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<ホド編>24.エルダーリッチ キンベルク

24. エルダーリッチ キンベルク



 「キュータナオス!」


 キンベルクの持つ杖から赤い煙が吹き出してエスティを襲う。

 エスティは右足に力を込めて蹴り出しその赤い煙を避けてキンベルクの方に向かって突きを向ける。


 「ロタ」


 キンベルクはもう片方の手から黒い煙を迫ってくるエスティめがけて放つ。

 先ほどネズミを内臓破裂させた恐怖のゾス魔法だ。

 体をひねりながらその黒い煙も避けてさらにキンベルクの懐に飛び込むエスティ。


 「聖魔斬!」


 シャララン!!!


 聖なる剣先は確実に標的を捉え切り刻むはずが、空を切りエスティは勢い余って体勢を崩す。

 そこに突如背後にあらわれたキンベルクが呪文を放つ。


 「キュータナオス!」


 今度は赤い煙がキンベルクの手から放たれる。

 目の前まで赤い煙が襲い掛かった瞬間、自分の鎧を背後に強烈に引っ張る力が働き煙に触れる直前で引き離され間一髪避ける。


 「ありがとうライジ!」


 ライジが機転をきかせエスティが怪しい煙に毒される前に引っ張り後方へ避けたのだたった。

 キンベルクから放たれた赤い煙は地面にあたり広がっていく。

 そこにいたウサギのような小動物がすぐさま苦しみ出し、皮膚が水ぶくれのように膨れ上がり破裂し身体中から大量の血が吹き出し動かなくなった。

 それを見たエスティとライジは顔を見合わせゾッとする。


 「ありがとう!ライジ!!」


 「もし死ぬとしても赤は嫌です。まだ黒の方がマシですね‥‥」


 「いやぁぁぁ!赤はもちろん嫌だけど黒も嫌ぁぁぁ!自分の内臓を見ずに死にたいわ!!」


 自分の死に様を想像したのかエスティは恐怖の表情を浮かべて叫んだ。

 キンベルクの放ったゾス魔法のロタとキュータナオスは両方とも人体破壊系の魔法だが、本来は術者も同様に影響を受けるもろ刃の剣であるため、杖や剣、盾などの武器や防具を媒介にして放つ。

 その為、その強力な効果とは裏腹に影響範囲は極めて狭く、物質を媒介させる場合はその物質そのものを対象に接触させなければ効果を発揮しない。

 つまり、杖ならそれで相手を殴る。

 剣なら切る。

 盾なら相手にぶち当てる。

 そうしないと魔法効果は発揮されないという魔法なのだ。

 それでも十分な殺傷能力があり強力な魔法なのだが、なにより効果を発するのはその死に際のおぞましさから一度見た者は術者の攻撃を恐れ極端に避けるようになり、オーバーアクションになることから隙が生まれ結局おぞましい魔法の餌食になってしまうという点だった。

 だが、キンベルクはエルダーリッチ。

 骨のみの生きる屍であるため、ゾスのロタやキュータナオスといった体に作用する魔法が効かない為、直接自身の手から魔法を発っすることができる。

 そしてその魔法がさらにキンベルクの持つ伝説級の杖、ヴァナルカンドによって強化されたことにより煙のような流動体となって敵を襲うさらに恐ろしい魔法形態になっているのだ。

 

 キンベルクはすかさず魔法を放つ。


 「ウエストナイル!」


 杖から黄色い霧のようなものが放出されあたりに充満する。


 「ライジ気をつけて!これはさっき私が麻痺したやつよ!」


 「わかってますよ!」


 ライジはいち早く遠くまで逃げていた。


 「こらー!逃げすぎでしょうがー!!」


 エスティは腰を落とし剣先をキンベルクに向けて構える。


 「ロワール流剣技、聖蘭剣舞!」


 エスティはまるでカンフーの型の舞のように動きだす。

 剣先は流れるように広範囲かつ複雑な動きで光の線を描き出す。

 その舞によってエスティの周りに風が巻き起こり、気流が生まれる。

 気流はあたりに充満しているキンベルクの魔法の霧をどんどん晴らしていく。

 あっという間に麻痺霧は晴れ、魔法の影響を受けることがなくなった。


 「ロホホホホ。ちょこまかと小賢しいですねあなた達。いいでしょう。いちいち狙って撃つのも面倒臭いのでそろそろ蹴りつけましょうかね。」


 エスティは次の攻撃に備え構える。


 (次もおそらくあの黄色い煙のはず。私たちが素早い動きでかわしていくのに苛立っているから動きを止めるために麻痺させたいはず。だけど、ただ黄色い煙を吐いたところで私の聖蘭剣舞で吹き飛ばされているから同じ呪文を放っては来ないはず。次を間違えると確実に死ぬ‥‥)


 「コンセントレイト」


 キンベルクの杖ヴァナルカンドが怪しく光り出す。


 「さぁ、お遊びはおしまいです」


 「ジノ・ウエストナイル!」


 キンベルクは杖を持つ左手を振り上げ杖をエスティの方向へ向ける。

 と同時に杖の持ち手部から黄色い光線が放たれる。

 その黄色い線は確実にエスティを捉え、間も無く直撃しようとしている。

 ライジの反応も遅れエスティを黄色い光線のラインから外すことが間に合わない。


 「聖魔防盾(せいまぼうじゅん)!」


 エスティは構えから左手の人差し指と中指で剣のつか部分から剣先までを素早くなぞる動作をする。

 次の瞬間、銀色に輝く半透明の盾が現れる。

 その盾はキンベルクの黄色い光線を見事に防ぐ。

 エスティの動作はそこで止まらず、そのまま突き進み大きくジャンプしてキンベルクの懐に飛び込む。


 「聖魔斬!」


 アンデッドに有効な聖なる斬撃を頭蓋の天辺に振りかざす。

 剣先が接触する寸前にキンベルクの目はエスティを捉え、なんとも言えないニヤリとした笑みを浮かべる。


 (罠?!)


 エスティは危険を察知し空中で体勢を変えようとするが時すでに遅く剣は予定通りの軌道を描く。


 「パートオブミューテーション!ウエストナイル!」


 キンベルクの頭蓋骨が突如盾のような形に変形し、そこからまるでキノコが胞子をふくように黄色い煙が吹き出す。

 エスティは噴き出た黄色い煙を吸ってしまい麻痺状態に陥る。

 聖なる斬撃は頭蓋の盾に傷をつけるも麻痺した体では力を込めることができず、致命傷には至らなかった。

 そしてそのまま力なく地面に倒れこむ。


 「総帥!」


 「ロホホホ!もらいましたよ!ソウルイーター!」


 キンベルクの右手から白い蛇が這い出てくる。


 (終わった!)


 死を覚悟するエスティ。


 シャヴァリン!!!


 「へ?!」


 白い蛇とともに吹き飛ぶ骨の腕。


 「よくここまで頑張りましたね。鍛錬は怠っていないようで安心しましたよ。でもこの程度の魔物に勝てないようではまだまだですね」


 凄まじく素早い動きと華麗な剣さばきで一瞬にしてエルダーリッチの腕は吹き飛んだ。


 「エントワ様!」


 ライジが思わず叫ぶ。

 エスティは、麻痺していて言葉を発することができないようだが、目から涙が溢れている。


 「ぎぃぃやややぁぁぁ!!!!き・・貴様!許しませんよ!やられたらやり返しますからね。貴様の腕を腕を腕を腕を腕を腕を!!ねじ切ってやります!」


 キンベルクの怒りの言葉の下品さにうんざりする表情を浮かべながらエントワは剣を鞘にしまう。


 「さて、私が手を加えるのはここまでです。エストレア、あとはあなたがなんとかするのですよ?ここで勝てなければ、はっきり言って足手纏いですので今回の作戦からは離脱して頂きます」


 エスティは一気に冷静さを取り戻し、意識を魔法に集中する。

 麻痺している状態では呪文を詠唱することができないが、本来詠唱は必須ではないらしい。

 魔法とは意識を加護精霊と繋げることであり、言葉で伝えることで自分の意識を強く表現しているのだが、強い意志で念を送ることでも加護精霊と心を通わせることが可能だ。

 ロムロナやニンフィーはお手の物らしいが、普通の人間には相当な訓練が必要らしい。


 (と、届いて‥‥ジノ・デトフィキシケーション)


 エスティの体がかすかに光る。


 「貴様の腕をねじ切ってぶち殺す前にこの女の魂を先に食らいましょう!ロホホホァ!!ソウルイーター!!」


 ヴァナルカンドから白い蛇が襲いかかる。


 グアァッシャァァァン!!


 「総帥!」


 ライジは助けに入りたいがただただ見守るしかなかった。


 「ん〜!散々イラつかせてくれた魂はまた格‥‥べ?」


 「聖魔斬」


 「ぎいやぁぁぁぁぁぁ!!」


 キンベルクの腕がヴァナルカンドごと切られ吹き飛ぶ。

 切ったその人影はその腕を杖ごと吹き飛んだ腕をキャッチする。

 

 エスティだった。


 「お前‥‥麻痺して‥‥じゅ、呪文を唱えることなどできなかったはずなのに‥‥」


 「エルダーリッチの貴方にはわからないでしょうね‥‥。人間は思いの強さで奇跡を生むのよ」


 「グヌヌ!まぁいいでしょう!両腕を失ったところで大したことでありません。またあとで繋げば良い。要は勝てばよいのですからね‥‥」


 「ホールオブミューテーション!」


 エルダーリッチの姿がみるみる内に変形し、爬虫類のような姿に変わりドラゴンに変身する。

 次の瞬間そのドラゴンの肉が溶けて腐り、体が腐敗したドラゴン、アンデッドドラゴンと化した。


 「グアァッァシャァァアァ!!」


 「なんという魔法‥‥」


 エントワは腕を組みじっと戦局を見つめている。


 「ちょっと体が大きくなっただけね!いいわ!切り刻んであげるわよ!」


 「ウッルルルルジャァァァ!!!」


 キンベルクだった者は肉が溶け出しているアンデッドドラゴンと化し、登場した際の紳士のような面持ちは全くなくなった。

 まさに本能のままに動く獣のように叫ぶ狂う。


 「なんておぞましい姿‥‥でも私は負けない。エントワおじさま、私は足手まといにはならない!」


 「ウルルラァァ!!」


 振り回した尻尾が凄まじい速さでエスティめがけて飛んでくる。


 ジャババババ!!


 かろうじて避けるが、その先に削げ落ちた肉片が飛んでくる。


 「聖魔防盾(せいまぼうじゅん)!」


 すぐさま防御の盾を展開し肉片を防ぐ。

 肉片の重い衝撃の威力が凄まじく、エスティは盾ごと吹き飛びダンジョンの壁に衝突する。


 ドベシャァァァ!!


 すぐさまアンデッドドラゴンは口からヘドロのような色の物体を吐き出す。

 エスティはすぐさま壁を蹴って避けるが、その付近にいた別の魔物がそのヘドロの液を浴びる。

 次の瞬間その魔物は全身から血を吹き出してズタボロの雑巾のような肉片となって死んだ。


 「ゾス魔法‥‥これはエボーラ!」


 (こんな状態になってもクラス4の魔法が使えるなんて‥‥。いやアンデッドドラゴンになったからといって魔力が減るわけじゃない。変わらずの魔法にこの巨体とスピードが備わったと思った方がいいわね‥‥)


 キンベルクだったアンデッドドラゴン、キンベルクドラゴンが右手を振りかざす。

 その手は黄色いオーラのようなものをまとっている。

 明らかに麻痺させるゾス魔法ウエストナイルを唱え纏わせた右手だ。


 グアッッシャァァァァ!!


 振り回された右手をかろうじて避けるが、その勢いで肉片が魔法をまとった状態で飛び散るためエスティは聖魔防盾で防ぎながら避ける必要がある。

 続いて赤い煙をまとった左手、黒い煙をまとった尾が襲いかかる。


 ドガッッシャ! バッガァァァァン!!


 (こう攻撃が続けざまにくると攻撃が難しい)


 さらに攻撃が続く。


 ガッシャバン! ドガッシャァ!!


 無尽蔵な魔力と体力に思えるほど魔法を付与した攻撃が続く。

 そのスピードと重さは徐々に増し、避けきれなくなっており、盾に受ける衝撃からダメージを負うようになってきた。


 「総帥!避けて!」


 徐々に攻撃についていけなくなっておりついに前の退避の動作にキンベルクドラゴンの次の攻撃が追いついてしまう。


 シャバリン!!


 「総帥ィ!!」


 ドドドガガン!!


 凄まじい音に合わせ砂埃が立ち込める。


 「グアァァァァァァ!!」


 聞こえてきたのはキンベルクドラゴンの金切り声だった。

 骨と化したドラゴンの腕が見事に切り落とされている。


 「スピードが上がったのは腐った肉片が削げ落とされ切ったからね」


 「さ、さすが総帥!あのキモい肉片が飛んでこなくなるまで待って斬撃に集中できるタイミングを見計らっていたんですね」


 「ギシャァァァァ!!」


 キンベルクドラゴンはもう片方の腕で攻撃を続ける。


 「聖魔斬!」


 シャベリーーン!!

 さらに残った腕も切り落とす。

 捨て身だったようで隙を与えずゾス魔法のエボーラのヘドロをエスティめがけて吐き出す。


 「聖輪突蹴(せいりんとっしゅう)!」


 エスティは光出した自身の右足で地面を蹴り凄まじいスピードでヘドロの下をすり抜けて、さらに左足で地面を踏みつけ飛び上がる。


 「聖魔斬!」


 ガババッバアンン!!


 キンベルクドラゴンの首が鮮やかに切断される。


 「エストレア。ロワール流十訓じっくんその九」


 「はい!心得ています!」


 首を切り落とした勢いのまま空中で体勢を切り替え、剣先を地面に向けて頭蓋骨目掛けて急降下していく。


 「ロワール流十君その九。『とどめは優しく確実に!』 聖狼牙突(せいろうがとつ)! 」


 ズガン!!


 切り落とされた頭蓋骨の天辺にエスティの強力な突きが刺さる。

 あまりの勢いで頭蓋は粉々に砕け散る。

 エスティは空中で体を回転させながら地面に着地する。

 背後で頭を失ったキンベルクドラゴンの体がエスティに襲いかかる。


 ピンッ!


 エスティが剣を鞘に収めた瞬間にキンベルクドラゴンの体が一気に崩れ粉々になっていく。

 通常アンデッドは骨格を破壊しても復活するが、エスティが放った一太刀一太刀全てに聖なる力が宿っていた為、復活できない状態となったのだ。


 「か‥‥勝った‥‥総帥!」


 「‥‥‥‥」


 剣を鞘に収めた体制のまま無言のエスティ。


 「よくやりましたね」


 「おじさま‥私‥‥」


 「見事でした」


 「あ、ありがとうございます!おじさまの一撃があったので完全な私の勝利ではなかったのですが、ロワール流十訓その九‥‥なんとか守れました‥グスン‥」


 「とどめは優しく確実にって!いやいやいや!ぜっっっんぜん優しくなかったですけど!いやむしろ呪いに近い執念を感じたというか‥‥」


 間髪入れず突っ込むライジ。


 「あんたはねぇ!」


 「ひえぇぇえぇ!!」


 ライジを追いかけるエスティ。

 それを見つめながら、ヤレヤレといった表情を浮かべるエントワ。


 「あ、そういえばこのキンベルクが持っていた杖、これはどうしましょう?おじさま」


 「それは伝説級魔法具のヴァナルカンドですね。戦利品として持ち帰りましょう。今回このダンジョン攻略の目的はそれぞれのレベルをあげるだけでなく、こういった戦利品を得ることもあるのです」


 「それを使うとすれば‥‥ニンフィーかなぁ。それともロムロナ?いややっぱりニンフィーね」


 「まぁヴィマナに帰還した後に相談しましょう。そうそうエストレア。あなたにはこれを与えましょう。」


 エントワが差し出したのは左手用のガントレットだった。


 「おじさま‥‥これは?ガントレットのようですが左腕だけとは‥‥」


 「これは防御のためのガントレットではなく、特殊能力をもった魔法具なのです。数メートル範囲であれば瞬間移動が可能です。あたなのスピードにさらに瞬間移動が加わることによってあなたの剣撃がより届くようになるはずです」


 「す、すごい!」


 「でも魔力消費が激しいので多発はできませんね。あなたの魔力なら2〜3回でしょう」


 がくん。


 「な、なんか私の魔力がしょぼいとご指摘いただいた気がしてへこみます‥‥」


 「いえいえ、精進すればよいのです。魔力も鍛錬を積めば強化できます」


 「がーん!やっぱりしょぼいんですね‥私の魔力‥‥」


 「さて、意気消沈している場合ではありませんよ、こやつは最終ボスではありません。ガングリオンを目指しますよ」


 3人はさらに下層階を目指した。







10/30修正

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