<ケテル編> 21.レヴルストラ4th
21.レヴルストラ4th
僅かな炎がうっすらと辺りを照らす。
ここは地底奥深くにあると言われている牢獄。
ガシャァァァン‥‥
ゴゴゴゴゴゴォォォォォ
鎖を引っ張る金属音や、高いとも低いとも分からないようなうめき声、岩の壁面を叩く凄まじい振動音など様々轟音が響き渡っている。
人間が想像する “地獄” のイメージと正に合致する暗く、息苦しい空間だ。
一度閉じ込められた最後、自分では出ることのできない完璧な牢獄。
神の力すら及ばないこの地にとある異変が起きる。
この暗闇には似つかわしく無い眩い燃える玉が飛来した。
どのようにこの地か深くの牢獄まで辿り着いたのか。
投獄されている者たちが発するうめき声や暴れる音に紛れてその燃える玉は地面に埋まった。
鼠一匹通すことを許さない、この牢獄を監視する100の目を持つ巨人ヘカトンケイルの目を掻い潜って。
・・・・・
・・・
ウロザナロッヂ内の一室では朝食が摂られていた。
「美味い!」
スノウの元気な声が部屋に響いた。
ディアボロスに拐われ幽閉されている間、全く何も食べていなかったことから味覚が敏感になり、これまで散々食べて来たであろうソニック調理の食事がこれまでに無い程の味をスノウの脳に伝えたのだ。
バルカンたちはしばらくスノウにゆっくり朝食を摂ってもらうことにした。
聞きたいことは山ほどあるが、焦る必要もなく今はただ、スノウの帰還を喜んでいたいという気持ちが強かったのだ。
何よりスノウ本人にもゆっくりと休んで英気を養ってほしいと思っていた。
「いやぁオレは嬉しいぜスノウ!」
バルカンが嬉しそうにスノウに話しかける。
「ろおしたアルカン(どうしたバルカン)」
食べながら答えるスノウ。
「まぁ後で話せば良いことなんだが、この世界に越界した直後にオレ達散り散りになってしまってな、オレはシアと合流してこの地を目指すことになったんだが、このシアがさ、お前のこと以外虫けらのように扱うもんだから、オレは今の今まで虫けら扱いでさ」
「ははは!なるほどな!想像つくよ、ははは!」
「ここまでの道中大人になって初めて泣いたぜ‥‥それも3回!夜な夜な辛くて男泣き!この歳になってだぜ?ありえねぇだろ?」
「はっはっは!」
「バルカン。聞き捨てならないわね。私はあなたを虫けら扱いしたつもりはないわ。普通に接するに値しない低脳領域にあなたが自ら入って来ただけ。私は私の決めたカテゴリに従って応対しているに過ぎないのよ。これはあなた本人の選択であり責任よ。それを私のせいにするのは心外だわ。特にマスターの前で言うなんてね」
「はぁ?!オレが自分で?どういう事?!」
『ぷっ!‥‥ぶわっはっは!』
全員が思わず吹き出してしまった。
ゲブラーで革命軍副総長まで務めた漢がシアに良いように遇らわれているギャップが面白可笑しかったようだ。
「ははは‥‥ここにヤマラージャやヒーン、マインがいたらさぞかし情けない顔をするんだろうな」
「ナージャがいたらもっと面白かったでしょうね。バルカンは立ち直れないほどの集中砲火を受けるわねきっと」
「はぁ?!おぉいスノウぅ!な?これだよこれ!酷いだろ?」
『あっはっはっはっは!』
ソニアが加わりさらに笑いが増した。
楽しいひとときになった。
その影でバルカンは軽くシアに目線を送った。
長く拘束されていたスノウの気分を和らげようとアドリブでバルカンがシアとソニアに振って披露したやりとりだったようだ。
シアとソニアはバルカンのそんな優しさを評価していた。
その場はその後も楽しい会話が続いた。
・・・・・
・・・
1時間後、朝食を終えた一行。
紅茶を飲みながらとりあえず空腹が満たされ落ち着いている。
「みんな‥‥」
スノウが口を開いた。
「みんなありがとう。助け出してくれて‥‥。心から礼を言うよ。それだけじゃないな‥‥さっきだって聞きたいこともあるだろうに、でもおれを気遣って楽しい場を持ってくれたんだろう?‥‥おれはみんなのような仲間がいて本当に幸せだ。そしてみんなが仲間でいてくれることを誇りに思うよ。本当にありがとう‥‥」
優しい笑顔で言ったスノウの言葉に皆、目に涙を滲ませていた。
ガシィ!
「おわ!」
シアが急にスノウの右腕に腕を組んできた。
「マスター!間違ってます!この者たちは仲間かもしれませんが、私はマスターの永遠の伴侶です!この者たちとは別格ですからね!」
ガシィ!
「スノウ!私はあなたの永遠の従者です!あなたの望むこと全てをして差し上げる者ですからこいつらとは別格です!もちろんシアよりも上です!」
ソニアがスノウの左腕に腕を組んできて言った。
「あら?従者とは随分とパンチの弱い表現だわ」
「伴侶って‥‥横にいるだけでしょ。そんなのここにいるみんなと変わらないじゃない。私は従者。マスタースノウの望むことをなんでもするんだから別格よ」
「おいおい‥‥」
シアとソニアの間でバチバチと火花が散り始めた。
「モテる男はつらいなぁスノウ!オレたちは‥まぁ仲間であり友‥‥って感じだな。なぁワサン」
ギロリ‥‥
「ワサン?」
何故かシアとソニアを睨みつけているワサンがいた。
「ふん。スノウはオレが守る。女だからそうやってチャラつくんだ。伴侶とか従者とかそんな者はお飾りに過ぎない。オレはスノウの守護者だ」
「ワサン?」
スノウとバルカンは、ワサンが何を言い出したのか分からず困惑している。
(はぁ‥‥。マスタースノウの唯一使徒である僕を忘れてもらっては困るんだけどなぁ)
ソニックが自分の出番がなく悔しがっていたことは誰も気づかなかった。
・・・・・
・・・
しばらく続いた ”スノウに誰が一番近い存在か議論” は収集つかずに次回へ持ち越しとなった。
「それで‥そろそろ本題へ入ろうか」
スノウが切り出す。
「お前たちの話だと、ゲブラーでヘクトルを討つ直前、突如現れたディアボロスによっておれは拐われたんだよな」
みな頷く。
「その後、おれは全く何も見えない暗闇の中で全身縛られた状態でとにかく放置され続けたんだ。不思議と食欲や尿意とかを持つことはなくて、体力も衰えることはなかった。とにかく、暗闇で放置‥‥何も情報が入って来ず、思考能力が徐々に鈍って来て時間感覚も消えてしまってからはどれくらいそんな状態が続いたのかさえ分からなくなった。今にして思えば一年近く経ったんじゃないかって思う感覚だ。だけど、おれが拐われてから1ヶ月も経っていないとの事だからおれの時間感覚が狂っていたのか、時間軸の違う空間に放り込まれていたのかどちらかだろうな‥」
「目的は何なのでしょう?心当たりはありますか?」
ソニックが質問した。
「分からない‥‥。だが、強いて言うならば、おれの精神を壊すことが目的だったんじゃないかな‥‥。壊してどうしたいのかまでは分からないが‥‥」
「なるほど‥‥」
ソニックは思考を巡らせたが答えの出ない内容と、スノウの受けた過酷な拘束から返す言葉を失った。
「何が目的かはディアボロスに直接聞くしかありませんね」
シンザが発言した。
「そうだな。直接問い正しに行くしかないな。ありがとうシンザ。その前に重要な相談だが、お前たちがこのケテルに来た目的はおれの救出だし、おれは単純に連れて来られただけだから、元々このケテルで果たすべき目的はないよな‥‥。となれば当面おれたちは何を目的として行動するかだけど、一つは越界すること‥‥だな。‥‥聞いていない話だろうから驚くかも知れないが、おれとワサンはホドという水の世界から来たんだ。それも望んで越界したというより何者かの力によって飛ばされたと言っていい。だからホドに残した仲間が心配なんだ。おれたちが他世界へ吹き飛ばされる直前、おれと仲間たちは敵対組織と戦っている最中だった。その中で仲間の1人が命を落としたのも見ている。既にかなりの時間が経ってしまっているから、その戦闘の場に行くことはできないけどとにかく仲間の安否を確認したい」
「つまり越界の目的はそのホドって世界に行くことってことだな?」
バルカンが割って入って来た。
スノウは一瞬ワサンに目をやった後頷いた。
「じゃぁ決まりだ!さっきの訳の分からないやりとりの通り、皆一生お前についていくらしいから、ここの目的の一つはホドに越界する方法を見つけること‥‥だな!もちろんオレもついていくぜ!」
「バルカン‥‥」
シア、ソニック、ワサンも頷いている。
「僕は‥‥そうですね。シファール宰相から仰せ使っている使命はスノウさんの救出ですから、それが果たせた今、フリーなのですが‥‥実はシファール宰相から仰せ使ったミッションはもう一つありまして‥‥スノウさん救出後はスノウさんに同行し補佐・護衛すること‥‥なんです。さっきの議論には入れませんでしたが、ははは」
「じゃぁお前もホド行きだな!」
「ですね」
スノウは軽く一礼した。
そしてフランとロイグ、そしてクゼルナに目をやる。
スノウたちがこのケテルからいなくなるという話あたりから3人とも下を向いて悲しそうな雰囲気を出しているのをスノウは見逃さなかったのだ。
「その目的に加えて‥‥この世界でおれたちができることを見つけてそれも成し遂げたいんだが‥‥あ、いやこれは完全におれのわがままになってしまうんだけど‥‥」
「どういうことでしょうかマスター」
シアが顔を近づけて聞いて来た。
(近い近い‥‥)
スノウは少し離れようとするが、反対側には入れ替わったソニアがいて挟まれている状態のため、慣れていない状況から恥ずかしさのあまり全身から汗が噴き出てきた。
「い、いや‥‥おれはホドからディフェレトへ行き、巨大隕石を止めるプロジェクトやティフェレトの将来を決める戦いにも参加して、歴史に影響を与えるような活動をしてきた。そしてゲブラーでも同様にヘクトル支配からの解放という歴史に影響する活動に携わって来た‥‥。ティフェレトでもゲブラーでも常にホドに戻ることを考えていたし、その方法を探していた。結局いまだに戻れていないけどな‥‥」
スノウは苦い顔で微笑んだ。
「それで思ったんだ‥‥。自分は一体何なのか‥‥ってね。いく先々の世界と関わるべきかどうか‥‥。関わるとその世界には大きな動きが生じてしまう。これはおれの驕りかもしれないけどね‥‥。逆に言えば‥‥お前たちのような強い仲間と行動していることも踏まえて、おれがこのケテルでも何かに関わるとこの世界にも大きな影響を与えてしまうんじゃないかって思っててさ」
「言いたいことは分かるよスノウ」
ワサンが言葉を発した。
「ここにいる皆、お前の気持ちは分かっている。複雑そうな表情をしているが、結局は単純だろう?スノウ‥お前が助けたいとか救いたいと思う対象がいたらその者たちを救う。その相手を困らせている者たちが神だろうと魔王だろうと天使だろうと悪魔だろうとそれは単る成り行きであり関係ない。潰すだけだ」
「そうですよスノウ。ホドへ越界する方法を見つけるまでに助けたいとか救いたいとかそういう心が訴える者たちがいたら、それはそのお心に素直に従って進めばいいと思うんです」
ソニアが続いて発言した。
「歴史への影響?そんな大それた感じで考えたこともない!関係ないな!ははは!」
「珍しく良いこというじゃないバルカン。‥マスター、バルカンの言う通りです。未来は様々な可能性の選択肢を選んでいくもの。つまり決まったものはなくて未来への影響という表現そのものが無意味なのです。マスターが作る未来こそが、私たちの納得できる未来ですから」
バルカンに続いてシアが答えた。
「そしてその未来ではスノウが助けたいと思う者たちの幸せもあるのでしょうから、僕たちにとってはそれが最良なんです」
ソニアから交代したソニックが言った。
「みんなありがとう‥‥。それじゃぁまずは、お前たちが仲間と認めたフランやロイグ、ルナが望むこともおれたちの旅の目的にしよう」
フラン、ロイグ、クゼルナは嬉しそうに顔を上げた。
「ぼ、僕はみんなみたいに強くなりたい!」
フランが目を輝かせて言った。
「俺も強くなりたい!それで将来‥‥このフランと一緒にケテルで一番強いトライブを作りたい!」
続いてロイグも期待を込めて言った。
ロイグはスノウを救出するという話を聞いた際、スノウの仲間たちがレヴルストラというトライブのリーダーだと聞いたのだが、その時自分もフランと同じような冒険トライブを作りたいと思うに至ったのだった。
一方クゼルナは座っているソニックの胴に体を回して抱きついている。
どうやらソニックと一生離れないという意思表示のようだ。
「はっはっは!すごいじゃないか3人とも!既にはっきりと自分のやりたいことが言えるんだから!」
スノウは、自分が彼らと同じ年齢のころ、ただただいじめから抜け出したいとしか考えられなかったのを思い出して、目を輝かせながらやりたいことをどうどうと主張する3人を見て嬉しくもあり羨ましくもあり、彼らの願いを叶えてやりたいと純粋に思った。
「決まりだな!」
バルカンが手を前に出した。
パッ‥パッ‥パッ‥パッ‥パッ‥パッ‥パッ‥パッ‥
「レヴルストラとして活動する世界はこのケテルで4つめ‥‥レヴルストラ4thだな」
「頼むぜリーダー!」
「え?」
「お前がリーダーに決まってんだろうスノウ」
スノウは一瞬はにかんだが直ぐに真剣な表情に変わった。
「みんな!よろしくな!」
『おう!』
こうしてケテルにおける新生レヴルストラ4thの活動が始まった。
これからケテルでの冒険がスタートします。
複雑に入り組んだ組織間の小競り合いからケテル全土を巻き込む壮大な戦いに発展する予定です。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます!
楽しんでいただけたら嬉しいです!




