<ケテル編> 14.五つの光
14.5つの光
目を開ける。
完璧な闇。
瞼を開いているのか疑わしくなるほどの闇、闇、闇。
(ここは・・・・どこだ・・・・?おれはヘクトルを前にして闇虎に刺されて・・・・まさか、ここは天・・・・国?にしてはこの闇・・・・とすれば地獄?!い、いや少し冷静になろう・・・・・・・・)
スノウは自身の体をチェックする。
手足は何かに固定されているようで動かせない。
いや、正確には手首、足首を何かで縛られている状態らしく、縛っているロープらしきものの微妙な遊び分だけ動かす事は可能だ。
今の自分の格好は立っているというより括り付けられている状態らしく、手足首だけで無く、胸と腹、腿の部分にロープらしきものが巻かれており固定されているようだ。
体の節々が少し痛むが傷では無く、縛られ続けている事による血流の滞りが原因ではと推測した。
意識的に自身の体の状態をチェックしているが、これが良かったらしくこの完璧な闇の中で冷静さを保つことが出来ている。
(体力も万全じゃ無いが瀕死でも無い。戦えるくらいの余裕はあるな・・・・よし、サイトオブダークネス)
「!」
暗闇が深すぎて、もしくはどこまでも続く闇のせいで魔法の意味がないのか、魔法そのものが使えない状態なのかが分からなかった。
仕方ないので自分が目覚めている事を知られてしまうが、雷魔法で辺りを照らす事にした。
(ライセン)
「!!」
(ま、まじか・・・・魔法が使えない・・・・のか?!)
魔法が封じられているのか、魔力が失われているのか分からなかったが、魔法が使えない状況では視界を確保する事も拘束を解く事も出来なかった。
(どうする?!・・・・待て・・・・冷静さを失っちゃダメだ。殺す気ならとっくに殺せてる訳だから生かされているという事は今すぐどうこうされる事はない・・・・筈だ・・・・)
・・・・・
・・・
それから数時間ほど同じ状態が続く。
動けない圧迫感が精神を削っていく。
何もしない事が、何もできない事がこれほどストレスなのだとは気づかなかった。
雪斗時代も孤独だったが、それは周囲に自分を受け付けない世界が広がっており、その世界で如何に人と関わらないようにしようとビクビクしていたのだが、言い換えれば関わらないように関わっていた訳であり、何もしていないようで、周囲に気を配り、今誰が何を考えているのかを口元や表情で読み取ったり、行動心理から相手の感情を探ったりと膨大な情報量を前に脳をフル回転させていたのだ。
その事に今更ながら気づいたスノウだった。
(何も無いという事は脳が処理すべき情報が与えられないという事なのか・・・・。脳が処理する情報が無くなるとどうなるんだろうか・・・・。自分の感情が心を支配し、収拾がつかなくなるんじゃ無いか・・・・。終いには発狂してしまったり・・・・・・)
「ははは」
(笑えねぇ・・・・)
スノウは思考が働いている内は大丈夫だと自分に言い聞かせた。
・・・・・
・・・
それから更に数日が過ぎた。
いや、そのような感覚があるだけだった。
水も食料も与えられていないのに不思議と空腹感や飢餓感はなく、尿意なども無い。
ただただ同じ体勢で息をしているだけだった。
(話しかけてみるか?・・・・ここまで生かしているんだ、起きて騒いでみせたって殺される事はないだろうな。しかし、一体目的は何なんだ・・・・・・。おれにこんな事をして何か得があるのか?誰が得をする?)
スノウは1人ずつ思い浮かべて自分にこのような事をする、いやこのような事を出来る力があり動機がある者を整理し始めた。
(まず仲間はあり得ない。ゼラやデュークの裏切りはあったがこんな事が出来る力はない。闇虎?・・・・あいつにはこれをする力がある。だが動機が見当たらない。やつはむしろおれに興味がないくらいだったしな・・・・。ヘクトル?!あり得るな。あいつは強者の体を乗っ取る技術を持っている!って事はおれは体を乗っ取られるのか?!)
急にスノウの心に恐怖の感情が芽生え始める。
(待て・・・・落ち着け・・・・恐怖に飲み込まれたら終わりだ・・・・考えろ・・・・思考を巡らせろ・・・・)
・・・・・
・・・
更に数日が過ぎた感覚があった。
スノウは死ぬのも体を乗っ取られるのも同じ死だと割り切る事にした。
体を乗っ取られるという得体の知れない行為が恐怖に繋がるからだ。
(仕方ないな・・・・叫んでみるか)
「おーーい!誰かいないのかー!!」
数日ぶりに思い切り発した自分の声は少し掠れ気味だったがしっかりと声量はあった。
だが、完全防音室のように声の反響が全くない状態でいよいよ自分のいるこの環境が一体何なのかが分からなくなった。
「一体何なんだ!おれをどうしようっていうんだよ!せめて拘束を解いてくれ!このままじゃぁ体が壊死しちまう!」
シュゥゥゥ・・・・
胸、胴、腿を縛っているロープらしきものが消えた。
その瞬間自分を支えるものがなくなり取れそうになるが気づくと横になっている状態だった。
倒れた衝撃はなく、まるで映画の場面が切り替わるように重力方向が切り替わり立っている状態が一瞬で寝ている状態となった。
(何なんだ?!おれの言う事に答えたのか?)
「おい!誰かいるんだろ!姿現せ!い、いや声だけでもいい!おい!」
それ以降何かが反応する事はなかった。
ずっと叫び続けていたスノウは疲れ果てたのか、そのまま眠ってしまった。
・・・・・
・・・
目を覚ました。
また括り付けられている状態となっていた。
(視界も音も通さない完璧な闇。魔法のようにロープで括ったり解いたり、重力場を変えてみたりする力。水も食事も排泄もないのに何の苦痛や不快感なく生きている状況。これは夢か?長い夢?いや、痛みもちゃんとある。・・・・・・これを続ける理由は・・・・おれの精神を壊すのが目的?・・・・壊して何か得があるのか?・・・・やっぱり体を乗っ取るため?・・・・精神を壊さないと乗っ取れないのか?・・・・て事は壊れない限り乗っ取られない?)
スノウは1日でも長く精神を正常に保ち続けなくてはと固く心に刻んだ。
・・・・・
・・・
更に数日後。
肉体的苦痛がほぼ無い分、急激に精神的に追い詰められる事が無いのだが、動かない体に対して、脳内の思考だけは目まぐるしく働かせているため、徐々に体がある事を忘れてくる。
もう1ヶ月近く経っているのでは無いかとスノウは想像したが、時計も時間感覚も無いため確認のしようがない。
あれから幾度となく質問を投げかけているが、反応はなかった。
ただ、体に影響を及ぼすような事にだけは緩和措置をとってくれるようで、益々体の乗っ取りが目的なのだと信じていくスノウ。
・・・・・
・・・
更に数日後。
動けないストレスが精神的に大きな負担になるため、なるべく体の感覚を感じないようにしていたせいか、体の感覚もほとんど無くなり、暗闇と無音、無臭の状態によって五感も鈍っている。
入ってくる情報が遮断されている事から考えるネタも無くなりぼーっとする事が続いている。
気力で保っている状態だったが、永遠に続くのではないかと思うこの状態に徐々に生きる意味や自分の存在意義などが薄れていき、寝ているのか起きているのかさえ分からなくなっていた。
不思議と自ら命を絶つ気持ちにはならなかったのが救いだったが、もはや死ぬ事で楽になれるのではという感覚すら無く、ただ何か次の段階に進むまで何もせずにいようと思うだけだった。
むしろ次の段階など来ても来なくてもどうでもいいとさえ思っていた。
・・・・・
・・・
更に数日後。
精神が壊れるというより、精神が無意識のうちに朽ち果てていき、体だけを残して自分の精神だけが消滅していくような感覚を覚えた。
(そろそろ終わりか・・・・どうでもいいや・・・・)
そう思った瞬間、急に忘れていた懐かしい感覚が強烈に心を揺さぶった。
「!」
(何だ?)
そして長らく何も見えなかった視界に微かに光る光点が5つ現れる。
「!!」
(ああ・・・・)
何故か理由もなく涙が溢れ出てくる。
その5つの光点が徐々に近づいてきて、自分の胸の中に入っていった。
光点が自分の胸の中に入った瞬間とても温かい感覚が体の中に感じられた。
溢れ続ける涙が頬を伝う感覚が自分が生きている事を実感させる。
徐々に失われた大切なものが脳裏に蘇ってくる。
(そうだ・・・・おれには仲間がいる・・・・)
雪斗からスノウになり、沢山の心許せる信頼できる仲間ができ、自分の居場所が生まれ、生きる目的になった。
スノウは今のこの状態から仲間が救い出してくれるのだと信じて、絶対に心を消滅させないと誓った。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。
最近体調を崩し気味なのでアップが遅れるかも知れませんがご容赦下さい。




