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<ケテル編> 24.妙案

24.妙案



―――エウロス国 首都ゲズーーー



 翌朝街を出発したスノウ達は、夕方には首都ゲズに到着した。

 高い壁に囲まれた巨大な街だった。

 壁には神の息吹デヴァプラーナを取り込むための吸風口がついており、普段は開いている。

 中の街並みはその吸風口から取り込まれた風が効率的に流れる様な建物配置となっており、通りには常に風が吹いているらしい。

 そして全ての風は徐々に集まり最終的にはエウロス国大統領府エリアに吹き込んでいるとのことで、風が大統領の元に集まってくるしくみだ。


 初めて訪れず街だがジェイドがいてくれるおかげで事前情報を入手できている。


   ・エウロス国はケテルの4国のうち最も地位の低い扱いだったらしい。

   ・理由はケテルにおける役割が唯一風ではない事だという。

   ・北のボレアスは冬を運ぶ冷たい風。時に暴風を呼ぶ。

   ・西のゼピュロスは春を告げる豊穣の突風を吹かせる。

   ・南のノトスは秋を引き連れて吹く爽やかな南風。

   ・そして東のエウロスは暖気とともに雨を降らす。

   ・そのため、様々な神の息吹デヴァプラーナを使った装置の供給が後回しらしいのだ。

   ・様々な装置とはエレキテムと呼ばれるものでボレアスから供給を受けており、

     街の灯りや自動で動く乗り物など様々のようだ。

   ・このエレキテムがあるのとないのとでは生活の利便性に雲泥の差があり、

     4国でエウロスが遅れをとっている最大の理由らしい。

   ・それがこの2年間で大きく変わり、首都ゲズは大きく発展したのだという。

   ・その立役者が大統領のスロボア・イドという人物で2年前から大統領を務めている。


 スノウたちはしばらく首都ゲズに滞在し、イド大統領に会う方法を探すこととした。

 これまで王宮や政府から依頼のあった公式クエストを達成すると国のトップと謁見するチャンスが得られたが、この都市にはそのような特典はないらしくイド大統領には会う事ができないので、今回は色々と聞き込んで糸口を見つけるしか無かった。

 その前にジェイドの店を取り返すのが先であり、ジェイドの案内するまま店に向かっていた。

 ジェイドはスノウ、バルカン、ソニックと共に店の近くの建物の2階のカフェに来ていた。

 店が見える位置にあるカフェである。


 「あれが俺の育てた店だよ」


 「でかいな‥‥‥」


 「ジェイド、お前商才あるだなぁ」


 「あれだけの規模の店をどれくらいの期間で持ったんですか?


 バルカン、スノウの素直な感想の後にソニックが質問した。

 それに対してジェイドが答える。


 「5年くらいかな」


 「お前、剣士やるより商売やった方がいいんじゃないか?」


 「ははは‥‥そうかもね‥でもこれでも結構剣技の鍛錬を積んだからそこそこ戦えると思うんだけどな」


 「いや、オレはお前の商売の素質にかける」


 「おい、誰か出てきたぞ」


 バルカンの意味不明なコメントを無視してスノウが何かに反応した。


 「あれは‥‥あの者です。私が店を預けた男。そして戻った私を捕らえ否国に置き去りにした者‥‥名をペロトゥガ・ジャイナースンと言います」


 「なんだか優しそうな顔しているな。本当にお前を捕らえて否国に放置したのか?」


 「バルカン。見た目で判断しちゃだめだぞ。よく見ろ。あの笑顔」


 「ん?‥‥‥わからん」


 「笑ってないんだよ。笑顔を見せているにも関わらずな。ああいうタイプはサイコパスが多いな」


 「サイコパスって何だ?」


 バルカンの質問にソニックが答えた。


 「感情の一部‥‥愛情とか良心とか、そういうのが欠けてしまっている者の事です。あれは表向きいい人を演じているが裏では相当ひどいことをなんの躊躇もなくやってのけるタイプなのでしょうね。例えば、人の悲鳴を聞いてみたいと思ったら目の前で笑いながら相手の爪を剥がしたりできる‥‥でもああやって表向きはいい人を演じている。そんな感じです」


 「ヤバいやつじゃないか!」


 「声がでかいぞバルカン」


 カフェにバルカンの声が響いたためスノウが嗜めた。


 「ソニック、お前はどう思う?」


 スノウに見解を求められたソニックが答える。


 「僕もスノウと同じ印象を持ちました。しかも彼の戦闘力‥‥然程高くないでしょう。この世界では例のアレが使えないので単純武力で言うならあの体格と筋力ではおそらく普通の人間と同じです」


 例のアレとは魔法のことである。

 この魔法の使えないケテルで、魔法という言葉を口に出すことでどのような影響があるのか分からないため、そのような表現にしたのだ。


 「なるほど。よし、偵察はここまでだ。一旦どこかに宿をとって作戦を立てよう」


 スノウ達はカフェを後にした。



・・・・・


・・・



―――宿屋―――


 宿代をケチらずに少しいい部屋をとった。

 広い部屋だ。

 レヴルストラメンバーも増えたため、小さい部屋では窮屈になってきたからだ。


 「それで、どうやってあの店を得るか‥‥だな」


 スノウが切り出す。


 「殴り込みか?」


 「バルカンのバはバカのバね」


 「はぁ?!何でだよ。じょ、冗談に決まってんだろ」


 「こっちも冗談よ」


 「はぁ?!」


 バルカンとソニアがいきなり揉め出したのでソニックが出てきた。


 「すみませんバルカン」


 「いや全然気にしてないぜ、さてどうするかな?賢いソニックには何か妙案があるんじゃないか?」


 「そうですね‥‥」


 スノウは自分の考えた案を言おうとしていたが、バルカンが色々良い意味で出しゃばってくれたので、全員で考える方向に議論が進みそうだとなり少し様子を見ることにした。


 (重荷を減らしたい訳じゃないが、みんなの意見に基づいて行動することもこのチームの連携には必要か‥‥。ひとりひとりが考えて行動することは出来るけど、仲間の思考を読みながら連携行動出来るかどうかは未知数だからな。仮にホドのレヴルストラが1stとするなら、レヴルストラ1stの連携ほど素晴らしかったものはなかった。4thもそれ以上の連携行動が取れるようにしたい‥‥。ワサンもそのあたりを感じているかもしれない‥‥今度話してみるかな)


 ソニックは目を瞑り指で顎を触って思案を巡らせる仕草をした後に、何か閃いたように目を開けた。

 ソニックが表に現れる度に、背中からクゼルナが両手を回して抱きついており、まるで憑依霊のように不気味に見えるが既にこれがいつもの光景になりつつあり皆違和感なく見ていた。

 ソニック本人も満更ではない様だ。

 クゼルナの手を握りながら思案した結果を話し始めた。


 「店の店主、ペロトゥガに接近して彼をもう少し良く知る必要がありますね。武力でどうにかすることは簡単です。ですが、もしこの国の法に触れるような形で知れ渡る場合、イド大統領に会う目的に支障が出ます。それは避けたい。ですので、彼から合法的に奪う。そしてそれに癇癪を起こして武力行使に出たら、正当防衛ですね」


 「妙案ね。ソニックあなたは中々頭がいいわ。ジェイドを拉致して放置出来ると言うことは、それなりこの首都ゲズでも力を持っている人物なのでしょう。店の売り上げ規模を見れば、相当な数の用心棒的な者達を雇うことも出来るし、周辺の権力者にお金をばら撒いて結託することも可能だから、迂闊に手を出したら火傷するわ」


 「なるほど。それで具体的にどう合法的に奪うというんだ?」


 ソニックとシアの会話を聞いて、後ろで腕を組んで聞いていたワサン質問した。


 「僕に考えがあります。多分大丈夫でしょう。狡猾に行きますよ」


 ソニックが珍しく不敵な笑みを浮かべたのを見て、ワサンの脳裏に一抹の不安が過った。



・・・・・


・・・



 不安は的中した。


 ワサンが高価な服を着ている。

 いや着させられている。

 本人としては動きづらい服装なため、窮屈で仕方ないようだ。

 だが、それよりも困っているのは、彼の苦手な演技をしなければならないという点だった。


 ソニックの作戦の通り、ジェイドから店を奪ったペロトゥガに近づいて彼について探りを入れなければならない。

 そのためにノトスの同業者として財を成している富豪の役割が必要になるのだが、その役がワサンに回ってきたのだ。


 「何でオレが」


 「いい加減諦めろワサン」


 スノウは笑いを堪えながらワサンの高価な服に装飾を取り付けている。


 「こう言うのはスノウの役だ。スノウの方が上手くやる。オレには向いていない。勘弁してほしい‥‥」


 「ぷっ‥‥い、いや仕方ないだろ?役割分担と条件から残ったワサンがそれをやるしかないんだから」


 「しかし‥‥」


 「諦めろって」


 スノウは大笑いしたくて堪らないのを必死に我慢していた。


 ソニックが決めた役割分担はこうだった。



・・・・・


・・・



―――昨晩―――


 

 「作戦は先ほど説明した通りです。それでは役割分担を発表します。いいですか?これは決定事項です。先ほどリーダーのスノウにも了解を頂きました」



   ・ノトスで薬草や物品を仕入れて売っている商売人の富豪:ジェイド…表には出ない

   ・富豪の店の大番頭:ワサン

   ・富豪の護衛:カムス(スノウ)

   ・富豪の秘書:フラノ(シア)

   ・薬草や物品の調達:ソニアック、クゼルナ、フラン、ロイグ

   ・首都ゲズでの情報収集及び特殊任務:ジェイド、シンザ、バルカン


 ペロトゥガと接触するに当たり、ジェイドが登場する訳にはいかない。

 一方でペロトゥガが武力で応戦する可能性を考慮して護衛が必要だが、武力で対抗するに当たり、顔と名前が割れていては今後ゲズで行動しにくくなるため、身分を隠せる手段を持っているものが務める必要があるが、スノウはウカの面を持っているため、適役となったのだ。

 シアは富良野紫亜の苗字から “フラノ” という名を使うことにしたが、ソニアがゲブラーでトーカに扮するために使っていたマスクで顔を隠すことにした。


 ソニックとクゼルナはカイキア周辺での特殊な薬草や物品調達の役を担う。

 カイキアへ行くに当たり、クゼルナの案内は必須なのだがソニックがいないとクゼルナが効率的に動かないため、ソニックは調達組必須だった。

 街に置いておけないフランとロイグはソニックたちに同行する。


 街をよく知るジェイドは身を隠しながらシンザ、バルカンと共に情報収集を行う。

 加えて特殊任務も行う。


 ワサンが大番頭役で基本的にペロトゥガとの窓口になると聞かされた時、必死に反対した。

 だが、適役がいなかったのだ。

 シンザは上手くやれるはずだが、貫禄が不足している。

 バルカンはそもそも演じる器用さが皆無だった。

 本人は出来ると言い張ったが、全員に全力で反対され、しょんぼりしていた。


 「オレは無理だ。戦い役なら喜んで受けるが、演技を必要とする役はオレには絶対に無理だ!」


 声が上擦りながら役の変更を乞うワサンだったが、ソニックが頑として譲らなかった。


 「ワサンのスラッとした容姿とか、狼のようにキリッとした目つきとか、そう言うのがヤリ手の商売人の鋭さにピッタリなんですよ」


 「ボロが出るぞ。いやボロを出す。出してみせる!」


 「大丈夫よワサン。あたながどうやってもボロを出せない様に私が一緒に行くんだから」


 「じゃぁ安心か‥‥ってなるか!お前のその事務的な態度が相手に悪い印象を与えかねないのをフォローするのはオレになるじゃないか!用心棒のスノウがフォローしたらそれこそ怪しい一行だし」


 ワサンはこの説明なら大番頭役を受けるという窮地から脱せると期待した。


 「あっあー!それはもしかして、焦りから怒りに変わってアドレナリンが出て思考が回ったおかげでいいポイントに気が付けて饒舌に議論を引っくり返す意見を述べる事が出来たから突破できると思ったんでしょう?甘い、甘いわー」


 「??」


 ワサンは意味が理解できず困惑の表情を浮かべた。


(そこはわかる、わかるわー‥‥じゃなかったか?シア。‥‥てかワサン‥‥諦めろ。シアに口論で勝てるやつはこの世にいないぞ)


 スノウが黙って心の中でツッコミを入れた。


 「ちっ!」


 ワサンは敗北を認め、自分の部屋に戻ってしまった。


 「無言の了解‥‥これは大番頭役を受けてくれたと言うことですね。じゃぁ明日、色々と準備をしますが、整い次第また集まってもらいますからよろしくお願いしますね」


 一同はソニックの恐ろしさを痛感した。



・・・・・


・・・



 「スノウ‥ソニックをもう少しちゃんと教育しろ。アイツは優秀だが時々暴走する」


 スノウは必死に笑いを堪えていた。


 「わ、わかった‥‥」


 「笑いすぎだぞスノウ!」


 「ぶわっはっはっは!」


 鏡には商売を手広くやっている富豪の店の大番頭がいた。

 ワサンを知らない者が見たら、憧れるような容姿だ。

 だが、狼顔の頃からワサンを知っているスノウにとっては可笑しくて仕方なかった。

 寡黙でクールなイメージが商売人の大番頭役を務めるという一生に一度拝めるかどうかのミスマッチだったのだ。



 ガチャ‥


 「さぁ、準備はいいでぶっは!」


 ソニックがドアを開けて部屋に入ってきたが、ソニックもまた吹き出した。


 「ソニック‥‥てめぇ殺すぞ」


 シルバーウルフの噛み殺されそうなオーラがソニックを襲うが、それ以上に笑いを堪えるのに必死だった。


 その後、大部屋に全員集合したが、皆ワサンの姿を数人が肩を震わせていた。


 「い、いいわね‥」 (ソニア‥‥ソニックは笑いを堪えきれずにソニアと交代したが我慢の限界を感じている)

 「ワ、ワサンさんイケてますぜ‥」 (シンザ‥‥笑いを堪えて変な語尾になる)

 「ワサン‥お前‥似合ってるぜ‥」 (バルカン‥‥声が上擦っている)


 笑わずに褒め言葉を言う難しさを3人は痛感したという。

 その直後ロイグとフランが部屋に入ってきてワサンを見て言葉を放った。


 「おお!ワサンのアニキ、イケてんな!!孫にも衣装ってやつか!」 

 「わぁ!ワサン兄ちゃんのくせにお金持ちみたい!」 


 「‥‥‥‥‥」


 一瞬の沈黙。


 『ぶわっはっはっはっはっはーーーー!!』


 堰を切ったダムのように笑いが止められないスノウたちは腹を抱えて転げ回った。


 当然ワサンの咬み殺されるようなオーラと共に手裏剣のようなものがスノウたちに放たれた。

 道具作り家になりたいと言ったワサンが最近作った試作品の手裏剣だったのだが、鋭利さが足りないため、体に当たって弾かれたが、何故かバルカンに向けられた手裏剣だけは尖っていた様で、尻に刺さって悲鳴を上げていた。


 スノウは心底この仲間と共にずっと冒険していたいと思った。





数話レヴルストラ4thの連携を深めるエピソードが続きます。

その後、物語が少しずつ動き出します。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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