<ケテル編> 54.ゼウス派
54.ゼウス派
このルルザで最も大きな建物がボレアス神殿でボレアス神信仰で訪れる民衆に解放されたものだ。
それに次いで大きな建物がアネモイ剣士協会ルルザ支部だ。
大きな建物と言っても大きめの宿屋くらいの規模だった。
ここは隣国の否國スキーロとの玄関口の役割でもある事から頻繁にいざこざが発生するため、アネモイ下位剣士が対応にあたるのだが、その際の宿泊施設としても利用されているまさに宿機能を中心に作られた支部だった。
その中にある上位剣士だけが使える執務エリアにスノウ達は招かれた。
招き入れたのはアネモイ上位剣士のペルセウスだ。
アルジュナの話だとペルセウスはアネモイ剣士で最も権威を持っている存在らしい。
執務エリアの先にはペルセウス専用の執務室があった。
そこからもペルセウスがアネモイ剣士協会の中で特別な存在である事を示していた。
その男が突如スノウ達の前に現れここへ招き入れた。
罠の可能性は否定できないが、そもそもペルセウス達と敵対している訳ではなく、寧ろボレアス神を守りにきたと言う話で言えば彼の立場上スノウ達は自分達アネモイ剣士協会に味方する存在なのだ。
あくまで表向きではあるが。
「さぁ、座って下さい」
スノウ達は言われるままソファに座った。
「早速ですが単刀直入に聞きます。君たちはは、別世界から来ましたね?」
スノウ達は然程驚く表情も見せずに一応警戒態勢だけは継続していた。
スノウ達が越界者である事は神レベルまたはそれに近い半神レベルなら知っていてもおかしく無いのだろうと思って構えていたからだ。
「それが何か問題か?」
「いいえ。ただ、越界の目的を聞きたかっただけですよ。興味を持ったんです。こんな魔法の失われた世界にあえて来られた理由は何なのだろうとね。もしかするとこのケテルには魔法が使えなくなるデメリットを打ち消すほどの何かメリットがあるのではないかとね。つまりこのケテルで・・・」
「メリット?!」
スノウは何故か聞き入ってしまい何でも答えてしまいそうになるペルセウスの口調に惑わされないように質問で話を切る手法で意識を保つように努めた。
「へぇ・・スノウ君、君は中々冷静で賢い方の様ですね。しっかりと私の神技の力がこもった言葉に惑わされない様に対応を思いつき実行しています。これは驚きですね。因みにメリットと言ったのは君たちが何かを得る可能性をメリットと申し上げました。それは物かもしれないし、情報かもしれない。誰かとの関わりかもしれないし、別の世界との繋がり上ケテルとの接点が必要・・・などと言った具合です」
「そう言う意味では安心してもらって構わない。正直に言うが以前いた世界から大魔王ディアボロスによっておれが強引にこのケテルに連れて来られたのを他の仲間が救いに来てくれた・・・・そのおれが救い出された今、越界方法を見つけて帰る・・・それだけだ」
「そうでしたか。これはどうやら疑い過ぎた様ですね。申し訳ありません。それにしてもあの地獄の公爵に拐われるとはやはり君は只者ではないという事になりますね」
「それで・・そんな話を聞くためにおれ達をこの場所まで連れてきたんじゃないんだろう?」
「流石、鋭い洞察力です。その通りです」
ペルセウスは真剣な眼差しで話を続けた。
「君たちが行動を共にしているアルジュナからどの様に話を聞いているのか分かりませんが、私たちゼウス派と呼ばれる剣士達はボレアス様に刃向かおうとか追い落とそうとかを考えている訳ではありません。従ってエウロス様やノトス様の身に起こった出来事とは無関係でして・・・・いや、お守り出来なかったと言う点では十分関係していますし、力不足を罰せられる対象になるのでしょう。しかし、繰り返しますがアネモイ4柱神様方に刃向かおうとするものではないので、残るボレアス様やゼピュロス様を死んでもお守りしなければならないと思っています。それを君たちに理解してもらうためにここへお越しいただいたという訳です」
スノウはペルセウスのその精神が揺らぐ声色と口調に惑わされない様に意識を集中しながら同じく真剣な表情で返す。
「アルジュナ達と敵対していないならおれ達の行動に口出しされる筋合いはないと言う事だな?それならばヘラクレス含めて今後一歳おれ達の行動に口出しや妨害はやめてもらう様に徹底してくれ。勿論他のゼウス派と呼ばれる剣士達にも徹底してもらいたい」
「勿論ですがスノウ君・・・君は何か私たちの事を誤解している様です。私たちはアネモイ4柱神に仕え、4柱神が統べる世界を守護する者としての使命を全うするために存在しています。それは・・君の言う “ゼウス派” に属さない者達と何ら違いは有りません。ただその手段に若干の違いがあるだけです」
「どういう意味だ?」
「私たちはアネモイ4柱神の守護する国を守ろうとしているのに対し、彼らはこのケテル全てを救おうとしている。その違いだけです」
「東西南北以外の国はケテルじゃない様な言い方だな」
「そうは言いません。ですが、4柱神の国々の平和を維持するためには秩序を維持する必要があるのです。そしてそれは私たちがいるからこそ、否國と呼ばれる場所に住まう者達の生活も脅かされずにすんでいるのです」
「まるで自分達が抑止力になっているから四方国と否國が争わずにすんでいる言い方だな」
「その通りです。もし私たちが居なければ否國カイキアにいるエークエスや否國アペリオにいる亞人たち、否國リプスの地下にいる地底人達は神の息吹の恩恵に預かるためにいつ攻め入って来るか分かりません」
「随分と力を誇示するじゃないか」
「いえいえ、私はただ事実を言っているまでですよ。ですがこれは君の言う “ゼウス派” だけの力ではありません。アネモイ剣士協会全体としての力です」
「・・・・・・・・」
スノウはペルセウスは賢く恐ろしい男だと思った。
「さてと。私も大体君たちのことは理解できました。君たちはこの世界の平和を脅かしに来た者達ではない事がね。と言うことは君たちも私たちが守るべき者の内数ですし、ボレアス様を守りたいとやってきたと言うことは立場は違えど同志と言う事です。私の事を信用してくれているのかは分かりませんが、まぁ・・仲良くしましょう。私はひと足先にグザリアに戻ります。先程君に言われた通りヘラクレスに手出し無用と言っておく必要がありますからね」
それからスノウ達はペルセウスの執務室を出て宿に向かった。
・・・・・
・・・
ーーー宿屋ーーー
「あのペルセウスと言う男・・どう見えた?」
スノウはシアとシンザに質問した。
宿屋の一室に来て周囲に聞き耳が立っていない事を確認の上今後の対応について認識を合わせる必要があるためだった。
「あの男は本心を言っている部分とは別に何か野心の様なものを感じました」
「僕も同じ感覚を持ちました。確かにアネモイ4柱神を守り四方国の平和を維持すると言うのは彼の理念なのだと思います。が、実際にはその思想はもっと過激な感じを受けたと言いますか・・・・あの穏やかな口調は何かこう内に潜む暴風雨を隠している様な・・そんな感覚です」
シアに続いてシンザも答えた。
二人とも同じ意見を持った様だ。
当然スノウも同じ感覚を持っており、共通の印象を持ったことが分かった。
「彼の思想の果てにどんな野心があるのかは追々突き止めるとして警戒は怠らない様にしよう。ボレアス国に着いた途端に襲われる事は無いと思うが・・それも想定に入れて行動するんだ」
『はい』
その日はその後特に何もなく物資調達を終え、夜は普通に食事を済ませて宿に戻った。
メロの精神に宿るミトロもその日は表に出て来る事はなく翌朝を迎えた。
・・・・・
・・・
ーーー翌日ーーー
スノウ達は早朝にルルザを出発した。
順調に行けば翌日には首都グザリアに到着する。
なるべく早く到着する為に逆算して出発時間を決めたのだ。
途中の魔物はシンザが片付けた。
強力な魔物はおらず単なる露払いの様になり、表情にこそ出さないが、中々戦いのコツを掴めずにシンザ本人は苦しんでいる様だ。
その日は日暮と同時に野営を張った。
魔物への警戒ではなく、暗闇で進む際の悪路に嵌る事を避ける為だった。
翌朝は日の出と共に出発した。
「マスター。このまま進めば昼にはグザリアに到着できそうです」
シアが時間と太陽の角度から大凡の位置を割り出して到着までのざっくりとした時間を計算した。
「ありがとうシア。そろそろ警戒し始めた方が良さそうだな。馬車で半日の距離という事はアネモイ剣士達が巡回していてもおかしくないしな」
「はい」
「!」
そう話している矢先、突如刺す様な痛みを伴う感覚が3人を襲った。
「シア!シンザ!」
「はい!」
スノウの呼ぶ声に反応し、シンザは馬車を止め、シアが後方、スノウが前方に出て周囲を警戒した。
刺す様なオーラが徐々に増していく。
シュゥゥゥゥゥン・・・・ドォォォン!!!
空から何かが飛来し100メートルほど先に落下した。
一斉に砂煙が舞った。
ザザン!・・シュゥゥン・・ガキィィン!!
地面を受ける音がしたと同時に突如何者かが巨大な剣を振り下ろしてきたのをスノウはフラガラッハを抜いて受け切った。
ドッゴォォン!!
その衝撃で周囲に爆風が広がる。
「お、狐面の男はお前だったかスノウ・ウルスラグナ」
「ヘラクレス!」
突如姿を表し剣を振り下ろしたのはヘラクレスだった。
いつも読んで下さって本当に有難うございます!




