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<ケテル編> 50.人類議会(ヒューパラメンタル)

50.人類議会ヒューパラメンタル



 バルカンたちはナーマでも最も大きな鍛冶屋を訪れていた。

 決して武具を買いに来たのはなく、アルジュナに案内された場所だった。


 「ジュナ、一体どこに連れていく気だよ。まさか例のグランドマスターがいる場所がここだっていうんじゃないだろうな?」


 「当たりだよ‥‥」


 「当たりかよ!ってかここ鍛冶屋だぞ!」


 「そうだよ‥‥」


 「そうだよって!てか何でお前そんなに元気がないんだ?」


 バルカンはアイオロスに会いに行っていた時の態度と全く違うアルジュナの元気のない嫌々来ている雰囲気を感じて質問した。


 「いや、べ、別に何でもない」


 「ならいいが‥‥。でも本当にここなんだろうな?」


 「バルカン、逆に有り得ますよ。先ほどの裏本部だってカムフラージュしていたじゃないですか。それだけの組織だってことです。でもここはカムフラージュというより、そもそも発祥が鍛冶屋だったのではないかと思いますけどね」


 「流石ソニックだねー。その通りだ。って、こんなところで話せる内容じゃないね。とにかく入ろう‥‥」


 アルジュナは鍛冶屋の店舗側の入り口から中に入るよう促した。



 「らっしゃい!」


 威勢の良い店主が快く迎えてくれた。


 「なんだ‥‥お前か‥‥」


 アルジュナの顔を見るなり、明らかにがっかりした表情に豹変して低くだらけた声で言った。


 「ははは‥‥どうもー」


 アルジュナはなにやらばつの悪そうな表情で答えた。


 「はぁ‥‥ちょっと待ってろ‥‥」


 すると店内にいた客が店主に相談してきた。


 「これの手入れはどうやればいいんだい?」


 「はいぃ!これはお目が高い!このアックスの手入れは簡単です!このV字の砥石にこんな風に置いて前後にこれくらいのスピードで10回程度動かすだけ!簡単でしょう!」


 アルジュナへの態度と180度違う店主の応対にバルカンたちは唖然としていた。


 「本当に簡単そうだ。でも使い終わったら毎回研がなきゃならないんじゃ面倒だな」


 「流石はお客様だ!アックスの使い勝手をよくご存知でらっしゃる!このアックスは時間をかけて特別な鍛え方をしていますから研ぐのは年に数回でいいんです!」


 「それはいい!‥‥でも高いんだろ?」


 「流石素晴らしい目利きをお持ちでらっしゃる!確かにこれは高いです。なぜならこの店でしか手に入らない、ほとんど手入れが不要、手入れ時も楽々、切れ味は抜群という優れものですからね。ですが!」


 そういうと店主は客に小声で耳打ちし始めた。


 「他の客に聞こえてはまずいのでこんな近くでお話ししてすみませんが、今ならお客様だけに50%オフでご提供できます」


 「何?!」


 客は思わず大声を出して驚いたが、直ぐ小声で返答し始めた。


 「それは本当か?」


 「はい、もちろんです」


 「私だけに50%オフ?」


 「はい、ここだけの秘密ですが」


 「ゴホン!」


 客は少し離れて襟を整える動作をして咳払いした。


 「よし、買おう」


 「毎度あり!」


 店主はアックスを綺麗に布で拭いて客に手渡した。

 客は代金を払い、アックスを受け取って上機嫌で出入り口に向かって歩いていく。


 「店主、ここは素晴らしい店だなぁ!また来るよ!」


 そういうと嬉しそうに店を出て行った。


 「またどうぞ〜!」


 店主は笑顔で客を見送った。

 客が視界から消えると扉を閉めた。

 そして振り返ると、再度その顔をがっかりフェイスに豹変させた。


 「‥‥‥‥」


 「よ、よーう、元気かい?」


 「この顔が元気に見えるかカスが‥‥」


 「ジュナ‥‥お前何かしたのかあの店主に‥‥」


 バルカンがアルジュナに囁いた。


 「ちょ、ちょっとね‥‥」


 「聞こえてんだよカスが‥‥あんたらこいつの仲間か友人か?ならこいつの代わりに代金を払え」


 店主のその言葉を聞いてバルカンたちは全員納得した。


 「すみません、たまたまゼピュロス神の指示で一緒にいるだけで仲間でも友人でも、むしろ知り合いでもないです。全くの無関係で嫌々同行している人で正直よく知らない人です」


 ソニックが冷たく言い放った。

 それを聞いたアルジュナは一瞬気絶しそうな表情になった。


 「そうか、あんたらも気を付けろよ?こいつは詐欺師だ。半神だってのも半信半疑だ」


 「ウマイ!」


 バルカンが店主の駄洒落に相槌を打つようにほめた。


 「おお!あんたわかるかい?今の!なかなかセンスがいいねぇ!」


 「そうか!なっはっは!」


 「おい、いい加減にしろよー。色々と事情があってのことだし、払う気なかったら来ないんだらさー。ちょっと支払いが遅れてるってだけでしょーが!」


 「はぁ?!それが武具の代金踏み倒そうとしているやつのセリフか?!」


 「別に払わないとは言ってないのにあんたがぐちぐち嫌味言うからでしょーが!」


 「そういう文句は払ってから言うもんだろうが!」


 「ちょ、ちょっと!落ち着きましょうよ!」


 ソニックはアルジュナと店主の腕を掴んだ。


 『!』


 ソニックのあまりの握力の強さにふたりは思わず痛みで我に返って冷静になった。


 「ま、待った!ソ、ソニック!いでで!」


 「き、君!お、落ち着きなさいよ!じょ冗談だって!」


 ソニックは握る手を離した。


 「そうですか。それはよかったです。それでは案内頂けますか?話は通っているんですよね?」


 「も、もちろんだ。あ、案内することは聞いている‥‥こっちだ」


 店主は腕をさすりながら案内し始めた。

 店の裏側に回ると鍛治工房になっていた。

 そこではドワーフと思しき人物がひとり、ハンマーを片手に何かを鍛えているようだった。


 「あの方には話かけるなよ?今一番手が離せない工程だから」


 現在特別な金属を鍛えている最中らしく、金属をハンマーで叩く音が工房内に響いている。

 ソニックが工房の奥をチラッと除いた。


 (あれは何だ?!)


 奥に3つのモノリスのような美しい金属の板が見えた。


 「気になるかい?」


 店主が話しかけてきた。


 「え、ええ」


 「あれはモノリス。一枚岩ともいうけど、ここでは後世に残すべき情報を岩に記すために岩や鉱物が永劫の時を耐え抜けるように風化浸食を受けないよう形状を整え表面を磨いているんだよ。それらには特殊な道具が必要でね。その道具をこの鍛冶工房で作っているからモノリスを作る工程もここで行っている。道具が壊れたらすぐ治せるし、削れない岩や鉱物があればその場でそれを削れる道具を作る。そんな感じだ」


 「そうなのですね。あそこに見える文字は?」


 その内の一つに文字が見えるのを見つけたソニックが質問した。


 ガシィ!


 突然店主はソニックの腕を強く掴んで引き寄せた。


 「それ以上は踏み込まない方がいい。一生をここで終えたいなら別だがね」


 ソニックは異常な力で掴まれている状況に、店主の言葉がかなり真剣なものなのだと理解して目線を外した。

 加えてこの店主が只者ではないということも理解した。


 (何か重要な情報が書かれているという事だね。別途探るか)


 一行は店主に導かれるままに鍛冶工房の奥に進んでいった。

 いくつかの扉を抜けて進んだ先には客間のような少し開けた部屋があった。

 部屋の中には立派なソファとテーブルが配置されている。


 「じゃぁここで待っていてくれ」


 そう言うと店主は店舗エリアへ戻って行った。



・・・・・


・・・



 一行がしばらく待っていると、奥から不思議なオーラを放つ人物が現れた。


 「いやぁ、ようこそ皆さん」


 透き通るようなグリーンの長髪を靡かせながら、美しい刺繍が施された深緑のポンチョコートを羽織った男だった。

 年齢は30代後半だろうか。

 端正な顔立ちに靡く長髪、そしてマントに見えるポンチョコートから身だしなみのしっかりとした容姿の男性に見えたため、流石はグランドマスターだと思ったが、正面を向いた瞬間に一同は困惑した。

 コートの中は白いシャツを第3ボタンまで開け、派手なネックレスをつけ、半ズボン姿だったからだ。

 だが所作は礼儀正しく美しかった。

 立ち止まると深々とお辞儀をして敬意を払った挨拶をしてきたのだが、その姿は思わず見惚れてしまう程だった。

 丁寧にお辞儀をした目の前の男性に、レヴルストラメンバーもつられて深々と頭を下げた。


 「私はカエーサル。この小さな鍛冶工房を根城にして人類議会ヒューパラメンタルという組織を取り仕切っている者だよ」


 なぜかぎこちない動きになっているバルカンたちを見たソニックが前に出て言葉を返す。


 「こちらこそ初めまして。スノウをリーダーとしたトライブ “レヴルストラ4th” のソニックと申します。メンバーはこちらにいる、バルカン、ワサン、フラン、ロイグ、そしてクゼルナです。他には別行動しているリーダーのスノウ、フランシア、シンザという者たちがおります。どうぞよろしくお願い致します」


 「随分としっかりしているね、ソニック君。そうだ、人類議会ヒューパラメンタルに入会しないか?君ならいきなり幹部にもなれるよ」


 「お断りします」


 「おっほほー!はっきり言うところがまたいいね。僕は諦めないよ。‥‥おお、誰かと思ったらアルジュナ君じゃないか。あまりうちの店長を怒らせないでくれよな?まぁ、君たちの事情はよく知ってるから支払いは気長に待つけどさ」


 「も、申し訳ないー」


 アルジュナはカエーサルと面識があるようだった。

 この人類議会ヒューパラメンタルのグランドマスター・カエーサルはなんとも掴みどころのない男だった。

 所作から生まれの良い礼儀を知る者にも見えたが、くだけた服装や気さくな喋り方から性格の読みづらい男に見えたのだ。


 「さて、立ち話もなんだから座ってくれたまえよ」


 一同はソファに座った。


 「話はゼピュロスさんから聞いてるよ。彼を守りに来たんだって?」


 「ゼピュロス‥‥さん?!」


 バルカンが思わずツッコミを入れた。

 神を “さん” 付けで読んでいたのに驚いたのだ。


 「あ、あぁそっか。普通はゼピュロス様とかゼピュロス神とか敬意を払った呼び方をするもんだよね。驚かせてしまったかな」


 「あんたは人間だよな?」


 バルカンが質問した。


 「もちろんさ!なんと言っても人類議会!人類って付くくらいだから人類議会ヒューパラメンタルには正真正銘人間もしくは人に属するものしか加入はできない決まりになっているよ」


 「人は神を敬うものじゃないのか?」


 「敬う?まぁ、人類のために尽くしてくれる神なら敬うこともあるだろうね。だけど、そう言う神って僕は見たことがないんだよ。僕はね。どいつもこいつも支配欲とか、恩着せがましい施しとかさ。だから敬意を払う必要もないよね。この理屈おかしいかな?」


 「い、いやおかしくはないな。むしろ正しいかもしれない」


 「おお、バルカン君。君とは馬が合いそうだ。どうだい?うちに来ないか?」


 「断る」


 「おっほほー!一貫性半端ないねぇレヴルストラ?のメンバーは。きっとリーダーのスノウ君だったか、彼は相当信頼されているんだろうね。是非会ってみたい。会って勧誘したいねぇ。彼が入ってくれたらみんなうちに来てくれるって事だもんな。そうすればうちも」


 「ゴホン!」


 カエーサルが話している最中にアルジュナが咳払いをした。


 「おいおいアルジュナ君。人が気持ちよく話をしている最中に止めるとは何事だい?万死に値するよ?なんつって‥‥」


 「俺たちあまり時間がないんだよ。そろそろ本題に入ってもらっていいかい?」


 「なんだ。君たちは忙しいのか。暇なのかと思って期待しちゃったじゃないか」


 (なんの期待だ?!)


 一同は心の中でツッコミをいれた。


 「えっと、ゼピュロスさんを守るのに協力するって件だったね。了解だよ。人類議会ヒューパラメンタルは全面的に協力するよ」


 「ありがとうございます」


 ソニックが丁寧に礼を述べた。


 「ただ‥‥」


 「ただ?」


 「人類にとって益がない状況になり次第手は引かせてもらう。これが条件だね」


 「どういう意味だ?」


 ワサンが質問した。


 「どういう意味もこういう意味もないさ。そもそも人類議会ヒューパラメンタルの理念は神々支配からの人類の解放だからね。神は消えてくれた方がいいんだよ。でも、今このケテルには神がウヨウヨしている。彼らが一斉に消えてくれれば有難いんだが、そういうわけにもいかない。てことは中長期的に我々にとって有益になる神と協力して他の神を排除して、最後は残った神も排除する‥‥。それが効率的だからそうするんだよ。それが望みであり計画だからね」


 『!』


 (だからエウロスのワウザーンで出会った人類議会ヒューパラメンタルのヴィーク・ロイガンもネメシスやエリスを最初から疑って見ていたのか‥‥そして悪魔の襲撃に対しても怯む事なく立ち向かっていた。人類最優先‥‥どうやらこのカエーサルが言っている普通では考えられない発想は本当のようだ)


 ソニックは心の中でカエーサルの発言に信憑性があるのかを整理した。


 「まぁ、アネモイ神4柱があとひとり消えたらこのケテルにどんな影響があるかくらいは想像がつくからね。今回の依頼については全力で支援させてもらうよ。それと我々の情報網を使ってエウロスやノトスを殺した勢力についても調べることにしよう」


 「‥‥ありがとう」


 アルジュナはアネモイ神を敬わないカエーサルの相変わらずの態度に若干苛つきながらも礼を言った。


 「君たちにはこの手形を渡そう」


 そういうとカエーサルは、スタンプのようなものをポケットから取り出した。


 「どこに押してもらいたい?人類議会ヒューパラメンタルのロッヂを利用するためのマークを君たちの体に打つんだが、当然会員に示してもらうから問題ないところを選んでくれ」


 「それってタトゥーのようなものか?」


 ワサンが質問した。


 「まぁそんなもんだね」


 「オレは不要だ。そのようなものを体に刻みたくはないからな」


 「安心してくれ。これは特殊なインクで出来てるただのプリントでタトゥーとは違う。特殊洗浄液で洗い流せば消えるものだからね。ほら‥‥こんな風に」


 カエーサルは実際に自分の腕に紋章スタンプを打った。

 そして取り出した特殊洗浄液を垂らして拭き取った。

 するとしっかりとプリントされていた紋章があっという間に消えた。


 「いいだろう。その特殊洗浄液を先に渡してくれ」


 「用心深いねぇ。別にスタンプ押したからってうちの会員になったなんて騙すようなことはしないってのに」



・・・・・


・・・



 カエーサルは特殊洗浄液をワサンたちに渡し、一人一人にスタンプを押した。


 「我々にできることは何でもしよう。協力するよ。情報が入ったら都度知らせるようにする。それじゃぁまた」


 「これだけか?」


 「これだけとは?」


 バルカンの質問にカエーサルは不思議そうな表情で言葉を返した。


 「あ、いや、もっと何か作戦みたいなものがあるのかと思ってな」


 「作戦かぁ。僕はあまり好きじゃないんだよなぁ。作戦って行動を制限するものだからね。目的と目標さえ明確になっていたらあとは自由にやればいいのさ。ゼピュロスさんを守りたいんだろ?この国が崩壊しないように。既に目的と目標は明確じゃないか。あとは好きにやればいい。そのためのサポートはすると言っているんだ。これ以上何を望む?」


 「あ、いやすまん。お前のいう通りだな。必要な時にはよろしく頼む。今回は協力してくれてありがとう」


 カエーサルは手を降りながら部屋を出て行った。


 この世界を裏で支配しているアイオロスとこの世界で人類の生存・繁栄のみを推し進めている人類議会ヒューパラメンタルのグランド・マスターであるカエーサル。

 このふたりが味方であることはバルカンたちにとってこれ以上ないほどの強力な連携体制と言えた。

 一行はとりあえずゼピュロス神殿に戻り、作戦の整理とゼピュロス神の護衛にあたることとした。






昨日はあまりの疲れで書いている最中に突っ伏したまま寝てしまいアップできませんでした‥‥すみません!

次のアップは木曜日の予定ですが金曜日にずれ込む可能性あります。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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