こうとしている存在を目の前に半ば諦めモードでロムロナに目をやった瞬間、彼女が何やら取っておきの一撃を繰り出そうとしている雰囲気をスノウは感じ取った。
ロムロナもギリギリでスノウが気づく感じで準備しているようだ。
ここは気づかれてはならない。
ロムロナの攻撃を成功させるために、悟られないよう惹きつける必要があった。
「えっと‥‥オボロっておっしゃいましたっけ?お名前は」
我ながらこんな恐ろしい魔物を前にして会話しようとは、とスノウは感じていた。
雪斗時代ではあり得ない状況だったからだ。
スノウ自身、自分の変化を時折感じていた。
「馬鹿だねお前は!オボロ様だよ!一体あたしを誰だと思っているんだい?1000年以上を生き獣から神と成った存在よねぇ!お前なんて生まれて精々20年弱。あたしの鼻くそよりにも劣る存在だよねぇ」
「鼻くそ‥‥」
(おいおい、いい加減にしろよ。誰が狐の鼻くそ以下だ?!)
「あはぁ!そうだねぇ、お前は間も無く死ぬけどこれも何かの縁だ。名前をつけてやろうねぇ」
「い、いえ滅相もございません!神様にお名前いただけるなど、私目のようなものには勿体無い!」
「遠慮するな小僧。そうだねぇ‥‥」
「そうだ!鼻くそだ!」
(そのままか!てかだんだん腹立って来た‥‥)
「い、いやぁそんなかっこいいお名前はご辞退申し上げますね」
「いやあたしが決めた事。お前に拒否権はないからねぇ。今日から小僧、お前は鼻くそだ」
(アジリアル、ジノ・アジリアル、バイタリア、バーサーク、ジノ・ソリッドスキン、バイオニックソーマ、アドレント、ジノ、アドレント‥‥)
スノウは心の中で強化魔法を唱えながら答える。
これ以上会話で惹きつけられない場合、戦闘にも連れ込んででも惹きつけなければならなかったからだ。
「お、お断りします。同じ鼻くそでも狐の鼻くそは我慢なりませんしね。せめて人間の鼻くそなら我慢もしましたが!」
「馬鹿者だねお前は」
オボロがそう答え終わるかどうかの瞬間で思い切り地面を蹴り凄まじいスピードでオボロめがけて剣を振り上げる。
オボロの目が大きく見開く。
「キョトト!」
オボロは境内の屋根に乗ったまま、面倒臭そうに爪の迫り出した左前脚をだるそうに振りかざす。
「ぐぁああ!!」
オボロの鋭い爪がスノウの胴体を真っ二つにしたかに見えた。
「なめてたな、お前」
切らせたのはスノウの残像で、本体はオボロの後ろ側に周り後頭部に剣を突き刺す直前だった。
グザリッッ!!
(仕留めた!)
と思いきやそれはオボロの残像でオボロはスノウの背後に周り、巨大な避けた口を開け今にもスノウを食おうと迫って来ていた。
「な、なにぃ?!」
避けた口は明らかに笑みを浮かべていた。
化かし合いに勝った喜びと久々に人を食える嬉しさがあったのだろう。
「アブソリュートゼロ」
ロムロナが絶対零度の氷のレーザーをオボロの空いた大口の前にいるスノウ目掛けて放つ。
「キョト!!」
自分に食わせるならいっそのこと仲間もろとも自分を倒そうと思っての攻撃と認識したのだろう。
そういう思い切りのよい行動に久々の命をかけた戦いの匂いを感じて、オボロは嬉しくなった。
絶対零度のレーザーがスノウを貫く。
スノウの体は一瞬にして凍りつきそして砕ける。
そしてレーザーはそのままオボロの大口目掛けて飛んで行く。
「ゼノス」
畳み掛けるように呪文を詠唱するロムロナ。
無数の超電撃の矢が突如オボロの周りに現れる。
当のオボロはアブソリュートゼロの絶対零度の氷線に打たれ瞬く間に凍りついて行く。
その表情は避けた口を大きく釣り上げた不気味な笑みの状態だった。
そこに無数の超電撃矢が朧めがけて一斉に飛んで行く。
ドッッッッゴォォォォォオオオオオオーーーーーン!!!!!
目が潰れるほどの光が発せられその後に恐ろしいほどの爆音と共にオボロが境内もろとも爆発した。
シャラシャラシャラシャラシャラ‥‥
無数のキラキラした結晶のようなものが舞い落ちる。
ドッゴオオオン!!
ガガン!!
バッガン!!
ドガン!!
恐ろしいことに舞い落ちる無数の結晶は依然衰えることのない超電気を帯びており、触れるものに爆発とともに感電を引き起こした。
破壊された境内の破片はさらに砕かれもはや跡形もないほどの状態となった。
「すっげぇ破壊力だな‥‥」
ロムロナの横で関心するスノウ。
「あらスノウボウヤよく分かったわね、あたしのさ・く・せ・ん♡。ご褒美に今晩一緒にいてあげるわ、ウッフフ〜」
「断る」
スノウはふたつの残像を見せた。
そしてロムロナはアブソリュートゼロに加えて別の魔法を重ねて、いかにもスノウが氷線に貫かれて凍りつき死ぬ像を見せて死を演出し、油断させて魔法を畳み掛けたという作戦だ。
もちろん事前に示し合わせたわけじゃなく、とっさの判断だった。
オボロは外側から攻撃を当てても効かない可能性があった為、体内・・つまりオボロの口の中に魔法攻撃が当たるようにスノウが残像の囮を作って食わせるという連携だった。
それを読み、スノウの死に様を演出したロムロナの発想力と機転の速さにスノウは素直に尊敬の念を抱いていた。
(戦闘の天才か‥‥いや、それやりながら、クラス4の魔法を二つほぼ同時にかけてる時点で化け物だな‥‥見た目も化け物だけど)
ガン!!
「スノウボウヤ、ドSのあたしに化け物呼ばわりするとは10年早いわねぇ。これはお仕置きかしら?」
「ごめんなさい」
こういう時は素直に謝るに限る、とスノウは思った。
「しかし、オボロは跡形もなく吹き飛んだってことか‥‥何れにしてもあっけなかったな。あれだけの威圧感を?!」
(おかしい‥‥)
スノウは、冷や汗が止まらなかった。
スノウの細胞が逃げろとアラームを鳴らしている。
だが、蛇に睨まれた蛙のように動けない。
「スノウボウヤ!!!」
スノウの頭に何か液体がかかる。
その液体の感触とロムロナが叫んだことで、スノウは自分の置かれた状況を理解する。
突如背後現れた影が巨大な口を変えてスノウを頭から食おうとしている。
液体はオボロのよだれだった。
肉体強化系魔法効果はまだあるから避けられる可能性はあるが、なぜか体が言うことを効かない。
「キョトトトト‥‥」
オボロは嬉しそうにその避けた口をさらに広げ笑っている。
明らかに嬉しそうだ。
「面白いねお前たち!このあたしを冷やっとさせるなんて!キョトトト!実に500年ぶりよ!なんていい日なの今日は!こんなスリル!もっともっとあたしを冷やっとさせなさい!!」
(冷やっとして喜ぶなんて完全にドMだな・・・)
「さぁ!簡単に食われてしまわれないでおくれよ?キョタタタター!!」
よだれを垂らしながら今にもスノウを食べそうなところまでオボロの大きく裂けた口が迫っている。
シュウン!
なんとか避けた。
というより故意に逃がされた感じだった。
もっと楽しませろと言うことかとスノウは思った。
「スノウボウヤ‥‥こうなったらもう肉弾戦よ‥‥。おそらくこの子、すごく短時間おそらく1秒くらいだと思うけど、先読みしてるわね・・・つまり小細工したって避けられる」
「先読み?!予知しながら戦っているってこと?」
「予知というより、戦いの軌道が見えていてその軌道から先を読んで動いているって感じかな」
「戦いの軌道‥‥」
「そうね、そこはまだ教えてなかったわね。慣性の法則ってやつ、知ってるわよね。その物理的な動きだけじゃなく、意識の流れも含めた軌道を見るの。意識の慣性を見る感覚ね」
「さらっと言うけど言ってること分からんから!」
「まぁいいわ、この場で身につければね!ウッフフー」
「さぁ楽しませなさいよぉーキョトトトー!!!!」
そう言うとオボロは凄まじい速さでロムロナの方へ突進し鋭く尖った爪を突き立てる。
ロムロナはそれをかろうじて避け、同時にかまいたちのような切り裂く刃の風を放つ。
オボロはその刃の風を避けそうな大口を開けて飲み込む。
「化け物ねv」
ロムロナは魔法でバレーボールくらいの大きさの水のボールを作り出す。
「今度は水遊びなんてどうかしら?」
豪速球を投げるピッチャーのようなフォームでその水ボールをオボロめがけて投げつける。
「キョトトト!次はどんなカラクリかえ?」
そう言いながらオボロはその水ボールを同じように大きく避ける口を広げいとも容易く飲み込む。
「ちょっとスパイシーなお水をどうぞ?」
ロムロナがそう言うと、オボロの目がより目になったと思ったら離れ目になり腹が大きく膨らむ
ボムーーーン!!!
オボロの動きが止まる。
口から煙を吐きながら白目になっている。
「ジオエクスプロージョンを小さい水のバリアで包んでお見舞いしたんだけどお味はどうだったからしらね、ウッフフー」
そしてスノウは間髪入れずにオボロの背後に回り脳天に剣を突き立てるべく剣を振り上げる。
ヴァッサーーーーーン!!!
もう少しで脳天に剣先がささろうかという瞬間、オボロの尻尾に吹き飛ばされる。
「クソ‥‥チャンスだと思ったのに‥‥でもやったか?!」
正直クラス3の魔法で倒せるとは思えないが、体内へのダメージに期待してしまう。
「んんんんんーーーーーーうまいぃぃ!」
(やはりダメか)
オボロは避けた口をこれでもかと横に広げながらに嬉しそうに笑った。
「そこの妖の女、お前面白いなぁ!こんなにあたしを楽しませるとはねぇ。うむ、あたしの眷属にしてあげようねぇ!」
「お断りするわ。あたし誰かのものになるような女じゃぁないのよねぇ。でもそこのボウヤは下僕にしちゃってよいわよぉ、ウフフフー」
(まじでケツ蹴り飛ばしたいわ!ドMイルカ女め!)
「うむ、あの鼻くそはつまらぬのよ」
(まだ鼻くそ呼ばわりか!)
「戦い方にいやらしさがないからねぇ。このダンジョンの中じゃぁあたしとまともに戯れあえる輩はいないしねぇ。力だけで正面切って向かってくる単純な輩や魔法をむやみやたらに打ってくる能無しどもしかいないからつまらないのだわねぇ。鼻くそ小僧もその部類だね。でもお前は面白い。呪術は呪点を想像で繋ぎ組み立てるものだということを理解しているからねぇ。そういうのは久しぶりだよ」
「ちょっと何言ってるかわらないけど、このままつまらない鼻くそ呼ばわりで終わらせるのは癪だからな!どうせここで死ぬなら思いっきりぶつかって果てようじゃないか!」
「スノウボウヤ!」
(アジリアル、ジノ・アジリアル、バイタリア、バーサーク、ジノ・ソリッドスキン、バイオニックソーマ、アドレント、ジノ、アドレント‥‥)
ウルソーの肉体強化系魔法が切れかかっているのを感じ、心の中で再度強化魔法を唱える。
「あとは頼んだぜ、ロムロナ!」
地面を思いっきり蹴ってオボロめがけて突進する。
「だから単純でつまらんといったんだよ!」
オボロの懐に入り、下顎から串刺そうと剣を振り上げるが、オボロはいとも簡単に避ける。
同時にオボロが避けた頭の位置めがけてブラストレーザーをお見舞いする。
オボロは公園の水飲み場の水を飲むかのようにブラストレーザーを美味そうに飲み干し、つまらなそうにため息をつく。
「ふん‥‥崎黄泉のつもりかねぇ」
(スノウボウヤ‥それじゃぁ意識の慣性を読むのではなく、単なる当てずっぽうね。見ながら動いていてはダメなのよ)
「フラッシュフリージング!」
ロムロナは隙をついてオボロの足を凍らせ地面に縛り付ける。
スノウはその瞬間を逃さずオボロの背後に回り大きくジャンプし背中に剣を突き刺そうと飛び込む。
「こざかしい!」
オボロは九つの尾を振り回しスノウを吹き飛ばそうとする。
「迅移!」
肉体強化を使った上での瞬発力スキルの迅移を使い、オボロも捉えられないほどの動きを見せる。
しかしそれは一瞬だった。
「キョトトト!よくもあたしの自慢の尾を下手に結んでくれたね!」
スノウは動き回る九つの尾を硬く結びつけ束にした。
「それだけじゃないぜ、もっと楽しんでくれよな!ジオエクスプロージョン!」
ヒュゥゥゥン‥‥ボッガァァァン!!
結びつけられた九つの尾が膨らみ始め爆発した。
「私の真似‥ね?なかなかやるじゃないボウヤ!」
ロムロナが使った爆発魔法を水で包み込んで爆発する水のボールを束になった尾の中に入れておいたのだった。
熱で感知されないようにした油断させてダメージを与える策だ。
「火炎速断!そして雷帝十字斬!」
スキルと魔法を融合した技の応用だった。
オボロの背中に火と雷をまとった斬撃を叩き込む。
「ギャァァァ!!」
「効いたか!」
もがき苦しんでいるような動きをするオボロから一旦離れてロムロナのところに飛び寄る。
「手ごたえがあったかどうかはボウヤ自身が一番わかってるはずよね?」
「ああ‥‥」
もがいている動きから、顔を上に向けたまま止まる。
オボロの目が離れ口が大きく避けて不気味な笑みを見せる。
「食いごろだわねぇ‥‥」
大きく避けた口からよだれが漏れ出す。
「手ごたえなかったよ‥‥」
「呪詛術、血塊。血縛り」
オボロがそう言い放つと同時にスノウの体が動かなくなる。
まるで全身の血が針金にでもなったかのように思い切り力を入れてやっと指が少し動かせる程度だった。
「スノウボウヤ!」
ロムロナがそう言い放ったと同時にスノウの目の前に瞬間移動でもしたかのように大きな口を開けたオボロが現れた。
上からスノウを見下ろしている。
目と目が合う。
(なるほどな、これが蛇に睨まれた蛙ってやつね‥‥)
確かに何もできない。
オボロの動きが速すぎるのもあるが、何と表現しようか死以外の選択肢がなくなって次の行動を考える思考そのものが働かない感覚を覚えていた。
(まぁいいさ。元々おれは諦めてたサラリーマン。帰っても居心地のいい場所なんてなかったわけだし、いまさらそこに未練はないしな。だけど、この世界で出会った仲間といるとおれは諦めてたあの時の自分じゃなく必要とされているよな‥‥)
下手な気をつかうのではなく、仲間は心から自分を信頼してくれている。
英雄神とは似ても似つかないが、三神雪斗ではなく、自分をスノウ・ウルスラグナとして認め信頼してくれている。
スノウはそう考えていた。
(せめてあいつらがヴィマナを飛ばして宿願果たせるように何か残さないとな‥‥じゃないと‥‥)
「死んでも死にきれねーぜ!」
スノウはヨルムンガンドから受け取った呪詛の力に意識を集中させる。
呪詛の力は相変わらずスノウの体にまとわりつくオーラのように漂っている。
それを左腕に集まるように意識を向ける。
そしてそれを右手に持つ刀剣で切断しようと振り上げる。
「ロムロナ!蛇の加護は必要だろう!おれの腕に込めておいたから受け取ってここから逃げるんだ!最後のあがきってのを見せてやるよ!」
オボロは相変わらずスノウの目を見ながら今にも丸呑みしようとしている。
「ボウヤ!」
ピキィィィィィィン‥‥‥‥‥
ここからはスノウもロムロナも知らない状況だった。
あたり一面モノクロとなり一切の動きが止まった。
オボロが呪詛術で時をほんの少しだけ止めたようだ。
「この小童‥‥」
時が動き出す。
剣を振り下ろし左腕を切断しようとするが、持っていたはずの剣がなくなっている。
「?!」
(ど、どうなってる?!)
「小童。お前とは深い縁があるようだねぇ。食うのはやめてやろう。だが、本当にあたしの求める存在かどうか試させてもらうよ」
そう言うと、何やら呪文を唱え出す。
「呪詛術、依代権現、シキガミ、ツチカタ」
そう言い放つとオボロは境内の屋根の上に飛び乗り体を丸めて休むような体勢のままスノウを見物し始めた。
「そこの妖のおなご。加勢は無用だよ。何かしたらその瞬間に食い殺されると思いな」
「‥‥‥‥」
様子を見守るロムロナ。
その表情にいつものなめてかかるような笑みはない。
ボコボコボコ‥‥ボゴボゴ‥‥ボコボコ‥‥
スノウの目の前で地面が蠢きだす。
土塊が盛り上がり次第に何かを形作っていく。
「こ、これは?!」
(目の前にいるのは‥‥)
「お‥おれか?」
スノウはただただ驚愕の表情を浮かべていた。
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