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<ケテル編> 27.巧妙な罠

27.巧妙な罠



 合同接待は大盛況だった。

 サワンから貰ったお試し用の分量はそれなりに有り、招待した有力者や富豪たち全員に配布できた。

 だが、それでも少量であったため、効果は5分程で切れてしまったのだが、その5分という短い時間がよかった。

 若かりし頃の活力や筋力を取り戻したり、今までできなかったことが出来るパワフルな自分を感じ、生まれ変わった自分をを認識してどんな事を試そうかと期待感を持った瞬間に効果が切れたのだ。

 使用者たちはもっとくれとせがんで来たが、予め示した分量を理解していたため、直様 “売ってくれ” と言う表現に変わった。


 (素晴らしい!)


 ペロトゥガは1ヶ月後の納品を約束して接待の場を御開きにした。

 翌日から個別の納期問い合わせが殺到した。

 中には金だけではなく、地位なども約束すると打診してくる者までいた。

 ペロトゥガは一商人から街の有力者の仲間入りを果たす瞬間も遠くない事を確信した。


 サワン達への接待と配慮も怠らなかった。

 彼らの行きたいところへ案内し、食べたい物を用意し、欲しいものを届けた。

 やり過ぎと思われるくらいが丁度良く、最初は商売に支障をきたすと断られたが、一線を超えてしまうと相手も断れなくなり、遂にはペロトゥガに頭が上がらなくなる、つまり骨抜き状態になるのだ。


 サワン達もほぼ予定通り骨抜き状態になっていた。

 最初は断っていたが1週間程経った頃には断り切れなくなり申し訳なさそうに受け取り始め、その5日後には商売全てをペロトゥガに委ねるので自分はこの接待を受けて良いのだとさえ思うようになっていた。

そして2週間経ったタイミングで、ペロトゥガに納品準備があるため、一度ノトスへ戻るとの連絡があった。

ペロトゥガは再会と活力増強薬草の予定通りの納品の約束を取り付けてサワンたちを見送った。




・・・・・


・・・



 そろそろ1ヶ月経つという頃、原材料調達隊を指揮しているジーバスから伝書鳥が飛ばれされて来た。

 その内容を見て驚愕するペロトゥガは、急遽ザンザロスを自身の執務室へ呼びつけた。

 なぜなら、ジーバス率いる原材料調達隊が運ぶ草木や根など原材料全てが野党に襲われて奪われてしまったというのだ。

 これでは街の有力者や富裕層への定期納入に間に合わず、信頼を失ってしまう可能性がある。

 従って、ペロトゥガは現時点で在庫している薬草でどれほどの納品数をカバー出来るかを確認しようとしているのだった。


 「ザンザロスさん!現在の倉庫の薬草在庫はどれくらいですか?」


 「は、はい!い、以前お伝えした通りほぼ底を尽きつつあります。間も無く調達隊から原材料が届くという計画に基づいて調合計画を組んでおりますので、次回のS級、A級顧客への納品は何とか間に合わせる予定です!」


 ザンザロスは何か失敗したのではという不安から緊張の面持ちで声を震わせながら答えた。


 「ちっ!」


 「ひっ!」


 ペロトゥガの舌打ちに思わず奇声を上げて反応するザンザロス。

 どのような不手際があったのかは分からないがクビを覚悟した。


 (い、いやクビで済めばいい。‥‥何かの賠償を迫られたら俺の一生は終わりだ‥‥)


 恐怖で生きた心地のしないザンザロスは勇気を振り絞って理由を聞いた。


 「あの、い、一体どうなされたのでしょうか?わ、私は何かミスをおかしたのでしょうか?」


 「いえ。貴方のミスではありません。調達隊のミスです。よりによって折角採取した薬草の原材料を野党らしき者たちに強奪されたというのです!しかもこの品薄状態の時にです!」


 ドン!


 「ひっ!」


 ザンザロスは自分のせいではないと聞かされてつつも、ペロトゥガの机を叩く音で驚きのあまり奇声を上げた。

 だが、ペロトゥガの苛立つ理由も分かっていた。

 街の有力者や富豪たちへの納入が滞るという事は信用を失い、別の店で扱っている近しい薬草に切り替えられてしまう可能性が高いのだ。

 その場合、同時に薬草を軸に別の物品も購入してもらっているのだが、それらについても他の店に流れてしまう。

 そうなれば店の売り上げが、最悪4割減ってしまうので、工場や調合研究所などの施設の維持費が賄えなくなってしまう。


 今から必要最低限の原材料調達を行っても半月はかかってしまう。


 「どうしたらよいのだ!」


 ペロトゥガは苛つきながら思案を巡らせているが良い案が浮かばずさらに苛々している。


 「あ、あのう‥‥」


 「なんですか!」


 「ひっ!」


 怯えながらも自分の処遇が少しでも良くなればと思い勇気を出して発言した。


 「こ、今回通常の納品は遅れますが、例のサワンからの活力増強薬草が納品されるので、それを先に供給して猶予頂くというのは、ど、どうでしょうか?」


 「!‥‥そうですね!あれがあれば、我々が今の商権を失うことはない!いいです!いいですよザンザロスさん!すぐにサワンさんへ納期を再度確認し、必要あれば引き取りに行ってください!いいですね?これは失敗できません。確実にお届け出来るよう細心の注意と段取りをお願いします」


 「は、はい!」


 「いいですね?よろしく!お願いしますよ!」


 「はいぃ!」


 「ザンザロスさん!」


 「はいぃぃぃ!」


 サワンさんが運んでくる例の薬草の輸送確認と護衛に向かうなら、とある人物を連れていってください」


 「と、とある人物とい、言いますと?」


 「優秀な用心棒ですよ」

 


 自分のクビが回避できたのか、寧ろ自分で自分の首を絞めているのではないか、頭の中で振り返りがぐるぐると回って結論が出ない状況の中、活力増強薬草の輸送確認のため自ら馬車を走らせる事とした。

 ペロトゥガに紹介された用心棒を乗せて。



・・・・・


・・・



 馬車を南西に走らせたザンザロスがサワンが運んでいる馬車に到達するのは然程難しくなかった。

 幹線を移動しているため、1日も馬車を走らせると鉢会えるためだ。


 「おお、これはザンザロスさんではありませんか。こんな所でお会いするとは、如何なされましたか?」


 「サワンさん!こんなところまで押しかけて申し訳ありません!実は‥‥」


 ザンザロスはサワンに事情を説明した。



・・・・・


・・・



 「なるほど‥‥それは大変でしたね。我々商人にとってのお客様から信頼を得るための重要なポイントは二つ。ひとつはお値打ちだと思って頂けること‥そしてもうひとつは納期を守る事です。納期を守れないというのは信用の失墜に繋がりますから心中お察しします。それで、我々がお納めする例の薬草について納期通り届くのか心配になられてこうして確認に来られたという事ですね?」


 「ええ、そうなんです。あ、いや、決してサワンさんを疑っている訳ではありません。信頼させて頂いております。ただ、野党が現れると厄介かと思いまして、恐縮ながら護衛を連れて参りました‥‥」


 「これは有難い。我々も万全を期しておりますが護衛は多ければ多いほどよいですから」



 こうしてサワンの荷馬車の列にザンザロスの馬車が並走する事になった。

 ザンザロスの馬車が先頭を進み、その馬車の後にペロトゥガが手配した用心棒がサワンの荷馬車の列を見張るように後ろ向きに座っている。


 用心棒は筋骨隆々のいかにも強そうな風貌で、髪は長く後ろで3つのポニーテールにしている男だった。

 前髪が長く顔も半分隠れているため、風によって前髪が揺れる際に時折見える光る目が不気味だったが、その強さは戦闘力の低いザンザロスでもすぐに理解できるほどのものだった。



・・・・・


・・・



 サワンの荷馬車一行は無事に首都ゲズの中にあるペロトゥガの店の倉庫に到着し、荷下ろしできた。

 これで後は街の有力者や富豪たちに納入するだけとなり、ペロトゥガは取り敢えず自室で安堵のため息をもらした。


 「ふぅぅ‥‥。なんとかなったな。有力者や富豪たちへの根回しも出来て、あの薬草さえ手に入れば他はいらないという顧客がほとんどだったからな‥‥サワン様様だ‥‥」


 ペロトゥガは挽回計画とその説明いいわけを考えていた。


 (それにしても、何故薬草の原材料が狙われたのだろうか‥‥。調合レシピと調合師がいないと薬草は作れない。いや、調合師がいれば、レシピは作れなくはないか‥‥。調合師がいるとなれば同業者が野党に依頼して襲わせた?‥‥どこの店だ?盗んで得をするやつは誰だ‥‥?ジローベンのやつか?チカランダのやつか?)


 ペロトゥガのライバルの店は首都ゲズに2店舗あった。

 ジローベンという名の過去数名の調合師を引き抜いた悪どい男が営む薬草店と、チカランダという嘘ばかりついて客を騙し効果のない薬草を売りつけている男が営む薬草店だ。

 どちらの店とも大きな差を付けているが、何かと難癖をつけて自店の顧客を奪おうとする厄介な者たちだった。


 (用心棒に襲わせるか?‥‥いや、大義名分が必要だ。私の商売を邪魔するやつは許さん‥‥ジェイドのやつのようにな‥‥)



・・・・・


・・・



―――数日後―――



 サワンから納入のあった活力増強薬草は無事に各重要顧客へ納入された。

 ペロトゥガは “災い転じて福と成す” とばかりに、納入した活力増強薬草に加えて、通常納入薬草についての割引チケットも同封した。

 “日頃の感謝の気持ちを込めてお客様だけの特典です” と添え書きして。

 このように納期遅れを挽回してさらに信用得るという策に出た。

 方々から感謝と喜びの声が上がった。



 (フハハ‥‥これで私もこの首都ゲズの有力者の仲間入りだ。これを徐々に広めていけば皆私からあの薬草を購入するために色々と融通してくれるだろう。そして末は大統領も夢じゃない!あの薬草を手に入れるために皆私に票を入れるはずだからな‥‥フハハ‥‥ウヒヒ)


 その夜のペロトゥガはこれまでの人生で最高の気分を味わったのだった。



・・・・・


・・・



―――翌朝―――



 コンコン!!


 激しい勢いでドアを叩く音が聞こえる。


 「ううぅん。何だ煩いな」


 時計を見るペロトゥガは時間がまだ朝の7時であるのを見ると、苛立ちの表情を浮かべながら、起き上がった」


 「何だ!」


 「ご主人様!ザンザロス様がお越しになり大至急のお話があるとのことです」


 「何だ‥‥一体何事だ‥‥」


 (ザンザロスのやつ‥‥これで大したことない話だったら降格させるぞ‥‥全く。あいつの鑑識眼は信用しているが、臆病さは不愉快極まりないからな‥‥)


 ペロトゥガは苛立った表情のまま、ガウンを来てザンザロスが待っている応接室に向かった。



・・・・・


・・・



 「何だとぉ!!」


 ドォン!!


 ザンザロスの報告を聞いてペロトゥガはテーブルを思いっきり叩きながら吠えた。

 叩いた手が痛かったのか思いっきり振っている。


 「どういうことか説明しろ!」


 「わ、わ、分かりません!ただ、活力増強薬草を飲まれた方ほぼ全員が激しい腹痛を訴えており、親族の方々が店に怒鳴り込んできているのです。ほとんどの方は既に病院に担ぎ込まれたのですが、どうやら強烈な腹痛と吐き気をもよおす毒が混入しているとのことです!」


 「ど、毒‥‥だとぉ!!」


 ガァァン!!ガッシャァン!!


 椅子はペロトゥガの蹴りによって吹き飛んで行き、高い壺が飾ってある台にぶつかって壺を落とし、その衝撃で壺は割れてしまった。


 「ひぃ!!」


 ザンザロスは怯えている。


 「と、とにかく、み、店の方へ、お、お越しくださいませんか?も、もう私ひとりでは抑えきれません!」


 「くそ!おい!馬車を用意しろ!あと服もだ!」


 「は、はい!!」


 執事は大慌てで言われた通り準備を始めた。


 「くそ!」


 (一体‥‥どうなってる?!‥‥サワンが毒を盛った?!‥い、いや、そんなことをしても奴は得しない‥‥だとしたら誰の仕業だ?!‥‥まさか!ジローベンかチカランダの野郎共が何かしたか?!‥‥だとしたら‥‥許さん!)


 「許さんぞぉぉ!!」


 「ひぇ!!」



 ペロトゥガは急いで店に向かった。


・・・・・


・・・



 「貴様じゃ話にならん!ペロトゥガを出せ!」

 「これは犯罪だぞ!これにきちんと対処できなければ法に訴えて処罰させるからな!」

 「ペロトゥガはどこだ!早く連れてこい!」

 「貴様らも極刑に処してやるからそのつもりでいろ!」


 20名ほどの身なりにいい者達が店の中で騒いでいる。

 従業員達はどうすることもできずに泣きながら狼狽えているだけだった。

 そこへやっとペロトゥガが到着した。


 「皆様!この度は大変申し訳ありません!」


 「ペロトゥガ!」

 「貴様今頃のこのこと現れよって!これで私の兄が死んだら貴様をタダではおかんぞ!」

 「一体何を企んでいる?!あのような毒を混入させて!」

 「もしや貴様!この街の住人を殺して牛耳ろうなどと考えているのではあるまいな!」


 「け、決してそのようなことは!こ、これは、じ、事情を説明させて頂きます!」


 バタン!


 その直後、ドアから怒鳴り込んできた者たちの従者らしき者たちが店の中に入り、それぞれの主人に耳打ちしている。

 気が動転しているペロトゥガは正直に話して罪を軽くすることだけを考えていた。


 「皆様!こ、これはノトスから突如やって来た商人サワンという者の調合ミスにございます!私はただ、彼から今回の活力増強薬草を購入し皆様へ納入しただけに御座います!今回こちら側に非があるとすれば、私の部下の個人的な確認不足になります。私の指示では御座いませんし、私の落ち度でも御座いません!全てはサワンという商人とこの店の店長のザンザロスの責任に御座います!」


 「!!」


 ザンザロスは目の前が真っ暗になりその場で気絶した。

 あまりの緊張と冤罪に意識が保てなくなったのだ。

 その直後、ひとりの富豪が怒りの表情で口を開いた。


 「ペロトゥガ貴様‥‥、それは本当か?」


 「本当に御座います!」


 すると別の有力者の親族が口を開いた。


 「おかしいぞ。今そのサワンという “医者” が解毒剤を調合して私の父上の毒を解毒をし終わったと連絡が来たぞ」

 「私の兄上も解毒してもらって回復したと連絡があった」

 「私の夫も同じです。ワウザーンで小さな病院をやっている町医者のサワンという名の医者がたまたま病院に研修に来ているところに幾人も毒に犯された者たちが運ばれてきため診察にあたり、毒だと判断した結果その場で複数の薬草を調合して解毒薬を作り、飲ませた所たちまち回復したと聞きましたよ!」


 「!!」


 衝撃だった。

 ペロトゥガは一体何が起こっているのか分からず、ただただこの目の前の最悪な状況に愕然としていた。


 「どういう事か説明しろペロトゥガ!」

 「早く説明しなさい!」

 「黙ってないでなんとか言え!」


 「‥‥‥‥‥」


 何度何を想像しても状況が飲み込めず、返す言葉が見つからない。


 「そうか、よく分かった!‥‥貴様、命の恩人であるサワン医師を今回の首謀者だと言いたいのだな!」

 「自分の仕業であるのを棚に上げて我らの恩人に罪を着せようとは不届なやつめ!」

 「捕まえろ!こやつを牢にぶち込まねばならん!」


 「!!」


 ペロトゥガは咄嗟にドアから出ていき逃げた。

 一目散に走った。


 (何が‥い、一体何がどうなってる?!)


 ペロトゥガは混乱しながらも状況を整理しようと試みる。

 この危機を脱するためにまず最初にしなければならないことだったからだ。


 (サワンが‥‥医者?!‥‥ば、ばかな!‥‥この一連の流れで最も得をするやつは誰だ‥‥?!)


 走りながら懸命に整理する。


 (私を失墜させて最も得をする者‥‥‥、つまりこのタイミングで最も信頼を得た者‥‥)


 「‥‥‥‥‥‥」


 普段走ることなどないため、肺が焼けつくように苦しい中必死に考えるペロトゥガ。

 そしてひとつの結論に辿り着く。


 「サワンだ!‥‥これは巧妙な罠だった!」


 (活力増強薬草は本当にある。だが、それをエサに私がこの街の有力者や富豪などの上客を奪う作戦だったのだ!私が売ったという状況を作り、毒を掴ませて上客たちを悉く毒状態にし私の信頼を失墜させ、元々あった解毒薬を医者と称して上客達に飲ませて信頼を勝ち取る‥‥‥毒の症状が出た者が私の上客だと分かって、上客全員の私への信用を失墜させれば、あとはサワンが私の持っている商権を引き継げば、私の売り上げと利益総取りできる!一般客などオーナーが誰だろうと関係ない)


 「くぞぉ!!やられた!!」


 (この窮地を乗り切る方法はただ一つ‥‥)


 ドンドン!!


 ペロトゥガは高級宿屋の一室の前にたどり着き、荒っぽくドアをノックした。


 ガチャ‥‥


 「誰だ」


 「私です!‥‥仕事です!」



・・・・・


・・・



―――ゲズ総合病院―――



 「これで良いでしょう」


 「いやぁこの度は助かりましたよ」


 病院長がサワンに礼を言っている。

 ワウザーンの町医者が研修のために偶々訪れていた際に同じ毒の症状で担ぎ込まれてきた約20名ほどの人々を手際よく解毒薬を調合して煎じて飲ませて解毒させたからだ。

 通常であれば、どのような毒なのかの特定に時間がかかり、下手をすれば痛みによるショック死、または脱水症状から昏睡状態となり死に至る可能性があったのを、全員回復させてしまったのだから病院の医師や病院長は驚かされた。

 しかもその患者が街の有力者や力ある富豪たちばかりだったのだから、感謝の言葉もなかった。

 さらに驚いたのは、このサワン医師言った言葉だった。


 「これはこの病院の設備があったからこそ早期に解毒できたのです。この功績は全てこの病院のもの。つまり病院長の功績ということです」


 この謙虚な姿勢に衝撃を受けた病院長は、是非ともこの病院で働いてくれないかと頼んだが断られてしまった。

 そのため、患者たちには素直にこの病院の設備とサワン医師のおかげ助かったのだと説明した。



 ・・・・・


 ・・・



 その病院の入り口には2人の男が立っていた。

 1人はペロトゥガ。

 もう1人はその用心棒で、筋骨隆々で髪を後ろで3つのポニーテールにしている男だった。

 サワンが活力増強薬草を運ぶ道中をザンザロスが護衛するのに同行した者で、前回同様に風になびく前髪から時折見える目が不気味に光っていた。


 しばらくすると病院からサワンたちが出てきた。


 「サワン!」


 ペロトゥガが叫ぶ。

 それにサワンが反応する。


 「はい、私は確かにサワンと申しますが、あなたはどちら様でしょうか?」


 「!!‥‥な、なんだとぉ?!‥‥‥フフ‥フハハ!そういう事か!最初から私をはめるつもりの罠だったんだな!薄汚い泥棒ネズミが!」


 サワンから放たれたその言葉に怒りが頂点に達した。


 「サルペドンさん!やってしまって下さい!殺しても構いません!」


 サルペドンと呼ばれた用心棒が前髪の奥から覗かせる怪しく光る目を鋭くサワンたちに向けながら言った。


 「そういう訳だ。あんたらには死んでもらうが、ここじゃ一般民に迷惑もかかる。場所を変えるぜ。面貸せ」


 「面貸せと言われても‥‥何のことかさっぱり‥‥」


 シュン‥‥ガシイ!


 サルペドンが投げた担当をサワンの後ろにいる狐面の男が軽々と掴んだ。

 顔の目の前まで担当が迫っていたにも関わらず、瞬きひとつせずに平然としているサワンは言った。


 「仕方ありませんね。この後も付け狙われるのは困ります。いいでしょう。とちらへ行けばよいですか?」


 「ここから10ブロック西に行った街外れにちょっとした広場がある。そこに来い。くれぐれも逃げるなよ。逃げても俺はとことん追う。俺が今まで逃した者はいない。それが神であってもだ」



・・・・・


・・・



―――街外れの広場―――



 近くに廃墟になった工場があるせいで、人があまり寄り付かない街外れの広場にサルペドンとサワンたちが立っている。

 ペロトゥガは少し離れた場所から見ている。


 「逃げなかったのは褒めてやろう。いや只単に臆病なだけかもしれないがな。いずれにしてもお前達はここで死んでもらう。お前達に恨みはないが、これも用心棒稼業の辛いところだ」


 サルペドンの言葉に反応してサワンの後に立っている狐面の男が前に出て一言言い放った。


 「私が出よう」


 「頼みましたよカムス」


 「私はカムスという者。私も貴殿には何の恨みもないが、雇い主を守るのが私の役目。これもまた用心棒の辛いところだな」


 「面白い‥‥行くぞ!」



 サルペドンとカムスの戦いが始まった。






次のアップは水曜日です。


いつも読んでくださって本当にありがとう御座います!


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