<ケテル編> 57.偶然の再開
57.偶然の再開
「それでここに手を通して‥‥そうです!それでここを引っ掛けるって言ってました。‥‥それでいいと思います。おお!凄いじゃないですか!」
シンザは歓喜の声をあげている。
理由はスノウのスクーパの試着が完了したからだ。
「こんなんで本当に飛べるのか?」
見た目はウイングスーツのようだが、スリーブ部分の肩から手にかけて金属の棒が嵌め込まれており、その棒はさらに50センチほど伸びている。
そして、両足の間と腕と体の間には特殊な布が張られている。
手の部分にはグリップが飛び出ていて、そこを握りひねると羽部分の角度が変わる仕組みになっている。
「大丈夫なはずですよ。ここら辺では老舗のスクーパ専門店で十分な実績があるのと、スノウさんの身長と体重を伝えて出してもらったセットですから。しかも金に糸目をつけないと言って買ってきたものですからね」
「そうか。まぁ風を掴まえてみないとわからないよな。楽しみだ‥‥」
(金に糸目をつけなかったって‥‥一体いくらしたんだよ‥これ‥」
そんな会話をしている中、シアが割り込んで怒り口調で話し始めた。
「シンザ。そろそろ入手した情報の整理をしないとならないはずよ。もうすぐ日も暮れるはずだし、夜の街での情報収集するなら時間がないわ」
「あ、す、すまんシア。ついおれもスクーパの試着に夢中になってしまって」
「いえ、マスターはいいんです。悪いのはシンザですから」
「ええ?!不公平、不平等、こういうところから信頼に綻びが生まれるんですよシアさん!」
「すべきことをせずにこんな高額商品を買ってきたあなたから出る言葉とは思えないわね。それをいうなら責務を放棄するところからも信頼に綻びが生まれるのだから、あなたの方が信頼を失っているということになるけど、それで良いのね」
「い、いえ‥‥すみません‥‥僕のミスです‥‥」
最早シアに言い合いで勝てるものはいない。
いや、レヴルストラ4thの女性陣に勝てるものはいないのだ。
スノウはシンザに申し訳なさそうな表情を見せて無言で謝った。
それから3人は入手した情報を整理し始めた。
・このグザリアにはペフタステリという競技があるらしく、それのコンテストが行われている。
・スノウの今着ているようなスクーパを装着し、所定の山の絶壁の上から飛び所定の位置に着地するのだが、スクーパを広げた高さが低ければ低いほどブレイブポイントが加算され、着地サークルの中心に近ければ近いほどテクニカルポイントが加算される仕組みらしい。
・コンテストでは常にアネモイ剣士たちが上位を占めるのだが、アネモイ上位剣士のペルセウス、アキレス、テセウスという3名が優勝を競っているらしい。
・実際にはアステリマスカという人物がダントツでトップの実力と成績を持っているらしいのだが、これまで1度しかコンテストに出場しておらず本当なのか定かではないという話だ。
・因みにヘラクレスはスクーパを開かずに着地をするため失格となっているらしい。
・スクーパは本来風を掴んで空を飛行するための道具であり、スクーパを使って飛ぶことをエオリシと呼ぶらしい。
・学校でもエオリシの授業が行われており、風を掴めない子供が出ているようだ。
・話していた老人としては風の流れが変わってしまったと感じているらしい。
・エウロス神とノトス神が消滅したことは知れ渡っていないように思えた。
・ボレアス神も最近は神殿に顔を出すことはなくなっており、会うことができない。
・最近アネモイ剣士のボレアス派とゼウス派でいざこざが発生しており、ボレアス派は押されている。
・ペルセウスが仲介に入って抗争を止めている。
「おれとシアで入手した情報はこれくらいだ。シンザの方だどうだったんだ?」
シンザは得た情報を話始めた。
・ボレアス神殿本殿に行くならここから更に10キロメートル北へ進む必要がある。
・本殿に入って参拝をするなら、アネモイ剣士協会本部で許可をもらう必要がある。
・今年のペフタステリ・コンテストは1ヶ月後に控えている。
・着地の技術を学べばペフタステリはできる。
・老舗のスクーパ専門店ではエオリシとペフタステリ両方のレッスン充実コースがあるらしく、1ヶ月もあればペフタステリ・コンテストに出場できるだけの技術は学べる。
・シンザが購入したスクーパは高強度で超軽量の金属パイプを使用しているため飛行というより落下時間が長いこと、また特殊な生地を使っているため、風を掴むグリップ力に優れている、超高機能スクーパだ。
・購入費にはレッスン料3回分がサービスで含まれているため是非受けるべきだ。
「‥‥‥‥」
シアは黙っている。
シンザはまた怒られるのではないかと内心ヒヤヒヤしている。
「わたしより有益な情報を入手している点は評価するわ。でも半分以上そのヘンテコな鳥コスプレの情報ばかりだからマイナスね。罰としてこの後の情報収集で3つ以上の貴重な情報を入手してきなさい」
鬼の指示がシンザに下された。
しばらくして情報収集に向けて出かけることにしたのだが、先にスノウとシンザで向かうことになった。
シアはメロの面倒を見て、後で交代する予定だ。
・・・・・
・・・
「さて、スノウさん。情報収集と言えば人の集まるところ。人の集まるところと言えばレストランか酒場ですからね。この時間だと酒場にはまだそれほど人は居ないでしょうから、まずはレストランで腹ごしらえですかね」
どうやらシンザは昼飯を抜いてスクーパ店でスクーパ購入を行っていたらしく平然とした顔をしているが腹からはぐぅぐぅと空腹音を奏でていた。
「何処いきますかね!」
シンザは嬉しそうに早足になっている。
「あ!」
「どした?」
「財布を忘れました‥‥」
「マジか‥‥まぁいいよ。おれが出そう」
「いえ!ダメです!ストラ号の金庫番である僕が財布忘れとかありえません!」
(お前‥‥昼間高級スクーパ3つも買って無駄遣いしてたやつのセリフか?‥‥ってまぁあれはおれも欲しかったからいいけどさ‥‥)
「仕方ない。そこまでいうなら宿に戻るか」
スノウとシンザは宿に戻ることにした。
宿の部屋に戻ってきたスノウは自分たちの部屋の扉を開ける。
ガチャ‥‥
「あ‥」
「え?」
「はっ!」
ガチャ‥‥
スノウとシンザは静かに扉を閉めた。
「‥‥‥‥」
一瞬無言になったスノウとシンザは顔を見合わせた。
「今‥」
「ええ‥」
スノウとシンザが見た光景はシアがスクーパを試着している姿だったのだ。
「開け‥」
「ないほうがいいですね‥」
「だな‥」
スノウとシンザはそのまま宿を後にした。
「あ!」
「どした!?」
「財布」
「あぁ!もういいって!おれが払うから。後で返してくれればいい」
「すみません‥‥」
この後しばらくシンザは落ち込んでいたが、食事をし始めたころからすっかり元気になり、美味しそうに食事をほうばっていたという。
スノウはいつも冷静なシンザがここまではしゃぐことも珍しく、これもシンザ自身がレヴルストラメンバーに慣れてきたことの証なのだと思った。
(シファールの手下とはいえ、この世界ではおれ達の仲間だし、冷静沈着で理詰めの男だけじゃなくこういう部分があった方が人間臭くていいよな)
「スノウさん」
「ああ」
楽しそうな雰囲気から一転、少し離れたテーブルで言い争いが聞こえたため、それに反応し目を向けた。
テーブルに座っている女性剣士に大男の剣士2人が怒鳴っている。
「おい、誰の許可を得てこの店で飯食ってんだよ」
「異国くせぇんだよお前!中位剣士だからって調子に乗るんじゃねぇぞ」
「‥‥‥‥」
女性剣士は黙っている。
「は!所詮は女。本能的な弱さは隠しきれねぇみたいだな」
「歯向かう根性ないならとっととこの店から出るんだな」
「‥‥もう少しで食べ終わる。すまないがもう少し待ってくれないか」
大男剣士2人は顔を見合わせてニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう」
「なんて言うわけねぇだろうが!」
ガッシャァン!
片方の大男剣士は女性剣士の食事の皿をひっくり返した。
「‥‥‥‥」
女性剣士は黙っている。
ガタ‥‥
「私はね‥‥食べ物を粗末にするやつは許さないと決めているんだ」
女性剣士は立ち上がると低い声で言った。
「イデデデデデ!」
突如大男が悲鳴を上げた。
背後にいる人物によって右手の小指と薬指を握られ捻りあげられているためだった。
「お前何してんだ!」
「何してるって見りゃ分かるだろ。食べ物粗末にしたやつに罰を与えてんだよ」
大男剣士の指を捻り上げているのはスノウだった。
「はぁ?!何言ってんだ?!手前ぇ俺たちが誰か分かって言ってんのか?!」
「ああ。食べ物を粗末にする無駄に体のでかい男2人組だろ。見りゃぁ分かるよ」
「イデデデ!離しやがれ!」
指を捻りあげられている男が更に悲鳴をあげる。
ガチャ!
「その生意気な言葉を吐いたこと‥‥後悔すんじゃねぇぞ」
もう1人の大男剣士は腰に下げている剣のグリップに手を添えて剣を抜き始めた。
ガシィ!‥ガコン!
スノウは足でポンメルを抑えて剣を抜けないようにする。
押さえ込まれた勢いで剣の鞘の先端が床の板の間に嵌ってしまってガッシリと固定されてしまった。
大男はもう剣を抜くことはできない。
「て、手前ぇ!」
「煩いな。弱い奴ほどよく吠えると言うが、本来なら感謝してほしいくらいなんだぜ?」
剣が抜けなくなっているため、大男剣士は焦っている。
「は、離しやがれこのニンゲンが!」
「へぇ‥お前アネモイ剣士か。人間に救われている半神剣士ってのも随分と情けないもんだな」
「どういう意味だ!?」
「そこの女性。お前らより遥かに強い。お前らにどういう後ろ盾がいるのか知らないが、あの女性に剣を抜かせたらお前ら‥‥」
スノウは鋭い眼光を大男剣士に向けて言った。
「‥死ぬぞ」
バチン!
スノウから全身を駆使座されるようなオーラが発せられている。
そのオーラを受けて動けなくなっている大男剣士にスノウはデコピンを放った。
大男剣士はそのまま倒れてしまった。
バタン!
スノウが大男の指を締め上げていた手を離すと、大男剣士は床に倒れ込んで指を抑えてもがいている。
「さっさとそこで気絶しているお友達を連れて帰れ」
「く!お、覚えとけ!」
大男剣士は気絶したもう1人を担いで急いで店を出て行った。
なんとなく見物していた周囲の客は波が引くようにさっと自分たちの席に戻って食事を再開している。
(腫れ物にでも触る感じだな。よほどゼウス派ってのが怖いらしい‥‥)
ガキン!
スノウは床に挟まっていた先ほどの剣士の剣を引き抜いた。
「ありがとう」
女性剣士はスノウの前に立って深々と頭を下げて礼を言った。
「頭を上げてくれ。感謝されたくてしたわけじゃないんだ」
「いや、これはあやつらを懲らしめてくれた礼じゃない。この私が自分の剣を抜くのを防いでくれた礼だ」
「だから礼なんていらないって。そういうつもりじゃない」
「フッ‥全てお見通しというわけか。お前、中々の男だな。一応助けてくれた理由を聞いておこうじゃないか。‥‥いやまずは名を名乗るのが先だな私は‥」
「アカルヒメノカミ‥‥だろ」
「なぜ私の名を知って‥‥そうだな‥‥私はアネモイ剣士だ。名前くらい知られていても不思議ではないな。そうだ私はアカルヒメノカミと言う。アカルと呼んでくれて構わない」
「そうじゃないよ」
「どういう‥‥!」
女剣士は驚きの表情を浮かべた。
「お前は!シンザじゃないか!」
スノウの背後にいたシンザが姿を見せたことでアカルが気づいた。
「お久しぶりですアカルさん」
「おお、そうだな!元気そうで何よりだ!そういえばワサンも一緒か?」
「ワサンさんは別行動とっているので今はここにいませんよ。それはそうと僕らのトライブのリーダーのスノウさんを紹介します。スノウ・ウルスラグナさんです」
「!‥‥スノウ‥ウルスラグナ?!」
「?」
アカルのあまりに驚いた表情にスノウは名前に反応したのだと思った。
「スノウだ。おれの名前に聞き覚えでも?」
「あ、いや遥か昔、最善竜ロン・ヴァールを滅した魔鬼神がスノウ・ウルスラグナだから驚いただけだ」
「最善竜ロン・ヴァール?‥‥魔鬼神?!」
スノウは聞き覚えのない演技をしつつ動揺を隠した。
(ロン・ヴァールって言えばアレックスがおれを英雄神だと言った時に出た竜の名前だったはず‥‥。しかもその時は最悪竜だったよな‥‥そしてスノウ・ウルスラグナは英雄神だった‥‥。でもこのアカルの認識は全く逆だよな‥‥どうなってる?!)
「ってどうかしているな私も。どこかの悪趣味な者が魔鬼神と同じ名前をつけたのだろう。気の毒だったな。あ、いやすまない。人の名前を貶すものではないな。謝罪する。この通りだ!」
アカルは深々と頭を下げた。
「いいって。それよりそのロン・ヴァールってのと魔鬼神?について後で詳しく教えてくれるとありがたい」
「構わないが御伽噺みたいなものだらからな。それはそうと、何故ここグザリアにいるのだ?」
「ちょっと場所を変えよう。おれたちの宿の部屋まできてもらえるか?」
「もちろんだ」
アカルは先ほどの大男剣士によって散らかされた食事や皿をきれいに並べ直し、勘定を払ってスノウたちと共に店を出た。
「スノウとやら。先ほどアネモイ剣士に言った言葉は本心か?」
「ん?おれ、何て言ったっけ?」
「食べ物粗末にしたやつに罰を与えてやるとかなんとかってくだりだ」
「ああ、もちろん本心だよ。おれの師や友人がよく言ってたんだ。食えない時に食べ物の有り難みを知るのでは遅い。日頃から食べられることに感謝しろってな。実際冒険者として長期に冒険している間食べ物にありつけずに苦しんだ経験もあるしな」
スノウはエントワとアレックの顔を思い出していた。
「それにそもそも貧しくてまともに食べることのできない人と、有り余る食事を前に食い散らかして残している人が混在する狂った世界も見てきたしな。だからああいう食べ物を粗末するやつには苛つくんだよな。変か?」
「いや、そんなことはない。お前がまともな人物だとわかって安心しただけだ。気にするな」
「そうか」
スノウとシンザはアカルを連れて宿へ戻った。
出迎えたシアはスクーパを試着しようとしていたことなどなかったことのような態度だった。
アカルの紹介も済ませた後、スノウはこれまでの事の経緯をアカルに説明した。
・・・・・
・・・
「そうか‥‥ジュナはワサンと一緒にいるのか。それならば安心だな。ゼピュロス様もアイアロス様と一緒におられるなら心配いらないだろう。何よりアイアロス様の側にはギルガメッシュがいるとのことだし」
「そのギルガメッシュってのも強いのか?確か上位剣士だったかと聞いたが‥‥」
「さぁな。私はやつと剣を交えたことがないから分からない。だが、やつの放つオーラを一度味わったことがあるが、相当なものだった。レストランで放ったお前のオーラも中々なものだったがな」
「ありがとう‥褒めてくれてるんだよな。ということでゼピュロスサイドは順調で安心だから、おれたちは何とかボレアス神に会って力不足かもしれないが護衛にあたらせてもらえばいい。それに集中できるしすべきだ」
「そういうことなら私が掛け合おうじゃないか。既にペルセウスとも面識があるならボレアス様にお会いする手続きはそれほど時間もかからないだろう。そもそもお前たちは既にボレアス様に知っていただいている皆のだから問題はないだろう」
アカルがしばらく同行することとなった。
「それはそうと、先ほどの話に出てきたメロという女児はどこにいるのだ?」
「隣の部屋のベッドで寝ているわ。寝ているというより意識が戻らないのだけど」
シアが説明した。
「ちょっと診せてもらえないか?もちろん私は医者じゃないから治すことはできないが、もし精神体がどこかその子の精神で彷徨っているだけなのだとしたら引き戻すこともできるかもしれない」
「本当か?!」
スノウは驚きの声を上げた。
「もしそうなら‥‥という話だ。先ずは診てみないと何とも言えん」
「そうだな。じゃぁ頼むよ」
スノウはアカルをメロが寝ている部屋に連れていった。
シアは若干の不安を抱いていたが、スノウの判断のため何も言わなかった。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。




