<ケテル編> 13.ケンタウロス
13.ケンタウロス
「おお、この俺とやるってのか?勇気と無謀を履き違えているな。そういうやつほど早死にする。まぁ俺の知ったことではないがな」
ヘラクレスの筋肉が更に盛り上がる。
明らかに力を溜めているようだ。
(魔法さえ使えれば負ける相手ではないのだけど‥‥まずはヒットアンドアウェイで様子をみようかしら‥‥)
シアは頭の中で凄まじい速さで戦いのシミュレーションを行なっている。
もちろんバルカンの戦闘力も踏まえてだった。
一方のバルカンは、既に業魔剣の上位奥義の発動準備を密かに行なっている。
「カルマン‥‥ブラフマン‥‥」
ヘラクレスは待ったなしとばかりに拳を振り上げる。
「さぁいくぞ!せいぜい楽しませてくれよ。俺のペットを刻み殺した恨みは簡単に殺した程度では晴れんからなぁ!」
ドッゴォォォォォォォォォォォン!!!
凄まじいスピードとパワーのヘラクレスの一撃がバルカンを襲うが、かろうじて避ける。
ヘラクレスはこの場にいるシアとバルカンの二人に対してバルカンの方が戦闘力が高いと判断したようだ。
ドッパァ‥‥
「‥‥‥‥」
ヘラクレスの放った右腕に大きな裂傷が刻まれ、そこから血が噴き出している。
同時にバルカンの右腕からも同じような裂傷があり血が噴き出している。
「面白い技を使うなお前。俺の攻撃をそのまま返したのか。だが、そんな技、俺の攻撃が跳ね返ってくる前に瞬殺してしまえばいいだけのことだ。殺すには惜しいが俺の気を変えるほどではなかったな。そろそろ死ね」
ヘラクレスが再度構えをとる。
筋肉が盛り上がり、力が右腕に集中している。
既に血は止まっているどころか、傷口も塞がっている。
ブワン!!
「その勝負待った!」
ヘラクレスの凄まじい攻撃がバルカンの頭部に直撃するギリギリで止められた。
止められたのはヘラクレスの攻撃だけではなかった。
バルカンの剣先がヘラクレスの心臓の手前で止められている。
そしてシアの剣が左足の靭帯部分を斬る直前で止められていた。
ヘラクレスは勝負を止められた苛立ちと、それによって自分の急所を狙われている状態から動けないこの状況に徐々に怒りをあらわにする。
「いくらお前の頼みとあってもそれ相応の代償なく止めたのであれば容赦はしないぞ‥‥‥フォロス」
現れたのは大人のケンタウロスだった。
「分かっている」
ザバン!!!‥‥‥ドスン‥‥‥バシュゥゥゥゥァァァァァァ‥‥
突然現れたフォロスと呼ばれたケンタウロスはいきなり自身の左腕を右手の手刀で切り落とした。
「この左腕に免じでこの場はどうか治めてほしい」
「‥‥‥いいだろう。俺のペットの命はお前の左腕には遠く及ばない。この二人の俺に対する無礼を差し引いてもお釣りがくる」
ヘラクレスは拳を引いた。
「命拾いしたな。名前を聞いておこうか」
「バルカンだ」
「フランシア」
「次に会う時はお前たちの命が尽きる時だと覚えておけ」
そう言うと背を向けた。
「フォロス‥‥左腕、早く治療しろ」
そう言うと、怪鳥エヴィラの頭部を掴んだヘラクレスは凄まじい跳躍で飛び去った。
シャキン‥‥
バルカンとシアは剣を収めた。
そして先ほど自らの左腕を切り落としたフォロスというケンタウロスの方を見た。
「すまない。説明を求めているのだろうが、先に手当をさせてもらって良いか?」
「構わないよ。手伝うことはあるか?」
バルカンが聞くが、フォロスは首を横に振った。
フォロスは拳大の石を拾い上げると左脇に挟み止血した上で、自身の服を破り右手と歯で器用に切断面を縛って出血を抑えた。
シアは落ちている左腕を拾い上げて、フォロスが縛り上げた布を解いた。
「何を?」
「治療を間違えると本当に左腕を失うわよ。どうしても失いたいなら構わないけど」
「!!‥‥わかった」
しばらくシアによる左腕の縫合が続いた。
針の代わりは怪鳥エヴィラの羽の一部を使い、糸は服の繊維を解いて用意し、丁寧に縫合している。
当然麻酔もなく、魔法も使えないのでフォロスはその間痛みに静かに耐えていた。
30分ほど経って縫合が終わったようで、左腕は添木を当てて布でしっかりと固定された。
「こ、これで治るのか?」
「どうだろう。完全に元通りという訳にはいかないかもしれないわ。でも運良く神経が自己修復してくれれば複雑な動きも可能になるかもしれないわね」
「ありがとう‥‥」
フォロスは深々と礼をした。
「ひとまず私の家に来てくれないか。きちんと礼がしたい」
バルカンたちは頷いてフォロスの家に向かうことにした。
会ったこともない自分たちのために左腕を切り落としたとは思えないため、今回のクエストに絡んだ話なのだと思ったのと、ケンタウロスが住むエトス区に入り情報収集ができるためだ。
そして何より敵ではないことが明らかだったのもあった。
・・・・・
・・・
エトス区は他の区域よりも建物の高さが低かった。
下半身が馬であるため、階段の登り降りなどが煩わしいのであろう。
所々に高い建物は見えるが上層階に行く手段はスロープか段数の細かい階段らしい。
しばらく歩いていくとフォロスの家に着いた。
「デカいな‥‥」
「あ、ああ。一応このエトス区の副区長をやらせてもらっているからそれなりの大きさの家に住まわせてもらっているだけだよ」
「副区長!それじゃぁこのエトス区のナンバー2ってことか?」
「ははは、順番などないが、あえて言うならそういうことだろう。実質そういう上下関係はないがな」
客間に通された二人は少し高さの高いダイニングセットの椅子に座らされた。
「今飲み物を用意する、少し休んでいてくれ」
ケンタウロスは座ることがないようで、たった状態でちょうど良い高さとなるテーブルであったため、通常より高さのあるダイニングセットになっているのだとシアは理解した。
しばらくするとフォロスが飲み物を持参して戻ってきた。
「これは当家秘蔵の酒だ。大量には振る舞えないが、滅多に飲めないものだから是非味わってみてほしい」
出されたのはまさかの酒だった。
バルカンは嫌いではないので嬉しく思ったが、一応シアの顔色を伺ってみる。
シアは問題ないといった表情を浮かべており、バルカンは安心した。
ちなみにフランには別の果実を絞ったジュースが出された。
「ありがとう。いただくよ」
バルカンは酒を一口含む。
「!!‥‥こ、これはなんとも‥‥美味い!!」
「それはよかった」
バルカンのいかにも美味いといった表情に、フォロスに笑顔が戻った。
「それはそうと、私たちに説明することがあるのでは?」
水を差すように冷たい口調でシアが質問した。
「そうだったな‥‥入ってこい」
その呼びかけに応じて、扉から何者かが部屋に入ってきた。
入ってきたのはロイグだった。
「改めて‥‥息子のロイグだ」
「え?!」
「やはりね」
「事情を説明させてほしい。ロイグ‥‥お前もこっちに来なさい」
ロイグはバツ悪そうな表情で同じテーブルのところまで来た
「おお、ロイグ。お前副区長の息子だったんだな」
バルカンは孤児だと説明されたことは伏せて話しかけた。
「う、うるせぇ。だ、だからなんだってんだ」
ゴツン!
「いで!」
ロイグはフォロスに軽いゲンコツを食らって大袈裟なリアクションをとっている。
口の聞き方の悪さを嗜められたのだった。
「そろらく自分は孤児だとか言っていたのだろう。まぁいい、そのことについては後でお仕置きだ。お前はフラン君を連れて家の中を案内しておいで」
「えぇぇ‥‥嫌だよ、こんなガキ」
ゴツン!
「いで!」
「お前は年上なのだろう?年上のお前がそのような言い方をするといういことは自分はまだガキと言っているのと一緒だぞ。年上なら年上らしく紳士に思いやりと優しさを持って接するのだ。それができないなら、お前の方がガキと言わざるを得ないな。年上なのに張り合っているのだから」
「くっ!わ、わかったよ‥‥おい、フラン‥‥こっち来いよ」
「フラン、行っておいで」
「わかったよ‥‥お姉ちゃんがそう言うなら‥‥」
フランとロイグはしぶしぶ部屋から出て行った。
「それで?」
「ああ、すまない。フォックスの私の知り合いが息子が出したクエストを受けた冒険者がいると教えてくれて、そのクエストを見て慌てて後を追ったんだ。実はヘラクレスとは昔ちょっとしたきっかけで友として付き合っているのだが、あの怪鳥エヴィラが彼の飼っているペットだというのは知っていたからね。引き受けた冒険者がヘラクレスの逆鱗に触れて殺されてしまうのではないかと思って急いで駆けつけたんだよ」
「それは嘘ね。冒険者を気遣ってきたのではなくあなたの息子が殺されるのを止めるために後を追った‥‥‥そうでしょう?この街で得た情報として、ケンタウロスはヘラクレスから攻撃を受けているとあったわ。おそらくクエストの内容は事実。同族の子供がヘラクレスのペットに攫われておそらく食われているのは放って置けるのに、見ず知らずの冒険者は放って置けないとは理屈が合わないわね」
「なかなか鋭い方だ。すまない、正直に話そう。息子を救うためだ。あのまま放って置けばあなたたちは殺され、このクエストを依頼した息子も殺されたであろう。いくら息子が私の子であることを主張しても、彼には関係のないこと。友であり、彼が慈悲の心を示す対象は私だけで、私以外にはそのような慈悲の心はカケラも見せない。例え私の息子であり、私が息子を失って失意のどん底に落ちてもヘラクレスは私の悲しみなど理解はしないし、むしろ息子の自業自得と言うはずだ」
バルカンは少し深いな表情を浮かべた。
「えっと、まずオレたちは殺されない。強いからな。それと、そのヘラクレスってのはそんな血も涙もないやつなのか?なんでそんなのが英雄と言われたり、アネモイ剣士協会の剣士でいられるんだ?」
「彼は血も涙もない訳じゃない。ただ両極端なだけなんだ。剣士協会の会則をきちんと守っているし、友と認めた者に対しての応対は紳士だし、命を投げ出すことも厭わない。その反動なのか、それ以外には冷酷無比だが‥‥」
「でもなんで同族が攫われているのをやめるように言わないんだ?」
バルカンは最もな質問をした。
「言っても彼には理解できない。私の心は痛むが、私自身が被害を被るわけではないからだ。彼にとってその状況が全てであり、同族の子供たちをエヴィラが攫うことは私に関係のないことだと思っている。私が傷つかない以上、彼は彼の理屈に従って行動するのみ」
「なるほど、分かりやすいわね。それではなぜケンタウロスはヘラクレスに攻撃されているの?」
「複雑な環境が絡んでいるのだが、まずこのアペリオは否国であり、剣士協会の庇護下にはない。つまり会則に従って行動する上でヘラクレスにとっては守るべき土地や民ではないというのが根底にある。そして彼は元々横暴な性格であったため、他人の者でも自分のものとして平気で奪い去っていく。まぁその粗暴さがあるためにあえて剣士協会に入れたというのもあるようだが‥‥‥。そして彼はエトス区に来て、我らケンタウロスが保管している酒を勝手に飲み干したんだ。あの酒は神から授かった貴重なものだったから、それに怒ったケンタウロスたちはヘラクレスを襲った‥‥‥。当然返り討ちにあったが、それ以来ヘラクレスはケンタウロスを攻撃するようになったのだ。彼にしてみれば自分のものとした酒を呑んだだけで、勝手にケンタウロスが攻撃してきたため、ケンタウロスが自分に突如宣戦布告してきたものと認識しているのだろう」
「そのヘラクレスという人物はとてもわかりやすい性格なのね」
「君は面白い見方をするね。そうなんだ彼は分かりやすい。善でもなく悪でもない。ただ守るべきルールは守っていればよいという単純な性格なんだよ。そして異常に強い。強いから全てが許されてしまう。そこが誤解される点なんだがね‥‥」
「オレはそうは思わないな。根っからの悪人の方がわかりやすい。自覚なく人を傷つけるやつほどタチの悪いのはいないと思うぜ」
「そうか‥‥君は心優しい人なのだろうな」
「どうか知らんが‥‥‥でもなぜロイグはクエストを?ヘラクレスの友である父親のあんたが何もしないことに怒りと失望を感じて依頼したんじゃないのか?オレが思うにあの怪鳥エヴィラって魔物はエメラルド級で仕留められるレベルじゃなかったぞ?ダイヤモンド級以上じゃないと無理だ。あの速さと飛行特性、そして牙と爪‥‥下手をすればあんたの息子ともども今頃あの場所で肉片にでもなってたレベルだ。でもロイグは依頼せずにはいられなかった。なけなしの金で。おそらくあいつの出せる金全て差し出してもエメラルド級の依頼にしかならかったんだろう‥‥」
「‥‥‥弁解のしようもないな‥‥。私は臆病者だ。ヘラクレスの強さを知りながら、仲間を止めることもできなかったし、同族の子供たちが拐われているのを知りながらもヘラクレスにやめるようにお願いすることもできていない‥‥‥」
「ああ、その通りだと思うぜ。ロイグの方があんたより何倍も勇気があると思うよ」
「‥‥‥‥」
「バルカン。もうその辺でやめましょう。それよりクエスト報酬は適切な額であなたが支払ってもらえる?」
「もちろんだ!それと区長と面会したいのだったな」
「区長との面会はまた今度にするわ。副区長であれば同じくらいの情報は持っているのでしょう?私たちには時間がない。代わりと言ってはなんだけど、私たちに馬か馬車を用意してもらえないかしら?」
「基本的に馬車も馬も我々は必要としないので提供できないが、あなたたちは息子の命の恩人であり、私のこの腕を繋げてくれた礼もある。代わりにもっと良い足を提供しよう。準備があるから明日まで時間をいただきたい。今日は私の家でゆっくり休んでくれ」
バルカンたちは当初受けていたクエストをササっとこなして戻って来た後、フォロス副区長邸に泊まることとなった。
怪鳥エヴィラ討伐の報酬は8000ケテルグであったが、別でフォロスからその5倍の額をもらっている。
さらにフォックスで怪鳥エヴィラの貴重素材を売ったのだがそれなりの収入もあり、資金的にはかなり裕福な状態になった。
そして夜。
カカカ‥‥カカカ‥‥
「ちょっと煩いわね。何なのバルカン」
バルカンのベッドから何かを叩く音が聞こえたため、シアが起きてしまい文句を言っている。
「‥‥ん?」
当のバルカンは熟睡していたようで、寝ぼけ眼で目を覚ました。
そして徐に自分のシーツの中を見る。
「!!」
カカカ‥‥カカカ‥‥
怪鳥エヴィラの巣から持ち帰った卵が今まさに割れようとしている。
カカカ‥‥カリ‥‥バリリ‥‥
「う、産まれるぞ!」
バリン!!
「ピーーーーーーーーーーーーーー!!!」
まるで甲高いブザーのような産声が部屋に響いた。
雛が卵の殻を割って顔出した。
そしてバルカンと目が合う。
「ピピ?」
「おお」
「ピピ?」
「おおお!」
「ピピーピ!ピピピーピ!」
何やら会話しているように見えて何の意思疎通も図れていないが、どうやら産まれたばかりの雛はバルカンを親と思ったようだ。
バタバタバタバタバタ!!
羽が小さいので大して飛べないにも関わらず動き回ってバルカンの頭の上に乗った。
「煩いわね。ちゃんとケジメつけなさいよ」
シアはサラッと恐ろしいことを言い放ってそのまま寝た。
「まだわからんからそんなことできる訳ないだろう!おお、そうかそうか」
雛はバルカンの頭の上で頭皮と突いている。
普通ならかなり痛いはずだが、バルカンは目の前で産まれた命が嬉しくてそれどころではなかった。
バタバタバタ!
雛はバルカンの肩の上に移動した。
そして顔をバルカンの頬にスリスリしている。
(か‥‥可愛い‥‥)
「ピピーピ!」
「おお、そうかそうか!名前つけて欲しいんだな」
「ピピピ!」
どうやら違うらしいのだが、バルカンはそう信じ切っているため、一生懸命名前を考えている。
よく見ると小さな顔の額の上辺りに何かがゆらめいている。
バルカンはそれに触れてみる。
「熱!!」
バルカンは思わず指を遠ざけた。
「これは炎‥‥じゃぁ‥‥ボボウボウ‥‥がいいかな‥‥」
「ピピピピピ!!」
雛は必死に首を横に振っている。
「いや、それよりもカッコよく、モエトルヤンとか‥‥」
「ピピピピピ!!」
雛はさらに必死に首を横に振っている。
「いや、デコアチチ‥‥‥がいいか」
「ピピピピピーーーーーーー!!」
雛は相当嫌なのか耳たぶに噛み付いているが、バルカンは気づかない。
「でも男か女かよくわからんしなぁ‥‥流石に女の子っぽ過ぎる名前はちょっと後々不釣り合いになりそうかぁ‥‥」
ボボウボウ、モエトルヤン、デコアチチが女の子の名前と言い放ったバルカンの斜め上過ぎる感覚から雛は絶望的な表情に変わった。
「やっぱり、フラマ‥‥がいいかな」
「ピーピ!」
「おおそうか!気に入ったか!よし、じゃぁお前はフラマのふーちゃんだ!」
「ピピィィィィァァァァァ‥ァ‥‥ァァ‥‥」
フラマは良かったが、それをふーちゃんと言い換えたところでバルカンの壊滅的なネーミングセンスに雛は気絶した。
バルカンは嬉しさのあまり疲れて眠ったのだと勘違いし、自分の枕をベッドにしてフラマを寝かせ自分も満面の笑みで眠った。
・・・・・
・・・
―――翌朝―――
朝食をご馳走になった後、シア、バルカン、フランは出発の準備をして外に出た。
外に出るとフォロスとロイグが待っていた。
それ以外に二人のケンタウロスの青年がいた。
外に出たバルカンは周囲をキョロキョロと見回す。
頭の上にはフラマが乗っている。
「おはようございます。おやバルカンさん。頭の上のそれは?」
「ああ、不謹慎かもしれないけど、怪鳥エヴィラの巣にあった卵が孵化して産まれた雛だよ」
「怪鳥エヴィラの雛‥‥おかしいな。エヴィラの雛は青いんだが、その鳥は紅い‥‥もしかするとエヴィラの雛ではないのかもしれないな」
「ほう‥‥そうなのか?」
「エヴィラはよく別の鳥の巣から卵を盗んでは産まれた雛を食べると言われているからね。もしかすると何処かからか盗んできた卵だったのかもしれない」
「そうか‥‥ま、いいや。ふーちゃんはいい子だしな!」
「ピピ!」
フラマは返事をしならがバルカンの頭皮を思い切り突いている。
「それで私たちの足とは?」
鳥のことなどどうでもいいといった表情でシアが尋ねた。
「ああ、そのことだが、彼らを使ってくれ」
そう言って手を向けた先に先ほどから一緒にいるケンタウロス2名がいた。
「まさか!」
バルカンは目を輝かせている。
「この者たちが君たちの足となる。だが、それはエウロスまででお願いしたい。エウロスに行けば良い馬車も馬も買えるはずだ。昨日渡した報酬で十分購入できると思う」
「十分よ。ありがとう」
「フラン!」
「なんだいロイグ」
「お前は俺に乗っていけ!」
「ええ?!」
フランとバルカンは驚きの表情を浮かべる。
「いいの?!」
「ああ!」
「すまないね。息子も一緒に連れて行ってくれないか?この子は少し過保護に育てすぎた。フラン君のように外の世界を見せるべきだと思ってね。私の下ではなく、短い間でも君たちにお願いしたいんだ。図々しいお願いかもしれないが‥‥。私の意思に反してクエストを出した正しい心があるうちに‥‥外の世界を見せてやりたい。頼まれてくれるかな?」
「いいわ。それも込みの報酬だったのでしょう?」
「流石だな。感服だ」
「そういうことでよろしくなフラン!」
「僕のほうこそよろしくロイグ!」
どうやら二人は昨日一緒に過ごした間で仲良くなっていたようだ。
「私は弓切りのヴェスカー」
「俺は土蹴りのライトロスだ」
「よろしくヴェスカーにライトロス」
「よろしくだぜ。オレが乗る方はどっちだ?」
「俺の背中に乗ってくれバルカン」
ライトロスがバルカンを乗せると申し出た。
ヴェスカーはシアの前に行き丁寧にお辞儀をした。
シアとヴェスカーは握手をした。
そうしてバルカンたちはカイトンを後にした。
謎の多い街ではあったが、今は一刻も早くスノウ救出に向かわなければならない。
(待っててマスター‥‥)
シアは逸る気持ちを抑えながら歩みを進めた。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます。
楽しんでいただけているようでしたら是非とも高評価、レビュー、応援等いただけるとモチベーションもあがります!どうぞよろしくお願い致します!




