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<ケテル編> 55.ヘラクレスと3つ目の少年

55.ヘラクレスと3つ目の少年


 

 ドッゴォォン!!


 突如現れたヘラクレスは巨大な剣を振り下ろしてきた。

 それをスノウはフラガラッハを抜いて受け切ったが、その衝撃で周囲に爆風が広がる。


 「お!狐面の男はお前だったかスノウ・ウルスラグナ!」


 「ヘラクレス!」


 対峙するスノウとヘラクレスの力は拮抗しておりギリギリとフラガラッハとヘラクレスの大剣が擦れ合う音が双方の力の凄まじさを物語っていた。


 「何を!」

 

 突如ヘラクレスの背後からシアの声がした。


 「している!!」


 シアの凄まじい蹴りがヘラクレスの脇腹の思い切り食い込んだ。


 バシュゥゥゥン!!ドッゴォォン!!


 シアの蹴りによってヘラクレスは真横に吹き飛んでいった。

 

 ズザァァ!!


 空中で器用に回転し身を屈めた姿勢で勢いを殺しながら着地した。


 「誰に断ってマスターに攻撃をしている。お前の様な雑魚がマスターに歯向かうなど、1000年早い。資格なくマスターに攻撃したお前は万死に値する」


 シアは凄まじい怒りの表情を見せた。


 「フランシアか!ハハァ!いいコンビじゃないか!面白くなってきたぜ」


 ガシィ!


 スノウとシアが構える。


 「よぉし!絶えてみせろヨォ!」


 ズォォォオオ!


 ヘラクレスは力を溜めている。

 ただでさえ巨漢の体がさらに異様な筋肉の盛り上がりを見せて体格が倍近くにも膨れ上がったように見えた。


 ズザン!‥‥ビュゥゥン!


 ヘラクレスは凄まじい跳躍を見せた。

 そしてスノウとシアの目の前に一瞬で詰め寄った。

 それと同時に大剣が横振りされる。


 バシュゥゥゥゥゥン!!


 凄まじい大剣の攻撃がスノウを襲う。 


 ガッ!バリリン!!


 大剣がスノウが練った強力な螺旋によって破壊されるが、ヘラクレスの破壊の余波によって吹き飛ばされる。


 ガシィ!!ブワン!


 吹き飛ばされるスノウの腕を掴んだシアは大きく振り回す。

 するとスノウはシアを起点に一周しそのままヘラクレスの背後に回る形となりドロップキックのように両脚の蹴りを放つ。


 ビギィィン!!


 即座に振り向いたヘラクレスが両腕をクロスしてそれを受ける。

 

 「ぬおおお!」


 スノウの脚力、シアの力と遠心力に加えてヘラクレスの破壊の余波を流動で両脚へ流し送っており、その全てが重なった形でヘラクレスに放たれたため、鈍い音と共にヘラクレスの叫びが響いた。


 ズズズ・・・


 『!』


 スノウとシアは驚いた。

 ヘラクレスが二人の連携攻撃を耐えたからだった。


 スタ‥‥バシュ!‥‥タタン!


 スノウは一瞬着地した後、シアと共に少し距離をとるため後方に飛び退いた。

 ヘラクレスはクロスした腕の間から光る目でスノウたちを捉えている。

 そして数秒後、腕を下ろした。


 「ふぅ・・」


 ヘラクレスは安堵のため息の様に息を吐くと右手に持っていた砕かれた大剣を見つめた。

 

 「あーあ、これそこそこ貴重な剣だったのにこんなに砕いちまって・・これじゃぁ鍛え直せねぇじゃねぇか!だが中々痺れる連携反撃だったな!楽しくなってきたぜ!お前らに手加減してたらこっ酷く反撃を喰らう事は分かったからな。今度は少し本気を出させてもらう」


 シュワン!


 ヘラクレスは折れた剣を投げ捨てた。

 そして拳闘の構えをとる。


 「さぁかかって来ぶへぇ!」


 ズゥゥゥン!


 『!』


 話している途中、ヘラクレスの頭上から突如何かが飛来してヘラクレスの頭部に落ち、その衝撃で潰れる様にヘラクレスは地面に減り込んだ。

 飛び散る土埃が収まるとヘラクレスの頭上に何かが立っているのが見えた。


 「こ、子供?!」


 下半身が地面に埋まってしまったヘラクレスの頭部に腕を組んでふらつかずに立っているのは少年の様な姿をした存在だった。

 少年の様な存在と称した理由は肌の色が薄い碧色で金色に光る目が三つあったからだ。

 明らかに普通の少年ではない。

 肌の色と3つ目以外は美しい顔をした人間の少年にしか見えない。

 そしてその美しくも異様な見た目以上に、その体から発せられる異常に冷たく感じられるまるで虚無に襲われるようなオーラはスノウが行動を忘れてしまうほどのものだった。


 「シ、シルズ‥‥」


 ヘラクレスは苦しそうな表情で頭上に立っている少年の足を掴みかかる。


 ヒュイッ‥‥ズゥン!


 「はぶぅ!!」


 少年はそれを軽々と避けて再度ヘラクレスの頭上に着地したが、大した跳躍ではないにも関わらずヘラクレスは奇妙な声をあげてさらに地面に埋まった。


 「わ、わかった!もうやめる!だから退いてくれ!これ以上は背骨がいかれちまう!」


 ヒョイッ‥‥スタ‥


 少年は地面に着地した。

 小さく砂埃がたった程度で先程ヘラクレスを押さえつけていたような重みは微塵も感じられなかった。


 ドッガァァァ!!


 ヘラクレスは勢いよく地面に埋まっている体勢から飛び出て横に着地した。


 「全く‥‥お前をよこすとはペルセウスも意地が悪いぜ‥‥」


 ヘラクレスは服に付着した泥や土を払いながら話を続けた。


 「よう‥‥スノウ、そしてフランシア。勝負はしばらくお預けだ。だが、油断すんなよ?俺はお前らと戦いたくてうずぐは!!」


 ヘラクレスは少年から足刀蹴りを鳩尾に喰らって蹲った。


 「相変わらずお前は学ばないやつだなヘラクレス」


 そう言うと、少年は足刀蹴りをヘラクレスの腹に食い込ませた状態でスノウたちの方へ顔を向けてさらに話を続けた。


 「お前達とは初めましてだな。俺はシルゼヴァ。アネモイ剣士協会下位剣士だ。よろしく頼む」


 「‥‥‥‥」


 フランとほとんど変わらない年齢にも関わらずアネモイ剣士と聞きスノウたちは一瞬面食らった。


 ドッゴォォォン!!


 「はがぁ!」


 突如シルゼヴァはヘラクレスに再度蹴りをいれた。


 「こいつらは何で俺が自己紹介したってのに名乗らない!」


 ドッゴォォォン!!


 「はごぉ!‥‥おい!お前ら!頼‥ふんごぉ!自己紹介しろ!‥はがぃ!」


 ヘラクレスは何度も蹴りを入れられながらスノウたちに自己紹介するように懇願した。


 「お、おれはスノウ。そしてこっちはフランシアだ。馬車の中にはシンザ、あとメロという少女が乗っている‥‥これでいいか?」


 シルゼヴァと名乗った少年は笑顔を見せながらスノウの方を見て言葉を返す。


 「スノウ、フランシアだな。よろしく頼む。シンザ、メロにもよろしく言っておいてくれ。次こいつが何かちょっかい出してきたら遠慮なく俺を呼んでくれ」


 「よ、呼ぶとは?」


 ドッゴォォォン!!


 「呼べと言ったら俺の名前を呼ぶ以外ないのに何で聞いてくる!」


 シルゼヴァはヘラクレスの鳩尾を再度蹴り始めた。


 ドッゴォォォン!!


 「はごぉ!‥‥おい!お前ら!名前を呼べばいいんだ!わ、分かったながばぁ!」


 「わ、分かったシルゼヴァ。今度このヘラクレスが何かしてきたら君の名前を呼ぶ!」


 突如笑顔になったシルゼヴァはスノウの方へ振り向いて言った。


 「よろしく頼む!それじゃ俺は帰る」


 バシュゥゥゥン‥‥


 シルゼヴァという少年の姿をしたアネモイ下位剣士は嵐のようにやってきてあっという間に去っていった。


 「‥‥‥‥」


 スノウたちはしばらく言葉が出ずに無言のまま消えていった先を見ていた。


 「何だったんだ‥‥」


 「おい、あいつを迂闊に呼ぶんじゃねぇぞ」


 「下位剣士って自分で名乗っていたが明らかにお前より強いんじゃないのか?」


 「当たり前だ!」


 「!」


 意外な返答が返ってきてスノウは少し驚いた。


 「あいつは誰よりも強ぇ。俺ですらあの様だ。他の上位剣士ですらあいつの前では赤子同然だ。だがあいつは地位とか権力とか特権とか関係ねぇんだよ。ついでに神々のしがらみにも無関心だ」


 「何者だ?あの少年は」


 「分からねぇ。数百年前に突然現れたらしいんだが、どの神から生まれた半神かも分からねぇ。一説にはウラノスともニュクスとも言われているが。唯一あいつの口から出たのが “黒い太陽から生まれた” だ。とにかく何も分からねぇ。分からねぇんだが、そんなのは関係ねぇ。俺はあいつの強さに惚れ込んでいる。いつかあいつを倒したいと思っている。こうやってお前らみたいな強者に戦いを挑んでいるのも全てはあいつに勝つためだ」


 「嬉しそうだな」


 「当たり前だ!俺はしばらくこの世界最強と言われてきた。神も殺してきたからな。俺の親父は全能神だ。親父は戦闘力こそ大した事ねぇが大いなる武具を扱える唯一の存在だ。俺はその血を受け継いでいる。だから元々強い。そんな俺が12の功業を経てさらに己を磨いて強くなった。そして最強になったわけだ。‥‥と思って今度は名だたる武具を集めることにしたんだ。俺にも親父と同等以上の武具があれば親父も殺せると思ったからな。だがそんな折、とある橋を渡っている時にあいつと出会った」


 「シルゼヴァか?」


 「そうだ」


 スノウは嬉しそうに話すヘラクレスに少し喋らせることにした。

 ヘラクレスのことに加えて先程圧倒的な強さを見せつけたシルゼヴァという謎の少年の情報を得られると思ったからだ。


 「あいつは神話級の短刀を腰にぶら下げていたからな。そいつを奪おうとしたんだ。ところが、さっき見た通り、紙っぺらと思うほど軽いと思いきや、巨大ベヒモス以上の重さにもなったりするもんだから圧倒されちまってな。初めて負けた。完敗ってやつだ。その後アネモイ4柱神の意向もあってアネモイ剣士協会の剣士になってもらったってわけだ。俺やアキレスはあいつを最上級剣士にすべきだと進言したんだが、当の本人が嫌がってな。その嫌がりようといったら、俺は死ぬかと思ったぜ!はっはっは!」


 「随分と慕っているようだな。何にしても彼がお前にこれ以上ちょっかい出すなと釘を刺したんだ。もう金輪際おれ達にちょっかい出してくれるなよ」


 「まぁ仕方ねぇ。しばらくは大人しくしていてやるよ」


 ヘラクレスは後を振り向いた。


 「だがな」


 背中越しに少し振り向いてヘラクレスは話を続けた。


 「この世界では俺みたいな単純シンプルなやつばかりじゃねぇ。あまり安易に信用するもんじゃないぜ」


 「どういう意味だ?」


 「単なる忠告だよ。じゃぁな」


 ズン!!ガッ!!ドッゴォォン!!


 ヘラクレスは凄まじい力を込めてしゃがんだ後、地面が周囲20メートルほどひび割れて沈み込むほどの跳躍を見せて飛び去った。



 「マスター」


 「ああ。次から次へと色々なやつが現れる‥‥」


 (だが、あいつの言った安易に信用するなといった言葉は正しいのかもしれない。おれ達はまだこの世界のほんの一部しか知らないのだからな‥‥ミトロといいアネモイ神たちといい彼らについて実際何も知らないに等しいわけだし‥‥)


 「シア。信じられるのはレヴルストラの仲間だけだ。それを肝に銘じておこう」


 「はい!」


 スノウたちは馬車に戻り首都グザリアを目指して再度馬車を進めた。





いつも読んでくださってありがとうございます!

シルゼヴァというアネモイ剣士が登場しました。

彼は神話に登場する神や半神ではなく、オリジナルキャラですがケテル編とそれ以降で重要な役割を担います。

楽しんで頂ければ幸いです!

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