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<ケテル編> 48.アイオロス

48.アイオロス



 「エウロスとノトスが消滅したのは聞いているよ。由々しき事態だ‥‥」


 ここはアネモイ剣士協会ゼピュロス支部、通称裏本部。

 アイオロスと呼ばれた男の執務室に招かれたバルカンたちは彼の話を聞くことになった。


 「知っているのか分からないが、アネモイ剣士協会はこのケテルを守ることと、アネモイ神を守るために発足された組織だ。現在上位から下位まで合計すると30名ほどのアネモイ剣士が所属している。ここにいるのはその剣士たちを支えているスタッフたちだよ」


 アイオロスはドアを開けて支部内で働いている約50名を指し示して説明した。


 「彼ら無しでは剣士たちは守護に当たることはできない。なぜなら、剣士には戦いに集中できなくなってしまうからね。旅に必要な荷物を最小限にするための計算をして持ち運び、情報の横連携を図ってタイムリーに問題解決に当たる。フォックスや各国政府とのクエスト調整もあれば、採集した物品や魔物のレア素材などの売買もある。これをいちいち剣士がやっていてはロスが大きいからね。だからこういった仕事を行うこれがサポーターと呼ばれる者たちが必要なんだ。いわゆる雑用だけど、そこに求められるスキルは異常なほど高いから誰でもというわけにはいかない仕事だね。ここにいるのはそんなサポーターをさらに支える仕事をしてくれている者たちだ」


 「ジュナやカルナと共に行動していたラザは確かサポーターだったな」


 ワサンが思い出したように言った。


 「その通りだ。君は物覚えがいいんだね。ラザはとても優秀なサポーターだね。ジュナのように気分屋行動を取る剣士相手でも絶対に間違えないだろうって安心感を持たせくれる。だからこんなジュナでも中位剣士をやってられるってわけだ」


 アルジュナはひどく落ち込んだ表情で項垂れていた。


 「中位?アネモイ剣士の中にも位があるんですか?」


 バルカンが質問した。


 「もちろんだ。総勢30名の剣士の中に上位に位置するのは4名。中位に位置するのは8名、それ以外は下位剣士となるね。上位剣士は永く変わっていないね。上位剣士ほどの強さになると死ぬことも減るからね。彼らを超える存在は中々現れないし」


 「上位剣士とは特別な存在‥‥ということですか?」


 バルカンがさらに質問した。


 「その通りだ。知っていると思うけどアネモイ剣士に成るために必要な資格はたったのふたつ。半神であることと、上位剣士の推薦があること。上位剣士はそれだけの権限を与えられている」


 「ヘラクレスも上位か?」


 ワサンが聞いた。


 「へぇ、そう言えば君はあれと戦ったことがあったかな。その通りだ、ヘラクレスは上位剣士だよ。他にはアキレス、ペルセウス、ギルガメッシュがいる。どうやらヘラクレスには剣士推薦するだけの思慮深さや観察力が欠けていると言いたげな顔だね」


 ワサンは心を読まれたのではと思い少し下を向いた。


 「ちなみにヘラクレスはアネモイ剣士を推薦したことはないよ。あれはそういうことができるタイプじゃないから。純粋に戦いが好きなんだ。手綱をつけておかないと暴走してしまう。場合によっては神をも殺せる力を持っているしね。ヘラクレスに限らず上位剣士はそれだけの強さを持っているということさ」


 「神殺し?!」


 「そうだ。実際にヘラクレスは神を殺しているしね」


 『!』


 「あなたは上位剣士じゃないんですか?」


 「おい!バルカン!」


 バルカンの質問にアルジュナが真剣な眼差しで遮ろうとしている。


 「いいんだジュナ。ここにこうして居るとなればそういう想像をしてもおかしくない。バルカン君だったね。僕はアネモイ剣士ではない。剣士にはなれないんだ」


 「なぜ‥‥ですか?」


 「ははは‥‥僕は半神ではなく神だからさ。そして自慢じゃないが、このケテルを守護している4方柱神のボレアス、エウロス、ノトス、ゼピュロスは元々僕の部下だった神々でね。この世界の風と生命の営みの維持のために彼らに守護に就いてもらっていたんだ。それを任命したのが僕ってわけ」


 「し、失礼しました!そ、それじゃ実質このケテルを支配している神ってことですね?」


 バルカンは焦ったように言葉を返した。


 「急に畏まらなくていいよ、バルカン君。僕はね、支配とかそういうのに興味はないんだ。ただ生きとし生けるものが幸せに暮らしてもらえればそれでいい。だからアネモイ剣士協会を作ってこの世界を守護にあたらせた」


 「それじゃぁ剣士協会を作ったのはあなたなんですか?!」


 バルカンが驚いた表情を浮かべてさらに質問した。


 「ははは、まぁそうだね」


 皆が驚いている中、ソニアと交代したソニックが質問した。

 通常ならソニアックの秘密は隠すのだが、神レベルに隠すことは難しくなっている上、既にゼピュロスに知られているので構わないという判断で表に出たのだ。


 「アイオロス神、あなたはエウロス神、ノトス神が消滅したことを受けてその真実の追求と残るゼピュロス神、ボレアス神を守るためにこの場にいらっしゃるという事‥‥という理解でよろしいのですか?」


 「へぇ‥‥君がソニック君とソニア君か‥‥確かに稀有な存在だ。ノトスの残留思念から君たちのことは伝え聞いていたよ。質問に答えると‥‥まぁ大体合っているね」


 「‥‥あなたほどのお力を持っていれば、エウロス神、ノトス神が消滅した理由と犯人もご存知なのではないですか?」


 『!』


 鋭い質問をしたソニックの言葉にその場にいるレヴルストラメンバーとアルジュナは緊張の面持ちで見守った。

聞きたい話である一方、神に対して追求行為をしている罪悪感から何も言えない状態になっていたのだ。


 「‥‥‥‥」


 アイオロスは黙ったまま自分の椅子に腰をかけた。


 「ソニック君‥‥君は頭もいいし度胸もある。だが、それは使い方を間違えれば死期を早めることにもなりかねないと知っておいた方がいい。君たちのリーダーであるスノウ君のために行動しているのだろうが、短絡的視野で行動していては本当の意味で彼への貢献はできないよ。僕の伝え聞いている情報では彼はこの先さらに過酷な状況に追い込まれる。それはこのケテルでの話じゃない。その先、さらに先以降の世界を訪れた際に直面する状況‥‥。その時、果たして君は生き残っているのかな?」


 「‥‥‥‥」


 ソニックは黙ってしまった。


 「ははは、まぁ君ほど賢い者なら僕の言葉をきちんと受け止めてくれるのだろうけどね。それで君の質問に戻ろう。エウロスとノトスが消滅した理由と犯人だが‥‥正直分からない。いや、正確に言うと、彼ら2人を滅することのできる存在は限られる。特定できないまでも犯人を絞り込むことは可能なんだ。だが、肝心の動機が見当たらないんだよ」


 「動機?!」


 「そうだ。例えばエウロス。ネメシスとエリスの言い分では全能神が滅したというが、全能神はエウロスに対して怒りを覚える事はありえない。ネメシスとエリスが偽って何かをしている可能性があるかもしれないが、エウロスだけでなくノトスまで滅することはありえんのだ。この世界の風の均衡は1柱であれば何とか100年程度は維持ができる。だが、2柱を失うとなると話は別だ。既に砂嵐ヴァールカや砂嵐の衝突ヴァルカジュラの発生頻度が増えていることに気づいているかい?‥‥草木が枯れ大地が死んでいくのも時間の問題なんだ。そんな死の世界を支配できて何の得があるのかという話だね」


 「複数犯‥‥の可能性は‥‥この世界を手中に治めたいと思っている限りはノトス神を滅するのはあり得ませんね。となればこの世界を支配する事以外の目的‥‥という事になりますね‥‥例えばこの世界の破滅‥‥もしくはアネモイ神たちそのものへの恨み‥‥」


 「ソニック!」


 アルジュナが有り得ないと言わんばかりに叫んだ。

 それをアイオロスは制して答えた。


 「ふむ。ソニック君は優秀だな。その可能性はある。破滅、もしくは僕を含めてアネモイ神たちへの恨みや復讐‥‥例えば否國にいる旧神や過酷な生活を強いられている生き物たち‥‥4柱で守護しているこの世界では東西南北の国以外は辛い思いをしているはずだからね」


 抑えきれないとばかりにアルジュナが割り込んできた。 


「それを緩和するためにアネモイ剣士たちが砂嵐ヴァールカ、砂嵐の衝突ヴァルカジュラの被害を最小限に押さえたり、治安悪化時に介入して取り締まったりしているんだよソニック!恨みや復讐でこの世界を壊そうと考えている者なんているはずないじゃないか!」


 珍しく彼の口調は熱かった。

 アイオロスは立ち上がりアルジュナの肩に手を乗せて言葉を発した。


 「ジュナ。確かにそれはあるよ。僕もそういう思いもあってアネモイ剣士協会を作ったんだからね。でもそれはあくまで僕らの視点だ。否國にいる彼らの視点じゃない。彼らの苦渋は彼らにしか分からないんだ。そしてこの世界の風の秩序を破壊した場合に何が起こるのかを知らない者がこの事態を引き起こしたとしたら‥‥そういう事だ」


 「ですがあなたは否國にエウロス神やノトス神を滅する事ができるだけの存在がいるとも思っていない‥‥そういう事ですね?」


 ソニックが指摘した内容にアイオロスは頭をかきながら苦笑いをした。


 「ははは‥‥その通りだ。僕も全土を把握しているわけじゃないが、カイキアのエークエスと名乗っている旧神たちか、エウロスで暗躍しているディアボロスか‥‥くらいしか思い浮かばないのだが、彼らも馬鹿じゃない。勝てる算段がつかない中でことをしでかすとは思えないからね。‥‥‥それで‥‥本当に聞きたいのは次の質問だろう?ソニック君」


 「‥‥‥‥」


 ソニックは真剣な表情で沈黙した。

 バルカンやアルジュナたちはアイオロスとソニックが何を話そうとしているのか分からずただただ見守ることしか出来なかった。


 「御見逸れしました。それでは恐れずに言います。あなたは僕ら越界者がエウロス神やノトス神を滅した犯人だと疑ってらっしゃいますね?ゼピュロス神にここへ来るように言わせる指示を出されたのもあなただ。目的は恐らくは僕らの真意の見極め。疑わしい場合は今この場で僕らを消し去ることも厭わないと思っていらっしゃるはずです」


 ガチャ‥‥


 バルカンとワサンは警戒した。

 フランとロイグはバルカンたちの背後に周り身構えている。

 クゼルナはソニックの影から警戒している。


 「お、おい!お前ら!何してんだよー!そんなバカなことあるわけないでしょーが!いい加減にしないと俺が怒るぞ!」


 アルジュナは少し狼狽えた表情でソニックたちに構えるのをやめるように言ったが、ソニックたちはそれを無視した。

 アイオロスはゆっくりと自分の椅子に再度腰掛けた。


 「ふぅ‥‥」


 アイオロスは天井を見ながら話始めた。


 「エウロスは優しい男でね。彼には癒しを貰っていたんだ。暇があればよく釣りに誘ってくれてね。中々釣れない僕に嫌がる素振りも見せずに根気よく教えてくれたのを今でも鮮明に思い出すよ。‥‥ノトスは賢い男で僕の判断が間違っているといつも真剣に抗議してくる熱血漢でもあった。ぶっきらぼうに見えるが、物事をはっきり言うだけで根は優しい性格で、僕は彼のそういう真っ直ぐな所が好きだったね‥‥」


 「アイオロス様‥‥一体何を?!」


 アルジュナが驚いた表情でアイオロスを見ている。


 「そんな愛すべき仲間を殺した者を僕は許さない。何が何でも探し出して自身の行いを後悔させながら殺してやろうと心に決めていた。そんな時に君たちの話を聞いたんだ。いや、正確にはエウロスがいなくなった後だからノトスが殺される前だね。この世界への越界者と言えばオリンポスの神々か、ディアボロスのような特別な力を持ったものだけだから非常に興味が湧いたよ‥‥その目的と強さにね」


 アイオロスから殺意のオーラが放たれ始める。


 「君たちも例外なく魔法は使えないはずだが、魔法など使えなくても十分に強いことがわかった。特にバルカン君とワサン君、そしてスノウ君、シア君は異常な強さだよ。ヘラクレスと対峙して2度も殺されずに済んでいる者は見たことがないからね。つまり‥‥」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥


 部屋の中に切り刻まれるような殺意のオーラと皮膚がビリビリと震えるような緊張感が漂い始めた。

 一触即発状態でどうすれば良いのか分からないアルジュナはただ狼狽えているだけだった。


 「君たちはエウロスも‥‥ノトスも‥‥殺せる実力がある‥‥という事だ」


 バルカンは心中で業魔剣の業識ゴッシキを呼び出していた。

 ワサンもまた、いつ殺されるか分からない状況であることを理解し、根源種・銀狼シルバーウルフの力の解放を覚悟していた。


 「幸いにもスノウ君、シア君とは別行動をとって力を分散してくれているからね。とても好都合だったよ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥


 アイオロスはゆっくりと立ち上がった。


 ソニックは全滅を免れるための策を頭の中をフル回転させて考えている。

 バルカンとワサンはそれぞれ武器を強く握りしめた。






次のアップは月曜日の予定です。

いつも読んでくださって本当に有難う御座います!

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