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<ケテル編> 16.事件

16.事件



 ソニックが出したクエストに希望者が殺到し、ソニックはフォックスの一角に面接場を借りることにした。

 なぜならクエストを貼り出した翌日から希望者が殺到し、数日間で100名を超える者たちと面接している状況になったからだ。

 流石に面接を待っている者を含めると、食堂や宿屋などでは迷惑をかけてしまうため、フォックスに申し入れたのだった。

 “たったひとりで” ダイヤモンド冒険者にあっという間に到達したという話題性とソニックの紳士的な応対からフォックスからも気に入られ、無償で場所を借りることができている。


 (ちょっとソニック。もういい加減に報酬下げたら?もうみんなどこかのフォックスでこのクエスト依頼見てるわよ。正直疲れたわー)


 (姉さんは応対してないじゃないか。いいの、こうやって一人一人話をすることで冒険者にどんなのがいるかを把握出来るし、もしかしたら優秀な冒険者と出会えるかもしれないじゃないか)


 (優秀な?出会い?何考えてんのよ!十分過ぎるわよ!フランシアにバルカン、ワサン、そしてシンザよ?!あれだけの精鋭がいるのにさらに誰に何を望む弟よ!)


 (いいから少し黙っててよ)


 という会話を頭の中でしながら、ソニックは目の前のクエストに応募してきた者と話をしている。


 「と言うことで、私は戦闘力こそ高くはないがこの知略によって数々の難しいクエストを達成するに至っています。私ヴィークを仲間にすることはソニックさん、あなたにとって間違いなく大きなメリットにつながりますよ」


 「どんなメリットですか?」


 「よくぞ聞いてくれた!私の知略によってあなたが受けるメリットは、宿屋の料金が20%削減できたり、武具購入時の価格も定価の30%オフになったり、多くの荷物を私の部下に持たせたりと、これはメリットの氷山の一角でしかないが、数え上げればキリがないほどのメリットが享受できるわけです!」


 「あなたの部下もセットでクエストを受けるということですか?」


 「そうです!私の部下2人を同行させます!」


 「そうですか。どうやらあなたにはカリスマ性があるようですね。他にも配下の方々がいらっしゃるのでしょう?どういった方々なのでしょうか?是非あなたのカリスマ性というか、人徳の高さを評価させていただきたいのですが」


 「流石はソニックさん!実は私ヴィークはこのワウザーンの若い者たちを仕切っている自警団ヴィーク団の団長でして、私の一声で周辺の店やゴロツキどもはみな集まります」


 「なるほど、それではワウザーン以外ではいかがでしょうか?この後、首都ゲズへも行かなければなりません。あなたのその知略とやらはゲズでも通用するものでしょうか?」


 「え?!あ、い、いや、ま、まぁその‥‥‥ゲズに行くんすか?い、いやぁ、知略効きますよ?でも、今は調子が悪いっつーか、い、いえね、出来るんすけどね」


 「そうですか。ウロザナにも行くかもしれませんし、もしかすると否国にも行くかもしれません。そのままボレアスまで行くかもしれません。あなたのその知略をそういった地でも活かして頂けますか?」


 「!!‥‥い、いや、あ、あれぇ?、ちょ、ちょっと腹が‥‥痛い。うん、俺、腹が痛い。す、すみませんが面談の続きはまた今度にしてもらえないすかね、そ、それじゃ!」


 面談していた男はどこかへすっ飛んでいった。


・・・・・


・・・


 (あっはっはっはっは!ウケる〜!!あっはっはっは!)


 (姉さん笑いすぎですよ)


 (だって、うん、俺、腹が痛い。なんて言うんだものー!!あっはっは)


 ソニアは笑いが止まらないようだ。


 (でも分かったでしょ?あんなどうしようもないのにもいちいち対処してたら時間がもったいないって。いっそのこと事前審査をフォックスにお願いしたら?)


 (うーん。今回ばかりは姉さんの言うことが正しいか‥‥)


 (おい!今回ばかりはとはどう言う意味だ?!)


 (あ、いや何でも無いよ‥‥。じゃ、じゃぁフォックスの窓口に依頼してくるね)


 (あ、おいこら!逃げるな!)


 ソニックは逃げるも何も同一人物じゃないかとツッコミを入れようと思ったが、変に構うと面倒臭いのでやめた。

 そのままフォックスの受付に行き、事前に冒険者クラスを確認してもらうようにお願いした。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 突如凄まじい爆音と共に地震のように地面に衝撃波が伝わってきた。


 「!!」


 (ソニック!)


 (分かってるよ姉さん)


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 「!!」


 轟音は立て続けに発生し、その度に地面やガラス窓をビリビリと振動させている。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 バリン!!バリリン!!


 ついにガラス窓が割れてしまった。

 ソニックは急いで外に出る。


 「!!」


 ワウザーンの街中では信じられない光景が広がっていた。

 突如悪魔が数体現れて街の広場に立っていたのだ。

 背中を丸めて顔を下に向けている頭には角が生えている。

 その黒いシルエットの中から目だけが怪しく光っている。

 そのシルエットは人型のものもあれば、獣のようなものもある。


 「悪魔か‥‥」


 ティフェレトやゲブラーで既に見ているため、違う悪魔であっても見てすぐ分かった。


 「レライエ様‥‥確かここの人間ども皆殺しにしていいんだったよな?」


 一体の悪魔が男とも女ともわからない声で別の一体の悪魔に話しかけた。


 「ああ。好きに暴れろ」


 レライエと呼ばれた悪魔は深緑の体に腰のあたりからコウモリのような羽が生えており、だらりと下におろした手には弓が握られている。


 「了解だ‥‥」


 悪魔は瞬時に方々に消えた。


 バタン!


 ソニックはフォックスに入った。


 「悪魔が攻めてきています!ダイヤモンド級冒険者はこっちへ!それ以外はここから出ないように!」


 「悪魔?!何だそりゃ?」


 「悪い神みたいなものです!」


 「そ、そんなの俺たちで勝てるわけないだろう!」


 「仕方ない!決して扉を開けないように!」


 説得している時間はないと判断したソニックは単独で悪魔と戦う決意をして外に出た。


 (ちょっと!ソニック!勝てると思ってるの?!)


 「やるしかないでしょ!」


 魔法が使えないため、かなり不利な戦いになることは容易に想像できた。

 ソニックは蛇に羽が生えたような悪魔とはちあった。

 相手が悪魔であると認識した瞬間にソニックは凄まじい速さで悪魔を斬った。


 ズザザァァァァァァァ!!!


 「お‥‥」


 上半身と下半身が真っ二つになった悪魔は慌てることなく、自分から離れた下半身に向かって這っていく。


 「おいおいいきなり何するんだよ。最近のニンゲンは悪魔より残酷だな」


 上半身は下半身を掴むと繋げるように切断面に押し当てた。

 すると肉がまるで生きているかのように動きあっという間に元通りとなってしまった。


 「さて、今度はこっちから行かせてもらうぞ」


 ガシン!!ズザバン!!


 クゼルナが影から一瞬飛び出て傷を与えたため、その隙にソニックは悪魔の攻撃から逃れることができた。


 (ルナ、ありがとう!‥‥しかしこの悪魔‥‥早い!)


 ソニックは後方に下がって距離を取る。


 (どうする‥‥)


 (ソニック!)


 (分かってる!考えてるところだよ!)


 (いや違う!ティフェレトでエスティとゴーザが悪魔と戦った時、エスティが聖なる斬撃で悪魔を倒したと聞いたって話を言いたかったの!)


 (聖なる力!‥‥僕たちには使えない‥‥‥ならば、こいつらの攻撃を防いで被害を最小にするしかない!)


 (分かるけど目的を確認しないと!こいつらは一体何の目的で突然攻めてきたのか!)


 (そうだね!何とか1体でも拘束して吐かせたい!)


 悪魔には再生能力があるため、消耗戦となることをソニックは覚悟した。



 カカカカン!!キカカン!!!‥‥ズババン!!


 今度は蛇型の悪魔を縦に斬り裂いた。


 「痛てぇなぁ」


 間髪入れずにさらに悪魔を斬り刻む。


 ザバババババン!!ザパパン!!


 「おいおい、容赦ねぇなお前。少しは俺にもお前を斬り刻ませてくれよ」


 そう言いいながら体を再生していく蛇の悪魔。

 その最中、方々から人々の悲鳴が聞こえる。


 「ちっ!好き放題暴れているな。お前たちの目的は何だ?!」


 「目的?‥‥俺たちは悪魔だぜ?ニンゲンの魂を奪いに来たに決まっているだろう?」


 「信じられないな。ニンゲンの魂欲しさにこれだけ徒党を組んでやって来るものなのかい?そんなに人間が怖いのか?」


 「はっはっは!お前面白いこと言うなぁ!たくさんの魂を奪うからこの人数で来ているに決まっているだろう!」


 「なぜたくさんの人の魂が必要なんだ?!それってやっぱり数の多い人間が怖いってことなんじゃないのかい?!」


 ソニックはそう言いながら再生完了しつつある蛇の悪魔に再度攻撃を繰り出す。


 「はっはっは!悪魔が人間を怖がるって本気で言っているのか?!だったらとっくに絶滅させてるよ!」


 ズバババン!!


 ソニックはとにかくひたすら攻撃を加えて、何か足止めする緒が掴めないか探っていた。

 まだ体力に余裕がある。


 「面倒臭いな」


 悪魔は両手を前に出した。


 「平伏せ」


 悪魔は言霊プネウマを使ってきた。


 ズババババン!!


 「!!‥‥何?!」


 平伏すはずのソニックが全く影響を受けずに体を三分割に斬り刻んできたため、蛇の悪魔は何が起こったのかわからずに困惑している。


 「何か言ったかい?」


 ソニックは不敵な笑みを浮かべながら再度攻撃を繰り返す。


 「吹き飛べ!」


 ズバババン!!


 「な‥‥‥なぜだ?!」


 ズジャジャジャジャジャバババン!!


 ソニックの背後にクゼルナがおり、悪魔が言霊プネウマを発するたびに指で耳を塞いでいるため、相手の言霊プネウマが届かないのだ。

 上級悪魔以上ともなれば耳から音を通してではなく、空気の振動や超音波、思念などで言霊プネウマ相手の精神に伝えることができるため、上級悪魔には効かない方法だったが、目の前の悪魔には効果覿面だった。


 ソニックは蛇の悪魔をさらに細切れに斬り刻む。


 「これじゃしばらく喋れないか」


 ズッパン!!


 「ぐっ!」


 肉片となった蛇の悪魔が細切れになった毒の牙の部分を同じく細切れになった手の一部で飛ばしてきたのだ。


 グッパァ!!


 ソニックは毒の牙で斬られた腿の部分の肉を抉った。


 「ククク‥‥」


 ピュン!ピュン!ピュン!‥‥ザン!‥ザン!‥ザン!


 さらに毒の牙を飛ばして来る蛇の悪魔。

 ソニックは咄嗟のことでうまく避けられず今度は肩に一撃を喰らってしまう。


 グッパァ!


 肩の肉を抉るソニック。


 「ぐはぁ!!」


 流石にダメージが大きいようだ。


 「懸命な対応だな。お前なかなかいいぞ!冷静で度胸もある。普通は咄嗟に自分の肉を抉るのにそこまで的確に深く抉ることはできないからなぁ!」


 蛇の悪魔はさらに再生を続ける。


 「!」


 ソニックは何かに気づいた。


 「だが、俺の言霊プネウマが効かないのが気にくわねぇ!どうやってる?!」


 ガキキン!!カキキン!


 間髪入れずに攻撃するソニックに体半分しか再生されていない状態にも関わらず蛇の悪魔は応戦する。


 ガキン!!ガキキン!!‥‥スパァン!!


 蛇の悪魔の体が斬られる。

 常に簡単に回復できる悪魔にとって攻撃を必死に受けたり避けたりする必要がないのか、ソニックレベルになるとある程度簡単に懐に入り斬ることができる。

 蛇の悪魔はそれに応戦するが、当然悪魔の攻撃も鋭く、一度攻撃を受ければ致命傷になりかねない。

 生半可な戦闘力では、太刀打ちできないだろう。


 「!!」


 「気づいたかい?」


 蛇の悪魔が何かに気づき、それに対してソニックが指摘した。


 「どういうことだ?」


 悪魔は自身の体の回復速度が極端に遅くなっていることに気づく。


 「どうやら君たち悪魔は魔力を使って回復しているようだね」


 「そうだが、それがどうした?!」


 「この世界、ケテルでは魔法が使えない。いや、正確には魔法の効果が異常に小さい。おそらく魔法を使う能力そのものが制限されているんだと思う。そして同時に供給される魔力量も少ないようなんだ。つまり、魔力消費に対して回復速度が遅い。そして君たち悪魔にも魔力量の限界があるわけなんだろうね。魔力が尽きれば回復できなくなる。そう思ったから、ひたすら斬り刻ませてもらったんだ」


 「!!ちっくしょう!!くそ!くそ!この小賢しいニンゲン風情が!だが!お前のちからじゃぁ俺を殺すことは出来ねぇぞ!」


 「ああ、分かってるよ。だから、しばらく動けなくさせてもらうよ」


 「や、やめろぉ!!」


 ズババババババババババババババババァァァァァァン!!!


 蛇型の悪魔は細切れ状態になり、しばらくの間再起不能になった。


 「さて、次だね」


 しかし至る所で発せられていた悲鳴が徐々に少なくなっている。


 (ソニック!時間がないわよ!)


 「分かってる!」


 ソニックは街中の方へ向かった。



 カカカカァァァン!!カキキカン!!


 「オメェら怯むんじゃねぇぞ!ここで引いたらあとは俺たちのファミリーが殺されるだけになっちまう!」


 大勢の若者が悪魔1体と戦っている。

 凄まじい速さで進んでいるソニックが何かに気づく。


 「あれは」


 ガキキン!!


 熊のような見た目の悪魔が鋭い爪で戦っている青年の1人を攻撃しようとした瞬間にソニックはその爪攻撃を短刀で受けた。


 「下がって下さい」


 ガキキン!!


 「おお!あんたはソニックさん!」


 「ヴィークさんでしたね」


 多くの青年に指示を出しながら熊型の悪魔と戦っていたのはソニックの下へクエストを受けに来た自警団の団長を名乗っていた腰抜けの青年だった。

 周囲を見るとかなりの青年が殺されていた。

 それにも関わらずまだ多くの青年が悪魔と戦っている。


 「どうやらあなたを見くびっていたようです。あなたは立派なカリスマ戦士です」


 ソニックはそう言うと熊の悪魔を自分1人で引き受けるとして、ヴィークたちには悪魔に襲われている住人たちを非難させるように依頼した。


 「す、すまねぇソニックさん!」


・・・・・


・・・


 先ほどの蛇型の悪魔同様に、ソニックは熊型の悪魔を時間をかけて魔力を削り最終的には細切れにしてしばらくの間再起不能にした。


 そして最も人の集まっていた広場へ急ぎ駆けつけた。


 「!!」


 そこには相当数の人間の死体があった。


 「なんという‥‥」


 ソニックの顔が怒りで歪む。


 「やめろぉ!!」


 ソニックは思わず叫ぶ。


 「ん?」

 「なんだお前」

 「生意気なやつがいるぞ。レライエ様、こいつ殺していいか?」


 1人の悪魔が深緑の悪魔に確認をとった。

 どうやら深緑色の悪魔はこの悪魔たちのリーダーらしい。


 「ああ。構わん」


 「よし俺がもらうぜ」


 そう言う悪魔は人型でありながら腕が4本あり腰から3つのコウモリのような翼が生えた何とも無様で不気味ないでたちの悪魔だった。


 ブゥン!!


 凄まじい速さでソニックに詰め寄り攻撃を仕掛けてる。


 ガキン!!


 ソニックはその攻撃を受け切る。


 「お前やるなぁ。本当にニンゲンか?」


 流石のソニックも2人の悪魔を相手にしてからの連続戦闘のため、短刀を握る手に力が入らなくなりつつあった。


 (くそ!‥‥どうする?!)


 ソニックが戦いながら、魔法なしにこの場をどう切り抜けるか思案している中、突然背後から何かが落下してきた凄まじい音がする。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 ソニックは後を振り返る。

 そこには顔のない天使のような姿の存在が立っていた。


 「悪魔たちよ。即刻ここから立ち去りなさい」


 顔のない天使の方から心に響く声が聞こえて来る。


 「なんだお前‥‥天使か?神か?」


 「私は女神ネメシス。‥‥この地を汚すことは許しません」


 その声を聞いた悪魔がソニックへの攻撃をやめてネメシスと名乗った女神に向かって攻撃を仕掛ける。


 「はっ!」


 ネメシスがかざした手から放たれた光によって悪魔は消え去った。


 (何ものだ?!)


 ソニックは警戒を解かずに様子を見守った。





いつも読んでくださってありがとうございます!

楽しんでいただけましたら高評価、レビューをどうぞよろしくお願いします!

疲れも吹き飛びます!

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