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<ケテル編> 63.とある孤児院の物語

63.とある孤児院の物語



―――ノトス国 首都ルガロン―――



 「ヴェルさん、戻って来ちゃいましたけどこの後どうするんですか?今更警備隊に戻るとかカッコ悪すぎますから絶対にやめて下さいよ?」


 「わーってるって。俺だってそんなことする気もねぇし死んでも嫌だわ」


 「じゃぁ何か策があるんすよね?」


 ノトス国の首都ルガロンにあるレストランの隅のテーブルで帽子を深く被って顔が見えないようにしている2人は、元警備隊副隊長のヴェルガノと部下だったウィンチだ。

 ウィンチはヴェルガノの計画性のない行動に苛ついていた。

 自分の将来が不安だったからだ。


 「策はある!」


 「どんな?!」


 「原点回帰ってやつだ」


 「はー!ちょっと堅苦しい言葉使ったら策っぽく聞こえると思ってんでしょうけど、手がかりも何もないからとりあえず現場に戻ってみるっていうゼロリセット状態だって言ってるようなもんですよ?!」


 「見落としてるもんがあるかもしれねぇだろうが!」


 「だめだこりゃ‥‥」


 ガサゴソ‥‥


 ウィンチはカバンから何かを取り出した。

 羊皮紙だった。

 そこには人物相関図のようなものが書かれている。


 「お、お前準備がいいじゃねぇか!それを指示しようとしてんだよ俺ぁな」


 「マジでしばきますよ。‥‥いいですか?ノトス様が亡くなられた時にいたのはスノウって言うダイヤモンド級冒険者っす。それでそいつはノトス神殿の地下で何かを手に入れてるっすね。ここまでいいすか?」


 「ああ」


 「次、このスノウには仲間がいるっす。トライブを結成していてトライブ名はレヴルストラ4th。これはフォックで確認してるっすから間違いないっす。メンバーは7名。ここまでいいすか?」


 「ああ」


 「それでそのレヴルストラ4thは二手に分かれてゼピュロスとボレアスに向かってます。ここまでいいすか?」


 「しつけーな!いちいち確認すんなや!俺のこと馬鹿にしてんのか?」


 「してますよ。だってヴェルさん理解力低いんだもん」


 「お前なぁ親しき仲にも礼儀ありって言葉知らねぇのか」


 「知ってますし、その言葉そっくりそのまま返しますよ。それで、ゼピュロス様のところへ向かったのが、バルカンというレヴルストラ4thの副リーダー的存在で、どうやら彼もゼピュロス神殿の地下で何かを手に入れているっす」


 「そしてその時にあった黒ローブの男だな!」


 「ええ。でもあれは何かを盗んだ犯人でもないし、ノトス様を殺害した犯人でもないと思っています」


 「ああ。お前がそういうなら間違いねぇだろうな」


 ヴェルガノはウィンチにある何かを感じ取る能力をよく知っていて信頼していた。


 「そしてもう一つ。エウロス国でエウロス様が亡くなられたという情報。これにはノトス様殺害の犯人が関与している可能性が高いと思われるっすね‥‥」


 「だが、エウロスに悪魔たちの襲来があったらしいじゃねぇか。そん時にオリンポス神のネメシスとエリスって神が降臨して悪魔を滅したとか。そのままエウロスの統治権を主張したって聞いてるな」


 「そうです。よくできました。でもその時にもレヴルストラ4thメンバーが居たって言う情報が入っているっす。人類議会ヒューパラメンタル支部メンバーと共に悪魔たちと戦っとか。眉唾ですけど」


 ヴェルガノはウィンチの言い方に一瞬ムカっときたが抑えた。


 「ここまでが得られた情報っすね。これを整理すると、全てにレヴルストラ4thが関わっているということ、彼らがノトス神殿、ゼピュロス神殿から何かしら入手していること、エウロスを統治しているのはネメシス神とエリス神だということ‥‥っすかね」


 「ウィンチ‥お前ぇが言いてぇのは動機があるのは誰かってことだな?それで言えば、ひとつはレヴなんとかは神殿地下にある何かを入手するためにノトス様とエウロス様を殺した‥‥」


 「はい。よくできました。そしてもう一つはネメシス神とエリス神がこのケテルの統治をアネモイ4柱神から奪うため‥‥」


 「ほう‥‥面白ぇ。お前にしちゃぁ上出来な分析だ。一昔前じゃぁそんな過激な話は出来なかったからなぁ!俺と警備隊抜けて名探偵始めてよかったじゃねぇか!はっはっは!」


 「はっはっはじゃないでしょ。冷静に分析しているだけっすよ。感覚も大事っすけど冷静な論理的分析も重要なんすからね。僕は早く無名探偵から抜け出したいんですから」


 「分かった分かった。そんで次はどこに行くかって言うと‥‥」


 「エウロスっす!ノトスで現場を再確認とか言ってる場合じゃないんっすよ」


 「分かってるって、全部言うんじゃねぇよ。だが、出発は明日だな」


 「何でですか?!善は急げとか言うのかと思いましたけど‥‥ヴェルさん単純だから」


 「お前ぇやな奴に育ったもんだな‥‥。ちょっと野暮用だ」


 「わかりましたよ。てか料理冷めてるし。さっさと食べましょ」


 「ん?俺は食ってるぜ?」


 「全くあんたとのコンビ‥‥不安しかないわ‥‥」



・・・・・


・・・



―――その日の午後―――



 ヴェルガノは首都ルガロンの外れにある孤児院を訪ねていた。


 「邪魔するぜ‥」


 「あ!ヴェルのオッさんだ!」

 「ヴェルのオッさん!」

 「ヴェルおじさん!」

 「ヴェルおじさん!」

 「ヴェルじぃさん!」


 ヴェルガノが孤児院の敷地に入った途端に小さな子供たちが一斉に群がって来た。

 子供たちはヴェルガノに抱きついている。


 「おいおい、お前ら!ってかそこに並べ!」


 ザザザ!


 9人いる子供たちは、ヴェルガノの合図で一斉に並んだ。


 「よぉし、よく出来たお前たち!それで‥このヴェルガノさんがやって来てお前たちがとても嬉しいのはよく分かった。だが!問題がある!何かわかるか?ペッツ!」


 「わかんなーい」


 「‥‥だろうな。このヴェルガノさんの呼び方を間違えているやつがいる!ヴェルガノさんと呼べと何度も教えているのにだ!そこで確認だ。ほぼみんな間違えているが、完璧に完全にど偉いレベルで間違えている大馬鹿者がいる。今からそれをチェックするぞ!いいな!」


 『はーい』


 「よぉし、右からもう一回、さっきこのヴェルガノさんのことを何て呼んだか言ってみろ。はい!」



 「あ!ヴェルのオッさんだ!」


 「はいストップ。ペッツ。お前、なんて呼んだか言ってみろって言われて、誰があ!からは入るんだ?‥ってそこじゃない。ヴェルのオッさんって何だ?」


 「え?違うの?」


 「違う!。まぁいい。それじゃ次、リックから!」


 「ヴェルのオッさん!」

 「ヴェルおじさん!」

 「ヴェルおじさん!」

 「ヴェルじぃさん!」


 「はいストップー」


 ヴェルガノは最後に名前を呼んだ少年の前に立った。


 「ズンク。またお前だな。何度言ったらわかる?言うに事欠いて、このヴェルガノ兄さんのことをじぃさん呼ばわりしたな?お前がじぃさん呼ばわりするから、おじさんが霞んで聞こえるわ!」


 「え、だめなのー?」


 「ダメだ。よってズンクはお仕置きの刑に処す!」


 「わぁ!逃げろー」


 「待てコラー!」


 逃げ回る子供たち。


 「よし捕まえたぞ!」


 ヴェルガノはズンクと呼んだ少年を捕まえた。


 「お仕置きの刑だ!」


 ヴェルガノはズンクの脇腹をくすぐり始めた。


 「オラオラオラオラァ!」


 「ぎゃははははは!負け負けウソウソごめんなさーいもう言いません。じじいなんてもう言いませーんぎゃはははは!!」


 ズンクはくすぐられて笑い転げている。


 「おやおや、また遊んでもらっているのかい?」


 『ママー!』


 子供たちは声のする方に一斉集まって行った。

 ズンクも解放されて声の方に走っていった。


 「どうも」


 「いつもありがとうねヴェルちゃん」


 「いい加減そのヴェルちゃんはやめようぜママ」


 「オッさんのくせにママだってキモー」

 「キモー」

 「キッモー」

 「キモジジィー」


 「おいこらまたズンクだな!」


 ヴェルガノはまた子供たちを追いかけ始めた。

 どうやらこれがヴェルガノがこの孤児院を訪ねる際のルーティンらしい。

 しばらくして飽きたのか、子供たちは建物の中に入っていった。

 その頃にはヴェルガノはヘロヘロになっていた。


 「貴方もそんなに若くないんだから、無理しなくてもいいのよ?」


 「いやぁ、そういうんじゃねぇよ。楽しいからやってんだ。中、入ってもいいかい?」


 「もちろんよ。ゆっくりしていってね」


 そう言うと老婆は孤児院の建物の中へヴェルガノを招き入れた。

 ヴェルガノの前にいる老婆はこの孤児院を経営しているシウバーヌという名の女性だ。

 ヴェルガノも孤児でこの孤児院で育った1人だ。

 中々経営も苦しいため、ヴェルガノは自身の給料の一部を毎月この孤児院に寄付しているのだ。


 「いつもすまないねぇ」


 「いや、いいんだぜ。ママとこの孤児院には返しきれねぇ大恩があるんだ。それに俺にはこの孤児院を守る義務もある。ママも高齢だからな。誰か後継者でも見つけねぇとな」


 「そうねぇ。でも中々そういう子は居ないのよね。無理強いするものでもないでしょう?待つしかないわねぇ」


 「何呑気なこと言ってんだよ。ママだって先長ぇわけじゃねぇんだ‥‥ってまたやっちまったな」


 「ほっほっほ。相変わらず思ったこと、すぐ口に出しちゃうのねぇ。でも裏がないことは良いことよ。人に信用して貰いやすいもの。そうねぇヴェルちゃんの言う通りだわね。誰かいないかしら」


 「それと‥‥」


 ヴェルガノは急にモジモジと言いづらそうな仕草をしながら喋り始めた。


 「実はよ‥‥」


 「おケテルグのことでしょう?いいのよ気にしなくて。国からの援助金でなんとかやっていけるから」


 「い、いや、頑張るよ俺!‥‥警備隊やめちまったけどやっと自分の信念に従って行動できるようになったんだ。それでまた金稼いでこの孤児院をもっと立派にしてやるさ。だからちょっとの間待っててくれや」


 「あらあら。良かったわねぇ。それで何か嬉しそうな顔をしていたのねぇ。それじゃぁヴェルちゃんが立派になるまで私も長生きしないとねフフフ」


 「そ、そうだな!頼むぜママ長生きしてくれよな」


 「はいはい。貴方といい、ウィンチちゃんといい、良い子が育って私は嬉しいわ」


 「ウィンチ?あいつもここに来たのか?」


 「そうね。貴方の真似をしているみたいよ。口では貴方のことが嫌いだとかイライラさせられて困っているとか言うけど、本当はとても慕っているのね。昨日も貴方と同じようなことを言いに来たわよ。今は自分の信念に従って行動できてて楽しいけど、収入がちゃんと得られるようになるまで待っててって。流石は親子ね」


 「血ぃ繋がってねぇし親子なんて‥‥そんなんじゃねぇよ」


 「でもまぁ忙しくなりそうだねぇ」


 「まぁな。これから少しノトスを離れることになりそうだ」


 「あらまぁ。どこへ行くんだい?」


 「しばらくはエウロスに行くことになりそうだな」


 「あそこは今悪魔が出るって噂にもなってるからくれぐれも気をつけるんだよ」


 「ああ、分かってる」


 コンコン‥‥


 会話中突然扉をノックする音が聞こえた。


 「はい、どうぞ」


 「失礼します」


 入って来たのは15歳くらいの少女だった。

 礼儀正しく一礼して中に入って来た。


 「どうしたのトリア」


 「おお、トリアか。大きなったじゃねぇか」


 「1ヶ月前にも会ってるけど」


 「あ、あぁ‥そ、そうだったな」


 「それよりヴェルおじさん。これからエウロスに行くの?」


 「ああ。そのつもりだが何でだ?」


 「私も連れていってくれない?」


 「ああ、いいよ‥‥ってはぁ?!よくないよくない!いきなり何言ってんだぁお前は!」


 「いきなりじゃないの。私、世界を見て回りたいの。そしてその中で自分に出来ることを探したい。いつまでもこの孤児院にいても何も得るものないもの」


 「お、お前!ママの前で!」


 「いいのよヴェルちゃん」


 「だからお願いヴェルおじさん。私もおじさんみたいに自由に世界を回りたい。迷惑はかけない。剣術だって使えるし料理だって出来るから野営する時は重宝するわ」


 「はぁ?!正気か?!」


 「正気よ!お願い!」


 「‥‥分かった。ただし、その剣術とやらで俺のことを負かせられたら許可してやる」


 「いいわ」


 そう言うと2人は庭に出た。


 ヒョイ!‥‥パシ!


 「武器はこの木剣。その他この周りにあるものは好きに使って良いルール。これでどう?」


 「構わん」


 (好きなようにさせて最後にぎゃふんと負かしてやれば諦めもするだろ)


 「じゃぁ行くわよ」


 「おう」


 「始め!」


 シュッ‥‥


 突如ヴェルガノの視界からトリアが消えた。


 「え?!」


 ボゴン!


 「あぎゃぁぁ!!」


 素早い動きでヴェルガノの背後に回ったトリアは後ろから木剣をヴェルガノの股の間目掛けて振り上げた。

 鈍い音と共に無様な悲鳴をあげたヴェルガノは飛び上がって痛そうに跳ねている。

 どうやらトリアの放った一太刀がヴェルガノの金的にヒットしたようだ。


 「お、おほぉぉぉ!」


 「どう!負けを認める?!」


 「くっ!な、生意気な‥‥認めるか!次は‥‥こ、こんな不意打ち‥‥当たらねぇからなぁ!」


 ヴェルガノは真剣に構えだした。

 一方トリアも木剣を頭上の位置で構えている。


 「行くよ!」


 ブワン!


 トリアは木剣を振り下ろした。

 いや、振り下ろす動作で木剣をヴェルガノの方に向かって投げつけた。


 ブワンブワン!


 木剣は回転してヴェルガノの方に飛んでいく。


 「は!ちょっと焦ったが肝心の武器をぶん投げちゃぁ、お前どうやって攻撃すんだよ!」


 カキィン!‥‥ブワンブワン‥ズブン!


 ヴェルガノは木剣でトリアが投げたものを弾いた。

 そのままトリアの木剣はくるくる回転して地面に刺さった。


 「え?!」


 ボゴン!


 「あんぎゃぁぁ!!」


 再度ヴェルガノは股間を抑えて飛び跳ねている。


 「お、お前ぇぇぇぇ!」


 「へへ!私の勝ちね!」


 「お前、汚っねぇぞ!木剣二つ持ってたな?!」


 ヴェルガノが飛び跳ねながら指摘した。


 「持ってないわよ。見てみなさい」


 トリアが指さしたのは地面に刺さった単なる木の棒だった。

 そしてトリアの手にあるのは最初に持っていた木剣だった。


 「言ったわよね最初に。この場にあるものは何でも使って良いって。私は一回めの攻撃の時にあそこに落ちてた木の棒を拾ったの。そして木剣は背中に刺しておじさんから見えない位置に隠した。それでその木の棒を木剣に見せかけて投げたわ。そしたらおじさん、まんまと罠にかかってその木の棒に意識を集中させたからその隙におじさんの背後に回って攻撃したの」


 「お、お前‥‥随分前から計画していたのか?この戦闘で俺に勝つことを‥‥」


 「ううん。成り行きで思いついたわ」


 「‥‥はぁ‥‥」


 「ヴェルちゃん。もういいんじゃない?」


 離れた場所から見ていたシウバーヌが声をかけて来た。


 「ママ‥‥」


 「あの子の本気‥‥見たでしょう?」


 「ママはそれで良いのか?」


 「もちろんよ。別れは悲しいけど、子供たちの巣立ちほど嬉しいことは無いもの。トリアは頭もいいしきちんと学校に行かせてあげたいとも思ってたけど、世界を見てまわりたいってさっき聞いた時は、私のちっぽけな思いの押し付けになる型に嵌るような生き方の出来る子じゃないんだって分かったのよ」


 「ちっ‥‥」


 ヴェルガノも分かっていた。

 この苦しい経営難の孤児院でトリアのような食べ盛りの子は経営を圧迫してしまう。

 他の小さな子供たちに十分な食べ物を分け与えるために自分がこの孤児院から出なければという焦りがあることもヴェルガノには分かっていた。


 「5分で支度しろ」


 「あは!いえ、10分頂戴!女の身支度には時間がかかるの。ジェントルマンならそれくらい知っておいてよね」


 トリアは嬉しそうに部屋に戻っていった。


 「はぁ‥‥」


 「ヴェルちゃん。頑張らないとねぇフフフ」


 シウバーヌもヴェルガノも嬉しそうな表情を浮かべていた。



 「全くお人好しっすね‥‥僕も頑張らないと」


 孤児院の外の建物の影からウィンチが見守っていた。





ヴェルガノ、ウィンチ、トリアの探偵トリオは今後活躍する場が出て来ます。

重要な局面でキーパーソンになる場面もありますので、見守っていただけるとありがたいです。


いつも読んで下さって本当にありがとうございます!

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