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<ケテル編> 34.首都ルガロン

34.首都ルガロン



 レヴル号とストラ号は比較的ゆっくり並走しながら進んでいた。

 既に南の国ノトスに入って1日半進んでいるのだが、アルジュナによれば後半日も進めばノトス国の首都ルガロン到着するらしい。

 問題はルガロンの周囲には草原が広がっているのだが、その中に湿地帯があり迂闊に馬車で踏み込むと車輪が沈み走行不能になってしまうという点だった。


 「ジュナよぅ。何で首都なのにそこへ向かう幹線道路が走ってないんだよ。こんなゆっくりじゃ本当に半日で着くかどうかも怪しいぞ?」


 ストラ号で御者をしているバルカンが荷台の方にいるアルジュナに話しかけた。


 「そうなんだよねー。俺も何回かノトス様に言っているんだけどさ。 “この国は我の力によって肥沃な大地となっておるのだ。加えて南の海の幸も豊富。周囲には鉱石が取れる岩場もある。むしろ何者も訪れない方がよいのだ” ってな感じで言うんだよー。だから敢えて道は作らないし、整地もしないんだよねー。俺なんかさ、最初通ってたころは底無し沼にハマってしまって何とか引き上げられたんだけど1ヶ月意識不明だったよーはっはっは!」


 「なるほど‥‥今こうしてお前と話しているのは奇跡って事だな」


 「でもそのノトスって神は優しい神なんだろ?何だか自己中心的というか自分の国さえ良ければいいと聞こえるが?」


 ワサンが最もな反応をした。


 「良い質問だねワサン。優しい神だけど、厳しい神でもあるんだよねー。ノトス様は中立の立ち位置貫いているからね。自国を護るのを最優先にせざるを得ないんだよね」


 「中立?この世界で敵対している勢力があるってのか?アネモイの派閥の話は聞いたけどさ」


 バルカンの質問にもアルジュナは答える。


 「色々と複雑なんだー。アネモイ剣士協会の派閥は言ってみればオリンポスの神々の勢力争いみたいなモンだよ。全能神ゼウスに従う11神ってのがいるんだけど、それがゼウス派のバックにいて、ボレアス様はその全能神一強でこのケテルを支配されたらいずれ破滅するとお考えで、それをなんとかするためにアネモイ剣士協会作ったっていうのが発端だから、言わば全能神支配からの独立宣言みたいなもんだよねー。後は、今回登場してきたネメシスとかエリスとか12神の影に隠れてしまっていていつか日の目を見ようとしている他のオリポンスの神々、そして否國にいる複数の旧神の勢力かなー。そんな中でさ、ノトス様が持っている力は実りの風だから、それがないとケテルに生きる者たちは食べる物が無くなって飢えて死んでしまうって言うくらいの力の持ち主なんだよねーノトス様はさ。だから他の神も迂闊に手を出せないって感じだね。ノトス様を敵に回したらその国は枯れちゃうからさー」


 「怖い神だな」


 「逆だよ。この国が今なおこんな目立った争いもなく平和に均衡を保っていられるのはノトス様の徹底して貫いている中立的立場があるからってのもあるよねー。ノトス様はそんな破壊的混沌は望んでない。今のようにさ、人々が少しでも笑っていられる世界を維持したいんだよ」


 「なるほど‥‥この情報は後でスノウたちにも共有しておこう」


 「それがいいよ。もし説明が必要なら呼んでくれて構わないからね」



・・・・・


・・・



 車輪が泥濘にはまらないようにゆっくりと進むも、何度か泥に沈んで空回りする馬車を押したり引いたりを繰り返してやっとの思いで首都ルガロンに辿り着いた頃には日も暮れようとしていた。


 「おお!」


 レヴルストラ一行は馬車に気を取られており、目の前に見えているルガロンに目をやることがなかったため、いざ到着して落ち着いて街並みを見てみるとその荘厳さに思わず感嘆の声を漏らした。


 国の中心である首都だけにその巨大さもあるのだが、最も驚くべきはこの都市の中央にある巨大な円柱状の建物だった。

 直径2キロほどはあるだろう巨大な円柱で高さは500メートルほどはあるだろうか。

 その円柱状の建物の外壁には無数の窓が灯りをつけており、昼間と見紛う光を放っていることもあり、より一層荘厳さを醸し出していた。


 「あれは何だ?」


 スノウがアルジュナに質問した。


 「あれがノトス様の住む神殿だよー。神殿と言ってもこの国の法律を管理したり、行政や裁判なども行う。人も住んでるし、生活のための店だってある」


 「まるで要塞じゃないか」


 「ははは!鋭いねー君は。その通り、元々あれはノトス様が作り上げた要塞だったんだ、この国の民を護る目的でねー。それから国が富んでいくにつれてあの要塞の周りにも店や家が出来始めて今も尚この都市の面積は広がっているらしいよ」


 「なるほど。肥沃な土地で豊かな生活ができるとあれば自然と人は寄ってくるか」


 「その通り!ノトス様が賢いのはそこだよねー。この国に住むものを豊かにしてさらに人を呼び込んで豊かにする。そして気づく頃には国そのものも強くなる。そうやって他国よりも優位に立っている。優位に立っているからこそ、中立的立場でも許される‥‥そういう信念でこの国を統べている方だよー」


 「人格者だな」


 「ああ!きっと話も合うと思うよ」


 アルジュナは少し嬉しそうな顔をした。

 どうやら尊敬するノトスの印象が良くなったと思ったようだ。

 だが、スノウは心の中で少し警戒していた。


 (ノトス‥‥神であるのはもちろん、ここまで力を持っているとは‥‥。しかもこの地に住んでいるものはノトスを慕っているのだろう。周りを見渡せば分かる。皆笑顔で幸せそうだ。だが、中立の立場と言いながらこのまま力をつければどうなる?‥‥いずれひとつの勢力になるはずだ‥‥。なぜ国を強くすることに拘るのか‥‥その辺りは探っておく必要があるな。メロの中に居るミトロの探し物に付き合っている以上ノトスとの接触は必要だからな‥‥。相手の事を見誤って全滅‥‥なんて最悪シナリオだけは避けたい)



 「さて、それじゃ今日は日も暮れたし宿をとろう。俺のいつも泊まる宿屋に行こう。そこなら馬車も留められるしね」



 その日はアルジュナがよく使う宿屋に部屋を取り、共に食事を楽しんだ。



・・・・・


・・・



―――翌朝―――



 朝食を済ませた一行はアルジュナの案内のもと、巨大な円柱状の建物、ノトス神殿に入った。

 メンバーはスノウ、アルジュナ、ソニックの3人だ。

 それ以外のメンバーは街の調査や買い出しを行うことにしている。

 ノトス神殿に入ったスノウは驚く。


 (これは!‥‥電気だ‥‥どう言う事だ?)


 スノウは思わず声に出してしまいそうになったが堪えた。

 エウロスの首都ゲズもまた電力を利用した灯りなどがあったが、このルガロンは更に電気の使い方が進んでいた。


 (スメラギ承太郎さん‥‥まさかな。あの人は今ティフェレトだし‥‥古代装置を使って越界した?ってことはなくはない‥‥承太郎さんが居るなら越界の仕方を知っている可能性がある‥‥い、いや、この電気‥‥エレキ魔法があるからといって単純に結びつけるのは尚早だな‥‥)


 だが、スノウは更に驚くことになる。


 (エレベーターじゃないか!)


 「さぁ、これに乗って」


 「何だこれは?オレこんな狭い部屋の中に閉じ込められるのは嫌だぜ?」


 バルカンが腰が引けたように言った。


 「大丈夫だよー。ほんの一瞬だからさ」


 恐る恐る乗り込むバルカンたち。


 ガタン!


 「ひっ!」


 「ぷっ!」


 ドア閉まった音にビク付いているバルカンを見ながらソニアが笑う。

 バルカンはソニアに苛立った表情を向けたが、ソニアに口論で勝てるはずもないと諦めてすぐにしょぼくれた。


 「ジュナ。この‥‥部屋みたいなのは動いているようだが、何で動かしているんだ?」


 「動力源かい?‥‥うーん詳しくは知らないけど、神の息吹デヴァプラーナを集めて風車みたいなのを回してなんかやってるって聞いたような聞いてないような‥‥」


 「そうか‥‥。大体わかった」


 そんな会話をしている間にエレベーターが止まった。

 どうやら上昇していたらしく、皆耳がキーンとしており不快な表情を浮かべている。


 ドン!


 「ひっ!」


 「ぷっ!」


 エレベーターが止まったことでバルカンは小さな悲鳴を上げたが、またソニアに小馬鹿にされ苛立ちをさらに膨らませた。


 ガガガー‥‥


 エレベーターが停止しドアが開き始める。

 ドアが開くと、50メートルほどの廊下が続いているのが見えた。

 一本道であるため、進むだけであるが灯りがついていないこともあり先が見えない。

 アルジュナはお構いなしとばかりに歩き出す。

 それに続いてスノウとソニックも付いていく。

 先ほどまでソニアだったのがソニックに代わっているのは、まっすぐ続く廊下が真っ暗であり、単に怖かっただけのようだ。


 進むたびに、壁に定感覚で設置されている電灯が灯る。

 ゆっくりあるていくと廊下の先に扉が現れた。


 扉の目の前に到着するとアルジュナは静かにノックした。


 コンコン‥‥


 「アルジュナだな。入れ」


 ガチャ‥‥ギギギ‥‥


 重そうな扉が開けられていく。

 扉の先には30畳ほどの大きな正方形の部屋があった。

 部屋の中央にはテーブルとソファが置いてあり、その先には執務机と椅子があった。

 そしてその椅子に座ってこちらを見ている人影が見えた。


 「失礼します」


 これまでの態度とは違って緊張した面持ちでアルジュナを先頭に部屋にはいる。

 執務机から少し離れた場所に立って一礼した。

 スノウとソニックも見様見真似で礼をした。


 よく見ると、執務机に座っているのは白髪オールバックで渋い顔の男で、向かって左側にある本棚で1メートル50センチ程の高さにある本を一生懸命取ろうとして取れない少年らしき姿があった。


 「アルジュナ。その者たちは何者だ?」


 執務机の男が質問してきた。


 「この者たちは私の仲間です。なにやら探し物を見つけるためにノトス様を訪ねてきた者たちです」


 「そうか。そこの者、名は何と言う?」


 「おれはスノウ。スノウ・ウルスラグナと言います。彼はソニックです」


 スノウは簡単に名前を名乗った。


 「そうか。いきなりの客は断っているのだがな。今回だけはアルジュナに免じてこの部屋に入ったことを許そう。だが、残念だ。我の知る限りでは貴様の探し物などここにはない。すぐに立ち去れ」


 スノウは少し沈黙したが、再び口を開いた。


 「あなたの名前は?こちらが名乗ったのだからそちらも名乗るべきでは?」


 「貴様、我に説教するつもりか?‥‥ノトスに決まっておろう?だからこそ、ここへ来たのではないのか?すぐに立ち去れ、立ち去らないならどうなろうと我は知らんぞ?」


 スノウは白髪の老人が言った言葉を無視して、本棚で本を取ろうとしている少年の方へと歩いて行った。

 そして高すぎて上手く取れない本を取って少年に手渡した。


 無言のまま受け取る少年。

 その後、スノウが言葉を発した。


 「初めましてノトス神‥‥本物のノトス神はあなたですね?」


 スノウは何故か少年に向かって挨拶をした。

 ソニックも驚いている。


 「‥‥‥‥」


 少年は背後を振り向かずにゆっくりと口を開いた。


 「その通りだ。我がこのノトスを統べる王にして神、ノトスである。そこの執務机にいる者は我の身代わりの者だ。だがよくわかったな」


 子供の声であるにも関わらず、大人のような落ち着きある声だった。


 会いに来たノトス神は明らかに10歳程度の子供にしか見えない姿だった。






寝不足が続き、ダウンしていました。アップが遅れまして申し訳ありません!


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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