表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/1110

<ケテル編> 38.探し物の在処

38.探し物の在処



 長い階段を降りると再度複雑な迷路に出会でくわした。

 途中、所々に広い空間や幾つもの部屋ある居住空間の様な場所もあった。

 いわゆる巨大な地下シェルターの様なものであり、恐らく窮屈ではあるがこの街の住人を全て収容するくらいの施設になっていると思われた。

 所々に天井で途切れいている階段が見られるため、このシェルターへの入口は幾つもあるのだろう。


 (他の神から狙われる様な行動をとってまでこの国の民を守ろうとしていたって言うのは本当だったんだな・・・・)


 スノウは二度しか会っていないノトス神に対して尊敬の念を抱いた。

 そしていきなり信頼の置けそうな神が殺されたとあってこの事態を重く受け止めた。


 (ノトスが言った言葉・・・・全ての探し物を集め・・・・これは集めろと言おうとしたのか、集めてはならないと言おうとしたのか・・・・いや、集めるなと言いたかったのであればこうやって場所を示す事はなかったはずだ・・・・)


 「貴方の遺言は守るよ」


 スノウはそう言いながら脳裏に映し出されている映像を辿っていく。


 (ここか)


 行き止まりに差し掛かった。

 特に何もない袋小路だったが、指示通りの行動をとる。


 ゴガガガガ・・・・


 壁の欠けている場所に指を入れるとそこにはスイッチらしきものがあり、それを押して起動させると目の前の壁が50センチ程開いた。


 (狭いな・・・・だが行くしかない)


 横向きになって隙間から入っていくスノウ。

 閉所恐怖症なのだが、躊躇している場合ではなかった。

 冷や汗が出てきた。

 暗闇の中、目の前の壁だけが辛うじて見える視界の悪さ。

 向きを変える事を許さない隙間を進んで行く。

 説明の付かない圧迫感と、このまま戻れずに押し潰されるのではという強迫観念が頭の中を支配しており、ノトスの残した映像が間もなく開けた場所に出る事を示していなければ躊躇したかもしれない。


 暫く進むと開けた場所に出た。

 直径10メートル程のドーム型の部屋だった。

 周囲には無数の扉が並んでいる。

 スノウはホッとした表情を浮かべたが全身汗だくの状態だった。

 周囲を見回す。

 何も情報がなければ、この無数の扉の中から正解の扉を選ぶのは運任せとなる。


 (用意周到だな・・・・それだけ大事な物が保管されているって事か・・・・)


 スノウはノトスが示した場所の扉を開けようと把手に手を伸ばした。


 ギィィィ・・・・


 扉が開く。


 中に入るスノウ。

 息苦しい程狭い部屋だが先程の狭い通路に比べたらマシだった。

 

 (どうやら罠はない様だな・・・・)


 念のため警戒するが特に何もなく入る事ができた。

 

 ボッ!


 部屋に灯りがついた。

 扉を開けると灯りがつく仕組みの様だ。


 「!」


 奥に1メートル角の箱が見える。

 箱には4つのボタンが付いている。


 (確か・・・・こうだったな・・)


 ノトスの映像が示している通りにボタンを押した。


 カチッ!


 小さな音と共に鍵が開いた。


 (扉の選択に加えてボタンまで‥‥一体何が保管されてるんだ?!)


 グギギ・・


 「?」


 箱を開けたスノウは中に何かが入っているのを確認した。

 それは50センチ程度の円柱状の物体だった。

 見様によってはアームガードに見えなくもない。


 (何だこれは?)


 スノウが手を伸ばした瞬間、円柱状の物体だった物は瞬時に大きさを変えて右腕にアームガードの様に嵌ってしまった。


 「おいおい!」


 アームガードと想像したらその通りとなり思わず驚くスノウ。

 

 「おやおや、そんな所にあったとは、分かるわけねぇよなぁ」


 「!」


 後ろを振り向くスノウ。

 いつの間にか背後に黒ローブの男が立っていた。

 周囲には十分警戒していたし、何かが近くに居ればその気配で分かったはずだが気配を消し切ったその存在は相当な戦闘力である事が伺えた。


 「誰だ?って言っても答えるわけないよな」


 「分かってんじゃねぇか。話が早そうだ。って事でその腕にハマってる物を渡してくれねぇかな。お前さんとは余り戦いたくねぇんだよ」


 「知り合いって訳でもないよな」


 「ああ。だがお前さんの強さは聞いているんでね。怪我したくないってだけの理由だよ」


 「すまないが渡すわけにはいかないな」


 「お前さん、それが何か知ってのかい?」


 「知らないが見ず知らずの相手に渡すほどお人好しじゃ無いんでね」


 「そうかい」


 そう言うや否や黒ローブの男は凄まじい速さで詰め寄り短剣を振り上げて来た。

 スノウは構えをとる。


 「この狭い空間でまさかその長剣振り回そうってんじゃないだろうな、ククク」


 ガキィィン!!


 黒ローブの男が振り上げた短剣を素手で受け切るスノウ。


 「何ぃ?!」


 鋭い刃の短剣を受けた手からは血一滴も出ていない無傷状態だった。

 当然、波動気の螺旋による防御なのだが、相手を驚かすには十分でその隙をついてスノウは螺旋を込めた蹴りを放つ。

 黒ローブの男はそれを辛うじて避けた後、不安定な体勢のまま短剣の突きを放つ。

 それを躱したスノウは、右手から螺旋の波動波を飛ばす。

 見えない衝撃を避ける事の出来ない黒ローブの男は螺旋の波動波をもろに食らって後方へ吹き飛んだ。

 その隙にスノウは、奥の壁を蹴り壊す。


 ボッゴォォォン!!


 するとその奥に人ひとりがやっと乗れる様な箱があらわれた。


 「おいおいそれは何だよ!」


 黒ローブの男が叫ぶがスノウは答えずに、箱の底を繋ぎ止めている鎖を螺旋の手刀で切った。

 

 シュルシュルシュル・・・・


 何かが巻き取られる様な音と共に箱が上昇し始めた。

 箱は簡易的な昇降機だった。

 黒ローブの男は右手を軽く振るスノウをただ見送る事しか出来なかった。


 「やるじゃねぇの」


 黒ローブの男は箱を見上げながら呟いた。

 少し笑っている様にさえ見えた。



 ゴゴゴゴゴゴ・・・・


 上昇するに従って勢いがつき始めたのか轟音をたてながらスピードが上がって行く。


 (ちょっと早すぎるんじゃないか?!)


 スノウの脳裏に凄まじい勢いで天井に激突して大破する想像が浮かんだ。


 バゴォォン!


 スノウは箱の上部に穴を開けた。


 (タイミングを見て飛び出さないとならなそうだ・・・・)


 階層は分からないが天井が凄まじい勢いで近づいてくるのが見えた。


 「おおおお!」


 バッグォォォン!!


 猶予は無かった。

 螺旋を溜めて外に通ずる斜め上方向に壁を破壊しつつ跳躍した。

 

 「おわぁ!!」


 凄まじい勢いで空中に放り出されるスノウ。

 街全体が見渡せる程の高さで放り出された。

 このままの勢いで飛ばされると丁度街の外に着地出来そうであったため、スノウは飛ばされるまま身を委ねた。

 

 (街の入口があっちだから・・今飛ばされてる方向は丁度西だな。・・・・しかしさっきの黒ローブの男は何者だ?・・襲ってきた割には本気じゃ無かった様に見えたな・・・・敵意と言うか殺意も感じられなかったし。だけどあそこまで気配を消せるってのは相当な戦闘力だぞ・・・・多少攻めて何者かの手掛かりくらいは掴んでおくべきだったか・・・・)


 と思いつつその様な余裕は無かったとスノウは思った。


 (そろそろ着地だな)


 シュワン!・・・・バシュゥゥゥン!


 スタ・・・・


 スノウは波動波を放って上手く着地するとそのまま走り出してシアが進めているであろう馬車を目指した。



・・・・・


・・・



 街の中はより一層慌ただしくなった。

 そこら中に警備兵が灯りを手にスノウ達を捜索している。

 シアの行動の早さが功を奏して見事に切り抜けたが、スノウとシアは完全にノトス神殺しの容疑者となっていた。



ーーー警備隊本部 副隊長執務室ーーー


 ドォォン!


 「馬鹿な!そいつらは人間なんだろう?人間に神であるノトス様を殺せるわけがないだろうが!」


 警備隊副隊長のヴェルガノが机を叩いて吠えている。


 「だが、隊長の話では昨日アネモイ剣士アルジュナと共に現れた冒険者2名によってノトス様が殺害されたとの事です」


 部下の警備兵が説明している。


 「じゃぁ何か?アルジュナが連れてきた人間がノトス様を殺したって事はアルジュナも共犯だってのか?」


 「隊長はそう判断されています」


 ガァァン!!


 ヴェルガノは机を蹴り飛ばした。


 「そんなことある訳無いだろうが!アルジュナにとってノトス様は数少ない支援者だぞ?!しかも自分じゃなく、どこぞの神でもなく、人間を連れてきてノトス様を殺したのか?!馬鹿馬鹿しくて聞く気にもなれねぇ!」


 「そう吠えるなヴェルガノよ」


 ビシ!


 部下達は一斉に敬礼した。

 ヴェルガノの部屋に入ってきたのは警備隊隊長のシバールだった。


 「まさか本当にアルジュナと人間の仕業とか思ってるんじゃ無いだろうな?シバール!」


 「相変わらずの態度だな‥‥少しは隊長の私に敬意を払え」


 「チッ!こんな時にくだらねぇ身分の話を持ち出すな」


 「私の指示じゃ無い。ゼイノラス様のご指示だ」


 「あの神官が何だってんだよ。ノトス様の傘の下で威張り腐ってるだけのクソ野郎じゃねぇか」


 「おい、口が過ぎるぞヴェルガノ。彼の方がいるから多くの街の実力者が大人しくしているのだ」


 「そんな事はどうだっていい!俺はノトス様を殺した輩を見つけ出す!勿論アルジュナがやったなんて思っちゃいない。真犯人を必ず見つけ出してやる。それが神だろうと半神だろうとな」


 「いい加減にするのだヴェルガノ!我らにその様な勝手な行動をとる権限など与えられていない事はお前も重々承知のはずだぞ!」


 「馬鹿な!これは国の一大事だぜ?!真犯人を見つける行動を制限できる奴なんている訳がねぇ!」


 バァン!


 「待てヴェルガノ!」


 ブチッ!ポォン・・・・


 「こんなバッヂがあるからお前が困るんならやるよ」


 ヴェルガノのは警備隊と警備隊副隊長のバッヂを引きちぎって隊長のシバールへ渡した。


 「勝手にするがいい。だが我らの邪魔だてすればお前もただでは済まんのだぞ?!お前に我らの刃を向けさせるなよ!」


 「そんときゃ遠慮はいらねぇ」


 ヴェルガノは苦笑いしながら扉から出て行った。



・・・・・


・・・



 ゴトン・・・・


 「スノウ!」


 レヴル号にスノウが乗り込んできた。

 無事に追いついたのだ。

 いち早く気づいたバルカンが声をあげた。

 シアはスノウを見て安心した表情を浮かべた。


 「大丈夫か?!」


 「はぁはぁ・・大丈夫だ・・はぁはぁ・・追っては引き連れてない・・」


 スノウはまだ呼吸が落ち着いていなかった。


 「そう言う事じゃ無い!お前のことを心配してたんだぞ!」


 バルカンは少し怒り気味にスノウに話しかけている。

 その声を聞いてストラ号に乗っていたソニックとアルジュナがレヴル号に移ってきた。

 窮屈な状態だが、レヴル号にスノウ、シア、バルカン、ワサン、ソニック、アルジュナが乗っている。

 

 「すまない・・・・心配をかけた様だな・・・・」


 ガタン!!


 アルジュナがスノウの胸ぐらを掴み馬車の壁に押しつけて喉を締め付けた。


 「スノウ!説明しろ!何があった!ノトス様はどうなった!お前に何を告げられた?!」


 アルジュナはスノウを責めるのは筋違いと分かっていて首元を締め上げていた。

 ワサンとソニックがアルジュナを引き剥がそうとするが、スノウはそれを制した。

 その表情からアルジュナの思いを汲み取ったのだった。

 そして抵抗する事なく話し始めた。


 「ノトス神はおれに探し物を全て集めよと言った・・・・。そしてノトス神殿にある ”探し物の在処” をおれの脳裏に示して亡くなった」


 「くっ!お、お前がいながら!・・・・」


 「すまないジュナ・・・・これは完全におれの落ち度だ・・・・気の済むまで殴れ・・・・いや‥‥おれを殴る程度で気など済むはずもないな‥‥」


 バッグォォォン!


 アルジュナはスノウを思い切り殴った。

 スノウは馬車から外に放り出される程吹き飛んだ。


 「ジュナ!」


 バルカンがさらにスノウに殴りかかろうとしているアルジュナを抑えて止める。

 シアは馬車を停めた。

 そのすぐ後にストラ号の手綱を握っているフランも馬車を停めた。


 アルジュナはバルカンを振り解いてスノウの方へ跳躍し、倒れているスノウのマウントを取る形で押さえ込み殴りかかる。


 「お前が!・・・・お前が!・・・・」


 ボゴォン!・・・・ボゴォン!・・・・


 鈍い音がひびく。

 止めに入ろうとしているバルカンとソニックをシアが止めた。

 

 「お前がぁぁぁぁ・・・・・・・・」


 アルジュナはスノウの胸ぐらを掴んでそのまま顔をスノウの胸に埋めて泣き崩れた。

 向ける矛先のないやるせ無さにただ泣くことしか出来ないアルジュナをスノウは苦しそうな表情で見ていた。






1日アップが遅れまして申し訳ありません。

次は水曜日のアップ予定です。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ