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<ケテル編> 52.フード帽子の男

52.フード帽子の男



 スノウたち一行はボレアス国に入ると、国境から然程遠くない場所に位置する街ルルザを訪れた。

 首都グザリアまで多少時間が必要であるため食料等を調達する事と、グザリアに入る前に可能な限り情報収集するのが目的だった。

 また、未だ意識を取り戻さないメロのための栄養補給用の飲料や流動食等の調達も行う予定だった。


 ルルザは然程大きな街ではなかったが否國スキーロとの国境に近いためスキーロとの交易がなされており、市場が多く点在していた。

 ボレアス国は沿岸部に高く聳えるアルカ山があり、神々の山と言われていることもあり、人々は安易に近づくことを許されていないため、漁に出ることが出来ず海の幸は隣国の否國スキーロから調達するしかなかったのだ。

 スノウたちが既に立ち寄った否國スキーロ最大の都市シヴァルザが栄えていたのはボレアス国から流れてくる物品の売買が盛んであったからのようだ。


 スノウたちは早速宿をとることにした。

 急いで入るものの夕方に出発して直ぐに野営というのも疲れるため、きちんと休んで早朝に出発することにしたからだ。

 加えてほぼノンストップでここまで来たこともあり、馬を休める目的もあった。


 「久しぶりにどこかレストランで食事でもするか。メロは宿で寝かせての食事だからあまり長居はできないけどな」


 「いいですね!ボレアス国だと美味しいものが食べられそうじゃないですか!」


 シンザは急に元気になった。

 ここまでほぼひとりで戦闘を任されてきたシンザは自分の実力がいまいち向上していないことにモヤモヤしていたためスノウは気分転換にと外食を提案したのだが、シンザが思いの外喜んでくれたため少し安心した。


 (いや、意外と気をつか合う敏感なやつだからな。おれのこの気配りを感じ取ってわざと喜んだふりをしているのかもしれないな)


 スノウがそう感じてしまうほどシンザは感受性豊かで繊細だった。


 「美味しいものを食べるのはよいけど、きっちり味とレシピは覚えないさよ?」


 「ええ?!食べただけでですか?!そんな無茶な!」


 シアの無茶振りにシンザが驚いた表情を浮かべながら不満そうにしている。


 「味わったらどんな調味料を使っているか分かるくらいにならないでよくマスターの食事を作る気になれるわよね。いい?これはあなたのノルマよ。マスターが美味しいといった料理のレシピは覚えること。いいわね!」

 

 「鬼だ‥‥」


 道中の料理担当に任命されているシンザは不満そうにシアを見ている。

 シアはそんな視線はお構いなしとばかりに周囲を見渡してよいレストランがないかと探している。

 スノウはそんなやりとりを見ながら少し微笑んだ。


 (なまじモチベーションを上げようとするよりも、ああやって気が紛れるようなやりとりをする方がいいのかもな‥‥でもおれにはあんなふうに愛のある揶揄いはできないな‥‥いや、シアのは愛のある揶揄いじゃなく、単なる無茶振りだけど‥‥)


 「あそこにしましょう」


  シアが見つけたのは魚料理が売りのレストランだった。


 「お、いいね。そこにしよう」


 「魚ですね!魚!魚?!魚なんて馬車移動中に獲れないじゃないですか!そもそもレストラン入る前からレシピ覚えても作らないこと確定になってるんですけど!」


 「そんなことはどうでもいいことだわ!とにかくレシピ覚えて作るのよ!」


 「はぁ?!ちょっと待ってくださいよシアさーん!」


 「ははは」


 女王様のようなシアに振り回される執事のようなシンザのやりとりを見てスノウは思わず笑ってしまった。



・・・・・


・・・



 席についてから20分ほど経ってから注文した料理が次々にテーブルに運ばれてきた。

 どれも見た目からその美味しさが十分想像できるほどの逸品で、実際に食べてみると想像以上の美味だった。

 スノウたち3人はあまりの美味しさに会話も忘れて食事に集中していた。


 カタ‥‥


 「ん?‥‥これ頼んでないよ?」


 スノウが料理を運んできたウェイターに話しかけた。

 甘辛く揚げた魚料理で確実に美味そうな料理だったが、確かに注文していないものだった。


 「あちらのお客様からです」


 そう言うとウェイターはふたつテーブルを挟んだ場所で食事をしている男を指し示した。


 青いフードのような帽子を被った男でさらに青いポンチョコートを着た出立ちで右手を軽く上げて挨拶してきたので、スノウたちは軽くお辞儀をした。

 怪しんでいるシアがスノウに話しかけた。


 「マスター」


 「ああ。だけど大丈夫だろ。これはあくまでこの店の料理。毒などは入っていないだろう。もしこの店が毒入り料理を出してきたとしておれたちが腹痛で倒れたり死んだりしたら、この店の信用は失墜するだろうしな。まず安全と見て間違いないだろう」


 「その通りですが、念には念をいれて一応確認します。シンザ、一応念の為毒見をして頂戴」


 「はぁ?!ええ?!なんでですか?!なんで僕?!」


 「あなたしかいないでしょ!私が食べて私に何かあったらあなたどう責任とるの?」


 「出た!シアさん。今さらっと無茶苦茶なこと言ったの自覚ありますか?」


 「無茶苦茶とか関係ないでしょ?これは所謂ルールなの。わかる?ルールよ。ルールがあるならそれに従いなさい」


 「嫌ですし、そんなルールは決めてないでしょ?!シアさんが勝手に言ってるだけでしょうが!」


 小声でシアとシンザが言い合いをしている。


 「パク!」


 「!」


 シアとシンザがやりとりしている間から先程のフード帽子の男が突如魚料理を食べ始めた。


 「あなた何勝手に食べてるの?」


 シアが怒り口調で警戒しながら箸かけた。


 「おえもおういえああおいあいあああああ」


 「あなた言語が喋れないのね。いいわもう一度言葉を発してみて?私が読唇術で読み取るわ」


 「ゴクン!‥‥違う違う!きちんと喋れますよ。魚料理を食べていたから上手く喋れなかっただけですから。てか、折角の厚意を毒が入っているとか失礼ですから!」


 「あらそう。それで何が理由なのかしら?普通見ず知らずの者たちに料理をご馳走する事なんてないでしょう?貴方を異常者だと認定してあげるわ」


 「い、異常者?!」


 ドン!


 ベチャ!


 「あ!」


 フード男は後を通った者に押されてしまった。

 その拍子に手をついたところがご馳走した魚料理であったため、料理がつぶれてしまった。

 油と汁がとびちり、スノウの服にも付着したため、シアが立ち上がって怒りの表情を浮かべてた。


 「邪魔だよてめぇ!てか料理の油が俺の服に付いちまったじゃねぇか!弁償しろ!この服は高ぇから覚悟しろや!」


 ぶつかってきたのは大男でどうやらわざとぶつかったようだ。

 料理に手をつくように押したようだが、魚料理の油が飛んで服に付着したかどうかは分からなかった。

 だが、弁償を主張して威圧的な態度でフード帽子の男に迫ってきた。

 フード帽子の男は下を向いている。


 「おい!何とか言ったらどうだ?!てか顔見せろや!まさか逃げようってんじゃねぇだろうな!顔を見りゃ一生忘れねぇ!


 「これ以上喚くな。回れ右して帰りなよ。これは警告だ」


 フード帽子の男は小声で囁いた。


 「な‥なんだとぉ?!」


 大男は激怒した表情を浮かべている。

 シアが我慢できないとい殺意のオーラを放ち始めたのでスノウが制した。


 「おい、手前ぇ!こんなふざけた帽子なんて被ってんじゃねぇ!」


 バサッ!


 そういうと大男はフード帽子の男の帽子を手で弾いた。


 『!』


 フード帽子が弾かれ顔が露わになったのだが、スノウたちが驚いたのはその髪型だった。

 髪型というより、普通の髪型に両側頭部から小さな白い翼が生えていたのだ。


 「あ、あ、あんたは!し、失礼しました!」


 ガシィ!


 大男はその顔を見るや否やすぐさま逃げるように立ち去ろうとしたが、羽頭の男に腕を掴まれてしまった。


 「いでででで!」


 大男はとてつもない痛みと言わんばかりに顔をひどく歪めて叫んでいる。


 「ぺ、ペルセウス様!ど、どうか!お許しを!」


 『!』


 羽頭男が掴んでいる腕が今にもちぎれそうなほどの圧迫されている。


 「私の名を呼んだ罪も加算です。あなたは後でお仕置きするとしましょう。大丈夫私はニンゲンを殺しはしないから」


 羽頭男は大男の腕を掴んだまま彼を持ち上げた。

 しかも軽々と持ち上げていた。


 ボギン!!


 大男の体重を支えきれなくなった腕が折れてしまったようだ。


 ブワン!・・・・ドスゥン!!


 「失せろ」


 フード帽子の男は大男をぶん投げてしまった。

 ペルセウスと呼ばれた男。

 大男を軽々と持ち上げる力と瞬発力を持ち合わせたペルセウスと呼ばれた男はアルジュナから聞いた話の中で登場した男に間違いなかった。


(こ、こいつが‥‥アネモイ剣士協会ゼウス派のトップに君臨している剣士ペルセウス!そしてこいつもまた半神ってことか)


 スノウたちは警戒体勢をとった。





いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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