<ホド編>21.ダンカンの最期
21.ダンカンの最期
「アレックスおじさん!ご無沙汰しております!」
驚きの表情から泣きそうな表情に変わり、最後には笑顔を見せアレックスの下に駆け寄ってきたのは、現在のパンタグリュエルをまとめている総帥のグレゴリだった。
「おぉ、おめぇはグレゴリだな?大きくなったじゃぁねぇかぁ!てかいい加減おじさんはやめろぉ!」
アレックスも思わず笑顔になりグレゴリの頭をくしゃくしゃにさすりながら答える。
グレゴリも2メートル程度の身長があるが大男とのアレックスとは大きな差だ。
グレゴリはダンカンの息子だ。
ダンカン亡き後、パンタグリュエルを立て直すために自ら総帥を買って出て必死に取りまとめている。
アレックスがここにきた理由は2つ。
ダンカンの最期を聞く事と預けていたものを引き取る事だった。
「しかしよぉ、このアジトまでの街並みぃ、だいぶ荒れてたけどどうしたんだぁ?」
グレゴリはアレックスの言葉に思わず悔しい顔を隠す事なく眉間にしわをよせ、握りこぶしを硬くしながら答える。
「ええ‥‥。今や我がパンタグリュエルはかつての力はなく、この素市にも元老院の犬となった冒険者たちが増え、いくつもの小規模キュリアを作って我がもの顔で暴れているんです‥‥‥。パンタグリュエルの団員が見つけ次第鎮圧していますが、中には上級クラスにあたるエメラルド級冒険者もいて逆に返り討ちに会うこともあって‥‥‥全く情けないです‥‥」
グレゴリは俯いて悔しさを隠すように食いしばっている。
「たしかによぉ、ダンカンがいなくなったのは痛手だが12ダイヤモンズがいただろう?あいつらはどうしたんだぁ?あいつらならエメラルド級なんざぁ一瞬で消し去れるだろうがぁ」
「12ダイヤモンズ‥‥」
12ダイヤモンズとはパンタグリュエルが誇る精鋭たちでダイヤモンド級を超える階級を有する12名の猛者たちだ。
素市をほぼ支配下において治安を維持し人々の生活を守ってこれたのは紛れもなく12人のダイヤモンド級の猛者たちのおかげであり、彼らがいたら今のような小規模キュリアのいざこざは起きるはずもなかった。
「全員‥‥殺されました!!」
「!!」
アレックスは一瞬驚きの表情見せたがすぐにいつもの表情を取り戻す。
「三足烏か‥‥」
「ええ。私の知る全てをお話しします。おじさんには‥‥、父の最期の言葉も‥‥」
・・・・・
・・・
「そうだったのか‥‥」
グレゴリの話では、ダンカンと12ダイヤモンズはたったふたりにやられたとのことだった。
ひとりはとぐろ赤毛の大男。
ダンカンもアレックスと同様にガタイも大きく力もあり、魔法にも長けていたためそう簡単にやられるような実力差ではなかったはずだった。
そこに12ダイヤモンズが加われば、あるいはダンカンたちがあのとぐろ赤毛のホウゲキを倒せていた可能性もあった。
もちろんホウゲキと対峙したアレックスにはあの男の強さは十分に理解できている。
その上で、ダンカンが12ダイヤモンズと連携すれば勝機はあったと思ったのだ。
それほどの実力がパンタグリュエルの猛者たちにはあった。
しかし、そうはならなかった。
ダンカンはホウゲキに一方的に押し負け殺されたのだった。
なぜなら、12ダイヤモンズを一瞬にして仕留めたもう一人の男がいたからだ。
「その12ダイヤモンズを一瞬にして倒してのけた男ってぇのはどんなやつだったんだぁ?俺がぁ見たホウゲキってやつは実際に戦ってみて奴の強さは理解しているつもりだが、もう一人俺の仲間とぉ戦ったやつがいてなぁ。そいつは、俺の見立てでは12ダイヤモンズが総出でかかれば倒せない奴じゃぁなかったんだがなぁ‥」
「わかりません。あまりにも動きが早すぎたのと、補助系のウルソーとロゴスの魔法に長けた者と回復系のウルソーに長けた者がまず殺されました‥‥」
涙を流しながら、そしてその男への恐怖をその顔に覗かせながらグレゴリは話を続ける。
「その後、攻撃系リゾーマタに長けた者と素早さに長けた者がその男の動きを止め、12ダイヤモンズの司令塔であるガザムが一気に切り込んだんです」
「あのガザムかぁ。あいつぁうちのワサン並みの強さだからなぁ、仕留めたんじゃぁねぇのか?」
パンタグリュエルの12ダイヤモンズの強さの理由は、一人一人の強さはもちろんだが、頭脳・近距離攻撃力・遠距離攻撃力・俊敏さ・攻撃魔法・補助魔法・回復魔法それぞれに長けた者たちの絶妙な連携だった。
その連携を崩すのは難しく、アレックスでも勝てるかどうか五分五分という強さを誇っていた。
緋市に拠点を置く数に勝るガルガンチュアに対し、素市に拠点を置く戦闘力の高さを誇るパンタグリュエル。
この二つの巨大キュリアがあったからこそ、これまで元老院の支配の中で、特に貧しい人々は生き抜くことができたし、アレックス達レヴルストラもある程度自由に活動ができたのだった。
「いえ、その男はスピードもさることながら腕力にも秀でていたようで、ガザムの渾身の一撃を受け切り、そのまま押し返して、速さを奪う補助魔法に長けた二人を屠りさり、あとは残されたガザムたちを一人一人切り刻んでいったんです‥‥」
「強さもスピードもすげぇようだが、とにかく恐ろしいのはその冷静さかぁ。見事に12ダイヤモンズの弱点を突いて順番に倒していったってぇ事だなぁ‥‥」
「ええ‥‥。その直後に今度は狙いを私に定めて襲って来たんです。その顔はとても冷たく無表情でした‥‥でも逃れられないと思わせる執念深さというか鋭さというか‥‥そういうものが目の奥に見えたんです‥‥そして、とにかくもう終わったと観念しました」
「でも、グレゴリ、おめぇは生きてるなぁ」
「はい‥‥。最後の力を振り絞ってガザムさんがその男の足を掴み自爆魔法をかけたんです。その隙に父が私に‥転移石を投げつけて‥‥そのほんの一瞬でとぐろ赤毛が放った一撃で‥‥父は‥‥後方から胴を真っ二つに切られました!」
グレゴリの頭のその時の情景が浮かぶ。
・・・・・
・・・
「グレゴリ様ぁぁぁ!!させん!させんぞ!この命に代えても!!!」
ガザムが最後の力を振り絞り、もうひとりの男が同胞を切り刻み終わって矛先を変えた一瞬を逃さず、その男の右足首をなんとか掴みとった。
「ガザム!よせーーーー!!!」
叫ぶダンカン。
「ボゾムジオエクスプロージョン‥‥」
ガザムの体が赤く光り出す。
ガザムは人間が使える最高クラスであるクラス3のリゾーマタ炎系自爆魔法を唱えたのだ。
それは命を代償に人間が唱えられる最高の爆裂魔法だった。
「ふむ‥あなたのその行動は尊敬に値する。ですがここで死ぬわけにはいかない」
ズザン!
その男はガザムの腕を素早く切断した直後全力でジャンプし、ガザムの自爆攻撃を辛うじて躱す。
ドッゴォォォォォォォン!!
超高熱の爆熱フレアがガザムの体の周囲5メートルに巻き起こる。
ガザムの身を呈した衝撃はその場に一瞬の隙を生んだ。
それを逃さずにダンカンはポケットに入れていた紙に包まれた石をグレゴリに投げつける。
爆破の衝撃でダンカンの言葉は聞こえなかったが、その口の動きはグレゴリには読み取れた。
”あとは頼んだぞ”
「ほう、我に背をむけるとは戦いを諦めたか。では死ね」
一瞬目を離した隙にダンカンの背後に立つ恐ろしく大きな影。
振り返るダンカンが対処できないほどの凄まじいスピードと力で戦斧を振り下すホウゲキ。
ザッヴァァァァァァン!!
ダンカンは、転移し始め神々しく光りだした愛しい息子を見つめながら笑みを浮かべてこと切れる自分の命を感じていた。
(弱っちぃなぁって馬鹿にされるな‥‥きっと‥‥。愛しているよ‥‥グレ‥ゴリ‥‥)
・・・・・
・・・
ドッグォォォォン!!
アレックスが思わず叩いたテーブルは一瞬で粉々に砕け散った。
「‥‥‥‥」
「おじさん‥‥。その転移石に巻きついていた紙がこれです‥‥」
そこには三足烏・烈の組織構成が書かれていた。
ダンカンはガルガンチュアと連携し、元老院大聖堂に配置されていた聖騎士隊含めて情報収集を行っていたのだ。
三足烏の情報を得るのに、大聖堂内にいた聖騎士隊はほぼ全員が殺され、その情報をダンカンの下まで届けるのに数十人が命を落としている。
中には拷問を受けたものもいたが、誰一人としてダンカンの指示で動いている事は話す事はなかった。
しかし、三足烏は情報の軌跡を辿りダンカンまで行き着いてしまったのだ。
ダンカンの血が滲んでいるその紙にはこう記されていた。
ーーーーダンカンメモーーーー
―三足烏・烈―
・ 連隊長である<とぐろ赤毛>ホウゲキを筆頭に4つの分隊があり、その総数は500人にのぼる。
・ 『500人というとガルガンチュアやパンタグリュエルから見れば弱小キュリアレベルの規模だが、ホウゲキとその4つの分隊それぞれをまとめる分隊長が桁外れの実力だった事からその規模は機動力のある強力な組織となっている。
・ 烈連隊:連隊長・・・ホウゲキ。屈強な大男。どぐろを巻いた赤毛が特徴。
・ 第一分隊:分隊長・・・情報なし。一度も姿を見せず不明。第一分隊の存在を確認したのみ。
・ 第二分隊:分隊長・・・カヤク。細身で長身の男。戦力・能力不明。
・ 第三分隊:分隊長・・・ギョライ。シャチの魚人。人の血が濃いためか肺呼吸と思われる。戦力・能力不明。
・ 第四分隊:分隊長・・・フンカ。容姿は中肉中背。戦力・能力は不明。
ーーーーーーーーーーーーーー
この情報を掴んでいたダンカンは、三足烏・烈がパンタグリュエルのアジトに現れた際に相手が二人だった事から勝てる可能性があると踏んだようだった。
しかし、その予測はいとも簡単に裏切られた。
「12ダイヤモンズを屠った男は、その見た目の特徴からカヤク、ギョライ、フンカではなく、おそらく第一分隊長だと思われます‥‥」
「だろうなぁ」
「ありがとぉなぁ、グレゴリ。この情報は貴重だぜぇ。おそらく俺たちは、10日以内にこの全員とやりあう事になるだろうなぁ。ダイヤモンド級を瞬殺する分隊長かぁ‥‥。おそらく奇石ランクの中級には位置するやつらだろうなぁ」
「そこまで!あ、いや、そうですね‥‥。そこまでの実力はあると思います‥‥」
奇石ランクとはダイヤモンド級を超えるランクをいう。
奇石ランクには全部で5段階あり、最下位はレッドダイヤモンド級だが、相当な強さを誇る。
ダンカンたちを襲った三足烏はその中で中級以上と推測されるのだ。
「ありがとうなぁ!あともうひとつお願いがあるんだが‥‥」
「ええ、おじさんからお預かりしているものを取りに来られたのですよね?こちらに用意しています」
「おぉ、流石はダンカンの倅だぁ!遠慮なく返してもらうぜぇ」
アレックスは布に巻かれた細長いものをふたつ受け取った。
「はい!‥‥そして父の‥‥みんなの‥‥仇をお願いします!」
涙ぐみながら懇願するグレゴリ。
「もちろんだぜぇ!グレゴリよ!弱っちぃダンカンの借りは必ず返すぜぇ!」
そういってアレックスはパンタグリュエルのアジトを後にした。
・・・・・
・・・
―――ところ変わってダンジョン内――――
「どうやらこのダンジョンに巣食う4体の派閥の長の一体は9つの尾を持つ化けぎつねのようねぇ。名前は‥‥えぇっと “オボロ” ?っていうらしいわぁ」
ロムロナが隊を率いていたホブゴブリンの隊長の首を締め上げながら楽しそうに拷問して情報を聞き出していた。
ホブゴブリンの爪は全て剥がされ、歯も2〜3本抜かれているようだ。
ロムロナの行っているそれは、ダンジョン中に響き渡るほどの叫び声を発してしまう拷問だった。
見ているスノウは気分が悪くなるので少し距離をおいて座り目をそらしておりそれ以上の事は分からないが、そのホブゴブリン隊長は瀕死のようだった。
「ははぁーん、なるほどねぇ。もうひとつの派閥の長の一体はダークスライムのようね。名前は‥‥“ガングリオン” かぁ」
「あとの残りの2体については、名前だけねぇ。えぇっと “アスゼネコ” と “ヴァルン” ねぇ」
「なばえ‥‥言った‥‥ばやくごろじでくで‥‥」
4派閥の長の情報を得体の知れない者たちに喋ったとあってはこのダンジョンでは生きていけない。
どうせ死ぬ身なら、この拷問による苦痛を早く終わらせたい。
その一心で喋ったホブゴブリン隊長ははやく殺してほしいと懇願した。
「えぇーーー。それじゃぁつまらないわねぇ。もがき苦しむ様をみるのがぁそそるんじゃぁないのぉ、ねぇ?スノウボウヤもそう思うでしょぉぉ?」
「思わない」
悪趣味だ。
付き合ってられん、とスノウは思った。
確かに情報収集は必要だし、このダンジョン攻略は競争だからなりふり構っていられないが、ロムロナの拷問はスノウにとって見るに耐えないものだった。
スノウは心からの嫌悪感を覚えていた。
エントワやワサン、エスティはこんな事をせずに情報を聞き出すだろう。
もちろんニンフィーもだ。
(こんなやつがどうして彼らと一緒に旅が出来るのか不思議だよ全く‥‥)
だが、このロムロナのおかげで魔法の使い方が格段に上達したのも事実。
魔法はこの世界にいる根源となる精霊に近づくことだという。
根源となる精霊にはいくつかの種類があり、それぞれの精霊で使える魔法の領域が違うようだ。
本来生まれながらに何らかの精霊の加護がついているらしく、特殊な人間には複数の精霊の加護がつく。
つまり、使える魔法の種類は生まれた時にどの精霊の加護を得られたかによるらしい。
スノウがロムロナから聞いた話によると、(全て覚えられなかったが)ざっとこんな感じだ。
<元素魔法:リゾーマタ>
リゾーマタと言われる精霊から加護を得て使える魔法の種類。
火・水・風・土という4大元素をベースにした魔法。
このリゾーマタは魔法の派生幅が最も大きく、火と水と風を組み合わせる事によって雷魔法が使える、といった感じらしい。
それで上手く壁を作るとバリア効果があるといった具合だった。
アレックスが得意とする魔法だった。
元々この世界で生まれていないいわゆる加護の無いスノウにとって、ニンフィーから乗り移ってきた何か?のおかげでリゾーマタを使えるようになったと思われる。
スノウは天技:エンパス(感応能力)によって見た魔法やスキルは全て使えるようになるが、ゴーレム戦の時に見せた誰も使えないレベルのウィリウォーというクラス5の魔法を使えたという点で、リゾーマタはニンフィーから乗り移った何かの影響と見ている。
<調和魔法:ロゴス>
ロゴスと言われる精霊の加護による魔法。
これは周囲との調和を行う魔法との事だがその種類は多様だ。
周囲と調和し、生命力や魔力を感知したり、自分の気配を周囲に悟られないようにしたり、精神操作したり、上級魔法となると自分の何かを犠牲にして大きな効果を得る等価交換系の魔法も使えるらしい。
レヴルストラで言えばワサンが得意とする魔法だった。
<活性魔法:ウルソー>
ウルソーと呼ばれる精霊の加護による魔法。
これは対象の肉体強化や回復ができる魔法らしい。
冒険するならウルソーを極めたメンバーがいるのといないのでは生存率が格段に変わる。
ニンフィーは半分精霊であるため、複数の精霊の加護を得ているようで様々な魔法を使えるのだが、一番得意なのがこのウルソー系魔法らしい。
因みに極めると神聖化させる事ができるらしく、神聖化できると使える魔法の効果が格段に向上するらしい。
例えば、ウルソーが神聖化すると、エル・ウルソーと呼ばれる加護がつき、肉体強化魔法でいえば、ウルソーレベルでは体力や筋力の強化だが、エル・ウルソーレベルになると皮膚を超強化し刃物や銃弾も跳ね返す効果を施す事ができるといった具合だ。
その他には原初精霊のアルケーや神秘精霊のミュトス、異形精霊のゾスなどがあるが使える者は非常に限られる。
その代わりその力は絶大で、中には一人で一国を滅ぼすだけの力を持つ者もいるようだ。
それに加えてそれぞれの魔法にはクラスがあり、1から7までのクラスがあるらしい。
人間はそもそも加護に耐えられる精神力と肉体に限界があるためクラス3までしか使えない。
クラス3を使える人間もわずかで、ほとんどの人間がクラス2程度のようだ。
ロムロナやニンフィーのように人間では無い種族にはクラス4以上を使える者もいる。
しかしクラス5以上となると、天使や悪魔・神じゃないと使えない。
なんだか不公平だ、とスノウは思った。
誰が決めたルールか知らないが、最初から人間は分が悪い。
これでは神や天使・悪魔には従うしかないではないか。
そして、もう一つ分かった事実は、昔から神話やら伝承に登場する神や天使・悪魔の存在はこの世界にもあるという事だった。
(おれのいた世界同様に本当にいるかどうかは怪しいもんだけどな‥‥)
魔物の存在や魔法が使える事実は信じるが、天使や悪魔の存在は前の世界の感覚が残っているからか、半信半疑だった。
「さぁて、スノウボウヤ先に進むわよぉ。どうやらこの付近の魔物じゃぁこれ以上の情報は入手できそうにないしねぇ。それにそもそも魔物もいなくなってしまっているみたいだしぃ」
(そりゃそうだろう。あんな拷問をして、恐ろしい叫び声がこだましているところにやってくるアホな魔物なんているわけない。魔物と戦って戦力を上げる目的なのに、魔物を近寄らせないってどういうことだよ、まったく‥‥)
スノウは嫌悪感を露わにした表情でロムロナに目をやった。
それを快感とばかりに笑みを浮かべるロムロナにスノウは更に嫌な気持ちになった。
さらに下層に進むスノウとロムロナ。
魔物のレベルも格段に上がってきており、戦闘もきちんとセオリーを踏んだ上で状況判断して倒さないと大きなダメージを受けるほどになってきた。
セオリーとは、まず初めに基本的に自分に強化魔法をかける。
次に環境変化魔法をかけたり、弱いリゾーマタの元素系魔法を相手にはなったりして相手がどういう耐性やスキルをもっているかやスピード、パワーを確認する、いわば情報収集を行う。
そこで相手の強み弱みを把握し、大きなダメージを喰らわないように相手の得意とする攻撃に対する耐性魔法をさらにかける。
そして相手の弱みに付け込む攻撃や弱体化魔法をかけて体力を削ってから隙をついて一気に畳み掛ける。
最初ロムロナには相手を圧倒する強力な魔法の使い方や技の使い方の教示を要求していたが、きっぱりと断られた。
代わりに地味なこのセオリーを徹底的に体に叩き込めといわれたのだった。
相当数の魔物を倒していくたびに自然と意識が相手の特徴を捉える事に集中できるようになり、相手の動きが見えるようになってきた。
つまり、相手の特徴がわかると相手の動きが読めるという事だ。
弱点を突かれればそれをかばうアクションを取る魔物がほとんどだし、強みを活かした攻撃には自信があるため必ず隙が生まれる。
その隙をついてカウンターをキメると相手は途端に自信を失い防御に徹してくる。
防戦に入った魔物を倒すのは簡単だ。
すでに弱点も見えているわけだからその攻撃を連続して出せばいい。
最後にやけくそになって足掻いてくる魔物も多いが、そのほとんどには策がない。
やけっぱちというやつだった。
冷静に見ていればかわす事は簡単だし、何よりそれまでの行動パターンが見えているから動きも捉えやすい。
そして最低限に抑えた魔法を繰り出す事によって魔力も節約できる。
長期戦を考えた場合、この節約が生死を分ける事になる。
これを何十回、何百回と繰り返しているうちにエメラルド級以上の上級冒険者で苦戦するような魔物も余裕で倒せるようになってきた。
もちろん、ウィリウォーのような強力な魔法や必殺技的なスキル(まだ持ってないけど)などは一切使わない。
夜も更けて初日が終わろうとしていた。
自分の戦闘力の向上としてはまずまずの成果だろう。
ロムロナは拷問し足りないらしくちょっと不満げだった。
『みんな聞こえる?』
突然ニンフィーの思念が頭の中に飛び込んでくる。
ニンフィーはロゴスクラス4のマインドトランスファーの魔法を強力に使えるため、かなりの広範囲で自分の言葉を仲間に伝える事ができる。
因みにロムロナもワサンも使えるがその範囲は極めて限定されるらしく実質使えないレベルとのことだ。
耳元で囁くような近さがないと伝わらないというレベルらしいから、そんなものささやいた方が魔力消費がないだけマシ、というものだった。
また、仮に広範囲に使えるだけの素質があっても特定の人物だけに思念を伝えるためには相当の修練と集中力が必要のため、ニンフィーのように広範囲に散らばったレヴルストラメンバーだけに伝えられるものは相当稀のようだ。
『私の感知魔法によれば、4体のボスモンスターのうち1体がエントワの手によって撃破されたわ。感知色からしておそらくアスゼネコ。きのこの化け物ね。残りは3体。エントワに全部倒されないようにね』
「あららぁ。先越されちゃったわねぇ。スノウボウヤ、明日は本気で行くわヨォ」
「はいはい、師匠」
・・・・・
・・・
「フン、サセルカヨ」
ダンジョンの岩陰で携帯食料を口にしているワサン。
・・・・・
・・・
「何なのよ‥‥この魔物の強さ。とてもじゃないけどボスモンスター?まで行けそうにないわ‥‥。ライジ!ご飯はまだ?早くしなさい!」
「はいぃ!!」
結局ライジはダンジョン探索に駆り出されエスティとともに行動しているようだ。
・・・・・
・・・
レヴルストラのメンバーそれぞれが決意新たに明日に備え束の間の休息をとる。
10/30 修正




