<ケテル編> 36. 信じるべきところ
36. 信じるべきところ
ノトスはソニックの目を見た。
スノウとアルジュナは既に部屋を出ており初対面の神と一つの部屋で2人きりになると言う状況に最初は戸惑っていたが、ノトスの真剣な眼差しに少しずつ信頼感の様なものが芽生えていた。
「なるほど‥‥不思議な精神構造をしているな貴様。いや貴様たち‥‥と言った方が良いか。精神が分断されて生まれた補助的な虚構の精神残穢でもなく、一卵性双生児が生まれ落ちる過程で片方の肉体に融合され、二つの魂を宿したものでもなく‥‥だめだ、我の威根眼で視えぬ貴様の存在の有り様とは一体‥‥‥‥」
「それは‥‥つまり僕達姉弟はこの世界で考えられうるケースには当てはまらない極めて特殊な存在という事ですか?」
「いや、もっと根源的に別の次元の話だと考えた方が良い。我は神だ。貴様たちの精神体視れば大体の事は分かる。それはこのケテルだけでもないし、現在と言う時点の話でもない。あらゆる4次元的連間の中で辿った糸が途中で視えなくなるのだ。これは遥か太古の昔、もしくは遠い未来の果てにある神域を超えた何かに通ずるものやも知れん」
流石のソニックも理解できない内容だったようで少し悩んでいる様な表情だった。
「すまんな。情報とその因果は過多であろうと複雑であろうと論理で形成されている限りにおいては誰もが理解しうる領域だ。だが神域とはその因果は必ずしも論理を必要としない。これは思考プロセスの問題ではなく、思考の構造の問題だ。貴様が理解できないのは当然だがその表情は3割は理解したとい感じだな。だがそれでも神ではない貴様はこの世界に生きるものの中で相当上位に位置する聡明な者だと言えるだろう。誇って良い」
「つまり僕達姉弟がなぜこの様な特異な状態で存在しているかを知ろうとするには‥‥」
「このハノキアと呼ばれる9つの世界を隈なく巡る事だ」
「!」
「答えはひと所にはない。全てのピースが絶妙のタイミングで嵌まった時に初めて知れるものだと覚えておくがいい」
「わかりました」
「そして貴様らの魂にはスノウの存在が強く刻まれている様だ。これは後天的な記憶への影響ではない。輪廻の奥深くに刻まれた消す事の出来ない繋がりだ。あの者から決して離れるでないぞ」
「!」
ソニックの目から自然と涙がこぼれ落ちた。
ソニックは何か何処かで自分が存在意義を失ってしまうのではと漠然とした不安を抱いていたが、今その不安が全て取り除かれて雲一つない晴れ間の様な気分だった。
精神部屋の中にいるソニアもまた晴れやかな気分で涙を流していた。
「有難うございます!」
「それと、貴様らは魔法を得意とする者たちだな?」
「はい!なぜそれを?!い、いえ愚問でした」
「ははは!優秀だぞ貴様。気に入った。この世界も昔は魔法が使えたのだ。しかしある時から突如神の息吹の中から魔能力が殆ど無くなってしまったのだ。ハノキアでは魔力の器と魔法特性、そして魔能力の3つの要素が揃って初めて魔法が使えるのだ。これは神とて例外ではない。かつて使えた魔法は我の手からも失われて久しい」
「魔法‥‥‥‥魔力の器は魔法を使うためのエネルギーですね。ゼロになれば使えない。そして魔法特性とはその者がどんな魔法に愛されているかの証。僕には氷や冷気の魔法しか使えませんが、それが魔法特性。そして3つ目の魔能力は魔法を使う能力そのもの。馬に例えるなら、馬のスタミナが魔力。スタミナがあるほど魔力の器も大きいのでよろ速く長く走ることができる。魔法特性はどの様な馬かという事。足の速い馬なのか、タフな馬なのか、小さな馬なのか大きな馬なのか。そして魔能力は馬そのもの。馬がなければ乗ることも走ることも出来ない」
「その通りだ。この世界のあらゆる者はその乗る馬を奪われたのだ」
「そうか‥‥魔法クラスの高い魔法が微弱で発動するのは、単に馬に乗っている感覚を覚えて発動するのは錯覚の様なものですね?」
「ああ。これは魔法に愛されてその力や技能に長けた者だけが感じられるものだ」
ノトスはソファから立ち上がった。
「そして貴様は馬に頼り続けてきたのに対し、その馬を奪われて移動手段を失い狼狽えている状態と言えよう」
「!」
ソニックは最も苦しんでいる点を指摘されて返す言葉がなかった。
「我は貴様に何か特別な力を与えてやったり力を引き出したりといった能力は無い。期待させて谷底へ突き落とした様ですまないが、世の中甘くは無いという事だ」
「‥‥‥‥」
「ソニックよ。そしてソニアよ。颯爽と走ろうとするな。泥臭く足掻き自らの足で一歩一歩進み直せば良いのだ。その先にしか成長は無い」
「‥‥‥‥」
「貴様の主人のスノウはそんな足掻く貴様らを見捨てる様な者ではない。それを貴様らが信じなくて誰が信じるのだ?貴様らが焦って貴様ら自身に絶望する事は即ち主人たるスノウへの裏切りと知るがいい」
「!!!」
ソニックとソニアの脳裏にまたしても電撃の様なショックと腹落ち感があった。
またしても止まらない涙が溢れてきた。
「落ち着くまでこの部屋にいる事を許そう。好きに出ていけば良い。スノウと共にアルジュナを頼んだぞ」
そう言うとノトスは部屋から出て行った。
「姉さん‥‥‥‥」
(分かってるよソニック)
2人はスノウを信じ強くなる事を誓った。
・・・・・
・・・
ーーー夜、ノトス神殿入り口ーーー
スノウとメロ、そしてシアが入り口に居た。
入口から入ると数人の守衛が通路を塞いだ。
数秒の後、訪問者がスノウである事を確認したのか、無言のまま道を開けて進む様に促してきた。
進むペースに合わせて電灯が灯る。
「マスター‥‥これは」
シアが小声でスノウに話しかけた。
「ああ、電気だ。ティフェレトではエレキ魔法と呼ばれていたけどな。おれ達には今十分な情報が得られていない。この電気を生み出している謎も把握する必要があると思ってる。おれが退出した後のソニックとノトス神の会話で魔法の発動メカニズムが分かった。以前は魔法が使えた様だが、この電気による文明はおそらく魔法が使えなくなってから発展したんじゃ無いかって思うんだ」
「どう言う事でしょうか?」
「この電気の使い方。極めて限られた目的にしか使われていないんだよ」
「!なるほど・・流石はマスター。明かりやエレベーターの様な動力位にしか使っていないという事。つまり電気による文明開化は成されたのですが、何処かでその技術発展が止まった‥‥と言う事ですね?」
「そうだ。普通、発明は徐々に広まり知識を得た者達による破壊的な技術進歩があり、その技術が徐々に広まって更なる破壊的な技術革新が再度起こる。だがこの街は古い割にその技術革新の跡が見られないんだよな。まるで電気の技術をこの地にもたらした者が、その技術を伝えずに消えてしまった様だ」
「流石のご考察。私もその推測に納得しています。マスターはその技術をもたらし消えた存在が何かを調べる必要があるとお思いなのですね?」
「ああ」
「ねぇ何をこそこそ話ししてるの?」
「メロ、すまないな。この後偉い神様と会うんだがその時の段取りを話してたんだ」
「ふーん。ノトス神様だよね?」
「そうだがよく知ってるな」
「当たり前だよ!アネモイの神様がこの世界を作ったお話は有名だもん!」
「そうなのか?アネモイの神々ってノトス神とかボロレス神とか?」
「うん!おっきな湖に沢山塩を入れて、粘土で地面作ったら、真ん中に高い高い塔を作ったの。その上にとっても大きな風車を作って回してるんだよ」
「へぇー‥‥でも風車って風が吹いたら回るものだろう?誰かが回さないと風が吹かないじゃないか?」
スノウは扇風機をイメージして話しているが少し意地悪な言い方になってしまった。
「高い高い党のてっぺんの風車を回す人がいるんだよ」
「ははは、なぁんだそこは人力か」
「とっても偉い人なんだよ!」
「はいはい分かったよ。そろそろ着くからな。くれぐれも粗相のない様に」
スノウはミロに伝えるつもりで話した。
廊下を暫く進むと扉が見えてきた。
コンコン‥‥‥
「入れ」
部屋の中からの許可の声に従って中に入るスノウ達。
「来たようだな」
出迎えたのは老紳士だった。
少年の姿のノトス神はいない。
老紳士1人だけだった。
「?」
「すまんな。昼間とは姿を変えているのだ。我はこのノトス国を統べる神ノトスだ」
「本当にノトスの神様だ!」
メロが驚いている。
「初めまして、私はフランシア。こちらのマスタースノウに永属する伴侶であり守護者です」
「あたしはメロです」
「よく来たな、フランシアにメロ」
「それで特殊な者というのが‥‥」
「分かっている‥その少女だな」
「ええ」
そう言うとノトスは暫くメロを観た。
「これは‥‥!!」
少し驚いた表情になったノトスは少し考え始めた。
「メロ、こっちの部屋に来てくれるか?スノウとフランシアはここで待っていてくれ」
スノウは頷いてメロにノトスについて行くように促した。
扉が閉められた。
「マスター」
「ああ。ミトロが表に出て、ノトス神がミトロの精神の深層心理を覗くんじゃないかな。それで探し物が何かを見つけようと言うのだろう。ミトロは表に出られる時間が限られるから2人になったと言う事だな、おそらく」
「大丈夫でしょうか?」
「何かおかしな音や振動があれば即刻中に入る。ノトス神が何かするとは思えないが、ミトロの事もまた完全に信じている訳じゃない」
スノウ達は警戒を怠らずに見守る事にした。
次のアップは日曜日の予定ですが1日ずれ込む可能性があります事ご容赦ください。
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